まだまだこれからだ!

九重

文字の大きさ
56 / 102
第三章 魔族にもいろいろあるようです。

魔界の美の基準

しおりを挟む
 しかし「子豚ちゃん」と呼ばれては、流石にうららも聞き捨てならない。


「私、ソンナ太ッテナイ!」


 ムッとして抗議した。

 しかし――――


「へっ? いやいや、充分だろう? むしろと言わなかっただけ、俺は気遣いしたよね? 感謝して欲しいくらいだけど」


 ブラットは、当然のような顔をしてそう言った。
 あまりの言葉に、暖は驚く。

(いくらなんでも、ヒドイわ!)

 うら若き女性に対して、子豚ならともかく親豚などと言ってよいはずがない!
 ギロッ! と、睨みつけるのだが、ブラットは少しも堪えずヘラヘラと笑っていた。

 これはダメだと思い、今度はダンケルを睨みつける。
 弟の非礼は兄の責任だろう。
 例えものすごく仲の悪そうな殺し合いをするような兄弟だって、責任は責任だ!

 そう思うのに、背の高いイケメン魔族はあからさまに視線を反らした。


「ダンケル?」

「あ、あぁ、その……」

 珍しく口ごもり下を向く。
 やがて大きく息を吐き出すと、ダンケルは小さな声で話し出した。


「……実は、魔族の女はとても細いんだ。お前は、魔族の基準から見たら、その……充分、ふ……太っている……方だ」




「………………ハ!?」

 一瞬、何を言われているのかわからなくて呆けてしまう。
 そして次の瞬間、ガァ~ン! と、ショックを受けて暖は固まった。
 「太っている」なんて言われたのは、人生初のことである。
 あらためて自分の体を暖は見回す。
 痩せてはいないが決して太っている方ではないと思う。

(そうよ! あの失礼が服を着て歩いているようなにだって、私は太っているなんて言われたことがないのよ!)

 暖の可愛い妹と結婚した義弟は、妹に対してだけは別人かと思うほど優しいくせに、それ以外の人間には失礼極まりないほど傍若無人な男である。
 特に暖には、妹がシスコン気味なこともあってか、慇懃無礼を通り越して明確な敵意を持って接していた。

(あれで私より年上なんだから、始末におえなかったわ)

 が可愛い妹の夫でなかったら、暖は決してお近づきにならなかっただろう。
 思い出しただけでムッとする腹立たしい義弟。
 しかし、そんな男にだって暖は容姿の件であれこれ言われたことはない。
 ウエストの細さだけなら、美女のラミアーにだって負けない自信があった。

(他のサイズはダメだけど……)

 ポン! キュッ! ポン! なラミアーを思い出し落ち込みそうになった暖だが、今はそんな場合じゃないと気を取り直し、思いっきりダンケルを睨む。

 ダンケルの顔色はサッと青くなった。


「よ、よせ! 気を損ねるな! お前が不機嫌になったりしたら、魔界が滅ぶだろう」


 叫びながら、必死に言い訳をはじめた。
 ダンケル曰く――――

 魔界の男性の優劣は、強さを絶対的な基準としていること。
 強い男のステータスとして、いかに番の女性に何一つ苦労をさせず守れるかを求められること。
 番が弱く何もできない女性であればあるほど、男性には強さ――――力、地位、金、権力――――があるという証明になる。
 このため女性は、かよわくなよやかで“儚い”方が好まれていた。
 一人では何もできないほどに弱く外見は痩身であることが好まれ、手も足も折れるほど細いことが良く、腰などは細ければ細いほど美しいと言われる。


「昔は、それほどでもなかったんだがな。……現魔王の正妃が、とてつもなく細く“儚い”方だったことから、細い=美しいに拍車がかかったんだ」


 頭を抱えながらダンケルは深いため息をつく。
 暖は、びっくりして目を見開いた。

(そんな男の都合で女性の美しさが決まってしまうの?)

 理不尽だとは思うが、美の基準が場所によって違うのはよくあることだ。
 同じ場所でも時代が違えば美の基準も違う。
 日本の平安時代の美人は、しもぶくれの細目、おちょぼ口だと聞いたこともある。
 魔界の美の基準が他のものと違うのは、考えてみれば当たり前のことかもしれなかった。


(ひょっとして、私ってここでは女性として扱ってもらえないくらいの容姿なの?)


 考え込んで動かなくなってしまった暖を見て、ダンケルは慌てた。

「あ! だが、俺の母は妃の中でも例外で、さほど細い方ではなかった。人間世界に近い辺境の出で、俺は幼い頃は母方の領地で育ったんだ。そこではそんなに細い女がいいと思われていなくって……だから! 俺は、俺自身は、お前を太っているとは思わないぞ!」

 大声で叫ぶ。
 確かに、ダンケルの暖への態度は最初から普通だった。
 そこに容姿に対する否定的な感情を感じたことはない。
 要は、ダンケルの母の故郷が田舎で魔界では流行遅れだったのだろう。


「ダンケルの女の趣味の悪さは有名だもんな」

 案の定、ブラットはニヤニヤ笑ってそう言った。

「まぁでも、俺もポヨポヨとした子はキライじゃないよ。――――女性っていうより食べる対象としてだけどね」

 ヒドイセリフを吐きながらケタケタと笑う。

「黙れ! このバカ!」

 ダンケルは勢いよくブラットを殴り飛ばした。





「趣味、悪イ……」

 そんな兄弟げんかも目に入らぬようで、ポツリと呟いた暖は、唇を噛んで下を向く。
 ドヨドヨとした空気が涌き出てくるかのような落ち込みようだった。




 その時、窓の外に見える空が一転にわかにかき曇り、稲光が走る。

 次の瞬間、ドドォ~ン!! と、どこかに雷が落ちた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...