異世界わんこ

洋里

文字の大きさ
17 / 19
第二章

ウサネズミ

しおりを挟む
「それで、金の髪の乙女は逃げたと? どういう事でしょうか? 領主殿」
「は、はい。 それが、なぜ逃げだしたのか見当もつきません。 前日に我が屋敷に招待して、1か月は留まるように申し伝えたのですが。 翌日には、宿を引き払っていなくなっておりまして」
「余計な事でもして、怖がらせたのではないのですか?」
滅相めっそうもない。 楽しく犬の話をしていたまでで」
「噂は聞いていますよ。 犬の事となると、貴殿は目の色が変わるそうではないですか。 おおかた、乙女のつれていた犬でも強請ねだったのでは?」
「いやいや、そんな事は……」
 領主の顔が、どんどん青ざめていく、当たらずとも遠からずと言う所か。
「まぁ、よいでしょう。 して、捜索はかけたのですか?」
「それが、早々に見失いまして。 今は全くの行方知れずでして」
「はぁ~。 一緒にいた者達や、宿の女将の話は?」
「そちらも、頑として口を割らないそうで」
「なるほど、一から探し直しという訳ですね。 よく分かりました。 では領主殿、貴殿には追って沙汰を伝えますので、首を洗って待つように」
「さ、沙汰とは?」
「通達の乙女を保護できずに、ましてや逃げ出すような行いを、何かしたのでしょう? 私に背いたと見越されても、しごく当然なのでは?」
「まさか、そんな事は……」
「言い訳は結構。 では失礼する」
 そう言い放ち席を立つのは、美しいプラチナブロンドの髪をなびかせた、碧眼へきがんの青年だった。
「行くぞ、セイ」
 セイ、と呼び掛けられたのは、同じ年の頃の長い黒髪を後ろで束ねた青年で、従者のようだ。
 無言で付き従い、部屋を出て行く。
「お、お待ち下され。 あなた様に背くなどと、そんな大それた事は、全くの濡れ衣と言うもので……」
「言い訳は結構、と言ったはずですよ」
 2人の青年が立ち去った後に、残されたハンブル領主であるスタフォード男爵は、がっくりと膝を落とすのであった。

「やれやれ、召使の者に口を割らせたら、あいつ犬欲しさに乙女を妾に、と画策してたそうじゃないか。 なぜ逃げたのか見当もつかないとは、よくも言えた物だね」
 碧眼の青年は、あきれたように言い放つと、厩舎に預けていた馬の手綱を引き寄せる。
 2人は、マントのフードを目深に被ると、ハンブルの町を後にした。

