まだまだこれからだ!

九重

文字の大きさ
61 / 102
第三章 魔族にもいろいろあるようです。

翻訳魔法の使い手は?

しおりを挟む
 初対面で慌ててしまい叫びまくっていたうららだが、その際彼女は普通に日本語を話していた。
 なのに魔王とは会話が成り立っているのだ。

 首を傾げる暖に対し、魔王はフンと鼻を鳴らした。

「お前の言葉は聞き慣れないが、魔王である私には各種族のだけが持つ翻訳魔法があるからな。言葉が通じるのは当たり前だろう」

 そう言われれば、確かアルディアとも翻訳魔法のおかげで話ができていた。

「でも、それって竜やエルフみたいな他種族が暮らす人間の国のだからできる魔法じゃなかったの?」

 少なくともアルディアはそう言っていたと、暖は記憶している。
 なのに魔王は、「お前はバカか?」と言ってきた。
 呆れたみたいに肩をすくめてみせる。

「人間の王に出来ることが私に出来ないはずはないだろう。魔王はどんな生き物とも言葉を交わすことが出来る」

 慇懃無礼の慇懃の部分を捨てた魔王は、ドカッと暖の目の前のソファーに腰をおろした。

「だって、じゃあダンケルは?」

 ダンケルは魔族の王子だ。しかし彼とは言葉が通じていなかったと、暖は主張する。

「翻訳魔法は、どの種族であろうと、だけの力だからな。ダンケルは後継者であり、このままいけば未来の王となる存在ではあるが、今は王ではない」

 魔王は、素っ気なく断じた。
 ダンケルとは反対に、ギオルやリオールはの王だから翻訳魔法が使えないのだろう。


「え?」


 暖は、呆然としてしまう。


「でも、だって……アルディアは? アルディアだってよ。しかも廃嫡されたも同然の第二王子だって言っていたもの! 彼ができるのに、なんでダンケルはできないの?」


 アルディアもダンケルも同じ王子という立場である。
 それなのに違いがあるのはなぜだろう?
 真底不思議で、暖は首を傾げる。

 自分の言葉を疑われたのが気に入らないのか、魔王は不機嫌そうに眉間のしわを深くした



「翻訳魔法が使えるのなら、そやつが人間のだ」



「……は?」



「お前は、態度だけでなく耳も悪いのか? お前と言葉の通じるそいつが人間の王だと言っている」

 イライラとしながら、魔王はとんでもないことを言い出した。

「そんなバカな!」

「バカもなにも、それが真実だ。お前はそいつ以外に、翻訳魔法を使える王族に会ったことがあるのか?」

 言われてみれば、確かに暖が会った王族はアルディアだけだった。
 他の王族に暖の言葉が通じるかどうかはわからない。

 
「……でもでもアルディアは、お城じゃなくてド田舎の村に住んでいるのよ。横暴でワガママで意地っ張りで……そりゃ心配性で優しいところもあるけれど……でも! 王さまなんかじゃないわ!」


 絶対違うと、暖は主張する。
 むっつりと聞いていた魔王だが……やがてどうでもいいというように片手を振った。


「お前の主張はわかった。――――相変わらず人間は愚かな生き物だな」

「……愚か?」

「人間は、自分たちの王を生き物だ」

 魔王の言葉に暖は息を呑む。

「それって、どういう?」

 しかし、尋ねようとした暖を苛立たしそうに魔王は遮った。

「人間の王のことなど、どうでもよい。……あの忌々しい魔女もだ」

 苦虫を噛み潰したように「魔女」という言葉を吐き捨てる魔王。
 どうやら魔王にとっては、人間の王なんかよりディアナの方が存在感が大きいらしい。

「そんな!」と、食い下がろうとした暖を、ひと睨みで魔王は黙らせた。


「――――そんなことより急ぐべきは、我が一族を襲う病を治すことだろう。……癒しの力をもつ人間よ。お前を迎えたことで魔族は人間界より撤退した。今度はお前が約束を守り魔族を癒す番だ」


 身勝手にも、魔王はそう言い出す。

「そんな約束――――」

 していない! と暖は思う。
 何も出来なくてもいいから魔界に来てくれという、そういう話だったはずだ。
 反論しようとした暖に魔王は言葉をかぶせてくる。


「まさか、何もするつもりがない、などとは言わないだろうな? それでは、お前は何のために魔界にまで来たのだ? 物見遊山の冷やかしか?」


 暖は、グッと言葉に詰まった。
 そんな風に言われて認められるはずもない。



「――――何が出来るか出来ないかは、見てみなければわかりません。私は魔界に来たばかりです」



 自分に治癒魔法は使えないと、暖は思っている。
 何を見たところで何も出来ないことは確実だろう。
 それでもここまで来たからには、何もせずに帰るつもりはなかった。

 そう思って魔王を睨みつければ、見た目二十代の男は楽しそうに笑う。


「いい返事だ。――――ならば見てくるがいい」


 魔王のセリフと同時に、暖の体は白い光に包まれる。

「なっ!」

「心配いらぬ。ただの転移魔法だ」

 聞こえてきた声に暖はホッとする。
 これが暖を害す魔法なら魔界が滅んでしまう。

 それを知ってか知らないでか、魔王は上機嫌に声をかけてきた。


「お手並み拝見といこう。せいぜい頑張るがいい」



 次の瞬間、部屋から暖の姿がかき消える。
 後には、クツクツと笑う魔王一人が残った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...