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13.恋人
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翼からの「頑張って」という言葉を背に、本屋へと向かった。
外は昨夜のじっとりとした空気が嘘のように、カラッと爽やかな天気だった。
僕は、眩しい光を浴びて、少しずつ翼に変身していくような気分になった。
本屋に着き、裏口から入ると、店長が営業さんと話してて、こちらを気遣うように見るけど、それだけだった。
きっと、僕がアパートを出た後、翼から電話で話を聞いたんだろうな。
店長が何か言うんじゃないのかなと心配してたけど、何も言われず、ホッとした。
店内に入り、キョロキョロと辺りを見回しても、大和がいない。
外を見ると、慌てて走ってくる大和が見えた。
いつも早めに出勤してるのに、珍しいなって思ってると、裏口から大和が駆け込んでくる。
「おはよ。ギリギリなんて珍しいね」
僕は、少し緊張しながら、それが顔に出ないように気をつけて、大和に話しかけた。
「おはよっ! 昨日眠れなくてさ」
明るく眩しい笑顔が、僕に向かって真っ直ぐ届く。
「そうなの?」
「だって、やっと水瀬と両思いになれたんだ。こんな嬉しいことないよ。水瀬だって、寝不足なんじゃないか?」
大和は、そっと僕の目元を撫でた。
きっと、泣き腫らした目元を、寝不足だって思ったんだろうな。
僕が泣いたことを大和に気づかれなくて、ホッとした。
けれど、いつもより近くにくる大和に、僕は顔を赤くする。
「あ、あの、あのね。バイト先では、今まで通りでいようよ。僕、他の人にあれこれ言われるの、怖いんだ」
僕が眉を下げて言うと、大和は自分の前髪をクシャリとつかんだ。
「悪い。水瀬の気持ちも考えずに、はしゃいじまった。分かったよ。でも、今日、二人とも四時に上がるから、帰りに……デートしような」
最後の「デートしよう」は、僕の耳元でそっと囁かれた。
僕は顔を真っ赤にして、耳を押さえてコクコクと頷くしかなかったんだ。
恋人になると、大和ってこんなに甘くなるんだ。
たったひと月でも、大和と恋人でいられるなら、よかったって思った。
それから、大和は本屋では、今までどおりの態度だった。
もう、ほとんどの仕事を一人でこなせるようになった大和は、どんどんと仕事を片付けてた。
大和の柔らかい笑顔に、お客さんも話しかけやすそうで、しょっちゅう話しかけられていた。
そのたび、大和は丁寧に接客してる。
レジ待ちでイライラしてたおじいちゃんに、「お待たせしてしまってすみません」と言って、すぐにレジに入った時も、会計が終わる頃にはおじいちゃんが笑ってた。
「如月くん、凄いね。あのおじいちゃん、いっつもクレーム言って帰るのに、今日はなんにも言わなかったよ」
噂好きの社員さんが、感心したように言ってた。
後でこっそり大和に聞いたら、
「別に、大したことしてないよ。あのおじいちゃん、前に俺、怒鳴られてたから、なんでかな?って見てたんだ」
大和は、自分の耳を指さす。
「そしたらさ、おじいちゃん、レジに並ぶ前に耳を何度も気にしてたんだ。聞こえづらいのかなって思って、はっきりゆっくりしゃべってみた。そしたら、嬉しそうに笑ってたよ。声は相変わらず怒鳴ってるみたいだけど、そういう話し方なんだね」
大和がそう言って笑った。
「凄いね、如月くん」
「何いってんだよ、水瀬が教えてくれたんだぞ。お客さんをよく見てると、何を求めてるか分かることがあるって。俺、水瀬のマネしただけなんだよ」
大和が「僕」を認めてくれたみたいで、じんわりくすぐったかった。
バイトの帰り際、店長にそっと謝られた。
「翼から聞いたよ。変なことして悪かったな」
「店長は、何も悪くないです。僕が勝手にややこしくしただけ。だから、気にしないでください」
笑ってみせると、店長はホッと笑う。
「困ったことがあったら、力になるから。いつでも言うんだよ」
そう言って、店長は去っていった。
ああいう面倒見のいいところに、案外寂しがりの翼は惹かれたんだろうな、ってじっと見てた。
両思いの二人にちょっと羨ましくなって、ため息をついてしまった。
いけない、いけない。
このひと月は、大和との時間を楽しむと決めた。
悩むのは後でいい。
自分の頬をパンパンって叩くと、涙がにじんでしまって、自分で笑ってしまった。
