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第二章
交易商の馬車に乗って
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翌日、今日は農作業がないので、ゆっくり起きて朝食をいただく。
昨日は、眠すぎて何を食べたのかさえ、よく覚えていないけど、今朝のご飯は、とうきびご飯に目玉焼き、野菜たっぷりコンソメスープ、後は燻製にしてある川魚か、ボイルしたソーセージか選んで、と言われたのでお魚にした。
近くに、釣りができる川があるんだって。
姪っこさんに交易品販売の事を聞いてみると、月に2回、交易商の人がロレンツォから来てくれて、生活用品や調味料、加工食品などを販売するんだそうだ。
アウラからは、地元の野菜などをまとめて引き取ってもらうと。
うーん、そこで買い物するのは、地元の人の楽しみを奪っちゃいそうだから、遠慮しておいた方がいいかな。
一応、見には行くけど。
交易商が来るのは昼すぎだと言うので、午前中は、おじいちゃんの農地に行ってみる事にする。
町自体がそんなに大きくはないので、散歩ついでに行ける距離なのだ。
わんこ達と、のんびりお散歩しながら町の中を歩く。
田舎の農業地帯、という感じで本当にのどかだ。
そこここに山ツツジの木が、今を盛りとピンクや赤い花を咲かせている。
町外れの木の柵の向こうに出て、おじいちゃんの農地に入ると、何か鳥の巣箱のようなものを点検している最中のようだった。
「おはようございます」
「おお、あんたか、おはよう」
「それ、鳥の巣箱ですか?」
「いやいや、こりゃあな、害獣駆除の魔道具だ」
「害獣くじょ?」
「今の時期ぁサクラビットの繁殖時期で、作物まで食い荒らすからなぁ。 ここら一帯で農地荒らされんように、魔導士に仕掛け作ってもらっとるんだ」
「さくらびっと、ですか」
「おお、ちっこくて薄い桃色がかったウサギなんだが、繁殖時期の食欲が凄くてなぁ」
ウサネズミ、と勝手に言ってたアレは、サクラビットだったのね。
お腹空いてたのも、そういう事だったんだ。
わたし、害獣に餌付けしちゃった?
いやでも結果的には助けてもらったんだし、仕方ないよね?
「えーっと、今日も何かお手伝いしましょうか?」
そう尋ねると、
「いや、昨日ずいぶん頑張ってもらったからな、交易商に持って行ってもらう分には十分だし、今日はいいわ」
との事で、結局、農地の中で栽培している他の野菜や、ビニールハウス栽培しているハーブ類などを見学させてもらう。
そのハーブ類の中に、ミミア達に教えてもらった毒消し効果のある物や、胃をすっきりさせる薬草、後は、現世で言うところのバジルやコリアンダーなどの香草があったので、少し買い取りたい、と言うと、またタダでくれようとするので、
「ダメダメおじいちゃん、お願いだから、これはちゃんと支払いさせて」
と、やっとでお金を払わせてもらった。
後は生活魔法で、ザっと水遣りするのを見せてもらったのだが、生活魔法の応用でそんな事もできるのね。
昼前には、交易商に持って行かせる野菜を運ぶというので、ついでに荷台に乗せてもらってついて行く。
交易品販売は、初日に訪ねた農業寄合所の隣の空き地で行うそうで、販売品を見たかったわたしには丁度よかった。
空き地に着くと、もうかなりの人出だった。
交易商の人は2人組で、1人は交易品の販売の用意をしていて、もう1人は野菜を買い取る担当のようだ。
買い取りのほうに行って、おじいちゃんが交渉する中、荷台の野菜を交易商の馬車の荷台に移すお手伝いをする。
こういう時に力が強いと楽でいいな、と思いながら、ひょいひょい積み上げていると、交易商の人に
「お嬢ちゃん、ずいぶん手慣れてるなぁ、大したもんだ」
と、感心されてしまった。
おじいちゃんの野菜の積み込みが終わって、販売品の方を見に行ってみる。
ハンブルのマーケットや輸入食材店と比べると、やはりそんなに目新しい物は扱っていないようだ、が、生活用品の中に、欲しかったアイテムを発見する。
ハサミ、爪切り、ノミ取り用の目の細かい櫛。
これらは、犬達のお手入れに必要なのだ。
こちらに来てから櫛をかけていないので、耳毛の一部が毛玉になってしまっていて、ずっと気になっていたのだ。
早速、買ってバッグにしまう。
今度じっくり、お手入れしてやらなければ。
見にきてよかった、とホクホクしていると、買い取りさんの方で、何やらもめ始めたようだ。
どうしたのか、と近づくと、おばあちゃんの1人と押し問答をしているみたい。
「いや、欲しいのは山々なんだが、もう俺達の魔法バッグには空きがないんだよ。 新鮮な状態でないと、持って行っても売れないからさ」
「でも、今の時期だけの旬なんだよ。 せっかく摘んできたんだから、引き取っておくれよ」
「どうしたんですか?」
ちょっとおせっかいかな? とは思ったが、魔法バッグが関係するなら手助けできるかも。
「ああ、お嬢ちゃん、このばあちゃんがどうしても、この“ビワ”を引き取れってきかなくてな。 傷みやすいから、魔法バッグに入れなきゃ扱えないんだが、ウチのはもういっぱいなんだよ」
「もうすぐ、孫が遊びに来る予定なんだよ、小遣いくらいやりたいんだ。 何とか、引き取っておくれよ」
「わたし、魔法バッグに空きがありますから、よければお手伝いしましょうか?」
