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第六章 お金のための関係 (蒼side)
34.叔父さんのこと
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実は僕は年宏叔父さんのことをよく知らない。
母の弟であることは確かなんだけど、両親が生きている当時も家に遊びに来るなんてことは一度もなくて、ずっと疎遠な人だった。
両親の葬儀に来たときも一人で来たから独身っぽいけど、何の仕事をしているのかもわからない。
あるとき、僕が大学の帰りに友達と歩いていると、平日の昼間だというのに叔父さんがふらっとパチンコ屋から出てくるのを見たことがあった。
「あ、叔父さんだ」
僕がそう言うと一緒にいた友達が眉をひそめた。
「叔父さんって……、お前の両親がした借金を返せって言ってる叔父さんのか?」
「うん、そうだよ。就職したら月5万円ずつ返す約束なんだ」
はーっ、と言いながら友達は頭を抱えた。
「……おいおい、大丈夫かよ」
大丈夫って何が? と僕はポカンとしていた。
「……しっかりしろよ、チンピラみたいな人じゃん。まともなサラリーマンだったお前の両親があの人から金を借りると思うか? あの人何の仕事してるんだよ?」
「さあ? でも母さんの弟だし、身内同士でお金を貸し借りすることもあるんじゃないかな?」
「うーん、どうだろう……。返済する前に、ちゃんと借用書見せてもらえよ」
友達に言われて僕は叔父さんに借用書が見たいとお願いしてみたが、
「そんなもん、あるわけないだろ」
と一蹴された。借金の証拠になるようなものは何一つないと言ったのだ。
「それなら返済しなくていいんじゃないか」
アルバイト先の先輩からもそうアドバイスされた。
でも僕は突然交通事故で両親を失ってひどく心細かったから、唯一の肉親である叔父さんとの繋がりを絶ちたくなかったのだ。
きっと悪い人じゃない。その証拠に僕が借金を返済すると言ったら代々の墓に両親の遺骨を納めてくれたのだから。
500万円だと思っていた借金が実は1000万円だった。そう言われたときはショックだったけど、学生の僕に1000万円返せと言わずに500万円と言っていたのは実は叔父さんの優しさなのかもしれない……。
叔父さんはきっといい人なんだ。
そう思って自分を納得させようとしているが、暗い道の側溝のふたにつまずきそうになって、はっと現実に引き戻された。
心の奥底じゃ僕だってみんなが言う通り叔父さんに騙されている、カモにされているってわかっている。僕がかつて両親と暮らしていた家に着いても中に入れてもらえない。でも僕にはそこ以外に行く当てなんてないんだ。
僕は実家を目指して歩いている間に夜が明けてくれることを願っていた。あのアパートでまた誰か来るんじゃないかってビクビクしながら朝を待つよりマシだったから。
歩いているうちに空気が冷え込んできて体がぶるっと震えた。
優しい両親が生きていたらなぁ……。
そう思うと、自分の境遇があまりにみじめで滑稽で、涙が溢れてきた。泣いたって仕方ないってわかっているのに。
車道を通る一台の車が減速して、ウィーンと窓が開いた。
何事だろう、と僕は身を強張らせた。さっきアパートに侵入してきた人たちが僕を生かしておけないと追いかけてきたのかも、と想像してゾッとした。
母の弟であることは確かなんだけど、両親が生きている当時も家に遊びに来るなんてことは一度もなくて、ずっと疎遠な人だった。
両親の葬儀に来たときも一人で来たから独身っぽいけど、何の仕事をしているのかもわからない。
あるとき、僕が大学の帰りに友達と歩いていると、平日の昼間だというのに叔父さんがふらっとパチンコ屋から出てくるのを見たことがあった。
「あ、叔父さんだ」
僕がそう言うと一緒にいた友達が眉をひそめた。
「叔父さんって……、お前の両親がした借金を返せって言ってる叔父さんのか?」
「うん、そうだよ。就職したら月5万円ずつ返す約束なんだ」
はーっ、と言いながら友達は頭を抱えた。
「……おいおい、大丈夫かよ」
大丈夫って何が? と僕はポカンとしていた。
「……しっかりしろよ、チンピラみたいな人じゃん。まともなサラリーマンだったお前の両親があの人から金を借りると思うか? あの人何の仕事してるんだよ?」
「さあ? でも母さんの弟だし、身内同士でお金を貸し借りすることもあるんじゃないかな?」
「うーん、どうだろう……。返済する前に、ちゃんと借用書見せてもらえよ」
友達に言われて僕は叔父さんに借用書が見たいとお願いしてみたが、
「そんなもん、あるわけないだろ」
と一蹴された。借金の証拠になるようなものは何一つないと言ったのだ。
「それなら返済しなくていいんじゃないか」
アルバイト先の先輩からもそうアドバイスされた。
でも僕は突然交通事故で両親を失ってひどく心細かったから、唯一の肉親である叔父さんとの繋がりを絶ちたくなかったのだ。
きっと悪い人じゃない。その証拠に僕が借金を返済すると言ったら代々の墓に両親の遺骨を納めてくれたのだから。
500万円だと思っていた借金が実は1000万円だった。そう言われたときはショックだったけど、学生の僕に1000万円返せと言わずに500万円と言っていたのは実は叔父さんの優しさなのかもしれない……。
叔父さんはきっといい人なんだ。
そう思って自分を納得させようとしているが、暗い道の側溝のふたにつまずきそうになって、はっと現実に引き戻された。
心の奥底じゃ僕だってみんなが言う通り叔父さんに騙されている、カモにされているってわかっている。僕がかつて両親と暮らしていた家に着いても中に入れてもらえない。でも僕にはそこ以外に行く当てなんてないんだ。
僕は実家を目指して歩いている間に夜が明けてくれることを願っていた。あのアパートでまた誰か来るんじゃないかってビクビクしながら朝を待つよりマシだったから。
歩いているうちに空気が冷え込んできて体がぶるっと震えた。
優しい両親が生きていたらなぁ……。
そう思うと、自分の境遇があまりにみじめで滑稽で、涙が溢れてきた。泣いたって仕方ないってわかっているのに。
車道を通る一台の車が減速して、ウィーンと窓が開いた。
何事だろう、と僕は身を強張らせた。さっきアパートに侵入してきた人たちが僕を生かしておけないと追いかけてきたのかも、と想像してゾッとした。
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