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迷い人3人目 呪いの人形
3-1
しおりを挟む一年二組の教室。
朝のホームルーム前、ある話で盛り上がっているみたい。
そんな中、わたし立花陽菜(たちばなひな)は、顔をひきつらせていた。
「呪いの人形って、定番だけど1番怖いよね!陽菜は呪いの人形に出会ったことある?」
そう聞いてくるのは、一番仲が良い友達の葉月ちゃん。
「あ、あるわけないよ……」
わたしは弱々しく返す。だって呪いの人形とか、怖い話が大の苦手なんだもん。
葉月ちゃんが机の上にひろげた学校新聞。
オカルトコーナーに、怪しげが写真が見えた。思わずぱっと目を逸らす。
「学校新聞のオカルトコーナー『呪いの人形』についてだってさぁー!こわーい!」
怖いと言いながらも、どこか楽しそう。
葉月ちゃんは、色素の薄い茶髪のショートボブがよく似合う女の子。
そして、ホラー話が大好きなんだって。
毎週発行される学校新聞の、オカルトコーナーをいつも楽しみにしているみたい。
「もう、わたしが怖い話苦手って知ってるくせに……」
「でも、人形って魂がやどるっていうよね!」
わたしの話なんて聞いてないみたい。そう言って、葉月ちゃんは目を輝かせる。
これは話題を変えないと、話が止まらなくなるパターンだ!
「葉月ちゃん、怖い話はやめようよ……。ねっ!休日はどこに出かけたの?」
ホラー話が好きな葉月ちゃんは、一度話し出すと止まらなくなる。
わたしは怖い話が苦手なので、無理やり話題を変えてみた。
「陽菜は怖がりだもんねー」
「そうだぞ。陽菜は誰よりも怖がりなんだからやめてやれよ!」
わたしの心の声を代わりに言ってくれたのは、その場にいたもう一人の友達。
短髪で日焼けをした男の子、志音くん。
ありがとう。という気持ちを込めて、うんうんと相槌をうつ。
「陽菜は休みの日、どこかでかけた?」
「わたしはね、お父さんと隣町の川で釣りしてきたよ」
「えー。珍しい! おじさんに釣りに誘われてもいつも断ってたじゃん」
志音くんは驚いたように目を丸くした。彼の言う通りでお父さんは釣りが大好き。わたしもなにかと誘われていたけど。釣りに興味がなかったのでいつも断っていたんだ。
「本当は乗り気じゃなかったんだけど、たまにはいいかなって」
「へえ。楽しかった?」
「うん。なんかわたしよりお父さんの方が楽しそうにしてたけどね」
休日はどこに遊びに行ったとか、何して過ごしたとか。そんなことを話す休み明けの月曜日。いつもの光景。いつも通りの一日がはじまるはずだったのだけれど……。
「はあ、」
自然とため息がこぼれた。なんだか朝起きてからずっと体が重いような気がするんだよね……。
寝違えちゃったのかな。って思ってたけど。
なんだか変な感じ。昨日の釣りで動いたからかな。だとすると、筋肉痛ってやつかな?
ストレッチするように肩をぐるりと回した。
「ん? 陽菜どうかした?」
志音くんは心配そうな顔で覗き込む。
「なんか、肩が痛いんだよね。特になにもしてないのに、変なの…」
「釣りで大きく振りかぶったんじゃねーの?」
そう言って、志音くんは釣りをするときのポーズをとってみせた。
「……そうかも」
志音くんの言うとおりかもしれない。釣り竿を川に投げたとき、腕と肩を使ったもん。
そうだよ。きっとそのせいだ。問題が解決して、心のつかえがとれたような気がする。
痛みをほぐそうと、また腕をぐるぐると動かしてみる。すると、少しだけ肩の痛さが軽くなったような気がした。
「なーんだ。ストレッチとかすれば治るかも!」
軽くなったことが嬉しくて、深く考えることをやめていた。
知らなかったんだ。この体の重みの本当の原因を――。
学校の授業が終わるころには、どっと疲れていた。体が全体的に、重いような気もする。
いつもより重い体を引きづって家に帰った。
お父さんは今日帰りが遅いって言ってたし。
まだお母さんも帰ってきていないようで、家の中には誰もいなかった。すると、懐かしいものを発見する。
「あれ、なつかしいー。ましゅちゃんだ」
リビングテーブルに座っていた女の子の人形。それは小さい頃によく遊んでいた人形だった。
世間でよくいわれているお世話人形で、くるっとした大きい目。少し笑っているような口元。
柔らかくウエーブがかったセミロングの髪。
その愛らしさから大人気で、シリーズ化されている人気のおもちゃだった。
「子供の頃、ましゅちゃんとおままごとしたなあ」
マシュマロみたいに、ふわふわ柔らかいほっぺをしてるので「ましゅちゃん」と名前をつけたんだっけ。
ましゅちゃんを抱きかかえると、昔の記憶が頭に思い浮かぶ。
引っ込み思案な性格だったわたしは、幼稚園で友達ができなかったんだ。そんなわたしにお母さんが買ってくれたのが、ましゅちゃんだった。
「あの時の友達は、ましゅちゃんだけだったなあ」
小学生になってもうまく友達を作れなかったわたしは、放課後家に帰るとすぐにましゅちゃんにお話をしていた。
『今日学校でこんなことがあったんだよ』
『先生に注意されちゃった』
まるで友達に話すように、わたしは毎日ましゅちゃんに話かけていた。
「ただいまー」
ましゅちゃんと過ごした日々を懐かしんでいると、お母さんが仕事から帰ってきた。
「あら。その人形、懐かしいわね」
どうやらお母さんも覚えていたようで、すぐに気づく。
「うん。懐かしいよね。お母さんありがとう。出してくれたんでしょ?」
「え? お母さんじゃないわよ?」
不思議そうな顔をして首をかしげた。
え…!てっきりお母さんがましゅちゃんをここに置いたと思っていた。
いったいどうなってるの!?
だって、絶対におかしいんだ。わたしが大きくなるにつれて、ましゅちゃんと過ごす時間は減っていた。そして小学校高学年になるころには、押し入れの中にしまっていたから。
お父さんは仕事でいなかったし。わたしでも、お母さんでもなければ、いったい誰がましゅちゃんをここにおいたんだろう。
ましゅちゃんが、ここにいる理由を探すと、どきりと胸がざわついた。
ゆっくり振りかえって、ましゅちゃんを見つめる。
リビングテーブルの上に座るましゅちゃん。
じっと動かずそこにいるだけ。
動かないましゅちゃんを見て、なんだかほっとする。
ま、まさかね…。ましゅちゃんが自分で出てこれるわけないもん。
人形なんだから。
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