12 / 102
第一章 異世界の住人はとても個性的でした。
横暴な王子
しおりを挟む
その後、異世界から来て、あっという間にこの場所に馴染んだ暖の後ろ姿を、ウルフィアは見送る。
「不思議な娘だ」
年老いた女騎士は、しみじみとそうつぶやく。
彼女が来てから、この村は”奇跡”続きだ。
年老いて現実と記憶の区別がつかなくなり、石のように眠ったままだった竜が、暖が世話をするようになってから起きて話をするようになった。
誰が何と話しかけても無表情で、死ばかりを渇望していたエルフがあれほど感情を表し泣く姿だって、暖が来る前は誰も見た事は無い。
気難しいディアナが一緒に暮らし、人嫌いの王子が文句を言いつつ言葉を教える少女。
何より、騎士であり無防備に他人に体を触らせる事など、例え治療のためでも厭っていた自分がマッサージをさせるなど――――
ウルフィアの昔を知る者ならば誰も信じはしないだろう。
「ウララのマッサージは、温泉のようだ」
異世界から呼び寄せた温泉。
暖が現れた騒動の後、あらためてゆっくり入ったお湯は、とても気持ちの良いものだった。
体がポカポカと温まり、心まで温かくなる。
そんな温泉と一緒に来た娘。
彼女自身も温泉のように人の心を温める存在なのかもしれない。
女騎士は、最近前より痛みの軽くなった腰を伸ばし、暖の去った方を見つめる。
ウルフィアの顔には、知らず笑みが浮かんでいた。
◇◇◇
「見て、見て、見て! これ、リオール特製、森の木の実のクッキーよ!」
「うるさい。こちらの言葉で話せ!」
大喜びで白い袋の中のクッキーを見せる暖に、にべもない反応をするアルディア。
「ウ~ッ …… リオール、クッキー焼イテクレタ。美味シイ!」
プーッと頬を膨らませながらも、たどたどしく暖は話した。
リオールの自殺未遂騒ぎから数日後、暖に心配をかけたからと、エルフの青年(ただし見た目だけ)は、木の実入りのクッキーを焼いてくれたのだ。
実に百年くらいぶりに料理を作ったのだそうで、その事実だけでもとても嬉しい暖だ。
この喜びを分かちあいたいと、急いでアルディアの元に駆けつけたのだが――――
(こっちの言葉じゃ、この感動の半分も伝えきれないのに! ……アルディアのケチ!)
暖は心の中で、あっかんべーと舌を出す。
「それでいい。ただでさえお前はうるさいんだ。言葉に不自由なくらいが丁度いい」
綺麗な王子さまは、済ました顔でそう言った。
暖は、危うくクッキーを握り潰しそうになる。
そんな暖にはお構い無しに、アルディアはクッキーの袋へと手を伸ばした。
暖は、慌てて袋を遠ざける。
「何だ? あの程度の言葉で怒って、私にクッキーを食べさせないつもりか?」
アルディアの眉が不機嫌そうに上げられる。
「違ウ! アルディア ”あれるぎー” ナイカ?」
暖はそう聞いた。
喘息の人にはアレルギーのある人が多い。
森の木の実で作られたというこのクッキーを食べさせる前にアレルギーの有無を確かめるのは常識だろう。そうでなくともクッキーにはアレルギーの特定原材料が多く含まれている。
「アレルギー?」
なのにアルディアは不思議そうに首を傾げる。
(え? ひょっとして、この世界にはアレルギーの知識が無いの?)
暖は途方にくれた。
そう言えば日本だって食物アレルギーを普通に認識したのは、それほど昔ではないと聞いたことがある。
「アルディア、何カ食ベテ具合悪クナッタ、ナイカ?」
「何だ? 毒殺の心配か?」
物騒な言葉に暖は慌てて首を横に振った。
「違ウ! 卵、ミルク、…… アルディア、オ腹、平気?」
アルディアが、目を見開いた。
「何故、私がミルクで具合が悪くなることを知っている?」
実はミルクを飲む度に湿疹ができたり頭痛がするアルディアだった。
喘息の発作もそういった時に多いような気がする。
「ヤッパリ! ソレ、あれるぎー!」
ポンと手を打った暖は、片言でアレルギーの説明をはじめた。
「エット、あれるぎーッテイウノハ、免疫反応ガ …… ア、免疫ッテ、ドウ言ウノ?」
しどろもどろに話す暖。
「ええい! 普通に話せ!」
――――やっぱり横暴な王子様だった。
アレルギーについて知っている事を話す暖。
「しかし、他の者は皆平気で食べたり飲んだりしているだろう?」
「だからアレルギーの原因自体は有毒じゃ無いんです。それに対して過剰な反応をする人と平気な人がいるだけで……」
医師でもない暖の説明が通じたかどうかは怪しいが、それでも最後にアルディアは頷いた。
「よくは分からないが、お前の話には頷ける点が多い」
病に苦しむアルディアは、疑うよりも信じたいと思ったようだ。
「大丈夫よ。私の妹も喘息だったけれど気をつけていれば普通に暮らせていたもの。アルディアもきっと良くなるわ」
もちろんそんなに簡単な事ではないだろうが、暖は笑ってそう言った。
喘息発作は苦しい。
妹を見ていた暖は、その苦しさが他の人よりわかるつもりだ。
できることなら代わってやりたいと、何度も思った。
「気をつけて頑張ろう。少しでも発作が、おさまるといいよね」
優しく言葉をかける暖。
なのに――――
「……こちらの言葉で喋ろ」
少し頬を赤くしたアルディアは、ブスッとしてそう言った。
