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第二章
ウサネズミ
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「それで、金の髪の乙女は逃げたと? どういう事でしょうか? 領主殿」
「は、はい。 それが、なぜ逃げだしたのか見当もつきません。 前日に我が屋敷に招待して、1か月は留まるように申し伝えたのですが。 翌日には、宿を引き払っていなくなっておりまして」
「余計な事でもして、怖がらせたのではないのですか?」
「滅相もない。 楽しく犬の話をしていたまでで」
「噂は聞いていますよ。 犬の事となると、貴殿は目の色が変わるそうではないですか。 おおかた、乙女のつれていた犬でも強請ったのでは?」
「いやいや、そんな事は……」
領主の顔が、どんどん青ざめていく、当たらずとも遠からずと言う所か。
「まぁ、よいでしょう。 して、捜索はかけたのですか?」
「それが、早々に見失いまして。 今は全くの行方知れずでして」
「はぁ~。 一緒にいた者達や、宿の女将の話は?」
「そちらも、頑として口を割らないそうで」
「なるほど、一から探し直しという訳ですね。 よく分かりました。 では領主殿、貴殿には追って沙汰を伝えますので、首を洗って待つように」
「さ、沙汰とは?」
「通達の乙女を保護できずに、ましてや逃げ出すような行いを、何かしたのでしょう? 私に背いたと見越されても、しごく当然なのでは?」
「まさか、そんな事は……」
「言い訳は結構。 では失礼する」
そう言い放ち席を立つのは、美しいプラチナブロンドの髪をなびかせた、碧眼の青年だった。
「行くぞ、セイ」
セイ、と呼び掛けられたのは、同じ年の頃の長い黒髪を後ろで束ねた青年で、従者のようだ。
無言で付き従い、部屋を出て行く。
「お、お待ち下され。 あなた様に背くなどと、そんな大それた事は、全くの濡れ衣と言うもので……」
「言い訳は結構、と言ったはずですよ」
2人の青年が立ち去った後に、残されたハンブル領主であるスタフォード男爵は、がっくりと膝を落とすのであった。
「やれやれ、召使の者に口を割らせたら、あいつ犬欲しさに乙女を妾に、と画策してたそうじゃないか。 なぜ逃げたのか見当もつかないとは、よくも言えた物だね」
碧眼の青年は、呆れたように言い放つと、厩舎に預けていた馬の手綱を引き寄せる。
2人は、マントのフードを目深に被ると、ハンブルの町を後にした。
一方、その頃のマナ達は、森の中で沢山の小動物に取り囲まれていた。
あのあと、追手を撒いてから、ぐるりと遠回りをしつつ、北へと向かっていた。
夜になる前に、目立たない場所で寝床を確保しようと、森の奥へと踏み込んで、ようやく少し開けた場所に降り立つ。
そこで腰を落ち着けて、食事をし始めたところに、いつの間にかウサギのような、ネズミのような、ピンクがかったフワフワの毛の小動物が、そこかしこに現れだした。
「可愛いー」
と、のんきに見ていたら、その数が、どんどん増えて行ったのだ。
ココの索敵の結果、どうも、総勢500匹くらいに囲まれているらしい。
「これは、ヤバいのかな?」
(敵意は感じなかったから、あまり気にしてなかったけど、…増えすぎ)
「だよねー」
ココと話していると、ひときわ大きな個体が前に出てくる。
すると、周りのウサネズミ達も、ジリ、ジリ、と間を狭めてくるようだ。
「どうしよう? これ、戦った方がいいのかな?」
焦っていると、黙って肩に乗っていたミルクが、
ピョンッ
と、大きなウサネズミの前に降り立つ。
「 !? 」
驚いていると、そのままミルクとウサネズミは、鼻先をくんくん嗅ぎ合い、
「うぅー、ぐるる」
「きゅううー」
と、何やら話し合っている様子。
しばらくして、満足したようにミルクが戻ると、
ココが、口を開く、
