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第三章 魔族にもいろいろあるようです。
そういうのを他力本願っていうんですよ!
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その直後、魔王の元に慌てたようにダンケルが駆け込んで来る。
バン! と、部屋のドアをあけ放った魔王の嗣子は、中に父である魔王の姿を見てサッと顔を青ざめさせた。
不敬にも頭を下げることもせずに室内を見回す。
「ウララ!」
大声を放ち、返事のないことにさらに顔色を悪くした。
「ウララがいない……まさか父上! ……どこに? いったいウララをどこにやったのですか!?」
魔王は不快そうに眉をひそめる。
「帰還の挨拶もなしに質問か? 誰の許しを得て我が前で額ずかぬ?」
常であれば、魔王の不興を知ったダンケルは即座にその場で頭を下げる。
しかし、今日ばかりは態度を違えた。
「ことは急を要するのです! 不敬は後でいくらでも謝ります。それよりウララです! 彼女はどこですか?」
魔王に詰め寄るダンケル。
鬼気迫るその勢いに驚いた魔王は、仕方なく返事をした。
「後宮だ。あの娘には役目を果たしてもらわなければならないからな」
魔王の答えに、ダンケルの顔は青を通り越して白くなる。
「なんてことを!」
そのままクルリと魔王に背を向けた。すぐさまこの部屋から飛び出し後宮へと駆け出そうとする。
そのダンケルの目の前で、バタン! とドアが閉まった。
「なっ!?」
押しても引いても魔力を使っても、ドアはビクともしない。
こんなことが出来るのは、ただ一人だけだ。
「誰が下がっても良いと言った」
思った通り、魔王が静かな声でダンケルを引き留めた。
振り返ったダンケルを、魔王は面白そうに見てくる。
「後宮に私以外の男は入られぬ。お前はここで待つがいい。……なに、あの娘がお前の見込み通りの者なら無事に帰ってこよう。期待外れの場合は、どうなるかわからないがな」
クスクスと楽しそうに笑いながら、魔王は話す。
グッと拳を握り締めたダンケルは、生まれてはじめて父を睨みつけた。
「その場合、漏れなく魔界は滅亡します」
暗い表情でそう言った。
「滅亡?」
さすがに驚いたようで、魔王は聞き返す。
「そうです。……ウララは、竜――――それも『落ちたる竜王 ギオル』の加護持ちですから」
魔王の動きは、ピタリと止まった。
「……落ちたる竜王?」
呆然と呟く。
「しかも『世界を二度滅ぼしかけた魔女 ディアナ』と『エルフの失われた王 リオール』、『神を堕落させた吸血姫 ラミアー』からもそれぞれ自動報復機能付きの防御魔法を何重にもかけられています」
今度は、魔王の顔が青くなった。
「馬鹿な! なんだその無茶苦茶なメンバーと魔法は?」
「わかったなら、早くウララを俺の元に返してください! まだ、魔界が無事な内に!」
必死でダンケルは怒鳴る。
――――しかし、ギュッと唇を噛んだ魔王は、静かに首を横にふった。
「父上!」
「……後宮を仕切るのは、王妃の役目だ。例え今私が命令しても、王妃が頷かなければあの娘は後宮から出てこられないだろう」
王妃と言われたダンケルは大きく顔を歪める。
妾腹の子でありながら次期魔王と決まっている彼と、王妃の仲は……良くない。
いや、良くないなどというのはずいぶん控えめな表現だろう。
はっきりきっぱりダンケルは、王妃から命を狙われるほど嫌われていた。
「そんなことを言っている場合ですか!? 魔界が滅びても良いんですか!」
だからダンケルは父王になんとかしろと迫る。
魔王の顔は苦渋に歪んだ。
――――それでも、首を縦に振らない。
「父上!」
「ここで私が、あの娘を特別に扱い庇えば、後宮の者たちは彼女を決して受け入れようとしないだろう。それではなんにもならない。……あの娘の治癒の力が必要なのは女たちだからな。後宮の協力なしには治癒はかなわない」
魔王の言う通りだった。
魔族を襲う原因不明の病の患者は女魔族だ。
特に後宮にその患者は多い。
後宮からソッポを向かれれば、治癒にとりかかることさえ出来なくなるのは、目に見えていた。
「魔界が滅びても良いのですか!?」
ダンケルの叫びに、魔王は力なく笑って返した。
「それで滅びるのならば、魔界はそれまでの運命なのだろう」
「父上!」
「あの娘にかけるしかない。……希望はあるはずだ。だからこそお前はあの娘を連れてきたのだろう?」
魔王に言われてダンケルは口をつぐむ。
父王から突如後宮に放り込まれた暖が、ドロドロとした女の戦いが渦巻くあの場所でどんな目に遭うかはわからない。
今この瞬間にも彼女は、何も知らない女魔族から父の寵愛を競う相手として誤解され攻撃されているかもしれない。
その結果起こるのは、魔界の消滅だ。
(でも――――ウララなら)
うまく切り抜けられるのではないかとダンケルは思う。
なにより暖は、あの気難しい老魔女や気位の高い吸血鬼に気に入られていた。
あの二人に比べれば、魔界の王妃など大したものではないかもしれない。
杖を振り上げる老魔女と、嫣然と微笑む吸血鬼を思い出したダンケルは、ブルッと体を震わせる。
やがて……
「彼女は、“あの娘”ではなく、ウララという名前です」
ダンケルはそう言った。
魔王は、きょとんとして目を瞬く。
「……ウララ?」
「そうです」
真面目な顔でダンケルは話す。
魔王は、何度か「ウララ」と繰り返し呟いた。
「きちんと覚えてください。……魔界を――――我々を救う女性なのですから」
「――――あるいは、魔界を滅ぼすな」
重々しく魔王は返す。
「そうならないように祈ります」
「そうだな」
目と目を見交わした父と子は、運を天に任して……笑った。
バン! と、部屋のドアをあけ放った魔王の嗣子は、中に父である魔王の姿を見てサッと顔を青ざめさせた。
不敬にも頭を下げることもせずに室内を見回す。
「ウララ!」
大声を放ち、返事のないことにさらに顔色を悪くした。
「ウララがいない……まさか父上! ……どこに? いったいウララをどこにやったのですか!?」
魔王は不快そうに眉をひそめる。
「帰還の挨拶もなしに質問か? 誰の許しを得て我が前で額ずかぬ?」
常であれば、魔王の不興を知ったダンケルは即座にその場で頭を下げる。
しかし、今日ばかりは態度を違えた。
「ことは急を要するのです! 不敬は後でいくらでも謝ります。それよりウララです! 彼女はどこですか?」
魔王に詰め寄るダンケル。
鬼気迫るその勢いに驚いた魔王は、仕方なく返事をした。
「後宮だ。あの娘には役目を果たしてもらわなければならないからな」
魔王の答えに、ダンケルの顔は青を通り越して白くなる。
「なんてことを!」
そのままクルリと魔王に背を向けた。すぐさまこの部屋から飛び出し後宮へと駆け出そうとする。
そのダンケルの目の前で、バタン! とドアが閉まった。
「なっ!?」
押しても引いても魔力を使っても、ドアはビクともしない。
こんなことが出来るのは、ただ一人だけだ。
「誰が下がっても良いと言った」
思った通り、魔王が静かな声でダンケルを引き留めた。
振り返ったダンケルを、魔王は面白そうに見てくる。
「後宮に私以外の男は入られぬ。お前はここで待つがいい。……なに、あの娘がお前の見込み通りの者なら無事に帰ってこよう。期待外れの場合は、どうなるかわからないがな」
クスクスと楽しそうに笑いながら、魔王は話す。
グッと拳を握り締めたダンケルは、生まれてはじめて父を睨みつけた。
「その場合、漏れなく魔界は滅亡します」
暗い表情でそう言った。
「滅亡?」
さすがに驚いたようで、魔王は聞き返す。
「そうです。……ウララは、竜――――それも『落ちたる竜王 ギオル』の加護持ちですから」
魔王の動きは、ピタリと止まった。
「……落ちたる竜王?」
呆然と呟く。
「しかも『世界を二度滅ぼしかけた魔女 ディアナ』と『エルフの失われた王 リオール』、『神を堕落させた吸血姫 ラミアー』からもそれぞれ自動報復機能付きの防御魔法を何重にもかけられています」
今度は、魔王の顔が青くなった。
「馬鹿な! なんだその無茶苦茶なメンバーと魔法は?」
「わかったなら、早くウララを俺の元に返してください! まだ、魔界が無事な内に!」
必死でダンケルは怒鳴る。
――――しかし、ギュッと唇を噛んだ魔王は、静かに首を横にふった。
「父上!」
「……後宮を仕切るのは、王妃の役目だ。例え今私が命令しても、王妃が頷かなければあの娘は後宮から出てこられないだろう」
王妃と言われたダンケルは大きく顔を歪める。
妾腹の子でありながら次期魔王と決まっている彼と、王妃の仲は……良くない。
いや、良くないなどというのはずいぶん控えめな表現だろう。
はっきりきっぱりダンケルは、王妃から命を狙われるほど嫌われていた。
「そんなことを言っている場合ですか!? 魔界が滅びても良いんですか!」
だからダンケルは父王になんとかしろと迫る。
魔王の顔は苦渋に歪んだ。
――――それでも、首を縦に振らない。
「父上!」
「ここで私が、あの娘を特別に扱い庇えば、後宮の者たちは彼女を決して受け入れようとしないだろう。それではなんにもならない。……あの娘の治癒の力が必要なのは女たちだからな。後宮の協力なしには治癒はかなわない」
魔王の言う通りだった。
魔族を襲う原因不明の病の患者は女魔族だ。
特に後宮にその患者は多い。
後宮からソッポを向かれれば、治癒にとりかかることさえ出来なくなるのは、目に見えていた。
「魔界が滅びても良いのですか!?」
ダンケルの叫びに、魔王は力なく笑って返した。
「それで滅びるのならば、魔界はそれまでの運命なのだろう」
「父上!」
「あの娘にかけるしかない。……希望はあるはずだ。だからこそお前はあの娘を連れてきたのだろう?」
魔王に言われてダンケルは口をつぐむ。
父王から突如後宮に放り込まれた暖が、ドロドロとした女の戦いが渦巻くあの場所でどんな目に遭うかはわからない。
今この瞬間にも彼女は、何も知らない女魔族から父の寵愛を競う相手として誤解され攻撃されているかもしれない。
その結果起こるのは、魔界の消滅だ。
(でも――――ウララなら)
うまく切り抜けられるのではないかとダンケルは思う。
なにより暖は、あの気難しい老魔女や気位の高い吸血鬼に気に入られていた。
あの二人に比べれば、魔界の王妃など大したものではないかもしれない。
杖を振り上げる老魔女と、嫣然と微笑む吸血鬼を思い出したダンケルは、ブルッと体を震わせる。
やがて……
「彼女は、“あの娘”ではなく、ウララという名前です」
ダンケルはそう言った。
魔王は、きょとんとして目を瞬く。
「……ウララ?」
「そうです」
真面目な顔でダンケルは話す。
魔王は、何度か「ウララ」と繰り返し呟いた。
「きちんと覚えてください。……魔界を――――我々を救う女性なのですから」
「――――あるいは、魔界を滅ぼすな」
重々しく魔王は返す。
「そうならないように祈ります」
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目と目を見交わした父と子は、運を天に任して……笑った。
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