【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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54.ジアスター神って……?

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「何が贖罪だ!!」

 男は、カリオの腕を振りほどこうと、獣のように暴れた。

「お前たちは、何も分かっていない!
 この国も、ストラウスの中枢も。
 神の真実は何なのか。それを知らずに魔法を使っているんだ!」

 会場がざわめく。
 男の目は、狂気と確信が入り混じっていた。

 俺は息をのむ。
 ストラウス?
 隣国の名前が、なぜここで?
 何か、とんでもないことを言いだしそうな予感がした。
 
 フィンは無表情のまま、男を見下ろしている。
 けれど、その肩がわずかに強張り、緊張しているのが分かった。

 フィン……フィンは何か知っているのか?

 男は荒い呼吸のまま、叫んだ。

「魔法とは、我らが神、ジアスターが信者に授けた加護だ!」

 ジアスター?

 俺の心臓が大きく跳ねた。
 初めて聞くはずなのに、その言葉だけが異様に胸に残る。

「異教徒が、神の加護である魔法を勝手に扱うなど、冒涜だ!」

 その声は、確信に満ちていた。
 むしろ、自分こそが正義だと信じ切っている。

 俺は思わずフィンを見る。
 フィンの表情は変わらない。
 けれど、その指先が小刻みに震えているのが見えた。
 それは、恐怖というよりも怒りの方が大きい気がする。

「何が贖罪だ。
 我々が信仰するジアスター教のために金を使うことこそ、正義!
 奪われた魔法を取り戻して、何が悪い!」

 ——奪われた?

 その言葉に、貴族の一人が立ち上がった。

「待て。魔法が『奪われた』とは、どういう意味だ?
 この国の王族は、代々魔法を使ってきた。
 誰からも奪ってなどいない」

「嘘だ!!」

 男の叫びが、会場に響く。

「お前たちの祖先が、我らの聖地を襲い、神の加護を宿す『聖なる泉』を奪ったのだ!
 そのせいで、我々はストラウス国に移らざるを得なかった。
 我々ジアスター教では、幼き頃からそう教わってきている。
 王城に咲く『光るバラ』あれの下には聖なる泉が眠っていると。
 だが、そこは王族しか入れなくなってしまっていると。何度も何度も聞いてきた。
 その聖なる泉を奪還すること。
 それが我々ジアスター教の悲願なのだ!!」

 光るバラの咲くバラ園。
 以前、フィンと一緒に見た思い出の場所だ。その日は、確かバラ園の年に一度の解放日だった。
 そして、幼い頃にフィンと出会った大切な場所。
 あの下に、聖なる泉が眠っているっていうのか?

 誰もが息をのみ、男の次の言葉を待っていた。

「お前たち王族が聖なる泉を独占し、この国で魔法を独占しているんだろう!」

 聖なる泉があそこにあるから、フィンたち王族は、魔法を使えるっていうのか?
 そんな馬鹿な!!

 会場が揺れた。
 貴族たちが顔を見合わせ、傍聴席からもざわめきが起こる。

 俺は、フィンを見た。
 フィンは、静かにただ男を見つめている。
 その表情からは、何も読み取れなかった。

 男は、悔しそうに顔を歪める。

「我々にはわずかな聖水だけが残った。教会から与えられるその聖水によって、加護としてわずかな魔力を授かるのだ。
 だが、我々から魔力を無理矢理奪った異教徒がその聖水に触れると、聖水は激しく反発するのだ」

 聖水。

 その言葉に、俺の脳裏に何かが引っかかった。
 聖水……どこかで聞いた。

 何かを思い出しかけたとき、男の声が再び響いた。

「実際、盗人の魔力に、聖水が拒絶した!」

 男の指が、フィンを指す。

 その瞬間、俺の脳裏に、あの光景がよみがえった、

 ——前回の査問会。

 俺がフィンに渡した、ハンドクリーム。
「聖水入り」と謳われ、街で売られていた、あのクリーム。

 フィンがそれに触れた瞬間、パチンッ、と光が爆ぜた。

 叔父さんはそれを「精神魔法の影響だ」と言った。
 俺がフィンを操ろうとした証拠だと。
 叔父さんに、そう信じ込まされた。

 あれは、このジアスター教が用意した聖水が、フィンの魔力に反発したというのか?
 
 まさか。
 だって俺は、フィンの魔法を何度も見てきたんだ。
 フィンが魔法を使うときは、いつだって、俺のためだった。
 俺への愛があふれていた。
 それが、人から奪ったもので起こる奇跡だなんて、誰にも言わせない。

 俺は、拳を強く握りしめた。

 男は、さらに続ける。

「お前たちの国の王子の魔力がはじかれたのが、盗人である何よりの証拠!!
 この国の王族は、盗んだ加護、つまり聖なる泉で国を支配していたんだ!
 我々は奪われた魔力を取り返すために、戦っているだけだ!」

 会場は一斉にフィンに注目していた。

 フィンは、ただ静かに、男を見ていた。
 その目の奥にあるのは、怒りか。それとも。
 ただ、フィンが手を強く握りしめるのだけが見えた。

 フィンは男の言うように、泉の力で魔法を使っているのか?
 ううん。そんなわけない。
 だって、フィンは……。

 男は、まだ叫び続けている。

「ジアスター神こそ、正義!
 我々の行いは、何も間違っていない!
 奪われた魔法を取り戻すための、聖なる戦いなのだ!」

 その言葉に、会場は凍り付いた。
 誰も、動けない。心臓の音すら聞こえるほど、シンと静まり返っていた。

 俺は立ち上がった。

「ちがう。違う違う違う!!
 そんなの、全部でたらめだ!!」

 だって、フィンは——。

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