18 / 42
12.笑顔
しおりを挟む
カーテンの隙間から漏れる朝日が顔にかかり、僕は目を覚ました。
僕たちは僕のベッドで、互いに寄り添うように眠ってた。
翼は泣きつかれた僕をお風呂に入れた後、一緒に寝ようって言って、自分の枕を僕の部屋に持ってきたんだ。
「ふふ、小さい頃みたいだね」
そう言って、僕と同じベッドに入って、抱きしめながら眠る翼は、すごく温かかった。
翼も寝る前にお風呂に入ったから、絵の具やウッディな香りは薄れて、僕と同じシャンプーの柑橘系の匂いがしてた。
同じ香りがして、まるで二人で一つになれたみたいで、じんわり安心して眠れたんだ。
翼を起こさないように、そっと布団から出る。
時計を見ると、八時を過ぎてた。
翼は昨日、合宿から帰ってきたばかりで、疲れてるはずだ。
それなのに、昨夜は泣きじゃくる僕のために、ずっと寄り添ってくれたんだ。
キッチンに向かうと、昨夜の肉じゃがの匂いがほのかに残ってた。
冷蔵庫を開けると、翼が作ってくれた肉じゃがとお味噌汁が鍋のまま入っていた。
僕は、その二つをコンロの火にかけて、温め直した。
ご飯も冷凍庫に入っていたのを温め直す。
静かに時間が流れ、肉じゃがとお味噌汁の優しい香りが膨らんできた。
昨夜の涙が胸に蘇る。
「僕は偽物なんだ」って叫んだ自分。
翼の「こんな素敵な弟はいないのに」が、頭の中で響く。
大和が好きになったのは、翼の笑顔かもしれない。
でも、翼が言ってくれた。
「如月くんと一ヶ月以上笑い合ったのは、碧依だよ」
その言葉が、心に小さな火を灯す。
夏休みが残り一ヶ月となった今日、僕は決めた。
このひと月、翼として大和の恋人でいる。
たくさん思い出を作って、大和の笑顔を胸に刻むんだ。
大和が翼を好きでもいい。
それでも、僕と過ごして生まれた笑顔は、僕の心のなかに残る。
それだけでいい。
そして、9月の終わり、夏休み最後の日に、全てを話して別れる。
偽物でも、本当の気持ちで大和と向き合いたい。
大和を好きだという気持ちだけは、本物だから。
こんな決断、間違ってるんだろうな。
そんなことは分かってる。
けれど、僕は大和と離れたくないんだ。
だからお願い。
大和、翼。
一ヶ月だけ。
僕に夢を見させてほしいんだ。
そうしたら、僕は、すべてを大和に話すよ。
きっと、大和には怒られると思う。
もう、僕に笑いかけてなんてくれないかもしれない。
それでもいいから。
翼としてでも、大和のそばにいさせてください。
キッチンで朝ごはんを作りながら、その願いをそっと握りしめる。
レンジの音が鳴り、ご飯が温まった合図が静かなアパートに響く。
その時、翼が目をこすりながら、リビングに入ってきた。
「碧依、早起きだね。いい匂い。」
翼が笑う。いつもの眩しい笑顔。
けれど、その目の下には薄っすらと隈ができていた。
翼に心配ばかりかけていることに、胸が痛んだ。
朝食の準備を終えて、翼と食卓を囲む。
会話もなく、カチャカチャと食器の音だけが響いた。
それでも、ニ人には穏やかな空気が流れてた。
翼とは会話がなくても、いつでもわかり合えていた。
僕が、気持ちを整理できてることは、きっと碧依に伝わってるんだろう。
翼は、僕になんにも聞いてこない。
口にした肉じゃがは、優しい味がして、今までで一番おいしかった。
「翼、話したいことがある」
ご飯を食べ終わったとき、僕は深呼吸して、決意を口にした。
「夏休みの残り1ヶ月、翼として大和と恋人でいたい。最後に全部話して、別れるから。翼、いいかな?」
翼の目が、ほんの一瞬、曇った。
少し悲しそうな顔。
でも、すぐに笑顔に戻って、そっと僕の頭を撫でてくれた。
「それが碧依の決意なら、僕は応援するよ。どんな碧依でも、僕の自慢の弟だから」
その言葉に、胸がじんわり温まる。
昨夜、翼が「偽物なんて言わないで」と言ってくれたように、僕をまるごと受け止めてくれる。
こんなわがまま、翼にとっては迷惑でしかないはずだ。
それでも、僕のためにそう言って笑ってくれる翼に、僕は「ありがとう」と言って、頭を下げるしかできなかった。
