57 / 102
第三章 魔族にもいろいろあるようです。
暴言許すまじ!
しおりを挟む
「あれ? 急にどうしたんだ?」
殴り飛ばされ追突した壁に背を預けながら、ブラットが驚き顔を上げる。
ダンケルの顔から血の気が引いた。
「うわっ! ウララ、ショックを受けるな! お前の感情が落ち込むと“奴ら”が攻撃的になるだろう!」
暖の側に駆けより、顔を覗き込む。
女性ではなく食料として魅力があると言われたのがよほどショックだったのか、呆然としている暖から返事はない。
――――暖は竜玉の持ち主だった。
体の中の玉を通じ、彼女の状態はそのまま契約者である竜にストレートに伝わるだろう。
つまり、原因はわからずとも暖がショックを受け落ち込んでいることは、ギオルに伝わるということなのだ。
ギオルは、『落ちたる竜王』である。
しかも、ギオルの側には、『エルフの失われた王』たるリオールもいるのだ。
竜王やエルフの王は世界でも屈指の高位の存在で、彼らはその心の動きだけで世界に影響を与えると言われている存在だ。
落ちたり失われたりしたままであれば、影響を与えるほどの力はなかったのだろうが、そんな彼らを暖は癒してしまった。
往年の力を取り戻した“王”たちが魔界に悪意を抱けば、……影響が出るに決まっている。
ダンケルは、チッと舌打ちした。
(それにそうだ! あの吸血鬼。あの女は『神を堕落させた吸血姫』じゃなかったか?)
それは、はるか昔のおとぎ話だ。
歴代の吸血鬼の女王の中でもずば抜けて美しく賢い女王が、彼女を成敗しようと攻め入った神々の一柱を魅了し神の座を捨てさせた話。
(……ってことは、あの女の伴侶は、堕ちたとはいえ神のはず!)
神の妻の不興をかった世界が、無事でいられるだろうか?
(どうしてウララの周囲にはとんでもない者ばかりいるんだ!?)
ダンケルはブルリと身震いする。
稲妻が空を走り、雷鳴が魔王城をビリビリと震わせた。
この天候の急変は、暖を守ろうとする彼らの怒りを伝えているのかもしれない。
(なんとかしないと、このままでは魔界に何らかの犠牲が出る可能性もあるぞ…………それに)
何よりショックを受けている暖をなんとかしてやりたいと、ダンケルは強く思った。
「ウ、ウララ! お前は……その、か、可愛いぞ!」
口ごもりつつダンケルは叫んだ。
頭に巻角を生やしたイケメン魔族が、真っ赤になって怒鳴る。
「ウララ、お前は魔界の歪んだ美の基準なんか気にすることはない! えっと……その、お前は、充分愛嬌があるし、美人とは言えなくとも、魅力がないわけではない。……あ、あぁ、少なくとも、俺は、お前を、……こ、好ましい! と、……そう思う」
それは、しどろもどろの言葉だった。
「好ましい」と叫んだあたりであからさまに目を泳がせ狼狽えはしたが、見ようによっては可愛いと言って言えなくもない様態である。
ある意味、もの凄く萌えるシチュなのだが――――
「ダンケル、趣味、悪インデショ……」
ブラット曰く、ダンケルの女の趣味の悪さは有名なのだそうだ。
そんな噂のダンケルの言葉では、あんまり慰めにはならない。
「俺の趣味は魔界以外なら普通だぞ! チクショウ! だったらどう言えばいいって言うんだ!?」
暖に、そう言われたダンケルは髪の毛をかきむしった。
俺様魔族の動揺する姿に……暖は、たまらずプッと笑いだす。
「は?」
「ゴメン、ダンケル。私、怒ルナイヨ。……ダンケル、可愛イ、言ッテクレテ、嬉シイ」
もしも魔界の基準で暖が美人だったのなら、人間世界では病人クラスの痩せ過ぎだろう。
(栄養失調なんてもんじゃないかもしれないわよね?)
