【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)

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15.花火 前編

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 映画館デートから1週間が経った。
 その間、僕と大和は、バイト帰りに毎日のようにご飯を食べに行ったり、買い物に行ったりしてた。
 閉店までのシフトの時は、近くの公園で話をして帰った。
 毎日がすごく楽しくて、大和と過ごす時間はあっという間だった。
 僕は時々、翼のふりを忘れて、話をしている大和をじっと見つめてしまうことがあった。
 ある日、大和が話を止めて、僕の髪にそっと触れた。
 大和の指先を撫でるように、僕の髪がサラサラと動く。

「水瀬の髪、柔らかくて気持ちいいな」

 そう言って笑う大和に、僕は言葉にならない気持ちがこみ上げてくる。
 胸が詰まり、慌てて笑顔でごまかしたんだ。


 そして土曜日の今日、バイトが休みだった僕たちは、夕方に待ち合わせをしてた。
 映画の帰りに大和が言った花火大会を、一緒に見にいこうって決めたからだ。
 街は花火大会の喧騒で賑わっている。
 僕は翼の藍色の浴衣を借り、慣れない下駄をカタカタ鳴らしながら、花火大会の駅に向かった。
 大和と花火大会に行くって知った翼が、「これ着なよ!」って浴衣を貸してくれたのだ。
 着付けまでしてくれて、髪を止めるピンには青いガラスの飾りまでついてた。 
 鏡で見た自分の姿は、翼の明るさをまとっているようで、でもどこかぎこちなかった。

 駅前の待ち合わせ場所に着くと、すぐに大和が僕に気づいてくれた。

 「水瀬、似合ってるな!」
 
 大和が満面の笑みで手を振ってきた。
 大和も紺の浴衣を着ていて、いつもより少し大人っぽい大和に、僕は目を奪われた。

「如月くん、かっこいいね……」

 つい本音が漏れると、大和が照れたように前髪をクシャリと掻いた。

「サンキュ。なんか、恥ずかしいな。行こうか」

 お互いに照れながら、ゆっくりと歩き出した。
 駅を出て少し歩くと、屋台の焼きそばやリンゴ飴のおいしそうな匂いが漂い、子供たちの笑い声や太鼓の音が響いてくる。
 その時、子供たちが僕と大和の間を走り抜けてきて、僕は大和とはぐれそうになった。

「水瀬!」

 大和が僕の手首を握り、ぐいっと引きよせる。
 大和の指先の温かさが、浴衣の袖越しにじんわり伝わる。
 大和の手は、絶対に離さないって約束するみたいに、強く握ってた。

「はぐれると大変だから……人前で手繋いでても、いいか?」

 手をつないで歩くのは、映画デート以来だった。
 あのときだって、人が来るとぱっと離してたから、ほんとに少しの時間だった。
 あれは、大和が僕を気遣って手を離したんだって思って、胸が温かくなる。

「うん。今日は、人が多いものね。手、繋ご」

 僕の返事に、大和が安堵したように笑った。

「水瀬、りんご飴食うか? せっかくだから、いろいろ買って花火見ながら食べようぜ」

 大和と屋台を眺めながら買い物して、楽しかった。
 射的を見つけた大和が、「俺、得意なんだぜ」って言いながらやり始める。
 身を台に乗り出し、袖をまくった腕を真っ直ぐ伸ばして的を狙う姿が、カッコよかった。
 周りの女性たちが大和に見とれてるのがわかる。
 射的は全部当てて、大きなぬいぐるみを手に入れた。
 そばにいた小さな子が「あれ欲しい!」って、親に駄々をこね出す。
 一緒にいる両親が一生懸命なだめてたけど、それでも泣き止まなかった。
 それを見た大和が、ぬいぐるみを女の子に差し出す。

「あげるよ。その代わり、大切にするんだぞ」

「ほんと? お兄ちゃん、ありがとう!」

 女の子は泣き止んで、ぬいぐるみを大切に抱えてた。
 両親は何度も頭を下げて、お礼を言いながら去っていった。
 大和のみんなに優しいところ、好きだな。
 だから、引っ込み思案な僕にも、大学でたくさん話しかけてくれたんだもの。
 大和の優しさに、僕の顔はほころんだ。

「大和、やさしいね」

 僕がそう言うと、大和が照れたように前髪をかきあげた。

「別に、ぬいぐるみが欲しかったわけじゃなくて、水瀬にかっこいいとこ見せたかっただけだからさ。ほんとは、お目当てはこっちだったんだ」

 そう言って渡してくれたのは、星形の砂が入った三センチほどの小さな瓶だった。
 透明な袋に入って、きれいに青いリボンでラッピングされていた。

「何か思い出になるもの渡したくてさ。これならかさばらないし、幸運になれるって聞いたから、さっき景品でぬいぐるみと一緒にもらったんだ。お守り代わりにどうぞ」

「あ……」

 僕は驚いて、なかなか言葉にならなかった。

「ご、ごめん。こんな景品であげるなんて、ガキの発想だったよな。渡したかっただけだから、要らなければ捨てて」

「ううん! そんなことない! すっごく嬉しいよ。ずっと大切にする。ありがと」

 僕は嬉しくて、両手でそっと瓶を抱きしめたんだ。
 大和が人混みで乱れた僕の髪を、そっと整えてくれる。
 その瞬間、花火が大きな音を立てて夜空にパッと咲き、赤や青の光が大和の顔を照らした。
 花火を映す大和の瞳が、僕をじっと見つめる。
 心臓がドキドキして、息が止まりそうだった。 

 「水瀬、ほんと綺麗だな」

 大和の囁きに、顔がカッと熱くなる。

「あっ、は、花火、ほんと綺麗だね。早く川辺に行って、ゆっくり見よう? 座れるとこ、もう無いかな?」

「花火じゃないんだけどな……まあ、良いや。川辺じゃなくて、こっち。穴場の場所あるから、そこで見よう」

 大和は僕の手を引いて歩き出したんだ。
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