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1年生編:1学期
第14話 美少女転校生
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月曜の朝、教室の窓から差し込む光は、いつもより少しだけやわらかかった。
春の穏やかさと混ざり合い、明るすぎず暗すぎず、机やノートをそっと照らしている。その光は、週末の余韻をほんのりと引きずるかのように、教室全体に柔らかな温もりを与えていた。
だが、晴の胸の内はその穏やかさとは裏腹に、少しざわついていた。
机に置いた手が無意識に動き、ペンの先をくるくる回す。
心は週末の出来事でいっぱいで、どうにも落ち着かない。
(……ライブのこと、まだ夢みたいだ)
つい二日前のこと。
黒瀬紗耶――あの本物のアイドルに、自分の名前を聞かれた。
しかも、笑顔で話しかけ、最後には手を振ってくれたのだ。
そして――
(美羽……あんなこと言うなんて……)
頭の中で、あの瞬間の光景が鮮明に蘇る。
“私の、彼氏だから!”
あれは勢いだったのか、照れ隠しだったのか。それでも、あれほど真剣な表情で言う美羽を目にしたのは初めてだった。
胸の奥が、ふっと熱くなる。
机に突っ伏して頭を抱えたくなる衝動を、なんとかこらえながら、晴は窓の外の青空をぼんやり眺めていた。
「晴、おはよ!」
明るく弾む声が、思考の迷路を断ち切る。
いつもの美羽の声だが、その奥にほんの少しだけ、緊張が混ざっているのがわかった。
晴は振り返り、驚きと安堵が入り混じる心で挨拶を返す。
「お、おはよう」
美羽は自分の席にバッグを置くと、そっと晴の顔を覗き込むようにして視線を合わせた。
「……そのさ、土曜日のことなんだけど」
「うん?」
「わたし、ちょっと強引すぎたかなって……」
細い指が机を軽くトントンと叩く。
視線は揺れ、頬にはうっすらと赤みが差している。
晴の胸はぎゅっと締めつけられ、自然に息をのむ。
「別に、嫌じゃなかったよ」
「ほ、ほんと?」
「うん、逆に嬉しかったというか、何というか......」
美羽は胸に手を当て、ほっとしたように息を吐いた。
その仕草がやけに可愛く見えて、晴は思わず視線を逸らす。
「よかった……。」
「……ありがとな。」
「うん……」
その瞬間、二人の間に小さな沈黙が落ちた。それは決して重苦しい沈黙ではなく、むしろほのかに温かい空気に包まれる、穏やかな時間のようだった。
——そこへ、教室の空気が変化する。
「席つけー! HR始めるぞー!」
担任の声が教室に響き渡る。
ざわついていた教室が、急に通常モードに戻ったように感じられる。
だが、今日だけは、いつもと少し違った空気が流れていた。
担任がプリントを整えながら言う。
「えー、今日はお知らせがある」
ざわっ……と、生徒たちの間に小さな波紋が広がる。
一斉に前を向く視線が、教室全体を一瞬で包む。
晴も、何となく顔を上げた。
「今日から新しい仲間がクラスに加わる。ほら、入ってきて」
その瞬間——教室の空気が一変した。
金髪の柔らかなボブ。透き通るような青い瞳。自然な明るい肌。
土曜のステージより少しだけ大人しげに見えるのに、やはり周囲の視線を集める輝きを放つ美少女。
「初めまして。黒瀬紗耶です。今日から皆さんと一緒に勉強できること、すごく楽しみにしていました。よろしくお願いします」
マイクも照明もない普通の教室なのに、その声はまるでステージで聞いた歌のように澄み渡り、教室全体にやわらかく響いた。
生徒たちは息をのむように静まり返る。
晴は固まった。隣を見ると、美羽も同じように凍りついている。
(……本物が、来た……)
先生が言葉を続ける。
「黒瀬の席は……桐谷の後ろが空いているからそこな」
「えっ……」
美羽の小さな声がこぼれる。
その声は晴にしか聞こえなかったが、十分すぎるほど伝わってきた。
(いやいやいや……マジかよ……!)