(マナ、このコ達、お腹が空いてるだけだから、ミルク達のごはん、分けてあげてって)
「え、そうなの?」
(お弁当、5個くらい、出してあげればいいからって)
「う、うん。 分かった」
それくらいで済むなら、お安い物だ。
さっそく、魔法バッグから、犬達用のお弁当を5つ取り出して、ウサネズミ達の前に開けてあげる。
すると、すぐに、わらわらと集まって食べ出した。
あっという間に、空になった器が転がるが、それで気が済んだのか、ウサネズミの群れは、少しずつ遠ざかって行った。
「ふー、よかった。 何だったんだろうね」
(うん……)
ココは、何かちょっと、ひっかかっている風だったが、危機は去ったようだし無駄な殺生をせずに済んでよかった。
とりあえず、追手に見つからないように火は使えないし、派手な魔法も避けたい。
自分達の食事も済んだので、早めに寝るべく支度をしよう。
寝る時は、魔法バッグの中に入って寝たいので、木の陰に枝や草木をこんもりと盛って、その中に魔法バッグを隠す。
中に入ってから、ココの魔法防壁を掛けてもらって、わたしがブーストして鉄壁にする。
ちょっと多めに魔力を入れて、鉄壁が長持ちするように頑張ると、一晩は余裕で持ちそうだった。
これで安心して、魔法バッグの中の羽根布団で寝られる。
犬達と、布団に横になりながら考える。
今度、お金に余裕が出来るくらいに稼げたら、小さな小屋でもいいから、買って中に入れてしまおう。
バッグの中だと分かっていても、やはり、屋根や壁がないのは落ち着かないのだ。
翌日、朝食も魔法バッグの中で済ませてから、外に出て自分達の痕跡を消す。
寝ている時は、ハクも小さくなっているので、改めて、大きくなってもらってから出発だ。
観光用冊子の地図を見た限りでは、たぶん、もう少しで最初の町【アウラ】の辺りのはずだ。
でも、そこには立ち寄らず、次の大きな街【ロレンツォ】まで、一気に移動する予定だった。
あまり何度も外で寝たくはないので、多少、ハクにブーストを掛けさせてもらっているが、無理をさせたくもないので、猛スピードという訳にもいかない。
ほどほどに急いで逃げる、という感じである。
木々の木漏れ日や爽やかな風を感じながら、快適にドライブしているようなものだった。
だが、アウラの町の横の、森の中を通り過ぎようと走っていると、町の方角から馬に乗った人が2人、こちらに向かって来るのが見えたのだ。
(もしかして、夜中の間に先回りされた?)
心臓がドクン、ドクン、と早鐘を打ち出す。
今日はまだ、1度しかハクの足にブーストはかけていない。
「ハク、ブーストかけるから、頑張って走ってちょうだいね」
そう言って、前足と後ろ足に2度ずつブーストをかける。
「ココ、念の為に、防壁お願い」
(わかった)
相手が攻撃をしてくるかどうか、見極めてから他は考えよう、今は、とにかく逃げる!
ある程度走って距離を稼いだかと思ったが、索敵していたココが
(マナ、ぜんぜん距離が開かない)
「向こうもブーストしてるのかも、どうしよう」
戦うしかないのかな?
でも、こうして先回りしたり、やすやすと追いついてきたり、結構なやり手っぽい気がする。
勝てるのだろうか?
逡巡している内にも、
(マナ、どんどん近づいてきてる)
と、ココも焦ったように知らせてくれる。
すると、肩のミルクが、突然、遠吠えをし始める。
小さく、長く、透き通るような甲高い声で、
「ゥォォォォォォォォォ────、ゥォォォォォォォォォ─────」
そうこうしているうちにも、どんどん馬の駆ける音が近付いてくる。
もう馬の蹄の音も、すぐ間近に聞こえる。
追い付かれる。
すると、後ろの方で焦ったような男の声がした。
「う、うわっ、なんだ?」
「こ、これは?」
戸惑うような声がした後、馬のいななき暴れる声、
「ヒヒィ─ン!ヒヒヒィ──ン!」
「うわっ、暴れるな、落ち着け!」
「どう、どう!」
そんな声を尻目に、走り続ける。
何が、起こっているのだろう?
