【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)

文字の大きさ
39 / 42

31.青いシャツの誤解(大和side)

しおりを挟む
 大学に入って東京に来たとき、俺の心はあの海辺に戻った。
 思い出の海は、都外だけど電車で日帰りで行ける距離になっていた。
 また行きたいって思ってた矢先、大学で水瀬を見た。
 一目で分かった。
 あの少年だ。
 キラキラした目で「素敵な人になるよ」って言ってくれた、あの少年だった。
 すげえ嬉しくて、話しかけてみたかったけど、碧依は俺が近づくと、そそくさといなくなる。
 俺の周りには、常に人がいて、賑やかな集団が苦手そうな碧依は、目も合わせずに離れていく。
 あの様子だと、俺の顔なんて見ていない気がした。
 なんとか一人のときに話しかけたかったけど、碧依とは授業があまり被らなくて、機会がなかった。
 遠くから見かける碧依は、あの海辺のキラキラした輝きをどこかに隠して、なんだか寂しげだった。
 どうしたんだ?
 あんなに明るく笑ってた碧依はどこに行っちまったんだ?
 ずっと気になって、目で追わずにはいられなかった。
 同じゼミ生になれたときは、ほんと心臓が跳ねたよ。
 初めてのフリして、すげえ話しかけた。
 あのときの粋がってた自分を思い出すと、なんかカッコ悪くて、俺から「あの時の少年は水瀬だろ?」なんて聞けなかった。
 水瀬も、俺のことなんか覚えてなさそうだった。
 バイト先で碧依に再会したときは、運命としか思えなかった。
 今でも覚えてる。
 一日目は、水瀬にどことなくにていて、苗字が同じ「水瀬翼」って奴が俺の指導をしてくれた。
 前に碧依が「兄がいる」って言ってたから、こいつが碧依の兄なのかな、とは思った。
 二日目に碧依と働けたとき、あの海辺の少年みたいな、優しくて明るい笑顔がそこにはあった。
 でも、俺が話しかけると碧依は少し緊張したみたいだった。
 それでも、だんだん会話も弾むようになって、俺、すげえ幸せだった。
 でも、気になることがあった。
 バイト先で碧依が店長とコソコソ話してるときの、悲しそうな目。
 かと思うと、顔を赤らめ、潤んだ瞳で店長を見ている。
 噂で、碧依が店長と付き合ってるって聞いた。
 店長が好きだけど、うまくいってないのか?
 俺なら、碧依を絶対幸せにするのに。
 そう思ったら、いてもたってもいられなくて、告白した。
 「初めて会った時から、好きだった」って、つい強調しちまった。
 あの海辺での感謝と、俺たちが運命だって気持ちを、それとなく伝えたかったんだ。
 碧依が告白に応えてくれて、俺、すげえ幸せだった。
 店長との関係や、時折見せる寂しげな目は気になったけど、碧依とデートできるだけで、胸が熱くなった。
 花火大会の時、星の砂を渡そうと思って持ってきてた。
 けれど、あの海での出会いを忘れてる碧依からしたら、こんな小さなプレゼントなんて、戸惑うだけかもしれない。
 そう思うと、渡すのに躊躇した。
 射的の屋台を見つけた時、これだ!って思った。
 射的の景品として、渡したんだ。
 碧依はびっくりした顔をしてから、笑顔で受け取ってくれた。

「ずっと大切にする。ありがと」

 碧依が星の砂を抱きしめて笑った顔は、花火なんかよりずっと輝いてて、すげえ綺麗だった。
 胸がドキドキして、時間が止まったみたいだった。


 思い出の海に一緒に行ったとき、碧依はこの海で「大切な出会いがあったんだ」って言ってくれた。
 あの少年が俺だとはわからないままでも、碧依にとってもあの海が特別だったことが、なんか嬉しかった。

「この海でね、少年から犬を譲ってもらったんだ」

 碧依は嬉しそうに笑った。

「その犬、今はどうしてるんだ?」

「クロって名前を付けたんだ。今は実家で暮らしてる。すっごく元気で甘えん坊なんだよ。僕が帰ると、しっぽ振って出迎えてくれるんだ」

 良かったな。
 あの黒い犬は、幸せそうだ。
 俺は顔が緩んだ。
 

 初めてキスしたとき、俺、浮かれてた。
 すげえ幸せで、碧依もそうだったら良いなって思って、碧依を見たんだ。
 今なら、「碧依」って呼んでもいいかな?なんてバカなことも考えていた。
 でも、碧依の目は揺れていた。。
 泣いてたのかもしれない。
 俺は冷水を浴びたみたいに、胸が苦しくなった。
 浮かれた気持ちはあっという間に沈んでしまった。
 その後、バイト先の店長と鉢合わせしたとき、碧依がすげえ落ち込んでたのを見て、ショックだった。
 店長が他の人とデートしてるのがそんなにショックだったのかよ。
 不安が頭をよぎる中、数日後に映画館で碧依と店長を見ちまった。
 あの青いシャツ。
 水瀬がバイトでよく着てた、俺も好きな服だ。
 それを着た碧依が、店長とすげえ近い距離で歩いてた。
 遠くからじゃ表情は分からない。
 でも、なんか、楽しそうに見えた。

 あの映画館は、俺にとって特別な場所だった。
 水瀬が「如月くんが好きなもの知りたい」って言ってくれたから、連れてったんだ。
 友達にも教えてない、俺の息抜きの場所なのに。
 碧依が店長に教えるなんて、思ってもみなかった。
 最後にチラッと見えた水瀬の顔は、すげえ明るい笑顔だった。
 俺には最近そんな笑顔、見せてくれない。
 時々、ほんのちょっと悲しそうな顔が覗くんだ。

 俺じゃダメなのか。
 水瀬の幸せを、俺が邪魔してるんじゃないか。

 そんな考えが頭をぐるぐる回って、胸が締め付けられた。



 次の日、水瀬から「話がある」って言われた。
 バイト終わりに二人で話すことになった。
 俺は、水族館の翌日に聞いてしまった、店長と水瀬の会話が頭から離れなかった。

「……如月くん……、ぼくたちの関係……話そうと……」

「……碧依君……」

 途切れ途切れだったけど、その言葉だけはハッキリ響いた。
 俺には名前で呼ばせてくれないのに、店長には「碧依君」って呼ばせてた。
 「僕たちの関係」って何だ?
 やっぱり恋人同士だったのか?
 俺の告白を受け入れたのは、俺がウロチョロして面倒だったから、適当に合わせてただけなのか?

 今日で俺のバイトも終わる。
 最後に全部話して、終わらせようってことなのか?

 ああ、もう俺のちっぽけな希望も、全部砕けちまった。
 心が苦しくて、息ができなかった。
 だから、碧依が話を振る前に、俺から終わらせた。

「俺は水瀬のこと信じらんねえ。別れよう。……碧依。ずっとこの名前で呼びたかった。もう、さよならだ。明日からは俺から話しかけないから。今までつきまとって、悪かった」

 声が震えたけど、なんとか絞り出した。
 水瀬の幸せのためだと思ったから。
 あの少年の笑顔が、いつまでも忘れられなかった。

しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

処理中です...