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第三章 魔族にもいろいろあるようです。
その頃魔界の外では……(2)
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先刻もそうだったが、歴戦の騎士でもあるウルフィアは、アルディアの不機嫌な視線などものともしない。
この国に忠誠を誓う騎士であり仕える主としてアルディアを守るウルフィアだが、彼女は必要以上に頭を下げない人物だった。
従う命令も、無条件ではなく自分が納得したものだけ。
その信念を貫き通せるだけの実力と経歴を、ウルフィアは持っている。
「……水掛け論は、この際どうでもいい。それより、何故私が王位につくこととウララが繋がる?」
ここでウルフィア相手に言い争っても仕方ないと判断したのだろう、アルディアは話を切り替える。
自分が王になることと、ウララがどうして関係しているのかわからない。
「取り戻すとは、いったい誰からだ? ……村にいないと言ったな? ではウララはどこにいる?」
苛々と怒鳴りながら、アルディアは手の中の手紙に目を落とした。
読み進めていくうちに、その目が、カッ! と見開かれる。
「なっ! 魔界? ……なんで! どうして! ウララが魔界に!?」
あまりの大声に、サーバスは耳を塞いだ。
「……それほど、心配はいらないようだぞ。よく読んでみたが、ウララには過保護なほどの守護魔法が付けられている。ギオルの竜玉だけで十分だろうに、ディアナにリオール、ラミアーまで。――――いや、ここまでくると笑う以外ないな。ディアナの奴、この機に魔界の殲滅を狙っているんじゃないか?」
本当に苦笑しながらウルフィアが言った。
なんとも言えない顔で、サーバスも黙り込む。
冗談とは言えないところが、ディアナだった。
「バカを言え! 魔界だぞ、魔界! ウララに何かあったらどうするつもりだ!?」
焦った声をアルディアが上げる。
「これだけの守護魔法をかけられて、何かあるはずもないだろう?」
「身体的な安全だけじゃない! ……心は!? あいつは底抜けにお人好しな警戒心もなにもない女なんだぞ!」
アルディアは、本気で心配していた。
自分に悪口雑言浴びせられながら、それでも彼の体調を心配していた暖の姿が脳裏に浮かぶ。
「ウララの優しい心が、魔族に踏みにじられ傷ついたらどうするんだ!!」
言うなり今度こそアルディアは立ち上がった。
勢いそのままに天幕から出て行こうとする。
「帰る! 帰還だ! あの村――――いや、王城にだ! 魔界に行くには、魔族と至急交渉する必要がある」
ようやくディアナの言葉の真意が見えたアルディアだった。
勢いよく自ら幕を上げ出て行く王子の後ろ姿を、ウルフィアは見る。
ほんの半年ほど前まで、いつもベッドで横になり立っている姿でさえついぞ見たことのなかったような彼が、大股で他を圧しながら歩いて行く。
兵に帰還命令を下す大声が、天幕の中まで響いてきた。
ちょっと呆然としていたサーバスが、慌てて後を追い飛び出して行く。
ウルフィアは、――――クスリと笑った。
「さて……ウララはそれほど弱い娘ではないと思うがな」
そこまで心配する必要はないだろうと、ウルフィアは思っている。
何よりディアナが彼女を送り出したのだ。
あの気難しい魔女は、存外暖を気に入っている。暖が損なわれるようなことを彼女や村の仲間たちが許すはずもない。
「それくらい。冷静に考えればわかりそうなものだがな」
いやアルディアのことだ、わかっているのだろうと思われる。
わかっていて、それでもあれ程に焦らずにはいられないのだ。
「……フム。若いというのは、なんとも羨ましい」
クスクスクスと、老いた女騎士は笑う。
羨ましいと言いながら、彼女は自分自身の心も高揚していることに気づいていた。
この勢いで、アルディアは自ら魔界に乗り込むつもりでいるだろう。
当然守護騎士のウルフィアも同行することになる。
「魔界か――――」
歴戦の騎士である彼女も、まだ一度も見たことのない――――戦場。
「敵は魔族か。……相手にとって不足なし」
魔界と聞いて怯むよりも心躍らせるウルフィアは、根っからの騎士だった。
ディアナに果実を諦めてもらうように返事を書かなければなと、ウルフィアは思う。
「いやどうせ魔界で会えるだろうから、買うだけ買っておくか」
戦いの後で一服するのもまた一興だろう。
