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第二章
追いつ追われつ
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翌日、また夜通し駆け続けて、ロレンツォの街に着いた青年二人は、宿を取り馬達を厩舎に入れて休ませると、自分達はそのまま街へと出て行く。
プラチナブロンドの青年はロレンツォのギルドへ、セイと呼ばれていた黒髪の青年は、街の宿をしらみつぶしに訪ね歩く。
しかしどちらでも、芳しい成果は得られなかった。
訪ねた全ての宿に、該当する人物が現れたら、その場に引止め、自分たちの泊まる宿に報せを送るよう頼むと、一旦宿に戻る事にする。
途中、持ち帰りの食事と、エールの小瓶を2本購入してから、宿の部屋に入ると、既にもう一人の青年はベッドで眠りこけていた。
セイは、テーブルの上に買ってきた食事と酒を置くと、バスルームでシャワーを浴びはじめた。
ザァッ、
と、頭から温かい湯を浴びながら、彼は考えていた。
(この街の宿は全て回ったはずなのに、彼女が現れた痕跡はない。 宿には泊まらずに過ごしているのだろうか?)
もし、自分達をハンブル領主の追手だと勘違いして、警戒するがゆえに野宿でもしているのだとしたら?
一刻も早く見付けなければ、あらぬ危険に晒されるかもしれない。
「金の髪の、乙女」
そう呟くと、拳を小さく壁に打ちつける。
シャワーから出て、髪を乾かすのもそこそこに、食事だけを軽く済ませてまた出かけようとしていると、寝ていたはずのベッドから、主に声をかけられる。
「セイ、今から出てどうする?」
「フレッド……。 街の人間に聞いて歩けば、何か手がかりが得られるのでは、と」
「最初に入り口の関所。 ギルドと街中の宿、これだけ押さえて、他にどこに手がかりが出るのさ?」
「宿には泊まらず、野宿でもしているなら、危険かと思いまして」
「それでも、僕達だってもう二日寝ずに走り続けてきたんだ、回復とブーストで凌いではいるけど、さすがに、そろそろちゃんと休まなきゃ倒れるよ」
「ですが……」
「心配なのは分かるけど、上手に隠れてるなら、長丁場になる覚悟も必要だろ。 まずは休んで、あの金色ちゃんを見付けた時に、今度こそちゃんと捉まえてあげなきゃ、ね」
「………わかりました」
「うん、結構。 ところで、いい匂いがするね。 食事を調達してきてくれたのか?」
「はい、持ち帰りの食事のセットと、酒を」
「気が利くじゃないか。 ありがとう、セイ。 お前も少し飲んで、ベッドに入った方がいい」
「そうですね、ではグラスを借りてきます」
「いや、いい。 瓶から直接飲めるよ。 さぁ、じゃあいただこうか」
そうして、フレッドと呼ばれたプラチナブロンドの青年は、ぐいっとエールをまず呷ると食事をし始めた。
黒髪の青年も、もう一本のエールを一気に飲み干すと、隣のベッドへ倒れ込むように横たわり、あっという間に眠りにつく。
「ほらね、疲れが溜まり過ぎてちゃ、金色ちゃんに追いつけないからね」
一方、二人を撒いた後のマナ達は、どうしていたかというと。
ロレンツォの街、ではなく、その手前の小さな町、アウラで地元の農家のおじいさんとお茶を飲みつつ、ある交渉をしていた。
「いやいや、あれはもう十数年も空き家のままなんでなぁ、中の家具ごと撤去してくれるってんなら、こっちから少し支払いするべさぁ」
「いえいえ、ですから、タダで貰ってしまう訳にはいきませんので、何とか相場のお代をお支払いさせて下さい」
「相場ってもなぁ、それこそ撤去の費用はぜーんぶひっくるめて150万はかかるってんで、ずっと放っておいてるんだでなぁ」
「えーっと、ですから、撤去はするんですが、家具付きで家丸ごと買取りたいんですったらぁ」
「んだから、撤去してくれんだべさ? だったらこっちから、わずかでも払わねぇと」
「いやいや、そうじゃないんですってー」
お茶を飲みつつ、延々と、この繰り返しをしているのである。
犬達は、ずっと待たされているので、足元でみんな寝てしまっている。
あのあと、そのままロレンツォに向かっても、また追い付かれるのが関の山だろうと、ぐるりと、また遠回りをしてアウラの町まで戻ってきたのだ。
アウラは、ハンブルの町がレンガの壁で囲まれていたのと違い、頼りない木の柵で取り囲まれた小さな町だった。