やっぱり横暴な王子さまだった。
「不思議な娘だ」
年老いた女騎士は、しみじみとそうつぶやく。
彼女が来てから、この村は”奇跡”続きだ。
年老いて現実と記憶の区別がつかなくなり、石のように眠ったままだった竜が、暖が世話をするようになってから起きて話をするようになった。
誰が何と話しかけても無表情で、死ばかりを渇望していたエルフがあれほど感情を表し泣く姿だって、暖が来る前は誰も見た事は無い。
気難しいディアナが一緒に暮らし、人嫌いの王子が文句を言いつつ言葉を教える少女。
何より、騎士であり無防備に他人に体を触らせる事など、例え治療のためでも厭っていた自分がマッサージをさせるなど――――
ウルフィアの昔を知る者ならば誰も信じはしないだろう。
「ウララのマッサージは、温泉のようだ」
異世界から呼び寄せた温泉。
暖が現れた騒動の後、あらためてゆっくり入ったお湯は、とても気持ちの良いものだった。
体がポカポカと温まり、心まで温かくなる。
そんな温泉と一緒に来た娘。
彼女自身も温泉のように人の心を温める存在なのかもしれない。
女騎士は、最近前より痛みの軽くなった腰を伸ばし、暖の去った方を見つめる。
ウルフィアの顔には、知らず笑みが浮かんでいた。
◇◇◇
「見て、見て、見て! これ、リオール特製、森の木の実のクッキーよ!」
「うるさい。こちらの言葉で話せ!」
大喜びで白い袋の中のクッキーを見せる暖に、にべもない反応をするアルディア。
「ウ~ッ …… リオール、クッキー焼イテクレタ。美味シイ!」
プーッと頬を膨らませながらも、たどたどしく暖は話した。
リオールの自殺未遂騒ぎから数日後、暖に心配をかけたからと、エルフの青年(ただし見た目だけ)は、木の実入りのクッキーを焼いてくれたのだ。
実に百年くらいぶりに料理を作ったのだそうで、その事実だけでもとても嬉しい暖だ。
この喜びを分かちあいたいと、急いでアルディアの元に駆けつけたのだが――――
(こっちの言葉じゃ、この感動の半分も伝えきれないのに! ……アルディアのケチ!)
暖は心の中で、あっかんべーと舌を出す。
「それでいい。ただでさえお前はうるさいんだ。言葉に不自由なくらいが丁度いい」
綺麗な王子さまは、済ました顔でそう言った。
暖は、危うくクッキーを握り潰しそうになる。
そんな暖にはお構い無しに、アルディアはクッキーの袋へと手を伸ばした。
暖は、慌てて袋を遠ざける。
「何だ? あの程度の言葉で怒って、私にクッキーを食べさせないつもりか?」
アルディアの眉が不機嫌そうに上げられる。
「違ウ! アルディア ”あれるぎー” ナイカ?」
暖はそう聞いた。
喘息の人にはアレルギーのある人が多い。
森の木の実で作られたというこのクッキーを食べさせる前にアレルギーの有無を確かめるのは常識だろう。そうでなくともクッキーにはアレルギーの特定原材料が多く含まれている。
「アレルギー?」
なのにアルディアは不思議そうに首を傾げる。
(え? ひょっとして、この世界にはアレルギーの知識が無いの?)
暖は途方にくれた。
そう言えば日本だって食物アレルギーを普通に認識したのは、それほど昔ではないと聞いたことがある。
「アルディア、何カ食ベテ具合悪クナッタ、ナイカ?」
「何だ? 毒殺の心配か?」
物騒な言葉に暖は慌てて首を横に振った。
「違ウ! 卵、ミルク、…… アルディア、オ腹、平気?」
アルディアが、目を見開いた。
「何故、私がミルクで具合が悪くなることを知っている?」
実はミルクを飲む度に湿疹ができたり頭痛がするアルディアだった。
喘息の発作もそういった時に多いような気がする。
「ヤッパリ! ソレ、あれるぎー!」
ポンと手を打った暖は、片言でアレルギーの説明をはじめた。
「エット、あれるぎーッテイウノハ、免疫反応ガ …… ア、免疫ッテ、ドウ言ウノ?」
しどろもどろに話す暖。
「ええい! 普通に話せ!」
――――やっぱり横暴な王子様だった。
アレルギーについて知っている事を話す暖。
「しかし、他の者は皆平気で食べたり飲んだりしているだろう?」
「だからアレルギーの原因自体は有毒じゃ無いんです。それに対して過剰な反応をする人と平気な人がいるだけで……」
医師でもない暖の説明が通じたかどうかは怪しいが、それでも最後にアルディアは頷いた。
「よくは分からないが、お前の話には頷ける点が多い」
病に苦しむアルディアは、疑うよりも信じたいと思ったようだ。
「大丈夫よ。私の妹も喘息だったけれど気をつけていれば普通に暮らせていたもの。アルディアもきっと良くなるわ」
もちろんそんなに簡単な事ではないだろうが、暖は笑ってそう言った。
喘息発作は苦しい。
妹を見ていた暖は、その苦しさが他の人よりわかるつもりだ。
できることなら代わってやりたいと、何度も思った。
「気をつけて頑張ろう。少しでも発作が、おさまるといいよね」
優しく言葉をかける暖。
なのに――――
「……こちらの言葉で喋ろ」
少し頬を赤くしたアルディアは、ブスッとしてそう言った。
やっぱり横暴な王子さまだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる