楽な片恋

藍川 東

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秋 2/3

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 いくら異常気象といわれても、秋って人肌が恋しくなる。秋っていうだけで。
 これは日本人が今まで過ごしてきた中で刻み込まれてた、遺伝子的な感覚かも。
 ということは、今の異常気象を生きている子どもたち(といっても、大人とは言い難い気がするけど、法律では『成人』な僕より若い世代ってこと)は、『秋』? なにそれ? になるのかも。
 知らんけど。

 高校生の秋となれば、学園祭と体育祭。
 なんでこんな時期に合わせてやるんだ中間テスト。
 とにかく怒涛のようにイベントがある。
 3年生の僕にはテストはすでに形骸化していたけど、受験組は大変そうだったなぁ。
 「そうなんだ」
 と僕のとなりで、なんてことなくあいづちを打っている優一朗こそ、生徒会会長としてすべての行事を仕切ってきたのに、なんで余裕なんだ?
 さっき出てきた生徒会室は、屍累々だったよな?
 「ちゃんとみんなで納得して、役割分担してるよ? 俺の分はちゃんとこなしてるから」
 それはそうだろうな。
 僕の幼馴染のイケメンは、地頭も要領もいい。
 地味な一般人とは違うわけだ。
 でも、そこが好きなところだ。
 自分にないところに、惹かれる人間もいる。
 僕だけど。

 もし優一朗が`年上だったら、憧れで済んでいたかもしれない。何でもできる、優しいお兄さんとして。
 同じ年だったら、嫉妬してたかもしれない。自分ではできなことを、やすやすとこなす姿を見て。
 実際は年下だ。
 本当は、年上としていい感じに尊敬してもらえる立場に、なりたかったんだけどなぁ。
 となりのイケメンを見上げて、ちょっと感慨に浸ってみたりする。
 年上アドバンテージが使えるのも、卒業までのあと数ヶ月。
 「どうしたの? さわちゃん」
 「ん? 別に?」
 肩がぶつかったのは、風が寒くて暖を取りたかったから。
 指触れ合うのは、お互い手を振って歩いているから。
 いくつもの言い訳を挟んで、僕は優一朗を体感する。
 二人に起こっていのは同じ出来事なのに、僕だけが幸せを感じられて、すごくお得だ。
 「なんか、楽しそうだね」
 優一朗がいう。
 「ん? 楽しいよ。庶民は小さなことから楽しさを見つけていくもんなんだよ」
 「なにそれ」
 優一朗が笑う。
 笑顔の特等席。
 あと数ヶ月居座れるこの席で、僕はささやかで大きな幸せを噛み締めて歩く。
 
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