その柵の外側に、広い農地が広がっており、町の人々のほとんどが、農業をして暮らしている。
形ばかりの入り口の関所も、農業をリタイヤしたおばあさん達が、持ち回りで受け持っていた。
町の入り口の少し手前で、ハクに小さくなってもらうと、身分証明のギルドカードを出して関所を通るのだが、今日の担当おばあちゃんは、ちゃんと見えているのかも怪しい感じだった。
パッと見て、書類に判を押して、
「はい、いらっしゃい」
で、すぐに通してもらえる。
ハンブルではコータが、もう少し滞在日数とか、町での目的とか聞かれていたのだが、いいのかな? と思いつつも、
「おじゃまします」
と、頭を下げて通りすぎる。
とりあえず、町に入ってすぐ目の前が “農業寄合所” と看板が出ていて、そこに掲示板があったので眺めて見ると【今月の寄合いのお知らせ】だとか【町の交易品販売日のお知らせ】だとかの並びに【不動産案内】というのが貼ってあったのだ。
「空き家や空き倉庫。 これ、売ってもらえるのかな?」
木造の寄合所の中を覗いてみると、事務員のような中年の女性が一人、受付に座っていた。
そこで、いくつかの物件を紹介してもらったのだが、ここに住んで使うのではなく、建物のうわものだけが欲しい、というのが分かると、
「だったら、ちょっと話が違ってくるからさ。 空き家を撤去したいって人を紹介するから」
と、教えて貰ったのが、今、縁側のような窓際のフチに腰掛けて、一緒にお茶を飲んでいる、このおじいちゃんなのである。
そして、小一時間ほどだろうか、撤去費用と買取りの額で揉めにもめているのだが、お互いに相手に支払いたい、で譲らない。
「あんたも頑固だねぇ」
「おじいちゃんだって、頑固じゃないですかー」
もう、お茶のお替わりも3杯目である。
「分かった、分かった。 じゃあ、こうしようじゃないかい」
「なんでしょう?」
「あんた、とうきび好きかね?」
「とうきびってとうもろこし? 好きですね」
「じゃあ、アスパラは?」
「大好きです」
「あとは、ジャガイモ」
「好物です」
「じゃあ、そのへん全部おれんとこで作ってっから、撤去費用取らねんなら、現物でそのへんの野菜あげっから」
「明日の朝っから農地さ行って、一緒に取ってもらっから、その労働力をあんたは払うってのはどうだ?」
「 ??? うーん、まだ何だか、わたしの方がすごく得しちゃうような気がするんですが」
「まぁ、まぁ、いいから。 今日は、おれんとこの姪っこがやってる民宿さ泊まれ? 宿は決めてねぇべ?」
「はい、まだです。 助かります」
「んじゃあ、決まりな。 どれ、案内すっから」
そうして、ようやく二人で腰を上げ、おじいさんの姪っこのやっているという、民宿に連れて行ってもらう事になった。
その民宿で、美味しい猪肉の鍋のような料理を食べさせてもらい、おじいちゃんの作ったという野菜も、バーニャカウダで味わえた。
大きなお風呂で汗を流して、ベッドで、ゆっくりと休ませてもらう。
しかし、翌朝、起こされたのは、夜も明けきらぬ午前4時だった。
早めに寝たとは言え、まだ薄暗い。
ぼーっとしながらも、朝ご飯をいただき、おじいちゃんの農地へと、馬車の荷台に乗って送ってもらう。
農地に着いた頃には、もう日は差し始めていたが、おじいちゃんは既に収穫作業を始めている。
「おう、よぐ来たな。 んじゃ、こっち側のとうきびから頼む。 上のヒゲが茶色いのが熟してっから、もいで荷台に運んでくれ」
「……はい」
犬達は周りではしゃいでいたが、次第に飽きて、そばの草っぱらで適当に休んでいる。
黙々と茶色いヒゲのとうきびを収穫しては、荷台に運ぶを繰り返し、2時間もすると、今度はジャガイモを任された。
結局午前中いっぱい、ずっと収穫作業をしていたので、すっかり腕も足も腰もだるくなっている。
「そろそろ昼休憩だぁ、こっちで一緒に弁当食おう」
物置小屋の日陰の敷物が敷かれた上で、民宿の姪っこさんが置いて行ってくれた、お弁当を食べる。
冷たい麦茶とトウキビパン、アスパラのバターソテーに、ジャガイモや玉ねぎや色々な野菜の入ったスープ、どれも素材の味が濃くてすごくおいしかった。
そうして休憩をしていると、おじいちゃんが言った。
「午前中の収穫分で、あんたが持って行けるだけ持ってってくれ。 そんで、あの空き家を撤去してくれれば、それでいいにすんべ。 こんだけ働いたら、あんたも気が済んだろ」
そうして悪戯っぽく、にやにやと笑っている。