紗耶がゆっくり歩く。
歩くたびに、空気が波紋のように広がり、周囲の視線を自然に引き寄せる。
晴の後ろの席に立つと、紗耶は柔らかく微笑んだ。
「……桐谷晴くん、だよね?」
ステージで見たときの煌めきとは違う。歌の力を借りない普通の表情なのに、普通の高校生とは明らかに異なる存在感。
胸が高鳴る。
「あ、ああ」
「土曜日は……ありがとう。また会えるなんて、運命だね♪」
その言葉に、美羽の視線が強く突き刺さる。
(……これから……同じクラスで後ろの席? )
晴の頭の中は処理が追いつかず、ぼんやりとした感覚が広がった。
周囲の生徒たちは興奮と驚きで、まるで時間が止まったかのように見つめている。
紗耶はそんな空気を察したのか、穏やかな微笑みをさらに深めた。
「アイドルのお仕事もあるけど、学校のこともちゃんと頑張りたいの。だからこれからよろしくね、晴くん」
真っ直ぐで、嘘のない言葉だった。その瞬間、美羽がすっと立ち上がる。
緊張で少し顔を赤らめながら、二人の間に入ってきた。
「く、黒瀬さん! わたし、水瀬美羽。晴の……幼なじみで……!」
声は少し震えている。
嫉妬や焦り、心配や戸惑い——その全部が混ざった声。
紗耶は優しく美羽を見つめた。
「よろしくね、水瀬さん。ライブの時、晴くんの隣にいたよね。……晴くんの彼女、なんだよね?」
「っ……!」
美羽の耳まで赤くなる。胸の奥が高鳴る。
(なんでそんな分かりやすく言うんだよ……!)
紗耶は二人の反応を見て、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「……二人とも、とっても仲良さそうだね。」
声は柔らかく、でもどこか遠くを見るような色が一瞬混ざった。
晴も美羽も、その意味を理解することはできなかった。
ただ——
クラスに新しい光が差し込んだ瞬間だった。
春の穏やかさと混ざり合い、明るすぎず暗すぎず、机やノートをそっと照らしている。その光は、週末の余韻をほんのりと引きずるかのように、教室全体に柔らかな温もりを与えていた。
だが、晴の胸の内はその穏やかさとは裏腹に、少しざわついていた。
机に置いた手が無意識に動き、ペンの先をくるくる回す。
心は週末の出来事でいっぱいで、どうにも落ち着かない。
(……ライブのこと、まだ夢みたいだ)
つい二日前のこと。
黒瀬紗耶――あの本物のアイドルに、自分の名前を聞かれた。
しかも、笑顔で話しかけ、最後には手を振ってくれたのだ。
そして――
(美羽……あんなこと言うなんて……)
頭の中で、あの瞬間の光景が鮮明に蘇る。
“私の、彼氏だから!”