 一方、その頃のマナ達は、森の中で沢山の小動物に取り囲まれていた。
 あのあと、追手を撒いてから、ぐるりと遠回りをしつつ、北へと向かっていた。
 夜になる前に、目立たない場所で寝床を確保しようと、森の奥へと踏み込んで、ようやく少し開けた場所に降り立つ。
 そこで腰を落ち着けて、食事をし始めたところに、いつの間にかウサギのような、ネズミのような、ピンクがかったフワフワの毛の小動物が、そこかしこに現れだした。
「可愛いー」
と、のんきに見ていたら、その数が、どんどん増えて行ったのだ。
 ココの索敵の結果、どうも、総勢500匹くらいに囲まれているらしい。
「これは、ヤバいのかな?」
(敵意は感じなかったから、あまり気にしてなかったけど、…増えすぎ)
「だよねー」
 ココと話していると、ひときわ大きな個体が前に出てくる。
 すると、周りのウサネズミ達も、ジリ、ジリ、と間を狭めてくるようだ。
「どうしよう? これ、戦った方がいいのかな?」
 焦っていると、黙って肩に乗っていたミルクが、
 ピョンッ
と、大きなウサネズミの前に降り立つ。
「 !? 」
 驚いていると、そのままミルクとウサネズミは、鼻先をくんくん嗅ぎ合い、
「うぅー、ぐるる」
「きゅううー」
と、何やら話し合っている様子。
 しばらくして、満足したようにミルクが戻ると、
 ココが、口を開く、
(マナ、このコ達、お腹が空いてるだけだから、ミルク達のごはん、分けてあげてって)
「え、そうなの?」
(お弁当、5個くらい、出してあげればいいからって)
「う、うん。 分かった」
 それくらいで済むなら、お安い物だ。
 さっそく、魔法バッグから、犬達用のお弁当を5つ取り出して、ウサネズミ達の前に開けてあげる。
 すると、すぐに、わらわらと集まって食べ出した。
 あっという間に、空になった器が転がるが、それで気が済んだのか、ウサネズミの群れは、少しずつ遠ざかって行った。
「ふー、よかった。 何だったんだろうね」
(うん……)
 ココは、何かちょっと、ひっかかっている風だったが、危機は去ったようだし無駄な殺生をせずに済んでよかった。
 とりあえず、追手に見つからないように火は使えないし、派手な魔法も避けたい。
 自分達の食事も済んだので、早めに寝るべく支度をしよう。
 寝る時は、魔法バッグの中に入って寝たいので、木の陰に枝や草木をこんもりと盛って、その中に魔法バッグを隠す。
 中に入ってから、ココの魔法防壁を掛けてもらって、わたしがブーストして鉄壁にする。
 ちょっと多めに魔力を入れて、鉄壁が長持ちするように頑張ると、一晩は余裕で持ちそうだった。
 これで安心して、魔法バッグの中の羽根布団で寝られる。
 犬達と、布団に横になりながら考える。
 今度、お金に余裕が出来るくらいに稼げたら、小さな小屋でもいいから、買って中に入れてしまおう。
 バッグの中だと分かっていても、やはり、屋根や壁がないのは落ち着かないのだ。

 翌日、朝食も魔法バッグの中で済ませてから、外に出て自分達の痕跡を消す。
 寝ている時は、ハクも小さくなっているので、改めて、大きくなってもらってから出発だ。
 観光用冊子の地図を見た限りでは、たぶん、もう少しで最初の町【アウラ】の辺りのはずだ。
 でも、そこには立ち寄らず、次の大きな街【ロレンツォ】まで、一気に移動する予定だった。
 あまり何度も外で寝たくはないので、多少、ハクにブーストを掛けさせてもらっているが、無理をさせたくもないので、猛スピードという訳にもいかない。
 ほどほどに急いで逃げる、という感じである。
 木々の木漏れ日や爽やかな風を感じながら、快適にドライブしているようなものだった。

 だが、アウラの町の横の、森の中を通り過ぎようと走っていると、町の方角から馬に乗った人が2人、こちらに向かって来るのが見えたのだ。
(もしかして、夜中の間に先回りされた?)
 心臓がドクン、ドクン、と早鐘を打ち出す。
 今日はまだ、1度しかハクの足にブーストはかけていない。
「ハク、ブーストかけるから、頑張って走ってちょうだいね」
 そう言って、前足と後ろ足に2度ずつブーストをかける。
「ココ、念の為に、防壁お願い」
(わかった)
 相手が攻撃をしてくるかどうか、見極めてから他は考えよう、今は、とにかく逃げる!
 ある程度走って距離を稼いだかと思ったが、索敵していたココが
(マナ、ぜんぜん距離が開かない)
「向こうもブーストしてるのかも、どうしよう」
 戦うしかないのかな?
 でも、こうして先回りしたり、やすやすと追いついてきたり、結構なやり手っぽい気がする。
 勝てるのだろうか?
 逡巡しゅんじゅんしている内にも、
(マナ、どんどん近づいてきてる)
と、ココも焦ったように知らせてくれる。
 すると、肩のミルクが、突然、遠吠えをし始める。
 小さく、長く、透き通るような甲高い声で、