食器を片付け、洗い物を終えた後、僕は自室に戻った。
バイトの時間までまだ少し余裕がある。
洗面台の前に立ち、深呼吸する。
鏡に映るのは、翼とそっくりな顔。
でも、どこか頼りなげな目元が、僕そのものだ。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。
「翼の笑顔……」
僕は呟きながら、唇の端を上げてみる。
翼の笑顔は、いつも眩しくて、まるで太陽みたいだ。
自信に満ちて、誰の心も掴んで離さない。
今日の僕は、ぎこちなく口角を上げるけど、うまくいかない。
昨日の朝、鏡で見た時には、上手に笑えてたのに。
「違う……もっと、こう……」
目を細め、頬を少し膨らませて、翼がよくやるあの無邪気な笑みを真似してみる。
でも、鏡に映る目は、どこか不安そうに揺れている。
「大和が好きになった笑顔を作らなきゃ……」
胸が締め付けられる。
大和が惹かれたのは、翼のあの笑顔。
本物の翼の輝き。
でも、翼が言ってくれた。
「如月くんと一ヶ月以上笑い合ったのは、碧依だよ」
その言葉を頭の中で繰り返すうちに、笑顔が自然になってきた。
心の奥で小さな火が灯る。
「1ヶ月だけ…大和のそばで、この笑顔でいよう」
僕は自分に言い聞かせるように呟き、碧依に借りた洋服に着替えた。
肩に掛けたバッグの重さが、なんだか今日の決意を背負っているみたいだった。
玄関で靴を履きながら、胸のドキドキが収まらない。
でも、その鼓動は怖さだけじゃなくて、ほんの少し、期待も混じっている気がした。
今日も、バイト先で大和に会う。
久しぶりに翼の笑顔を練習して、心臓がドキドキした。
これから一ヶ月。
どんな事が待ってるんだろう。
僕は弱いから、一人になると迷ったり泣いたりするかもしれない。
それでも、どんなときでも、大和との時間を笑顔で過ごすんだ。
どんな形でも、大和の笑顔に手が届くなら、僕は頑張れるから。
僕たちは僕のベッドで、互いに寄り添うように眠ってた。
翼は泣きつかれた僕をお風呂に入れた後、一緒に寝ようって言って、自分の枕を僕の部屋に持ってきたんだ。
「ふふ、小さい頃みたいだね」
そう言って、僕と同じベッドに入って、抱きしめながら眠る翼は、すごく温かかった。
翼も寝る前にお風呂に入ったから、絵の具やウッディな香りは薄れて、僕と同じシャンプーの柑橘系の匂いがしてた。
同じ香りがして、まるで二人で一つになれたみたいで、じんわり安心して眠れたんだ。
翼を起こさないように、そっと布団から出る。
時計を見ると、八時を過ぎてた。
翼は昨日、合宿から帰ってきたばかりで、疲れてるはずだ。
それなのに、昨夜は泣きじゃくる僕のために、ずっと寄り添ってくれたんだ。
キッチンに向かうと、昨夜の肉じゃがの匂いがほのかに残ってた。
冷蔵庫を開けると、翼が作ってくれた肉じゃがとお味噌汁が鍋のまま入っていた。
僕は、その二つをコンロの火にかけて、温め直した。
ご飯も冷凍庫に入っていたのを温め直す。
静かに時間が流れ、肉じゃがとお味噌汁の優しい香りが膨らんできた。
昨夜の涙が胸に蘇る。
「僕は偽物なんだ」って叫んだ自分。
翼の「こんな素敵な弟はいないのに」が、頭の中で響く。
大和が好きになったのは、翼の笑顔かもしれない。
でも、翼が言ってくれた。
「如月くんと一ヶ月以上笑い合ったのは、碧依だよ」
その言葉が、心に小さな火を灯す。
夏休みが残り一ヶ月となった今日、僕は決めた。
このひと月、翼として大和の恋人でいる。
たくさん思い出を作って、大和の笑顔を胸に刻むんだ。
大和が翼を好きでもいい。
それでも、僕と過ごして生まれた笑顔は、僕の心のなかに残る。
それだけでいい。
そして、9月の終わり、夏休み最後の日に、全てを話して別れる。
偽物でも、本当の気持ちで大和と向き合いたい。
大和を好きだという気持ちだけは、本物だから。
こんな決断、間違ってるんだろうな。
そんなことは分かってる。