「確かに、もうへとへとですけど。 でも、いいんでしょうか?」
「いんだ。 こっちは助かる事ばっかだ」
「……わかりました。 じゃあ、ありがたく、お野菜もあの空き家も、いただいて行きます」
「ふあっははははは、やーっと納得したか。 いやぁ、よかった、よかった」
そうしてわたしは、沢山のお野菜と、家具付きの空き家を1軒、手に入れたのだった。
結局、その後は野菜満載の荷台にまた乗って、民宿に戻ってくると、お風呂に入って夕方まで寝てしまった。
さすがに4時起きで昼まで重労働だったので、慣れていないせいもあってか起きていられなかった。
夕方起きて姪っ子さんに声をかけると、おじいちゃんに言われているから、と撤去予定の空き家まで案内してもらう。
十数年放っておいた、とは言っていたが、実はこれ、建てられてから、誰も住むことなく十数年放っておかれてる物件なのだった。
どうして、そんな勿体ない事になっているのかというと。
おじいちゃん曰く、息子夫婦のせいである、と。
おじいちゃんの連れ合いである、奥さんが16年前に亡くなって、1人暮らしになったおじいちゃんを、心配した別の街に住む1人息子が、一緒に住もう、と家族に相談も碌にせずに家を建ててしまった。
結果、息子の嫁と揉めにもめて、
「アウラなんて不便な所に住むなら、離縁します」
とまで言われてしまい。
「大体あいつは、仕事にどうやって毎日通うつもりでいたんだか。 馬で駆けても数時間はかかるし、俺ぁてっきり農業を継ぐもんだと思い込んでたら、むこうの仕事は続けるって言うしなぁ。 まぁ、こっちで住むなんて無理だろう」
結局、新品の家具付きの家が残されて、おじいちゃんも、住み慣れた自分の今までの家を離れる気にもなれず、そのまま十数年経ってしまったと。
そりゃあ、撤去もし辛いだろう。
しかし、息子夫婦と孫達が里帰りをする度に、あの家に関しては無かった事になっているので、話題にも出せず。
微妙に、息子が肩身の狭い思いをしている、と。
そういう訳で、手に入った一戸建て。
ありがたく、魔法バッグの中に入れさせていただこう。
さて、無事に家を手に入れてしまった訳だが、バッグの中に入れてから、点検してみる事にする。
正直、寝る時に屋根と壁が欲しかっただけなので、特にこだわりはなかったのだけど、調べてみると、かなりいい物件だったみたい。
一階はリビング12畳、キッチン、浴室、トイレ、客間に出来そうな10畳程の部屋。
2階はやはり、10畳程の部屋が3つに、シャワー室とトイレ。
そして地下には、倉庫として使えそうな広い部屋が2つ。
しかも、全室家具付きなので申し分ない。
すぐに普通に暮らせそう。
ちなみに、トイレは魔道具になっていて、有機農法をやっているおじいちゃんの農地の肥溜めに、モノが移動するようになっていた。
水道は、さすがにどこにも繋がっていないので、蛇口をひねっても水は出てこない。
これは、そのうち何とかしたいなぁ、とりあえず、アニタさんに持たせてもらったお水のタンクがあるから、あるていどはそれで何とかしよう。
お風呂、せっかくあるんだから使えるようにしたいな。
灯りは、魔道具のランプが全ての部屋に設置してあった。
これは、ちょっとだけ魔力を補充しておけば、生活魔法の火が灯るという、割とよく見かけるマジックアイテムだ。
ひと通り点検しつつ、洗浄魔法でざっと掃除して、以前に入れていた荷物を整理したところで、今日はもう民宿に戻る事にする。
そういえば明日は、掲示板に貼り出されていた交易品の販売日だったな、せっかくだから、何かいい物があるか覗きに行ってみよう。
プラチナブロンドの青年はロレンツォのギルドへ、セイと呼ばれていた黒髪の青年は、街の宿をしらみつぶしに訪ね歩く。
しかしどちらでも、芳しい成果は得られなかった。
訪ねた全ての宿に、該当する人物が現れたら、その場に引止め、自分たちの泊まる宿に報せを送るよう頼むと、一旦宿に戻る事にする。
途中、持ち帰りの食事と、エールの小瓶を2本購入してから、宿の部屋に入ると、既にもう一人の青年はベッドで眠りこけていた。
セイは、テーブルの上に買ってきた食事と酒を置くと、バスルームでシャワーを浴びはじめた。
ザァッ、
と、頭から温かい湯を浴びながら、彼は考えていた。
(この街の宿は全て回ったはずなのに、彼女が現れた痕跡はない。 宿には泊まらずに過ごしているのだろうか?)