「ゥォォォォォォォォォ────、ゥォォォォォォォォォ─────」

 そうこうしているうちにも、どんどん馬の駆ける音が近付いてくる。
 もう馬の蹄の音も、すぐ間近に聞こえる。

 追い付かれる。

 すると、後ろの方で焦ったような男の声がした。
「う、うわっ、なんだ?」
「こ、これは?」
 戸惑うような声がした後、馬のいななき暴れる声、
「ヒヒィ─ン!ヒヒヒィ──ン!」
「うわっ、暴れるな、落ち着け!」
「どう、どう!」
 そんな声を尻目に、走り続ける。
 何が、起こっているのだろう?
 ちらり、と振り向くと、おびただしい数のピンクの小動物が、ざわざわと群れて馬と男達を取り囲んでいる。
 馬は、怖がって暴れているようだ。
 あれは、昨夜のウサネズミ?
 わたしは、もう一度気を取り直して、ハクの足にブーストを1度ずつかけると、大きく声をかける。
「ハク! 行くよ!」
「わぉん!」
 ハクも最上級のスピードで駆ける、これなら、きっと引き離せるだろう。

 かなり走って 走って、ハクもそろそろ限界という所で
「ハク、もういいよ、止まって」
と、声をかけて止まってもらう。
 すぐに降りて、回復魔法で呼吸器と、前足、後ろ足の疲労を和らげる。
 水を、たっぷり飲ませながら、
「ハク、ありがとうね。 よく頑張ったね、偉いコ」
と、頭を撫でて褒める。
 息を切らせながらも、ハクは、まだ楽しそうだ。
 普段からワンコ同士で、猛スピードの追いかけっこ遊びするのも大好きだもんね。
 ハクにとっては、遊びの延長のような感じなのだろう。
 そして、やはり水を飲んでいるココに聞く、
「さっきのって、昨夜ご飯あげたウサネズミだよね? なんで、あんな所に出てきたんだろう?」
(あれは、ミルクが呼んでた)
「へ?」
(ミルクが、昨夜 『ごはんあげる代わりに、呼んだら来てね』ってけいやくしてた)
「そうなの?」
(ミルク、そういう所、ちゃっかりしてるから)
 ミルクを見ると、知らん振りで水を飲んでいる。
「ミルクー、そうなの? 昨日のウサネズミさん達、ミルクが呼んでくれたの?」
「 ? 」
 可愛く小首を傾げているばかりだが、なるほど、昨夜、話し合っていたように見えたのは、そういう事だったのね、と納得する。
 何にしても、危ない所を救ってもらったのだ、いっぱい誉めておこう。
「ミルクちゃん、ありがとね。 すっごく助かったよ、大好きだよ」

 なで なで なで なで、

 撫でているうちに、ミルクが仰向けになるので、そのまま、お腹も撫で続ける。

 なで なで なで なで、

 気持ち良さそうに、うっとり目を閉じている。
 可愛い。
 そのうち、ココとハクも羨ましそうにしているので、二匹も順に撫でまくる。
 ワンコ達、凄く役に立ってくれてる、本当に感謝、感謝だ。



「あれが、例のファリニシュか。 いや凄いものだな」
 ウサネズミ達を、ようやく追い払って、馬を落ち着けてから、さきほどの光景を振り返る。
 追ってきていたのは、昼間、ハンブル領主の館を訪ねていた2人組だった。
「やはり、乗っていたのが?」
「ああ、金の髪の乙女だろう」
 2人は、ハンブルの冒険者ギルドから、ファリニシュ・ファミリアの登録証の写しを手に入れていた。
 本来なら、機密扱いのはずなのだが、何らかの特権を使ったようだ。
「一緒に過ごしていた交易バーティに、迷惑をかけまいと別れたのだから、反対方面に現れるだろうと予測はしていたが。 まさか、撒かれてしまうとはね」
「どうしますか?」
「次の街に行くまでだよ。 あそこで補給をしなければ、その先は、かなり長い間、街はないからね」
「ロレンツォですか」
「ああ、でも、あそこは広いからな。 上手く隠れられたら厄介かもね」
「急ぎましょう」
「そうだな。 仮にだが万が一、先に王都に入られでもしたら、本当に不味いからね。 何としてでも追いつこう」
「はい」
 2人は、また馬にまたがり、夜通し駆ける事もできるよう、改めて自分達と馬に回復ブーストをかけ直すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

処理中です...