それくらいなら、子豚でも仕方ないと暖は思う。
怒って見せたのは、太っていると言われたことへのちょっとした意趣返しだった。
「……早く言ってくれ。とりあえず良かった」
乱れた髪のまま、ダンケルはドッと体の力を抜く。
安堵したようにソファーに座り込む様子に、暖はクスリと笑った。
――――そう。暖はダンケルには怒っていない。
(……でも「親豚」発言を許すかどうかは、別問題よね?)
そう思った暖は、チラリとダンケルの隣に立つブラットに目をやった。
ともかく軽い印象のダンケルの弟は、疲れ切ったダンケルを同情するでもなく面白そうに見ている。
暖は、おもむろにブラットの前へと移動した。
「なんだ?」
少しは警戒感を持ったのだろう、ちょっと引き気味に見てくる魔族の前で袖を捲り二の腕をさらけ出す。
ギオルのウロコ磨きで鍛えてはいるが、暖の腕は白くまろやかだ。
その腕を、ズイッとブラットの目の前に差し出してやった。
「うっ」
ゴクリと、ブラットの喉が鳴る。
(スゴイ。本当に“食べ物”だと思っているのね)
今にも涎を垂らしそうなブラットに、暖は呆れた。
「おいっ! 止めろ」
慌ててダンケルが立ち上がる。
制止の言葉もむなしく、暖の腕を(食べたい!)と、思ってしまったのか、次の瞬間ブラットは酷く呻いて苦しみだした。
「グッ!!……うわぁぁ~! いっ、痛い!」
頭をおさえ、ブラットはその場でのたうち回る。
つい先ほども、同じように苦しんだはずなのに、本当に懲りない男だった。
暖は、面白がってブラットをちょんとつつく。
ブラットは、ますます苦しんだ。
「……ち、力が抜けていく」
どうやらラミアーの呪いは、相手が暖に触れるだけでなく暖から触れても有効らしい。
床に倒れたブラットは、ぐったりとしてそのうちピクピクと痙攣しはじめた。
「人ヲ、豚、言ウカラヨ」
ざまあみろと暖は思う。
「いや、確かにそいつの自業自得だが……」
苦しむ弟と満面の笑みを浮かべる暖を、ダンケルは複雑な表情で見比べる。
「あまり、お前には逆らわないようにしよう」
ポツリとダンケルは、そんなことを呟いた。
殴り飛ばされ追突した壁に背を預けながら、ブラットが驚き顔を上げる。
ダンケルの顔から血の気が引いた。
「うわっ! ウララ、ショックを受けるな! お前の感情が落ち込むと“奴ら”が攻撃的になるだろう!」
暖の側に駆けより、顔を覗き込む。
女性ではなく食料として魅力があると言われたのがよほどショックだったのか、呆然としている暖から返事はない。
――――暖は竜玉の持ち主だった。
体の中の玉を通じ、彼女の状態はそのまま契約者である竜にストレートに伝わるだろう。
つまり、原因はわからずとも暖がショックを受け落ち込んでいることは、ギオルに伝わるということなのだ。
ギオルは、『落ちたる竜王』である。
しかも、ギオルの側には、『エルフの失われた王』たるリオールもいるのだ。
竜王やエルフの王は世界でも屈指の高位の存在で、彼らはその心の動きだけで世界に影響を与えると言われている存在だ。
落ちたり失われたりしたままであれば、影響を与えるほどの力はなかったのだろうが、そんな彼らを暖は癒してしまった。
往年の力を取り戻した“王”たちが魔界に悪意を抱けば、……影響が出るに決まっている。
ダンケルは、チッと舌打ちした。
(それにそうだ! あの吸血鬼。あの女は『神を堕落させた吸血姫』じゃなかったか?)
それは、はるか昔のおとぎ話だ。
歴代の吸血鬼の女王の中でもずば抜けて美しく賢い女王が、彼女を成敗しようと攻め入った神々の一柱を魅了し神の座を捨てさせた話。
(……ってことは、あの女の伴侶は、堕ちたとはいえ神のはず!)
神の妻の不興をかった世界が、無事でいられるだろうか?
(どうしてウララの周囲にはとんでもない者ばかりいるんだ!?)
