【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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57.ヴィスコンチ伯爵の苦悩(後編)

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*11/26 21:00に、56章を前後編に分けました(長すぎたため)。ですので、既にこの内容知ってるよという方は、57章に飛んで、お読み下さい。ご迷惑お掛けします。


「……私は、兄が亡くなったあと伯爵となり、兄の仕事も引き継いだ。
 甥のお前にきちんと引き継ぎたい。
 そのためにも、伯爵家の仕事を完璧にこなさなければと思っていた」

 叔父さんは震える手を握りしめた。

「ヴィスコンチの仕事には、光るバラの管理がある。
 私は兄と同じように世話をしているつもりだった。
 それなのに……。
 どのバラも光らなくなってしまった」

 俺は、ひゅっと息を吸い込んだ。
 そんなことになってたなんて、全然知らなかった。

「家にある資料を調べ、いろんな方法を試した。
 それでも何一つ、光らなかった。
 ヴィスコンチ家の伯爵として、代々受け継がれてきた『光るバラ』を守れない。
 それは……私が、兄に劣る証明のように思えた。
 誰にも相談できなかった」

 俺は、叔父さんの背中に触れた。
 気づけば、マティルダ嬢も寄り添い、そっと背中に手を置いていた。
 
「……そんな時だった。そこにいる男が近づいてきたのは」

 叔父さんは、隣国の男を睨む。
 俺とマティルダ嬢はハッと息を呑み、互いの顔を見つめた。

「この男は、ここのバラを光らせるためには、魔法の力が必要だと言ったんだ」

「そんな……父さんは、魔法なんて使えないよ。使ってるところなんか見たこともなかったもの」

 俺は思わず声を上げる。

「けれど、エリゼオ。お前には力があるだろう?
 お前には伯爵家の力が生まれつき備わってるんだと思ったんだよ」

「え? 俺は、魔法なんか……使えないよ!」

 俺は、叔父さんの言っていることが全く分からなかった。

「君の刺繍だよ。自分でよく言っていたじゃないか! 『僕の刺繍には癒しの力があるんだよ』と」

「そんなの! 違うよ!」

 俺は首を激しく横に振った。

「両親が俺の刺繍をみて、癒されるって褒めてくれていただけで、本当に癒しの魔法があるわけじゃない!
 ただ、小さいころは、本気で信じてたけど。
 けど、それは子供の勘違いで——」

 声が詰まる。

「俺には、なんの力もないんだ」

「そんな……まさか」

 叔父さんの声が、かすれた。

「エリゼオは、実際には魔法は使えない……のか?」

 その言葉が、まるで自分自身に言い聞かせるようだった。
 俺は、叔父さんに向かって大きく頷く。

「そう……か。はは......」

 叔父さんの乾いた笑い声が、会場に響く。

「馬鹿だな、私は。
 子供の無邪気な言葉を、真に受けて。
 甥を恐れて、遠ざけるなんて……」

 叔父さんの肩が震える。

「すべて……私の思い違いだったのか……」

 叔父さんは、片手で顔を覆った。
 しばらくの沈黙が続く。
 俺は、ただ叔父さんが話しだすのを待っていた。

 会場内も静かで、みんなが俺たちの会話に聞き耳を立てていた。
 どのくらいたっただろうか。
 長くも、短くも感じる時間の沈黙を破り、叔父さんは絞り出すように言葉を続けた。

「ジアスター教の信者になれば、魔法が使える。そう言われたんだ。
 私は、藁をもつかむ思いで信者になり、聖水を受け取った。
 それを飲んでからの私は、なんだかいらいらすることが増えた。
 だが、バラは光るようになった。
 聖水をのんで、私に魔力が備わったのだと思い、やめられなくなった」

 そこまで話したところで、フィンが俺の隣に来た。

「その聖水については、私から説明しよう」

 俺の肩に手を置きながら、視線は叔父さんを見つめたままだった。

「これは、本当に魔力を与える『聖水』なのか?」

 そういってフィンは、一つの瓶を取り出した。
 その瓶は透明で、なかの液体も水と見た目は変わらなかった。

「それは……」

 叔父さんにはそれに心当たりがあるみたいだった。

「マティルダ嬢が帳簿とともにあなたの私室で見つけたものだ。これがそうだね?」

「あ、ああ。少しずつ飲むようにといわれた」

「これには確かに魔力が感じられる。けれど、それ以上に禍々しい悪意を感じるんだ。こんなものが聖なる水か?」

 フィンは隣国の男に突き出す。

「おい、君。これを全部飲んでみせたまえ」

 フィンは隣国の男に瓶を差し出した。

「こ、これは少しずつしか飲んではいけないもので……」

 男はしどろもどろになっていた。

「飲めないか? そうだろうな。
 実は、移動中に誤って中身がこぼれ、猫がそれを舐めた。
 すると――」

 フィンの声が、深く沈む。

「猫は狂ったように暴れ始めた。
 目は血走り、爪を立て、誰彼構わず襲い掛かった」

 会場がざわめく。

「これが、聖水の正体だ。
 飲んだものを狂わせ、支配する――ただの毒薬だ」

 さらにフィンは光るバラを一輪、取り出した。

「光るバラに聖水を一滴たらすとどうなるか」

 一滴。
 それだけで、バラはすぐ光を失い、普通のバラへと変わってしまった。

「このバラは、古代魔法で光り輝くんだ。
 育てるものの魔力はそもそも、関係ない。
 だが、このジアスター教の信者は、バラ園の側にある井戸に、この毒薬を混ぜた。
 そのせいでバラは光らなくなってしまったんだ。
 そして、その効力がなくなるころ、ヴィスコンチ伯爵に聖水と言ってこれを飲ませ、ジアスター教の教えを信じ込ませた。
 これが真実だ。違うか?」

「くそっ、なぜ、それを!!」

「それはね、彼からすべてを聞いたからだよ」 

 フィンは扉を開け、誰かを呼び寄せる。
 そこに現れたのはなんと、サーラの父、エドアルド・バルロッティ男爵。
 俺の義父さんだった。

 フィンは、義父さんまでここに呼び寄せていたんだ。


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