ちらり、と振り向くと、おびただしい数のピンクの小動物が、ざわざわと群れて馬と男達を取り囲んでいる。
馬は、怖がって暴れているようだ。
あれは、昨夜のウサネズミ?
わたしは、もう一度気を取り直して、ハクの足にブーストを1度ずつかけると、大きく声をかける。
「ハク! 行くよ!」
「わぉん!」
ハクも最上級のスピードで駆ける、これなら、きっと引き離せるだろう。
かなり走って 走って、ハクもそろそろ限界という所で
「ハク、もういいよ、止まって」
と、声をかけて止まってもらう。
すぐに降りて、回復魔法で呼吸器と、前足、後ろ足の疲労を和らげる。
水を、たっぷり飲ませながら、
「ハク、ありがとうね。 よく頑張ったね、偉いコ」
と、頭を撫でて褒める。
息を切らせながらも、ハクは、まだ楽しそうだ。
普段からワンコ同士で、猛スピードの追いかけっこ遊びするのも大好きだもんね。
ハクにとっては、遊びの延長のような感じなのだろう。
そして、やはり水を飲んでいるココに聞く、
「さっきのって、昨夜ご飯あげたウサネズミだよね? なんで、あんな所に出てきたんだろう?」
(あれは、ミルクが呼んでた)
「へ?」
(ミルクが、昨夜 『ごはんあげる代わりに、呼んだら来てね』ってけいやくしてた)
「そうなの?」
(ミルク、そういう所、ちゃっかりしてるから)
ミルクを見ると、知らん振りで水を飲んでいる。
「ミルクー、そうなの? 昨日のウサネズミさん達、ミルクが呼んでくれたの?」
「 ? 」
可愛く小首を傾げているばかりだが、なるほど、昨夜、話し合っていたように見えたのは、そういう事だったのね、と納得する。
何にしても、危ない所を救ってもらったのだ、いっぱい誉めておこう。
「ミルクちゃん、ありがとね。 すっごく助かったよ、大好きだよ」
なで なで なで なで、
撫でているうちに、ミルクが仰向けになるので、そのまま、お腹も撫で続ける。
なで なで なで なで、
気持ち良さそうに、うっとり目を閉じている。
可愛い。
そのうち、ココとハクも羨ましそうにしているので、二匹も順に撫でまくる。
ワンコ達、凄く役に立ってくれてる、本当に感謝、感謝だ。
「あれが、例のファリニシュか。 いや凄いものだな」
ウサネズミ達を、ようやく追い払って、馬を落ち着けてから、さきほどの光景を振り返る。
追ってきていたのは、昼間、ハンブル領主の館を訪ねていた2人組だった。
「やはり、乗っていたのが?」
「ああ、金の髪の乙女だろう」
2人は、ハンブルの冒険者ギルドから、ファリニシュ・ファミリアの登録証の写しを手に入れていた。
本来なら、機密扱いのはずなのだが、何らかの特権を使ったようだ。
「一緒に過ごしていた交易バーティに、迷惑をかけまいと別れたのだから、反対方面に現れるだろうと予測はしていたが。 まさか、撒かれてしまうとはね」
「どうしますか?」
「次の街に行くまでだよ。 あそこで補給をしなければ、その先は、かなり長い間、街はないからね」
「ロレンツォですか」
「ああ、でも、あそこは広いからな。 上手く隠れられたら厄介かもね」
「急ぎましょう」
「そうだな。 仮にだが万が一、先に王都に入られでもしたら、本当に不味いからね。 何としてでも追いつこう」
「はい」
2人は、また馬に跨り、夜通し駆ける事もできるよう、改めて自分達と馬に回復ブーストをかけ直すのだった。
「は、はい。 それが、なぜ逃げだしたのか見当もつきません。 前日に我が屋敷に招待して、1か月は留まるように申し伝えたのですが。 翌日には、宿を引き払っていなくなっておりまして」
「余計な事でもして、怖がらせたのではないのですか?」
