楽な片恋

藍川 東

文字の大きさ
5 / 13

秋 1/3

しおりを挟む
 秋といっても、暑い。
 来月には冬服に強制衣替えだけど、クーラー効かせて冬服ってのは、地球に優しくないんじゃないだろうか。
 こんなことをつらつら考えていられるのも、推薦組の特権で、受験組と混成クライスの教室では、休み時間も脇目も振らず、参考書に頭を突っ込んでる輩も多い。

「なんかなぁ、俺達も去年までは、あんな青春してたんだよなぁ」
 窓際から、体育の授業の準備をしている下級生を見ていると、そんな声が聞こえた。
 締め切った窓から声は聞こえないけれど、ジャージ姿でじゃれ合いながら、三々五々グラウンドに集まっているのが見える。
 もっとも、僕が見ているのは『下級生』じゃなくて『幼馴染優一朗』だけど。
 高2ともなれば、身長もそれなりで。
 その中でも優一朗は頭半分高い。
 ジャージの上着の前を開けているので、Tシャツから胸板がわかる。
 腰の高さも違う。
 手足も長くて、頭が小さい。
 三階の窓から、こんな下心丸出しの視線に晒さえれているとは、気づいてもいないだろう、爽やかな顔で笑っている。

 あぁ、アイドルのオフショットを見るファンって、こんな気持なんだろうなぁ。
 相手にとって自分がどんな存在か、なんて気にしなくてもいい。
 ただただ、心に栄養を取っていくだけ。
 彼がこの世界にいることと、その姿を見せていただいている幸せ。
 できれば動画で残したいところだけど、さすがに僕が終了しそうなので、ぐっとこらえている。
 その代わり、あの美しい存在を心ゆくまで愛でる。
 この世界に感謝しながら。
 彼の存在からもらう熱が、僕の指先にまで巡る。
 きっと今、僕の脳から幸福物質がどばどば出ているんだろうな。
 幸せだ。
 穏やかで、凪のような幸せ。
 これ以上を望まない、幸せ。

 もう休み時間も終わる、というときに、優一朗がふと視線を上げた。
 なにかあったのかな?
 視線が止まって、なんだか僕と、目があった気がする。
 これも、コンサートで、『絶対目が合った気がするーっ』なんだろうな。
 優一朗が突然、満面の笑みを浮かべて、腕を上げて大きく手を振った。
 同級生に比べても、大人びた容姿の優一朗からすると、ずいぶん子供っぽい仕草に見える。
 実際、彼の周りのクラスメートがきょとんとしている。
 僕もキョトンだ。
 思わず後ろを振り返る。
 でも、まわりでグラウンドを見下ろしている奴はいない。
 優一朗は手を振り続けている。
 見えもしないだろうけど、一応、僕は小さく自分を指さした。
 すると、優一朗も指をさして、うなづく。

 え、え。

 消化できないまま、優一朗は集合がかかったらしく他のクラスメートと一緒にグラウンドの中央に集まっていった。

 うわぁ。

 ラッキー。

 ファンサしてもらった。

 先生が入ってきた。
 「おーい。授業始めるぞー。ん? 蓮見。顔が赤いぞ。風邪か?」
 受験組が僕からざっと身を引く。
 「あー。ちょっと発熱したみたいです」
 「体調管理は気をつけろよー。クセにならないようになー」

 いえ、もう手遅れです、先生。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

ポメった幼馴染をモフる話

鑽孔さんこう
BL
ポメガバースBLです! 大学生の幼馴染2人は恋人同士で同じ家に住んでいる。ある金曜日の夜、バイト帰りで疲れ切ったまま寒空の下家路につき、愛しの我が家へ着いた頃には体は冷え切っていた。家の中では恋人の居川仁が帰りを待ってくれているはずだが、家の外から人の気配は感じられない。聞きそびれていた用事でもあったか、と思考を巡らせながら家の扉を開けるとそこには…!※12時投稿。2025.3.11完結しました。追加で投稿中。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

【幼馴染DK】至って、普通。

りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

処理中です...