もし、自分達をハンブル領主の追手だと勘違いして、警戒するがゆえに野宿でもしているのだとしたら?
一刻も早く見付けなければ、あらぬ危険に晒されるかもしれない。
「金の髪の、乙女」
そう呟くと、拳を小さく壁に打ちつける。
シャワーから出て、髪を乾かすのもそこそこに、食事だけを軽く済ませてまた出かけようとしていると、寝ていたはずのベッドから、主に声をかけられる。
「セイ、今から出てどうする?」
「フレッド……。 街の人間に聞いて歩けば、何か手がかりが得られるのでは、と」
「最初に入り口の関所。 ギルドと街中の宿、これだけ押さえて、他にどこに手がかりが出るのさ?」
「宿には泊まらず、野宿でもしているなら、危険かと思いまして」
「それでも、僕達だってもう二日寝ずに走り続けてきたんだ、回復とブーストで凌いではいるけど、さすがに、そろそろちゃんと休まなきゃ倒れるよ」
「ですが……」
「心配なのは分かるけど、上手に隠れてるなら、長丁場になる覚悟も必要だろ。 まずは休んで、あの金色ちゃんを見付けた時に、今度こそちゃんと捉まえてあげなきゃ、ね」
「………わかりました」
「うん、結構。 ところで、いい匂いがするね。 食事を調達してきてくれたのか?」
「はい、持ち帰りの食事のセットと、酒を」
「気が利くじゃないか。 ありがとう、セイ。 お前も少し飲んで、ベッドに入った方がいい」
「そうですね、ではグラスを借りてきます」
「いや、いい。 瓶から直接飲めるよ。 さぁ、じゃあいただこうか」
そうして、フレッドと呼ばれたプラチナブロンドの青年は、ぐいっとエールをまず呷ると食事をし始めた。
黒髪の青年も、もう一本のエールを一気に飲み干すと、隣のベッドへ倒れ込むように横たわり、あっという間に眠りにつく。
「ほらね、疲れが溜まり過ぎてちゃ、金色ちゃんに追いつけないからね」
一方、二人を撒いた後のマナ達は、どうしていたかというと。
ロレンツォの街、ではなく、その手前の小さな町、アウラで地元の農家のおじいさんとお茶を飲みつつ、ある交渉をしていた。
「いやいや、あれはもう十数年も空き家のままなんでなぁ、中の家具ごと撤去してくれるってんなら、こっちから少し支払いするべさぁ」
「いえいえ、ですから、タダで貰ってしまう訳にはいきませんので、何とか相場のお代をお支払いさせて下さい」
「相場ってもなぁ、それこそ撤去の費用はぜーんぶひっくるめて150万はかかるってんで、ずっと放っておいてるんだでなぁ」
「えーっと、ですから、撤去はするんですが、家具付きで家丸ごと買取りたいんですったらぁ」
「んだから、撤去してくれんだべさ? だったらこっちから、わずかでも払わねぇと」
「いやいや、そうじゃないんですってー」
お茶を飲みつつ、延々と、この繰り返しをしているのである。
犬達は、ずっと待たされているので、足元でみんな寝てしまっている。
あのあと、そのままロレンツォに向かっても、また追い付かれるのが関の山だろうと、ぐるりと、また遠回りをしてアウラの町まで戻ってきたのだ。
アウラは、ハンブルの町がレンガの壁で囲まれていたのと違い、頼りない木の柵で取り囲まれた小さな町だった。
その柵の外側に、広い農地が広がっており、町の人々のほとんどが、農業をして暮らしている。
形ばかりの入り口の関所も、農業をリタイヤしたおばあさん達が、持ち回りで受け持っていた。
町の入り口の少し手前で、ハクに小さくなってもらうと、身分証明のギルドカードを出して関所を通るのだが、今日の担当おばあちゃんは、ちゃんと見えているのかも怪しい感じだった。
パッと見て、書類に判を押して、
「はい、いらっしゃい」
で、すぐに通してもらえる。