天幕の外から、ウルフィアを呼ぶ声がする。
「今、行く!」
颯爽と歩き出した女騎士の顔には、見た者が思わず震えるような凄みのある笑みが浮かんでいた。
この国に忠誠を誓う騎士であり仕える主としてアルディアを守るウルフィアだが、彼女は必要以上に頭を下げない人物だった。
従う命令も、無条件ではなく自分が納得したものだけ。
その信念を貫き通せるだけの実力と経歴を、ウルフィアは持っている。
「……水掛け論は、この際どうでもいい。それより、何故私が王位につくこととウララが繋がる?」
ここでウルフィア相手に言い争っても仕方ないと判断したのだろう、アルディアは話を切り替える。
自分が王になることと、ウララがどうして関係しているのかわからない。
「取り戻すとは、いったい誰からだ? ……村にいないと言ったな? ではウララはどこにいる?」
苛々と怒鳴りながら、アルディアは手の中の手紙に目を落とした。
読み進めていくうちに、その目が、カッ! と見開かれる。
「なっ! 魔界? ……なんで! どうして! ウララが魔界に!?」
あまりの大声に、サーバスは耳を塞いだ。
「……それほど、心配はいらないようだぞ。よく読んでみたが、ウララには過保護なほどの守護魔法が付けられている。ギオルの竜玉だけで十分だろうに、ディアナにリオール、ラミアーまで。――――いや、ここまでくると笑う以外ないな。ディアナの奴、この機に魔界の殲滅を狙っているんじゃないか?」
本当に苦笑しながらウルフィアが言った。
なんとも言えない顔で、サーバスも黙り込む。
冗談とは言えないところが、ディアナだった。
「バカを言え! 魔界だぞ、魔界! ウララに何かあったらどうするつもりだ!?」
焦った声をアルディアが上げる。
「これだけの守護魔法をかけられて、何かあるはずもないだろう?」
「身体的な安全だけじゃない! ……心は!? あいつは底抜けにお人好しな警戒心もなにもない女なんだぞ!」
アルディアは、本気で心配していた。
自分に悪口雑言浴びせられながら、それでも彼の体調を心配していた暖の姿が脳裏に浮かぶ。
「ウララの優しい心が、魔族に踏みにじられ傷ついたらどうするんだ!!」
言うなり今度こそアルディアは立ち上がった。
勢いそのままに天幕から出て行こうとする。
「帰る! 帰還だ! あの村――――いや、王城にだ! 魔界に行くには、魔族と至急交渉する必要がある」
ようやくディアナの言葉の真意が見えたアルディアだった。
勢いよく自ら幕を上げ出て行く王子の後ろ姿を、ウルフィアは見る。
ほんの半年ほど前まで、いつもベッドで横になり立っている姿でさえついぞ見たことのなかったような彼が、大股で他を圧しながら歩いて行く。
兵に帰還命令を下す大声が、天幕の中まで響いてきた。
ちょっと呆然としていたサーバスが、慌てて後を追い飛び出して行く。
ウルフィアは、――――クスリと笑った。
「さて……ウララはそれほど弱い娘ではないと思うがな」
そこまで心配する必要はないだろうと、ウルフィアは思っている。
何よりディアナが彼女を送り出したのだ。
あの気難しい魔女は、存外暖を気に入っている。暖が損なわれるようなことを彼女や村の仲間たちが許すはずもない。
「それくらい。冷静に考えればわかりそうなものだがな」
いやアルディアのことだ、わかっているのだろうと思われる。
わかっていて、それでもあれ程に焦らずにはいられないのだ。
「……フム。若いというのは、なんとも羨ましい」
クスクスクスと、老いた女騎士は笑う。
羨ましいと言いながら、彼女は自分自身の心も高揚していることに気づいていた。
この勢いで、アルディアは自ら魔界に乗り込むつもりでいるだろう。
当然守護騎士のウルフィアも同行することになる。
「魔界か――――」
歴戦の騎士である彼女も、まだ一度も見たことのない――――戦場。
「敵は魔族か。……相手にとって不足なし」
魔界と聞いて怯むよりも心躍らせるウルフィアは、根っからの騎士だった。
ディアナに果実を諦めてもらうように返事を書かなければなと、ウルフィアは思う。
「いやどうせ魔界で会えるだろうから、買うだけ買っておくか」
戦いの後で一服するのもまた一興だろう。
天幕の外から、ウルフィアを呼ぶ声がする。
「今、行く!」
颯爽と歩き出した女騎士の顔には、見た者が思わず震えるような凄みのある笑みが浮かんでいた。
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