追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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お兄様のトラウマもふもふ2

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 村は王都から馬で二時間ほどかかるところだった。
 国境沿いに面した自然豊かなところで、王都のように隣家同士が近くなく離れている。

 コルタに案内され、私達が辿り着いたのは村の集会所。
 周囲には煌々と明かりが焚かれ、松明を持った村人の姿や騎士の姿があった。
 中心にいたのはレイで、彼は私達に気づくと目を大きく見開く。


「ライナス殿……」
「俺も手伝います。一応、医者ですから」
「恩に着ます」
「ラシットに噛まれたり引っ掻かれたりした患者の数はわかりますか?」
「二人です。後は、猫くらいの大きさの鼠だそうです」
「間に合うわ」
 私はほっと安堵の息を零す。ワクチンは三本しか持っていないため、二人なら間に合う。


「ライ、お願い。ワクチンは三本入っているわ」
 私は肩から下げていた鞄ごとライへと渡せば、彼は大きく頷き傍にいたメディへと視線を走らせる。
 すると、二人は頷き合うと建物へと向かって走っていく。


「レイガルド様。動物の捕獲はもう?」
「まだだ。明日の早朝に山狩りをして捜索する。これ以上被害を増やすわけにはいかないからな。これからどのルートで進むか話し合いをするんだ。リストにも加わって欲しい」
「畏まりました」
「私も手伝います!」
「「危険だからティアはだめだ」」
 レイとお兄様の声が綺麗に重なった。


「レイガルド様、リスト様」
 村人に声を掛けられたお兄様達は、駆け足で村人の輪に入って行き、真剣な眼差しで地図を確認しながら何か話をし始める。
 コルタは騎士達と合流しているし、私はライの手伝いでもしようと建物の中へと向かうことに。


 集会所は木造の平屋で入口が大きな二枚扉になっており、窓からはぼんやりとした灯が漏れてきている。
 女性の姿が確認できないため、もしかしたら山狩りに向かう男性だけ集められているのかもしれない。


 扉を開けて集会所の中へと入れば、ベッドが置かれて患者さんが寝ている。
 村には病院がないため、集会所を病院代わりにしているのかもしれない。


 ライは患者さんの治療しているようで、持ってきたワクチンを注射していた。
 メディは薬草を手に持ちながら、村のお医者さんと話し中だ。


 ――なんか、ライが知らない人みたいだわ。


 ライと結構時間を共にしてきて国王やライ個人の姿を見たことがあるけど、医者としての彼は初めて目にした。
 見慣れない彼の姿に、私は見入ってしまう。
 けれども、すぐに我に返りここに医療に関する知識がない自分が居ても邪魔だと悟り外へと出る。


「何も出来ないなぁ、私……」
 手伝いに来たのに、全く出来ることがない。
 ライやメディのように医療の知識があるわけでもないし、お兄様のように頭が良いわけでもないし。
 捜索の手伝いなら可能かもしれないけど、明日の早朝のためまだだし。



「村を見て軽く探して回ろうかな。畑もあると思うから、ラシットの餌も豊富だろうし」
 私は近くを通りかかった村人にラシットを捕獲した場合に使用するケージを借り、建物から離れて捜索することに。
 所々に建物があり明かりが灯されているので、やはり女性や子供は家の中にいるのだろう。


 月明かりと家々の灯火が頼りの中、私は畑を中心に探していく。
 人の気配が全く無いため、ラシットが落ち着いて食事をするにはベストな環境かもしれない。
 ラシットが好きな葉物野菜が畑ではちょうど時期らしく、あちらこちらの畑には餌になりそうなものが豊富にある。

 なるべく足音を立てないように歩きながら足を進めて行くと、ガサゴソと葉同士の擦れる音が聞こえ、私は足を止めて右手に広がる畑へと顔を向ける。


 ――ん?


 じっと凝視すると、そこには地面から生えている葉物野菜に半分隠れるようにしてこちらを窺っているウサギのような生物がいた。





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