ダンケルはブルリと身震いする。
稲妻が空を走り、雷鳴が魔王城をビリビリと震わせた。
この天候の急変は、暖を守ろうとする彼らの怒りを伝えているのかもしれない。
(なんとかしないと、このままでは魔界に何らかの犠牲が出る可能性もあるぞ…………それに)
何よりショックを受けている暖をなんとかしてやりたいと、ダンケルは強く思った。
「ウ、ウララ! お前は……その、か、可愛いぞ!」
口ごもりつつダンケルは叫んだ。
頭に巻角を生やしたイケメン魔族が、真っ赤になって怒鳴る。
「ウララ、お前は魔界の歪んだ美の基準なんか気にすることはない! えっと……その、お前は、充分愛嬌があるし、美人とは言えなくとも、魅力がないわけではない。……あ、あぁ、少なくとも、俺は、お前を、……こ、好ましい! と、……そう思う」
それは、しどろもどろの言葉だった。
「好ましい」と叫んだあたりであからさまに目を泳がせ狼狽えはしたが、見ようによっては可愛いと言って言えなくもない様態である。
ある意味、もの凄く萌えるシチュなのだが――――
「ダンケル、趣味、悪インデショ……」
ブラット曰く、ダンケルの女の趣味の悪さは有名なのだそうだ。
そんな噂のダンケルの言葉では、あんまり慰めにはならない。
「俺の趣味は魔界以外なら普通だぞ! チクショウ! だったらどう言えばいいって言うんだ!?」
暖に、そう言われたダンケルは髪の毛をかきむしった。
俺様魔族の動揺する姿に……暖は、たまらずプッと笑いだす。
「は?」
「ゴメン、ダンケル。私、怒ルナイヨ。……ダンケル、可愛イ、言ッテクレテ、嬉シイ」
もしも魔界の基準で暖が美人だったのなら、人間世界では病人クラスの痩せ過ぎだろう。
(栄養失調なんてもんじゃないかもしれないわよね?)
それくらいなら、子豚でも仕方ないと暖は思う。
怒って見せたのは、太っていると言われたことへのちょっとした意趣返しだった。
「……早く言ってくれ。とりあえず良かった」
乱れた髪のまま、ダンケルはドッと体の力を抜く。
安堵したようにソファーに座り込む様子に、暖はクスリと笑った。
――――そう。暖はダンケルには怒っていない。
(……でも「親豚」発言を許すかどうかは、別問題よね?)
そう思った暖は、チラリとダンケルの隣に立つブラットに目をやった。
ともかく軽い印象のダンケルの弟は、疲れ切ったダンケルを同情するでもなく面白そうに見ている。
暖は、おもむろにブラットの前へと移動した。
「なんだ?」
少しは警戒感を持ったのだろう、ちょっと引き気味に見てくる魔族の前で袖を捲り二の腕をさらけ出す。
ギオルのウロコ磨きで鍛えてはいるが、暖の腕は白くまろやかだ。
その腕を、ズイッとブラットの目の前に差し出してやった。
「うっ」
ゴクリと、ブラットの喉が鳴る。
(スゴイ。本当に“食べ物”だと思っているのね)
今にも涎を垂らしそうなブラットに、暖は呆れた。
「おいっ! 止めろ」
慌ててダンケルが立ち上がる。
制止の言葉もむなしく、暖の腕を(食べたい!)と、思ってしまったのか、次の瞬間ブラットは酷く呻いて苦しみだした。
「グッ!!……うわぁぁ~! いっ、痛い!」
頭をおさえ、ブラットはその場でのたうち回る。
つい先ほども、同じように苦しんだはずなのに、本当に懲りない男だった。
暖は、面白がってブラットをちょんとつつく。
ブラットは、ますます苦しんだ。
「……ち、力が抜けていく」
どうやらラミアーの呪いは、相手が暖に触れるだけでなく暖から触れても有効らしい。
床に倒れたブラットは、ぐったりとしてそのうちピクピクと痙攣しはじめた。
「人ヲ、豚、言ウカラヨ」
ざまあみろと暖は思う。
「いや、確かにそいつの自業自得だが……」
苦しむ弟と満面の笑みを浮かべる暖を、ダンケルは複雑な表情で見比べる。
「あまり、お前には逆らわないようにしよう」
ポツリとダンケルは、そんなことを呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる