追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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お兄様のトラウマもふもふ1

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「ライ達、久しぶりの兄妹水入らずで楽しんでいるかな?」
 紫と橙の色が混ざり込み、まるでマーブリングの絵みたいな空には巣へ帰る鴉が悠々と飛んでいた。
 道路の右手にはガス灯が等間隔に設置され、優しい光を灯している。


 私はライを湖に送った後、商会に戻り仕事をある程度片付けて今帰宅途中だ。
 そのまま直帰しても良かったんだけど、ライとメディを二人きりにさせてあげたかったから。
 久しぶりで積もる話も色々あるだろうし。


「お兄様にも連絡したけど、家にいるのかな?」
 ぼんやりとお兄様の事を頭に浮かべながら家路に着いていると、「ティア」と背に聞き慣れた声が届き、私が振り返るとお兄様の姿が。
 お兄様が片手を上げて穏やかな笑みを浮かべているんだけど、彼の手にはケーキボックスが窺える。


「お兄様っ! ちょうど良いタイミングですね」
「仕事を明日に切り上げて来たんだ。ライが来ていると聞いたからね。みんなで食べようと思ってケーキを買ってきたんだよ」
 お兄様は手にしていたケーキボックスを軽く掲げて見せたんだけど、四人分のケーキにしては量が多そうな気がする。
 もしかして、ホールで購入してきたのだろうか。
 ケーキボックスに記されている店名は、コルタのお姉さんのお店のものだ。


「ケーキ随分いっぱい買ってきたんですね」
「んー……その……」
 お兄様は歯切れの悪い台詞を言いながら、視線をゆらゆらと揺らし始めてしまう。


「レイガルド様達の分。実はさ、廊下でレイガルド様とばったり遭遇しちゃったんだ。ライがティアのうちに泊ると聞いて、レイガルド様も後で伺いたいって」
「何時くらいですか? 私とライは不在になるかもしれません。その時はお兄様とメディに応対をお願いします」
「ふ、ふっ、ふた……二人でどっか出かけるのかい?」
 お兄様の声が震えているので、私は首を傾げてしまった。


「はい。神殿に星を見に行きます。ライには四人で行こうと誘ったんですけど、誕生日プレゼントとして二人で行こうと誘われたんですよ」
「あっ、そういうことか! びっくりしたよ。知らぬ間に決着がついたのかと」
「決着ですか?」
「ティアも近々わかると思う。んー、ライナス様が先に動いたのか。触発されてレイガルド様も動きそう。僕の胃は持つかなぁ」
「お兄様、胃が痛いんですか。ライに見て貰いましょうよ」
「まだ大丈夫。ねぇ、ティア。ティアに好きな人ができたら僕に教えて。さすがに国同士の戦には発展しないだろうけど心配なんだ」
 私を真っ直ぐ見つめてきたお兄様の瞳は真剣そのもの。
 もしかして、私が婚約破棄されたことを気にされているのだろうか。


「はい。ちゃんと好きな人ができたら、お兄様にお伝えいたしますわ。ですから、私の事は心配なさらないでくださいね。お兄様の胃はとても大事です」
「大丈夫だよ。三角形くらいなら。これか四角形や五角形になったら胃がやばそうだけれども」
 三角形や四角形ってなんのことを言っているのだろう? と頭に過ぎったが、お兄様が違う話に切り替えてしまったため、私の頭はすぐにそちらの話題へと逸れてしまう。


 お兄様と二人でおしゃべりをしていたせいか、あっという間に家に到着。
 玄関には明かりが灯され、扉の隙間から食欲を誘うおいしそうな匂いが漂ってきていているため、私とお兄様が顔を見合わせ頷く。
 言葉にしなかったけど、心は一緒だっただろう。早く扉を開けよう! って。


 私がドアノブに手を伸ばして引けば、家と外を繋いでいた扉が消え室内の様子が一望できた。


「おかえり」
「お帰りなさい」
 ライとメディの温かい出迎えの声が届き、私とお兄様は「ただいま」と返事をする。
 メディ達はエプロンを身に着け、手には湯気の立っている料理を持っていた。

 テーブル上にはグラスやフォークなどの他に、籠に入った香ばしいバターの香りがするパンや野菜と共に煮込まれた肉料理が並べられている。
 サラダも私ならば手でちぎって終わりという大雑把なものなのに、ライ達が作ったのは彩豊かなサラダだ。


「夕食二人で作ってくれたの? ありがとう」
「相変わらず、料理上手だな。ライもメディも」
 お兄様の台詞に私は同意するように大きく頷く。


「褒めてもなにも出ないぞ。さぁ、冷めないうちにみんなで食べよう」
「あぁ、そうだな。あっ、ケーキ買って来たんだ」
「では、食後にお出ししますね」
 メディがお兄様からケーキを受け取った瞬間だった。


 乱暴に玄関の扉が叩かれたのは――



「え」
 扉が壊れる! と言いたくなる強さで叩かれているため、私は眉を顰める。
 突然の異変に対して、一瞬静まり返ったがすぐにみんな一斉に玄関へと顔を向けた。


「ティア、メディ。俺が開けるから離れて。リストの後ろに隠れていてくれ」
「玄関の鍵はまだ掛けてないから開くよ」
「ティア、鍵かけてないの!?」
 お兄様の声が室内に響けば、扉が開け放たれコルタの姿が現れた。
 彼は顔を強張らせながら肩で大きく息をしているため、何か悪い方向で物事が起こったことを瞬時に察する。


「何かあったのかい?」
 お兄様も私と同じように思ったらしく、唇を開く。


「ムウ村から知らせがあった。巷で話題の例の感染者がエタセルにも出たんだよ。灰と青の中間くらいの色をした大きな鼠に青いウサギみたいな動物に噛まれたらしい。悪いが、メディ来てくれないか? 薬師の力を貸して欲しい」
「勿論です。ですが……青いウサギのような動物はおそらく……」
「ラシットだな」
 ライの絶望的な声が答えを告げれば、お兄様が「ラ、ラシット」と呟きながらよろめいてしまう。


「ラシットに噛まれたのは何人くらい?」
「わからない。ライナス様の秘書官が今ワクチンを取りに向かってくれている」
「どんなに急いでも三日はかかるぞ」
「私、ワクチンなら三本持っているわ。とにかく、すぐにムウ村に向かいましょう」
「そうだな。俺も医者だから手伝う」
「すまない。大きな村ではないから、医者が一人しかいないから助かる」
 こうして私達は村へと向かうことになった。





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