「滅相もない。 楽しく犬の話をしていたまでで」
「噂は聞いていますよ。 犬の事となると、貴殿は目の色が変わるそうではないですか。 おおかた、乙女のつれていた犬でも強請ったのでは?」
「いやいや、そんな事は……」
領主の顔が、どんどん青ざめていく、当たらずとも遠からずと言う所か。
「まぁ、よいでしょう。 して、捜索はかけたのですか?」
「それが、早々に見失いまして。 今は全くの行方知れずでして」
「はぁ~。 一緒にいた者達や、宿の女将の話は?」
「そちらも、頑として口を割らないそうで」
「なるほど、一から探し直しという訳ですね。 よく分かりました。 では領主殿、貴殿には追って沙汰を伝えますので、首を洗って待つように」
「さ、沙汰とは?」
「通達の乙女を保護できずに、ましてや逃げ出すような行いを、何かしたのでしょう? 私に背いたと見越されても、しごく当然なのでは?」
「まさか、そんな事は……」
「言い訳は結構。 では失礼する」
そう言い放ち席を立つのは、美しいプラチナブロンドの髪をなびかせた、碧眼の青年だった。
「行くぞ、セイ」
セイ、と呼び掛けられたのは、同じ年の頃の長い黒髪を後ろで束ねた青年で、従者のようだ。
無言で付き従い、部屋を出て行く。
「お、お待ち下され。 あなた様に背くなどと、そんな大それた事は、全くの濡れ衣と言うもので……」
「言い訳は結構、と言ったはずですよ」
2人の青年が立ち去った後に、残されたハンブル領主であるスタフォード男爵は、がっくりと膝を落とすのであった。
「やれやれ、召使の者に口を割らせたら、あいつ犬欲しさに乙女を妾に、と画策してたそうじゃないか。 なぜ逃げたのか見当もつかないとは、よくも言えた物だね」
碧眼の青年は、呆れたように言い放つと、厩舎に預けていた馬の手綱を引き寄せる。
2人は、マントのフードを目深に被ると、ハンブルの町を後にした。
一方、その頃のマナ達は、森の中で沢山の小動物に取り囲まれていた。
あのあと、追手を撒いてから、ぐるりと遠回りをしつつ、北へと向かっていた。
夜になる前に、目立たない場所で寝床を確保しようと、森の奥へと踏み込んで、ようやく少し開けた場所に降り立つ。
そこで腰を落ち着けて、食事をし始めたところに、いつの間にかウサギのような、ネズミのような、ピンクがかったフワフワの毛の小動物が、そこかしこに現れだした。
「可愛いー」
と、のんきに見ていたら、その数が、どんどん増えて行ったのだ。
ココの索敵の結果、どうも、総勢500匹くらいに囲まれているらしい。
「これは、ヤバいのかな?」
(敵意は感じなかったから、あまり気にしてなかったけど、…増えすぎ)
「だよねー」
ココと話していると、ひときわ大きな個体が前に出てくる。
すると、周りのウサネズミ達も、ジリ、ジリ、と間を狭めてくるようだ。
「どうしよう? これ、戦った方がいいのかな?」
焦っていると、黙って肩に乗っていたミルクが、
ピョンッ
と、大きなウサネズミの前に降り立つ。
「 !? 」
驚いていると、そのままミルクとウサネズミは、鼻先をくんくん嗅ぎ合い、
「うぅー、ぐるる」
「きゅううー」
と、何やら話し合っている様子。
しばらくして、満足したようにミルクが戻ると、
ココが、口を開く、
(マナ、このコ達、お腹が空いてるだけだから、ミルク達のごはん、分けてあげてって)
「え、そうなの?」
(お弁当、5個くらい、出してあげればいいからって)
「う、うん。 分かった」
それくらいで済むなら、お安い物だ。
さっそく、魔法バッグから、犬達用のお弁当を5つ取り出して、ウサネズミ達の前に開けてあげる。