ハンブルではコータが、もう少し滞在日数とか、町での目的とか聞かれていたのだが、いいのかな? と思いつつも、
「おじゃまします」
と、頭を下げて通りすぎる。
とりあえず、町に入ってすぐ目の前が “農業寄合所” と看板が出ていて、そこに掲示板があったので眺めて見ると【今月の寄合いのお知らせ】だとか【町の交易品販売日のお知らせ】だとかの並びに【不動産案内】というのが貼ってあったのだ。
「空き家や空き倉庫。 これ、売ってもらえるのかな?」
木造の寄合所の中を覗いてみると、事務員のような中年の女性が一人、受付に座っていた。
そこで、いくつかの物件を紹介してもらったのだが、ここに住んで使うのではなく、建物のうわものだけが欲しい、というのが分かると、
「だったら、ちょっと話が違ってくるからさ。 空き家を撤去したいって人を紹介するから」
と、教えて貰ったのが、今、縁側のような窓際のフチに腰掛けて、一緒にお茶を飲んでいる、このおじいちゃんなのである。
そして、小一時間ほどだろうか、撤去費用と買取りの額で揉めにもめているのだが、お互いに相手に支払いたい、で譲らない。
「あんたも頑固だねぇ」
「おじいちゃんだって、頑固じゃないですかー」
もう、お茶のお替わりも3杯目である。
「分かった、分かった。 じゃあ、こうしようじゃないかい」
「なんでしょう?」
「あんた、とうきび好きかね?」
「とうきびってとうもろこし? 好きですね」
「じゃあ、アスパラは?」
「大好きです」
「あとは、ジャガイモ」
「好物です」
「じゃあ、そのへん全部おれんとこで作ってっから、撤去費用取らねんなら、現物でそのへんの野菜あげっから」
「明日の朝っから農地さ行って、一緒に取ってもらっから、その労働力をあんたは払うってのはどうだ?」
「 ??? うーん、まだ何だか、わたしの方がすごく得しちゃうような気がするんですが」
「まぁ、まぁ、いいから。 今日は、おれんとこの姪っこがやってる民宿さ泊まれ? 宿は決めてねぇべ?」
「はい、まだです。 助かります」
「んじゃあ、決まりな。 どれ、案内すっから」
そうして、ようやく二人で腰を上げ、おじいさんの姪っこのやっているという、民宿に連れて行ってもらう事になった。
その民宿で、美味しい猪肉の鍋のような料理を食べさせてもらい、おじいちゃんの作ったという野菜も、バーニャカウダで味わえた。
大きなお風呂で汗を流して、ベッドで、ゆっくりと休ませてもらう。
しかし、翌朝、起こされたのは、夜も明けきらぬ午前4時だった。
早めに寝たとは言え、まだ薄暗い。
ぼーっとしながらも、朝ご飯をいただき、おじいちゃんの農地へと、馬車の荷台に乗って送ってもらう。
農地に着いた頃には、もう日は差し始めていたが、おじいちゃんは既に収穫作業を始めている。
「おう、よぐ来たな。 んじゃ、こっち側のとうきびから頼む。 上のヒゲが茶色いのが熟してっから、もいで荷台に運んでくれ」
「……はい」
犬達は周りではしゃいでいたが、次第に飽きて、そばの草っぱらで適当に休んでいる。
黙々と茶色いヒゲのとうきびを収穫しては、荷台に運ぶを繰り返し、2時間もすると、今度はジャガイモを任された。
結局午前中いっぱい、ずっと収穫作業をしていたので、すっかり腕も足も腰もだるくなっている。
「そろそろ昼休憩だぁ、こっちで一緒に弁当食おう」
物置小屋の日陰の敷物が敷かれた上で、民宿の姪っこさんが置いて行ってくれた、お弁当を食べる。
冷たい麦茶とトウキビパン、アスパラのバターソテーに、ジャガイモや玉ねぎや色々な野菜の入ったスープ、どれも素材の味が濃くてすごくおいしかった。
そうして休憩をしていると、おじいちゃんが言った。
「午前中の収穫分で、あんたが持って行けるだけ持ってってくれ。 そんで、あの空き家を撤去してくれれば、それでいいにすんべ。 こんだけ働いたら、あんたも気が済んだろ」