そんな姿を、大和に見られてたなんて、この時の僕は知らなかったんだ。
外は昨夜のじっとりとした空気が嘘のように、カラッと爽やかな天気だった。
僕は、眩しい光を浴びて、少しずつ翼に変身していくような気分になった。
本屋に着き、裏口から入ると、店長が営業さんと話してて、こちらを気遣うように見るけど、それだけだった。
きっと、僕がアパートを出た後、翼から電話で話を聞いたんだろうな。
店長が何か言うんじゃないのかなと心配してたけど、何も言われず、ホッとした。
店内に入り、キョロキョロと辺りを見回しても、大和がいない。
外を見ると、慌てて走ってくる大和が見えた。
いつも早めに出勤してるのに、珍しいなって思ってると、裏口から大和が駆け込んでくる。
「おはよ。ギリギリなんて珍しいね」
僕は、少し緊張しながら、それが顔に出ないように気をつけて、大和に話しかけた。
「おはよっ! 昨日眠れなくてさ」
明るく眩しい笑顔が、僕に向かって真っ直ぐ届く。
「そうなの?」
「だって、やっと水瀬と両思いになれたんだ。こんな嬉しいことないよ。水瀬だって、寝不足なんじゃないか?」
大和は、そっと僕の目元を撫でた。
きっと、泣き腫らした目元を、寝不足だって思ったんだろうな。
僕が泣いたことを大和に気づかれなくて、ホッとした。
けれど、いつもより近くにくる大和に、僕は顔を赤くする。
「あ、あの、あのね。バイト先では、今まで通りでいようよ。僕、他の人にあれこれ言われるの、怖いんだ」
僕が眉を下げて言うと、大和は自分の前髪をクシャリとつかんだ。
「悪い。水瀬の気持ちも考えずに、はしゃいじまった。分かったよ。でも、今日、二人とも四時に上がるから、帰りに……デートしような」
最後の「デートしよう」は、僕の耳元でそっと囁かれた。
僕は顔を真っ赤にして、耳を押さえてコクコクと頷くしかなかったんだ。
恋人になると、大和ってこんなに甘くなるんだ。
たったひと月でも、大和と恋人でいられるなら、よかったって思った。
それから、大和は本屋では、今までどおりの態度だった。
もう、ほとんどの仕事を一人でこなせるようになった大和は、どんどんと仕事を片付けてた。
大和の柔らかい笑顔に、お客さんも話しかけやすそうで、しょっちゅう話しかけられていた。
そのたび、大和は丁寧に接客してる。
レジ待ちでイライラしてたおじいちゃんに、「お待たせしてしまってすみません」と言って、すぐにレジに入った時も、会計が終わる頃にはおじいちゃんが笑ってた。
「如月くん、凄いね。あのおじいちゃん、いっつもクレーム言って帰るのに、今日はなんにも言わなかったよ」
噂好きの社員さんが、感心したように言ってた。
後でこっそり大和に聞いたら、
「別に、大したことしてないよ。あのおじいちゃん、前に俺、怒鳴られてたから、なんでかな?って見てたんだ」
大和は、自分の耳を指さす。
「そしたらさ、おじいちゃん、レジに並ぶ前に耳を何度も気にしてたんだ。聞こえづらいのかなって思って、はっきりゆっくりしゃべってみた。そしたら、嬉しそうに笑ってたよ。声は相変わらず怒鳴ってるみたいだけど、そういう話し方なんだね」
大和がそう言って笑った。
「凄いね、如月くん」
「何いってんだよ、水瀬が教えてくれたんだぞ。お客さんをよく見てると、何を求めてるか分かることがあるって。俺、水瀬のマネしただけなんだよ」
大和が「僕」を認めてくれたみたいで、じんわりくすぐったかった。
バイトの帰り際、店長にそっと謝られた。
「翼から聞いたよ。変なことして悪かったな」
「店長は、何も悪くないです。僕が勝手にややこしくしただけ。だから、気にしないでください」
笑ってみせると、店長はホッと笑う。
「困ったことがあったら、力になるから。いつでも言うんだよ」
そう言って、店長は去っていった。
ああいう面倒見のいいところに、案外寂しがりの翼は惹かれたんだろうな、ってじっと見てた。
両思いの二人にちょっと羨ましくなって、ため息をついてしまった。
いけない、いけない。
このひと月は、大和との時間を楽しむと決めた。
悩むのは後でいい。
自分の頬をパンパンって叩くと、涙がにじんでしまって、自分で笑ってしまった。
そんな姿を、大和に見られてたなんて、この時の僕は知らなかったんだ。
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