【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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56.ヴィスコンチ伯爵の苦悩(前編)

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「ははっ、私は、なんてものを信じていたんだ……」

 一連のできごとを見つめていた叔父さんは、呆然と呟いていた。

 フィンの視線が、叔父さんに向けられる。
 叔父さんは、顔を伏せたまま、固まっていた。
 静まりかえった会場に、フィンの声が響く。

「ヴィスコンチ伯、あなたはジアスター教を信じて、金を流し、情報を流し、この国を内側から崩そうとした。
 違いますか?」

 沈黙。
 それは長い、長い沈黙だった。
 やがて、叔父さんのかすれた声が聞こえた。

「……ああ。そうだ。私は信じた。ジアスター神の教えを……。
 いつの間にか、それ以外の言葉を信じられなくなっていた。
 だから、王族を陥れようと思った」

 会場が、再びざわめいた。

「……そんな」

 あの優しかった叔父さんが、こんなことを考えるほど、宗教にのめり込むなんて。
 それだけ、叔父さんは追い詰められていたんだ。

 そう思うと、俺は胸が痛かった。
 俺は、今こそ叔父さんと向き合わなくちゃいけない。
 そう思った。

 フィンが腕を伸ばして止めようとしたけれど、俺は首を横に振る。
 逃げちゃいけない。

 震える足で前へ進み、俺は叔父さんの前に立った。

「叔父さん」

 自分でも驚くほど、掠れた声だった。

「俺……覚えてるんだ。
 叔父さんが変わっていった時期を」

 叔父さんは俯いたまま、ほんの少しだけ肩を揺らした。

「昔の叔父さんは、本当に優しかった。
 俺が勉強を頑張ったら、頭を撫でてくれた。
 『立派な伯爵になるんだぞ』って、笑ってくれた」

 懐かしい笑顔を思い出すと、俺は胸が痛くて仕方ない。

「でも、父さんが亡くなって……しばらくして、叔父さんは笑わなくなった。
 俺に話しかけてくれることもなくなった」

 叔父さんの指をぎゅっと握りしめるのが見えた。

「俺、気づいてたよ。
 叔父さんが、苦しんでること。
 父さんの代わりをしなきゃって、自分を追い詰めてたこと。
 でも俺は、子どもで……見てることしかできなかった」

 あの時のことを思い出して、涙がにじむ。
 叔父さんが苦しんでいたあの時期、俺もずっとつらかったんだ。

「だから、せめて――せめて笑ってほしくて。
 叔父さんの好きな、青い花を集めたんだ」

 叔父さんが、はっと顔を上げた。

「でも、その花のせいで、叔父さんに発疹が出ちゃった。
 俺、叔父さんにだけ反応する花があるなんて、本当に知らなかったんだ」

 抑えようと思っても、自然と声が震える。

「殺そうなんて、本当に思ってなかった。
 ただ……笑ってほしかっただけなんだ」

 叔父さんの唇が震えるのが見えた。

「けれど俺のせいで、叔父さんはもっと苦しんだんだよね?
 俺に引き継ぐために一生懸命仕事をしてたのに、その俺に命を狙われたって思ったら。
 もう誰も信じられなくなるよね。
 人間不信にもなるよ……」

 湿疹ができたときの叔父さんの顔。
 絶望その物だった。
 あれから俺たちは、叔父さんに会うことが許されなくなった。

「俺たちを追いやっても、叔父さんはどこか怯えてるみたいな目をしていたの、知ってた。
 本当にごめんなさい。
 そのせいで、この宗教に救いを求めたんでしょう?」

 叔父さんの目から、一筋の涙がこぼれた。
 俺も今まで、叔父さんの気持ちが全部は分かっていなかった。
 けれど今、俺はやっと、叔父さんの気持ちが理解できた気がした。

 けれど、それだけでは終わらなかった。
 叔父さん、さらに驚くべき事実を語り始めたんだ。


*すみません、長かったので、前後編に分けました(11/26 21:00)。分ける前の文章を読んでいらっしゃる方は、後編は既に読んだ内容だと思います。ご迷惑お掛けします。
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