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第三章 魔族にもいろいろあるようです。
魔界の美の基準
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しかし「子豚ちゃん」と呼ばれては、流石に暖も聞き捨てならない。
「私、ソンナ太ッテナイ!」
ムッとして抗議した。
しかし――――
「へっ? いやいや、充分子豚ちゃんだろう? むしろ親豚と言わなかっただけ、俺は気遣いしたよね? 感謝して欲しいくらいだけど」
ブラットは、当然のような顔をしてそう言った。
あまりの言葉に、暖は驚く。
(いくらなんでも、ヒドイわ!)
うら若き女性に対して、子豚ならともかく親豚などと言ってよいはずがない!
ギロッ! と、睨みつけるのだが、ブラットは少しも堪えずヘラヘラと笑っていた。
これはダメだと思い、今度はダンケルを睨みつける。
弟の非礼は兄の責任だろう。
例えものすごく仲の悪そうな殺し合いをするような兄弟だって、責任は責任だ!
そう思うのに、背の高いイケメン魔族はあからさまに視線を反らした。
「ダンケル?」
「あ、あぁ、その……」
珍しく口ごもり下を向く。
やがて大きく息を吐き出すと、ダンケルは小さな声で話し出した。
「……実は、魔族の女はとても細いんだ。お前は、魔族の基準から見たら、その……充分、ふ……太っている……方だ」
「………………ハ!?」
一瞬、何を言われているのかわからなくて呆けてしまう。
そして次の瞬間、ガァ~ン! と、ショックを受けて暖は固まった。
「太っている」なんて言われたのは、人生初のことである。
あらためて自分の体を暖は見回す。
痩せてはいないが決して太っている方ではないと思う。
(そうよ! あの失礼が服を着て歩いているような義弟にだって、私は太っているなんて言われたことがないのよ!)
暖の可愛い妹と結婚した義弟は、妹に対してだけは別人かと思うほど優しいくせに、それ以外の人間には失礼極まりないほど傍若無人な男である。
特に暖には、妹がシスコン気味なこともあってか、慇懃無礼を通り越して明確な敵意を持って接していた。
(あれで私より年上なんだから、始末におえなかったわ)
あれが可愛い妹の夫でなかったら、暖は決してお近づきにならなかっただろう。
思い出しただけでムッとする腹立たしい義弟。
しかし、そんな男にだって暖は容姿の件であれこれ言われたことはない。
ウエストの細さだけなら、美女のラミアーにだって負けない自信があった。
(他のサイズはダメだけど……)
ポン! キュッ! ポン! なラミアーを思い出し落ち込みそうになった暖だが、今はそんな場合じゃないと気を取り直し、思いっきりダンケルを睨む。
ダンケルの顔色はサッと青くなった。
「よ、よせ! 気を損ねるな! お前が不機嫌になったりしたら、魔界が滅ぶだろう」
叫びながら、必死に言い訳をはじめた。
ダンケル曰く――――
魔界の男性の優劣は、強さを絶対的な基準としていること。
強い男のステータスとして、いかに番の女性に何一つ苦労をさせず守れるかを求められること。
番が弱く何もできない女性であればあるほど、男性には強さ――――力、地位、金、権力――――があるという証明になる。
このため女性は、かよわくなよやかで“儚い”方が好まれていた。
一人では何もできないほどに弱く外見は痩身であることが好まれ、手も足も折れるほど細いことが良く、腰などは細ければ細いほど美しいと言われる。
「昔は、それほどでもなかったんだがな。……現魔王の正妃が、とてつもなく細く“儚い”方だったことから、細い=美しいに拍車がかかったんだ」
頭を抱えながらダンケルは深いため息をつく。
暖は、びっくりして目を見開いた。
(そんな男の都合で女性の美しさが決まってしまうの?)
理不尽だとは思うが、美の基準が場所によって違うのはよくあることだ。
同じ場所でも時代が違えば美の基準も違う。
日本の平安時代の美人は、しもぶくれの細目、おちょぼ口だと聞いたこともある。
魔界の美の基準が他のものと違うのは、考えてみれば当たり前のことかもしれなかった。
(ひょっとして、私ってここでは女性として扱ってもらえないくらいの容姿なの?)
考え込んで動かなくなってしまった暖を見て、ダンケルは慌てた。
「あ! だが、俺の母は妃の中でも例外で、さほど細い方ではなかった。人間世界に近い辺境の出で、俺は幼い頃は母方の領地で育ったんだ。そこではそんなに細い女がいいと思われていなくって……だから! 俺は、俺自身は、お前を太っているとは思わないぞ!」
大声で叫ぶ。
確かに、ダンケルの暖への態度は最初から普通だった。
そこに容姿に対する否定的な感情を感じたことはない。
要は、ダンケルの母の故郷が田舎で魔界では流行遅れだったのだろう。
「ダンケルの女の趣味の悪さは有名だもんな」
案の定、ブラットはニヤニヤ笑ってそう言った。
「まぁでも、俺もポヨポヨとした子はキライじゃないよ。――――女性っていうより食べる対象としてだけどね」
ヒドイセリフを吐きながらケタケタと笑う。
「黙れ! このバカ!」
ダンケルは勢いよくブラットを殴り飛ばした。
「趣味、悪イ……」
そんな兄弟げんかも目に入らぬようで、ポツリと呟いた暖は、唇を噛んで下を向く。
ドヨドヨとした空気が涌き出てくるかのような落ち込みようだった。
その時、窓の外に見える空が一転にわかにかき曇り、稲光が走る。
次の瞬間、ドドォ~ン!! と、どこかに雷が落ちた。
「私、ソンナ太ッテナイ!」
ムッとして抗議した。
しかし――――
「へっ? いやいや、充分子豚ちゃんだろう? むしろ親豚と言わなかっただけ、俺は気遣いしたよね? 感謝して欲しいくらいだけど」
ブラットは、当然のような顔をしてそう言った。
あまりの言葉に、暖は驚く。
(いくらなんでも、ヒドイわ!)