あれは勢いだったのか、照れ隠しだったのか。それでも、あれほど真剣な表情で言う美羽を目にしたのは初めてだった。
胸の奥が、ふっと熱くなる。
机に突っ伏して頭を抱えたくなる衝動を、なんとかこらえながら、晴は窓の外の青空をぼんやり眺めていた。
「晴、おはよ!」
明るく弾む声が、思考の迷路を断ち切る。
いつもの美羽の声だが、その奥にほんの少しだけ、緊張が混ざっているのがわかった。
晴は振り返り、驚きと安堵が入り混じる心で挨拶を返す。
「お、おはよう」
美羽は自分の席にバッグを置くと、そっと晴の顔を覗き込むようにして視線を合わせた。
「……そのさ、土曜日のことなんだけど」
「うん?」
「わたし、ちょっと強引すぎたかなって……」
細い指が机を軽くトントンと叩く。
視線は揺れ、頬にはうっすらと赤みが差している。
晴の胸はぎゅっと締めつけられ、自然に息をのむ。
「別に、嫌じゃなかったよ」
「ほ、ほんと?」
「うん、逆に嬉しかったというか、何というか......」
美羽は胸に手を当て、ほっとしたように息を吐いた。
その仕草がやけに可愛く見えて、晴は思わず視線を逸らす。
「よかった……。」
「……ありがとな。」
「うん……」
その瞬間、二人の間に小さな沈黙が落ちた。それは決して重苦しい沈黙ではなく、むしろほのかに温かい空気に包まれる、穏やかな時間のようだった。
——そこへ、教室の空気が変化する。
「席つけー! HR始めるぞー!」
担任の声が教室に響き渡る。
ざわついていた教室が、急に通常モードに戻ったように感じられる。
だが、今日だけは、いつもと少し違った空気が流れていた。
担任がプリントを整えながら言う。
「えー、今日はお知らせがある」
ざわっ……と、生徒たちの間に小さな波紋が広がる。
一斉に前を向く視線が、教室全体を一瞬で包む。
晴も、何となく顔を上げた。
「今日から新しい仲間がクラスに加わる。ほら、入ってきて」
その瞬間——教室の空気が一変した。
金髪の柔らかなボブ。透き通るような青い瞳。自然な明るい肌。
土曜のステージより少しだけ大人しげに見えるのに、やはり周囲の視線を集める輝きを放つ美少女。
「初めまして。黒瀬紗耶です。今日から皆さんと一緒に勉強できること、すごく楽しみにしていました。よろしくお願いします」
マイクも照明もない普通の教室なのに、その声はまるでステージで聞いた歌のように澄み渡り、教室全体にやわらかく響いた。
生徒たちは息をのむように静まり返る。
晴は固まった。隣を見ると、美羽も同じように凍りついている。
(……本物が、来た……)
先生が言葉を続ける。
「黒瀬の席は……桐谷の後ろが空いているからそこな」
「えっ……」
美羽の小さな声がこぼれる。
その声は晴にしか聞こえなかったが、十分すぎるほど伝わってきた。
(いやいやいや……マジかよ……!)
紗耶がゆっくり歩く。
歩くたびに、空気が波紋のように広がり、周囲の視線を自然に引き寄せる。
晴の後ろの席に立つと、紗耶は柔らかく微笑んだ。
「……桐谷晴くん、だよね?」
ステージで見たときの煌めきとは違う。歌の力を借りない普通の表情なのに、普通の高校生とは明らかに異なる存在感。
胸が高鳴る。
「あ、ああ」
「土曜日は……ありがとう。また会えるなんて、運命だね♪」
その言葉に、美羽の視線が強く突き刺さる。
(……これから……同じクラスで後ろの席? )
晴の頭の中は処理が追いつかず、ぼんやりとした感覚が広がった。
周囲の生徒たちは興奮と驚きで、まるで時間が止まったかのように見つめている。
紗耶はそんな空気を察したのか、穏やかな微笑みをさらに深めた。
「アイドルのお仕事もあるけど、学校のこともちゃんと頑張りたいの。だからこれからよろしくね、晴くん」
真っ直ぐで、嘘のない言葉だった。その瞬間、美羽がすっと立ち上がる。
緊張で少し顔を赤らめながら、二人の間に入ってきた。
「く、黒瀬さん! わたし、水瀬美羽。晴の……幼なじみで……!」
声は少し震えている。
嫉妬や焦り、心配や戸惑い——その全部が混ざった声。
紗耶は優しく美羽を見つめた。
「よろしくね、水瀬さん。ライブの時、晴くんの隣にいたよね。……晴くんの彼女、なんだよね?」
「っ……!」
美羽の耳まで赤くなる。胸の奥が高鳴る。
(なんでそんな分かりやすく言うんだよ……!)
紗耶は二人の反応を見て、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「……二人とも、とっても仲良さそうだね。」
声は柔らかく、でもどこか遠くを見るような色が一瞬混ざった。
晴も美羽も、その意味を理解することはできなかった。
ただ——
クラスに新しい光が差し込んだ瞬間だった。
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