そうして悪戯っぽく、にやにやと笑っている。
「確かに、もうへとへとですけど。 でも、いいんでしょうか?」
「いんだ。 こっちは助かる事ばっかだ」
「……わかりました。 じゃあ、ありがたく、お野菜もあの空き家も、いただいて行きます」
「ふあっははははは、やーっと納得したか。 いやぁ、よかった、よかった」
そうしてわたしは、沢山のお野菜と、家具付きの空き家を1軒、手に入れたのだった。
結局、その後は野菜満載の荷台にまた乗って、民宿に戻ってくると、お風呂に入って夕方まで寝てしまった。
さすがに4時起きで昼まで重労働だったので、慣れていないせいもあってか起きていられなかった。
夕方起きて姪っ子さんに声をかけると、おじいちゃんに言われているから、と撤去予定の空き家まで案内してもらう。
十数年放っておいた、とは言っていたが、実はこれ、建てられてから、誰も住むことなく十数年放っておかれてる物件なのだった。
どうして、そんな勿体ない事になっているのかというと。
おじいちゃん曰く、息子夫婦のせいである、と。
おじいちゃんの連れ合いである、奥さんが16年前に亡くなって、1人暮らしになったおじいちゃんを、心配した別の街に住む1人息子が、一緒に住もう、と家族に相談も碌にせずに家を建ててしまった。
結果、息子の嫁と揉めにもめて、
「アウラなんて不便な所に住むなら、離縁します」
とまで言われてしまい。
「大体あいつは、仕事にどうやって毎日通うつもりでいたんだか。 馬で駆けても数時間はかかるし、俺ぁてっきり農業を継ぐもんだと思い込んでたら、むこうの仕事は続けるって言うしなぁ。 まぁ、こっちで住むなんて無理だろう」
結局、新品の家具付きの家が残されて、おじいちゃんも、住み慣れた自分の今までの家を離れる気にもなれず、そのまま十数年経ってしまったと。
そりゃあ、撤去もし辛いだろう。
しかし、息子夫婦と孫達が里帰りをする度に、あの家に関しては無かった事になっているので、話題にも出せず。
微妙に、息子が肩身の狭い思いをしている、と。
そういう訳で、手に入った一戸建て。
ありがたく、魔法バッグの中に入れさせていただこう。
さて、無事に家を手に入れてしまった訳だが、バッグの中に入れてから、点検してみる事にする。
正直、寝る時に屋根と壁が欲しかっただけなので、特にこだわりはなかったのだけど、調べてみると、かなりいい物件だったみたい。
一階はリビング12畳、キッチン、浴室、トイレ、客間に出来そうな10畳程の部屋。
2階はやはり、10畳程の部屋が3つに、シャワー室とトイレ。
そして地下には、倉庫として使えそうな広い部屋が2つ。
しかも、全室家具付きなので申し分ない。
すぐに普通に暮らせそう。
ちなみに、トイレは魔道具になっていて、有機農法をやっているおじいちゃんの農地の肥溜めに、モノが移動するようになっていた。
水道は、さすがにどこにも繋がっていないので、蛇口をひねっても水は出てこない。
これは、そのうち何とかしたいなぁ、とりあえず、アニタさんに持たせてもらったお水のタンクがあるから、あるていどはそれで何とかしよう。
お風呂、せっかくあるんだから使えるようにしたいな。
灯りは、魔道具のランプが全ての部屋に設置してあった。
これは、ちょっとだけ魔力を補充しておけば、生活魔法の火が灯るという、割とよく見かけるマジックアイテムだ。
ひと通り点検しつつ、洗浄魔法でざっと掃除して、以前に入れていた荷物を整理したところで、今日はもう民宿に戻る事にする。
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