うら若き女性に対して、子豚ならともかく親豚などと言ってよいはずがない!
ギロッ! と、睨みつけるのだが、ブラットは少しも堪えずヘラヘラと笑っていた。
これはダメだと思い、今度はダンケルを睨みつける。
弟の非礼は兄の責任だろう。
例えものすごく仲の悪そうな殺し合いをするような兄弟だって、責任は責任だ!
そう思うのに、背の高いイケメン魔族はあからさまに視線を反らした。
「ダンケル?」
「あ、あぁ、その……」
珍しく口ごもり下を向く。
やがて大きく息を吐き出すと、ダンケルは小さな声で話し出した。
「……実は、魔族の女はとても細いんだ。お前は、魔族の基準から見たら、その……充分、ふ……太っている……方だ」
「………………ハ!?」
一瞬、何を言われているのかわからなくて呆けてしまう。
そして次の瞬間、ガァ~ン! と、ショックを受けて暖は固まった。
「太っている」なんて言われたのは、人生初のことである。
あらためて自分の体を暖は見回す。
痩せてはいないが決して太っている方ではないと思う。
(そうよ! あの失礼が服を着て歩いているような義弟にだって、私は太っているなんて言われたことがないのよ!)
暖の可愛い妹と結婚した義弟は、妹に対してだけは別人かと思うほど優しいくせに、それ以外の人間には失礼極まりないほど傍若無人な男である。
特に暖には、妹がシスコン気味なこともあってか、慇懃無礼を通り越して明確な敵意を持って接していた。
(あれで私より年上なんだから、始末におえなかったわ)
あれが可愛い妹の夫でなかったら、暖は決してお近づきにならなかっただろう。
思い出しただけでムッとする腹立たしい義弟。
しかし、そんな男にだって暖は容姿の件であれこれ言われたことはない。
ウエストの細さだけなら、美女のラミアーにだって負けない自信があった。
(他のサイズはダメだけど……)
ポン! キュッ! ポン! なラミアーを思い出し落ち込みそうになった暖だが、今はそんな場合じゃないと気を取り直し、思いっきりダンケルを睨む。
ダンケルの顔色はサッと青くなった。
「よ、よせ! 気を損ねるな! お前が不機嫌になったりしたら、魔界が滅ぶだろう」
叫びながら、必死に言い訳をはじめた。
ダンケル曰く――――
魔界の男性の優劣は、強さを絶対的な基準としていること。
強い男のステータスとして、いかに番の女性に何一つ苦労をさせず守れるかを求められること。
番が弱く何もできない女性であればあるほど、男性には強さ――――力、地位、金、権力――――があるという証明になる。
このため女性は、かよわくなよやかで“儚い”方が好まれていた。
一人では何もできないほどに弱く外見は痩身であることが好まれ、手も足も折れるほど細いことが良く、腰などは細ければ細いほど美しいと言われる。
「昔は、それほどでもなかったんだがな。……現魔王の正妃が、とてつもなく細く“儚い”方だったことから、細い=美しいに拍車がかかったんだ」
頭を抱えながらダンケルは深いため息をつく。
暖は、びっくりして目を見開いた。
(そんな男の都合で女性の美しさが決まってしまうの?)
理不尽だとは思うが、美の基準が場所によって違うのはよくあることだ。
同じ場所でも時代が違えば美の基準も違う。
日本の平安時代の美人は、しもぶくれの細目、おちょぼ口だと聞いたこともある。
魔界の美の基準が他のものと違うのは、考えてみれば当たり前のことかもしれなかった。
(ひょっとして、私ってここでは女性として扱ってもらえないくらいの容姿なの?)
考え込んで動かなくなってしまった暖を見て、ダンケルは慌てた。
「あ! だが、俺の母は妃の中でも例外で、さほど細い方ではなかった。人間世界に近い辺境の出で、俺は幼い頃は母方の領地で育ったんだ。そこではそんなに細い女がいいと思われていなくって……だから! 俺は、俺自身は、お前を太っているとは思わないぞ!」
大声で叫ぶ。
確かに、ダンケルの暖への態度は最初から普通だった。
そこに容姿に対する否定的な感情を感じたことはない。
要は、ダンケルの母の故郷が田舎で魔界では流行遅れだったのだろう。
「ダンケルの女の趣味の悪さは有名だもんな」
案の定、ブラットはニヤニヤ笑ってそう言った。
「まぁでも、俺もポヨポヨとした子はキライじゃないよ。――――女性っていうより食べる対象としてだけどね」
ヒドイセリフを吐きながらケタケタと笑う。
「黙れ! このバカ!」
ダンケルは勢いよくブラットを殴り飛ばした。
「趣味、悪イ……」
そんな兄弟げんかも目に入らぬようで、ポツリと呟いた暖は、唇を噛んで下を向く。
ドヨドヨとした空気が涌き出てくるかのような落ち込みようだった。
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