すると、すぐに、わらわらと集まって食べ出した。
あっという間に、空になった器が転がるが、それで気が済んだのか、ウサネズミの群れは、少しずつ遠ざかって行った。
「ふー、よかった。 何だったんだろうね」
(うん……)
ココは、何かちょっと、ひっかかっている風だったが、危機は去ったようだし無駄な殺生をせずに済んでよかった。
とりあえず、追手に見つからないように火は使えないし、派手な魔法も避けたい。
自分達の食事も済んだので、早めに寝るべく支度をしよう。
寝る時は、魔法バッグの中に入って寝たいので、木の陰に枝や草木をこんもりと盛って、その中に魔法バッグを隠す。
中に入ってから、ココの魔法防壁を掛けてもらって、わたしがブーストして鉄壁にする。
ちょっと多めに魔力を入れて、鉄壁が長持ちするように頑張ると、一晩は余裕で持ちそうだった。
これで安心して、魔法バッグの中の羽根布団で寝られる。
犬達と、布団に横になりながら考える。
今度、お金に余裕が出来るくらいに稼げたら、小さな小屋でもいいから、買って中に入れてしまおう。
バッグの中だと分かっていても、やはり、屋根や壁がないのは落ち着かないのだ。
翌日、朝食も魔法バッグの中で済ませてから、外に出て自分達の痕跡を消す。
寝ている時は、ハクも小さくなっているので、改めて、大きくなってもらってから出発だ。
観光用冊子の地図を見た限りでは、たぶん、もう少しで最初の町【アウラ】の辺りのはずだ。
でも、そこには立ち寄らず、次の大きな街【ロレンツォ】まで、一気に移動する予定だった。
あまり何度も外で寝たくはないので、多少、ハクにブーストを掛けさせてもらっているが、無理をさせたくもないので、猛スピードという訳にもいかない。
ほどほどに急いで逃げる、という感じである。
木々の木漏れ日や爽やかな風を感じながら、快適にドライブしているようなものだった。
だが、アウラの町の横の、森の中を通り過ぎようと走っていると、町の方角から馬に乗った人が2人、こちらに向かって来るのが見えたのだ。
(もしかして、夜中の間に先回りされた?)
心臓がドクン、ドクン、と早鐘を打ち出す。
今日はまだ、1度しかハクの足にブーストはかけていない。
「ハク、ブーストかけるから、頑張って走ってちょうだいね」
そう言って、前足と後ろ足に2度ずつブーストをかける。
「ココ、念の為に、防壁お願い」
(わかった)
相手が攻撃をしてくるかどうか、見極めてから他は考えよう、今は、とにかく逃げる!
ある程度走って距離を稼いだかと思ったが、索敵していたココが
(マナ、ぜんぜん距離が開かない)
「向こうもブーストしてるのかも、どうしよう」
戦うしかないのかな?
でも、こうして先回りしたり、やすやすと追いついてきたり、結構なやり手っぽい気がする。
勝てるのだろうか?
逡巡している内にも、
(マナ、どんどん近づいてきてる)
と、ココも焦ったように知らせてくれる。
すると、肩のミルクが、突然、遠吠えをし始める。
小さく、長く、透き通るような甲高い声で、
「ゥォォォォォォォォォ────、ゥォォォォォォォォォ─────」
そうこうしているうちにも、どんどん馬の駆ける音が近付いてくる。
もう馬の蹄の音も、すぐ間近に聞こえる。
追い付かれる。
すると、後ろの方で焦ったような男の声がした。
「う、うわっ、なんだ?」
「こ、これは?」
戸惑うような声がした後、馬のいななき暴れる声、
「ヒヒィ─ン!ヒヒヒィ──ン!」
「うわっ、暴れるな、落ち着け!」
「どう、どう!」
そんな声を尻目に、走り続ける。
何が、起こっているのだろう?