けれど、僕は大和と離れたくないんだ。
だからお願い。
大和、翼。
一ヶ月だけ。
僕に夢を見させてほしいんだ。
そうしたら、僕は、すべてを大和に話すよ。
きっと、大和には怒られると思う。
もう、僕に笑いかけてなんてくれないかもしれない。
それでもいいから。
翼としてでも、大和のそばにいさせてください。
キッチンで朝ごはんを作りながら、その願いをそっと握りしめる。
レンジの音が鳴り、ご飯が温まった合図が静かなアパートに響く。
その時、翼が目をこすりながら、リビングに入ってきた。
「碧依、早起きだね。いい匂い。」
翼が笑う。いつもの眩しい笑顔。
けれど、その目の下には薄っすらと隈ができていた。
翼に心配ばかりかけていることに、胸が痛んだ。
朝食の準備を終えて、翼と食卓を囲む。
会話もなく、カチャカチャと食器の音だけが響いた。
それでも、ニ人には穏やかな空気が流れてた。
翼とは会話がなくても、いつでもわかり合えていた。
僕が、気持ちを整理できてることは、きっと碧依に伝わってるんだろう。
翼は、僕になんにも聞いてこない。
口にした肉じゃがは、優しい味がして、今までで一番おいしかった。
「翼、話したいことがある」
ご飯を食べ終わったとき、僕は深呼吸して、決意を口にした。
「夏休みの残り1ヶ月、翼として大和と恋人でいたい。最後に全部話して、別れるから。翼、いいかな?」
翼の目が、ほんの一瞬、曇った。
少し悲しそうな顔。
でも、すぐに笑顔に戻って、そっと僕の頭を撫でてくれた。
「それが碧依の決意なら、僕は応援するよ。どんな碧依でも、僕の自慢の弟だから」
その言葉に、胸がじんわり温まる。
昨夜、翼が「偽物なんて言わないで」と言ってくれたように、僕をまるごと受け止めてくれる。
こんなわがまま、翼にとっては迷惑でしかないはずだ。
それでも、僕のためにそう言って笑ってくれる翼に、僕は「ありがとう」と言って、頭を下げるしかできなかった。
食器を片付け、洗い物を終えた後、僕は自室に戻った。
バイトの時間までまだ少し余裕がある。
洗面台の前に立ち、深呼吸する。
鏡に映るのは、翼とそっくりな顔。
でも、どこか頼りなげな目元が、僕そのものだ。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。
「翼の笑顔……」
僕は呟きながら、唇の端を上げてみる。
翼の笑顔は、いつも眩しくて、まるで太陽みたいだ。
自信に満ちて、誰の心も掴んで離さない。
今日の僕は、ぎこちなく口角を上げるけど、うまくいかない。
昨日の朝、鏡で見た時には、上手に笑えてたのに。
「違う……もっと、こう……」
目を細め、頬を少し膨らませて、翼がよくやるあの無邪気な笑みを真似してみる。
でも、鏡に映る目は、どこか不安そうに揺れている。
「大和が好きになった笑顔を作らなきゃ……」
胸が締め付けられる。
大和が惹かれたのは、翼のあの笑顔。
本物の翼の輝き。
でも、翼が言ってくれた。
「如月くんと一ヶ月以上笑い合ったのは、碧依だよ」
その言葉を頭の中で繰り返すうちに、笑顔が自然になってきた。
心の奥で小さな火が灯る。
「1ヶ月だけ…大和のそばで、この笑顔でいよう」
僕は自分に言い聞かせるように呟き、碧依に借りた洋服に着替えた。
肩に掛けたバッグの重さが、なんだか今日の決意を背負っているみたいだった。
玄関で靴を履きながら、胸のドキドキが収まらない。
でも、その鼓動は怖さだけじゃなくて、ほんの少し、期待も混じっている気がした。
今日も、バイト先で大和に会う。
久しぶりに翼の笑顔を練習して、心臓がドキドキした。
これから一ヶ月。
どんな事が待ってるんだろう。
僕は弱いから、一人になると迷ったり泣いたりするかもしれない。
それでも、どんなときでも、大和との時間を笑顔で過ごすんだ。
どんな形でも、大和の笑顔に手が届くなら、僕は頑張れるから。
228
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる