まだまだこれからだ!

九重

文字の大きさ
65 / 102
第三章 魔族にもいろいろあるようです。

魔族は失礼な者ばかりでした

しおりを挟む
 人間界で、アルディアが焦りまくっているその頃――――

「うわぁ~世界が回っている」

 魔王曰く、ただの転移魔法で後宮へ飛ばされたうららは、その影響なのかクラクラとする目眩めまいをこらえて床にうずくまっていた。
 視界が揺れて立っていられない。

「酷い二日酔いの朝みたい」

 酒に強くない暖は、滅多に呑み過ぎたりしないのだが、たまに付き合いで度を外した翌朝は必ず二日酔いになってしまう。
 頭痛がないのが救いだが、こんなことになるとは思ってもいなかった。

「転移魔法の注意事項とか、トリセツとか、……絶対、必要でしょう」

 暖は、地を這う低い声で文句を呟く。大声を出したりしたら、もっと世界が揺れそうだ。
 そんなところへ――――

「―――― 誰!?」

 鋭い誰何すいかの声がかかった。
 暖は慌てて顔を上げる。クラッとしたがなんとかこらえた。

「あ! あの……私は、怪しい者じゃありません!」

 本当に怪しい人間が自分を怪しいと言うはずないとは思うのだが、とりあえず暖は否定する。
 相手を見上げ……思わず固まった。

 そこには城の侍女なのだろう、きっちりとした黒服に身を包んだ若い女性が立っている。
 結い上げた髪の中から二本のねじれた角がのぞいているが、暖が驚いたのはそこではない。
 彼女が思わず目を吸い寄せられたのは、侍女の腰の細さだった。

(うっわぁ~! 折れそう!)

 ついつい心の中で叫んでしまう。

 侍女の顔は普通だった。
 ずいぶんと小顔だが、ありえない程の小ささではない。
 肩もなで肩で胸も小さいが、華奢な女性と思えば、地球にだっているタイプの体型だろう。

 ただし――――その腰のだけは、あり得なかった。

(いくらなんでも、くびれ過ぎでしょう? いったいウエスト何センチ?)

 40センチと言われても頷いてしまいそうだ。どう見ても50センチはないだろう。
 もしもこの侍女が魔界の標準体型なら、自分が「子豚ちゃん」と呼ばれたのも無理のないことだと納得してしまう。「親豚」でも仕方ないかと思った。

 もっとも、それとブラットの発言を許せるかどうかは、別問題だが。

(病気なの?)

 侍女は身長が高く180センチくらいはありそうなのだが、それゆえ尚更腰の細さが目立つ。
 こんなに細くなるくらいなら、太っているという評価でもかまわないと、暖は思った。

 そんな暖の内心をわかるはずもなく、侍女は警戒した目付きで暖を睨んでくる。
 暖は焦って話そうとして、

「あの…………あっ!」

 一声叫んでから、ここが魔界だということを思い出した。
 先ほどは慌てるあまり日本語で叫んでしまったが、日本語が相手に通じるはずもない。

(あ、でも、魔界でも、私がアルディアに習った言葉は通じるのかしら?)

 暖が習っていたのは、この世界の共通言語と呼ばれる言葉のはずだ。翻訳魔法が使えない者たちが互いに話し合うために普及した言葉だという。
 村にいた時は竜のギオルもエルフのリオールもみんな同じこの言葉を話していた。
 しかしここが魔界となれば、そうもいかないかもしれない。
 今のところ侍女の言葉は聞き取れているが、だいぶ発音が違うと感じられる。
 それに何より、話すのと聞くのは、違った。

(ダンケルやブラットは聞き取ってくれたけれど)

 彼らは王族だから、共通言語に慣れていただけという可能性もある。
 普通の魔族の侍女相手で大丈夫だろうか?

(ええいっ! ままよ)

 不安に思いながらも、恐る恐る口を開いた。

「アノ、私、ホント、怪シイ、違ウデス!」

 暖の言葉を聞いた侍女は、考え込むように眉間に深いしわを寄せる。

(なんだか、一応、通じているっぽいわよね? えっと敵意がないことを示しながら――――)

 暖は両手を開いて上げながら、ゆっくり立ち上がった。
 そんな彼女の姿を見た侍女が、顔色を真っ青に変える。


「まぁ! なんてみにくいの!」


 そう叫んだ。
 言葉が通じるのは嬉しいが、内容はまったく嬉しくない。

「可哀想に、こんなに哀れな容姿の者がいるなんて。……今までこんなにヒドイ姿は、見たことがないわ!」

 震える声で涙ぐむ魔族の侍女。
 せっかく立ち上がった暖だが、再び座り込みそうになった。

「魔王様の寵姫の座を狙う侵入者かと思ったけれど、どうやら違うようね」

 なにやら一人で納得し、侍女は暖を凝視してくる。

(魔王の寵姫って?)

 暖は心の中で首を傾げる。
 いったいここはどこで、どうしてそんなとんでもない誤解を受けなければならないのだろう。

「こんななりで寵姫なんて有り得ないもの。……ああ、そう言えば厨房で下働きの下女を募集していたと聞いていたけれど、お前は、それでしょう? そうよね、下女ならばどんなに醜くともで働けるもの」


(後宮!?)


 あやうく暖は悲鳴をあげるところだった。
 後宮といえば、魔王の妃が住む宮殿である。
 なんてところに自分を転移させるのかと、魔王を恨む。
 侍女は同情いっぱいに暖に確認してくるのだが、彼女が肯定以外の言葉が返ってくると思っていないのは丸わかりだ。



「アノ……」

「厨房を探していて迷ったの? 困った下女ね。仕方ない、案内してあげるわ。視界に入らないように、少し離れてついて来なさい」

 侍女はそう言うと、暖の返事も聞かずに歩き出した。
 慌てて暖は後を追う。

「アノ……」

「ああ。名乗らなくてもいいわよ。もう二度と、その姿を見るつもりはないから。……でも、そうね。後宮ならば、少なくともその醜い姿が男性の目に触れることはないわ。醜くとも、あなたの選択は間違っていないわよ」

 振り返りもせずに侍女はそう言った。
 ブラットといい、この侍女といい、魔族はとんでもなく高飛車で失礼な者ばかりである。
 勝手に決めつけ勝手に暖を案内する侍女。
 釈然としない暖だが、どうやら魔界滅亡の第一ハードルは超えたようだ。

(問答無用で攻撃されて気がついたら焼け野原――――なんて結末は目覚めが悪いもの。……それに、言葉はヒドいけど一応案内してくれているみたいだし)

 案外イイ人――――ではなく、イイ魔族なのかもしれないと暖は思う。

 暖が無理やりそう思いこもうとしている時、前を行く侍女の足がピタリと止まった。頭をひねり、チラリと暖を見てくる。


「下女と、思ったけど………………、まさかあなた、じゃないわよね?」


 考えながら聞いてくる。
 前言撤回! やっぱり魔族は、とんでもなく失礼な者ばかりだった!
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...