ちらり、と振り向くと、おびただしい数のピンクの小動物が、ざわざわと群れて馬と男達を取り囲んでいる。
馬は、怖がって暴れているようだ。
あれは、昨夜のウサネズミ?
わたしは、もう一度気を取り直して、ハクの足にブーストを1度ずつかけると、大きく声をかける。
「ハク! 行くよ!」
「わぉん!」
ハクも最上級のスピードで駆ける、これなら、きっと引き離せるだろう。
かなり走って 走って、ハクもそろそろ限界という所で
「ハク、もういいよ、止まって」
と、声をかけて止まってもらう。
すぐに降りて、回復魔法で呼吸器と、前足、後ろ足の疲労を和らげる。
水を、たっぷり飲ませながら、
「ハク、ありがとうね。 よく頑張ったね、偉いコ」
と、頭を撫でて褒める。
息を切らせながらも、ハクは、まだ楽しそうだ。
普段からワンコ同士で、猛スピードの追いかけっこ遊びするのも大好きだもんね。
ハクにとっては、遊びの延長のような感じなのだろう。
そして、やはり水を飲んでいるココに聞く、
「さっきのって、昨夜ご飯あげたウサネズミだよね? なんで、あんな所に出てきたんだろう?」
(あれは、ミルクが呼んでた)
「へ?」
(ミルクが、昨夜 『ごはんあげる代わりに、呼んだら来てね』ってけいやくしてた)
「そうなの?」
(ミルク、そういう所、ちゃっかりしてるから)
ミルクを見ると、知らん振りで水を飲んでいる。
「ミルクー、そうなの? 昨日のウサネズミさん達、ミルクが呼んでくれたの?」
「 ? 」
可愛く小首を傾げているばかりだが、なるほど、昨夜、話し合っていたように見えたのは、そういう事だったのね、と納得する。
何にしても、危ない所を救ってもらったのだ、いっぱい誉めておこう。
「ミルクちゃん、ありがとね。 すっごく助かったよ、大好きだよ」
なで なで なで なで、
撫でているうちに、ミルクが仰向けになるので、そのまま、お腹も撫で続ける。
なで なで なで なで、
気持ち良さそうに、うっとり目を閉じている。
可愛い。
そのうち、ココとハクも羨ましそうにしているので、二匹も順に撫でまくる。
ワンコ達、凄く役に立ってくれてる、本当に感謝、感謝だ。
「あれが、例のファリニシュか。 いや凄いものだな」
ウサネズミ達を、ようやく追い払って、馬を落ち着けてから、さきほどの光景を振り返る。
追ってきていたのは、昼間、ハンブル領主の館を訪ねていた2人組だった。
「やはり、乗っていたのが?」
「ああ、金の髪の乙女だろう」
2人は、ハンブルの冒険者ギルドから、ファリニシュ・ファミリアの登録証の写しを手に入れていた。
本来なら、機密扱いのはずなのだが、何らかの特権を使ったようだ。
「一緒に過ごしていた交易バーティに、迷惑をかけまいと別れたのだから、反対方面に現れるだろうと予測はしていたが。 まさか、撒かれてしまうとはね」
「どうしますか?」
「次の街に行くまでだよ。 あそこで補給をしなければ、その先は、かなり長い間、街はないからね」
「ロレンツォですか」
「ああ、でも、あそこは広いからな。 上手く隠れられたら厄介かもね」
「急ぎましょう」
「そうだな。 仮にだが万が一、先に王都に入られでもしたら、本当に不味いからね。 何としてでも追いつこう」
「はい」
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