【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)

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14.デート

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 バッグを掴んでお店の裏口を出ると、外壁に寄りかかって腕を組む大和が待ってた。
 俯いて足元を見つめる大和が、なぜか泣いているように見えて、戸惑う。

「……大和?」

 大和がぱっと顔を上げる。
 僕を見た途端、輝くような笑顔になった。

「お疲れ! なあ、今日、行きたいところあるか? 水瀬の行きたいとこあるなら、そこ行こうぜ」

「あ……、じゃあ、映画、かな。大和が好きな映画があれば、一緒に見に行きたい」

 以前、大学で見た友人たちとの会話を思い出した。
 あの時、大和のこと何にも知らないってショックを受けたんだ。
 大和のことを知りたいって思えた。
 だから、こうして大和と一緒に体験できるなんて、すごく贅沢だと思う。
 そう思って提案すると、大和は少しだけ眉を下げた。

「なあ、無理に俺の好きなものじゃなくていいんだぞ? 水瀬の好きなもの、教えてくれよ」

「ううん。僕は、如月くんの好きなものを知れるのが、一番嬉しいんだ」

 大和が髪をクシャリとさせたあとで、そっと僕の指先に触れてきた。

「……それ、本気で言ってくれてる?」

「うん。もちろんだよ。如月くんのこと、もっと知りたいから」

「……そっか。じゃあ、今日のデート、俺に任せてくれる? 俺、水瀬とやりたいこと、たくさんあるんだ」

 そう言った大和は、僕の手をとって駆け出した。
 繋いだ手から大和の熱が伝わって、僕の全身が熱くなる。
 夏の暑さと身体の熱が合わさり、僕はめまいがしそうだった。


 大和に引っ張られるまま、駅裏の路地を抜けて、イタリアンレストランに着いた。
 キャンドルが木のテーブルを照らし、トマトソースとバジルの香りがふわりと香る。
 オシャレなのに、僕の緊張を優しく上書きするような、温かな空気。
 人のざわめきがBGMのように流れて、騒がしくもなく、ゆっくりと過ごせる空間だった。
 友達と賑やかに騒ぐ場所じゃなくて、大切な人と過ごすための場所だったんだ。
 大和は今まで、この場所に誰かを連れてきたのかな?
 胸がチクリと痛んだけど、僕をここに連れてきてくれたことが、すごく嬉しかった。
 大和のイヤーカフが、キャンドルの光に反射する。

「如月くん、こんな素敵なところ連れてきてくれて、ありがと」

 パスタをフォークに巻きながら言うと、大和が少し照れたように目を逸らした。

「実はさ、水瀬とデートしたくて、色々調べたんだ。こういうとこ、好きかなって。緊張せずに話せる場所がいいからさ。ほんとは、もっと背伸びしてみたかったけど、水瀬、そういうの苦手だろ?」

 その言葉に、胸がキュッと締め付けられる。
 大和が僕を想って、考えてくれたんだ。
 それだけで僕は、すごく幸せだった。

 ピザが運ばれてくると、大和が「水瀬、ほら、一口!」ってピザを差し出した。
 からかうような笑顔に、顔がカッと熱くなる。

「や、自分で食べるよ!」

 首を振ったけど、それでも大和の手は動かずに僕の口の前で止まったまま。
 恐る恐る一口かじると、チーズの香りが口いっぱいに広がった。
 
「おいし」

 思わず呟くと、大和がにこやかに僕を見つめた。
 大和の瞳が、キャンドルの光で揺らめく。
 僕はお酒を飲んでないのに、その揺らめきを見ているだけで、身体がふわふわと浮き立ったんだ。
 


 それから大和に連れられて行った映画館は、駅そばの大きな映画館じゃなくて、本屋から三駅電車に乗って、さらに少し歩いた古いビルの3階だった。

「俺、時々一人でふらりと来て、リバイバル映画を観るのが好きなんだよ。内容知らずに観ることも多くてさ。そこで好きなものに出会えると、ワクワクするんだ」

 そう言って入った映画館は、色褪せた恋愛映画のポスターがロビーに並び、レトロな空気が漂っていた。
 レイトショーの客は数人しかいない。
 席に座ると、スクリーンが静かに明るくなる。古い恋愛映画。
 ピアノの音が柔らかく響く中、大和がそっと手を握ってきた。
 温かい指先に、心臓がドキドキして止まらない。
 手にじんわり汗をかいてしまった。

「水瀬、緊張してるのか?」

 耳元で囁かれ、顔がカッと熱くなる。

「俺もだよ」

 そう言う大和は、ちっとも緊張してるようには見えなくて、僕の手を握り続けた。
 最初は、大和の手が僕の手に重なるように握られてた。
 それが、いつの間にか指を絡め合うような握り方に変わってて、肩が震える。
 隣の大和の視線を感じたけど、大和の方を見れずに映画に夢中になってるふりをした。
 大和がクスッと笑って、スクリーンに視線を戻してた。
 映画の恋愛シーンが流れるたび、大和の手がぎゅっと強くなる。
 スクリーンに映る主人公が、黒い犬を抱きしめながら、別れを決意していた。
 僕は、自分をつい重ねてしまい、胸が締め付けられたけど、大和の握る手の温かさが、僕を今に引き戻した。

 そうだ。
 僕は今幸せなんだって、この時間をかみしめた。

  映画が終わって席を立つと、いつの間にか上がってた肩がそのまま動かなくて、大和に笑われる。

「水瀬、肩が上がってるぞ。緊張した? 大丈夫か?」

「如月くん、笑うなんてひどいよ!」

 僕は頬を膨らませるけど、幸せが溢れてた。
 手をつないだまま映画館を出ると、夜の街が静かに輝いてた。

「水瀬、これから、いろんな思い出作ろうな。もうすぐ花火大会もあるから、行こうぜ」

 大和の言葉に、胸が熱くなる。
 泣きそうになるほど、僕は幸せだったんだ。



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