「え、いいのかい?」
「はい、この後はロレンツォに帰られるんですよね? 一緒に、荷台に乗せてもらえるんでしたら」
「そりゃいいけど、だったら、もう少し生鮮品を買い取ってもいいかな? 容量の空きはどんなもんなんだい?」
「結構ありますから、どんとこいです」
「よっしゃ。 だったら、ばあちゃん、そのビワ全部引き取るぜ。 嬢ちゃん、すぐバッグに入れてくれるか?」
「はい」
そう言っておばあちゃんから、大きな籠3つ分のビワを受け取ってバッグに入れる。
「ありがとうねぇ、助かるよ」
そうして他にも、サクランボや桃などを預かると、バッグに入れていった。
荷台がいっぱいになると、後は夕方まで販売をして、そのまま夜じゅうかけてロレンツォに戻るとの事なので、わたしも民宿に一度戻って、宿代を清算してくることにする。
「5時には出るから、よろしくな」
「はい、宿の清算をしたら戻ります」
そうして、寄合所の前で、町の人達と話をしていたおじいちゃんを見つけて、このまま交易商の馬車でロレンツォに行く事を告げると、
「おお、そうか、今回は本当に助かったよ、ありがとう、達者でな」
と、手を握られた。
「わたしの方こそ、お世話になりました、おじいちゃんもお元気で」
と握り返す。
そのまま民宿に戻って、姪っこさんに事情を話し、宿代の清算をすると、お土産として “トウキビパン” をたくさん持たせてもらった。
さぁ、いよいよロレンツォに向かうけど、追手の人達、もう別の所に移動してるといいなぁ。
「セイー、少し落ち着いて」
「落ち着いています」
「いやいや、もう何度、街の中周回してるんだよ」
「朝から、7度目、でしょうか」
「ほら、焦る気持ちは解るけど、宿で報せを待ってるだけの僕だって辛いんだよ」
「はい……すみません」
「もうさぁ、これだけ待っても報せがないって事は、もしかしたらこの街には来ていないのかもしれないね」
「 ! 」
「ちょっと、アウラまで戻ってみようか?」
「はい、しかし、こちらで報せがあったら?」
「うん、だからセイだけ行ってきて、僕は、ここで待機してるからさ」
「分かりました、では、すぐに発ちます」
「くれぐれも焦らずにね、アウラにいなくても、移動の途中だって事もありえるし」
「では、移動の道中も気を配るようにします」
「そうだね、じゃあ気をつけて行ってきて」
「はい」
慌ただしく出て行くセイを見送りながら、彼はまた呟く
「金色ちゃん、そろそろ出ておいで」
交易商の馬車の荷台で、移動の間はつまらないだろうと、犬達はバッグに入ってもらっている。
夜の間、移動し続けるというのだから、少し寝ておこうかな、とウトウトしていると、御車台の男達がぶつぶつ何やら言っている。
「なんだ、こっちに止まれってか?」
そう言いながら馬車が止まる、何だろう?
耳を澄ましていると、馬の蹄の音が近付いてくる。
「すまない。 俺はこういう者だが、この辺りで、金の髪の女性を見なかっただろうか?」
「へ、金の髪の……。 いやぁ、見てねぇな」
「そうか、では少し改めさせてもらう」
「いや、そんな困りますよ、勝手に」
「見られて困る物でも、積んでいるのか?」
「いやいや、滅相もない……」
たぶん、あの追手の一人だ。
金の髪の、という所から、もう既に、そうっと魔法バッグを開いていた。
身体をすべり込ませ、バッグのくちを閉じたとほぼ同時に、荷台の幌が開かれる。
男は、アウラに向かう途中のセイである。
積み荷の中まで隈なく調べるが、人が隠れている様子はない、が、荷台の中に積み荷とは、明らかに異質に見えるカバンがポツンと置いてある。
手に取ってみると、取っ手に “Mana” と銘が入っている。
「おい、このカバンの持主は?」
「さ、さぁ?」
「まさかお前達、これを盗んだんじゃあるまいな?」
「いえいえ、とんでもない、預かっただけで。 勘弁してくださいよ」
「これは、俺の探し人の持ち物だ、預からせてもらう」
「はぁ、仕方ありません」
セイは、念の為に馬車の下なども覗き込んで探すが、やはり金の髪の乙女の姿はない。
「よし、もう行っていい」
「へい、では失礼しやす」
そう言って交易商達は、また馬車を走らせ出した。
「カバンだけとは……。 とにかく、アウラに行ってみるか」
そうしてセイは、マナの魔法バッグを首から肩に下げると、馬を走らせアウラの町へと向かった。
アウラの町に着いて、人々に話を聞いて歩くが、どうやら彼女は、この町に少しの間滞在していたようだ。
だが、今日の夕方には出立したのだと言う。
「くそっ、すれ違っているのか」
もう夜も更けてはいるが、居てもたってもいられず、そのまま町の周囲を探し回る。
明け方近くまで、そうしてあてもなく探し回った後、成すすべもなくまたロレンツォへと戻るのであった。
「フレッド、遅くなりました」
「やあ、セイ。 また寝ずに動き回っていたね? ひどい顔色だ」
「すみません。 アウラに行く途中で、交易商の馬車を改めたら、彼女のものと思われるカバンだけが見つかりました。 しかし本人の姿はなく。 どうやら彼女は、アウラに滞在していたようですが、またすれ違っているようで」
「うーん、やっぱりこちらの裏をかいていたか、彼女なかなかやるね。 お前は、とりあえずベッドに入ってひと眠りする事」
「はい、すみません」
「全く、焦るなと言っても無駄か。 僕は、その交易商を訪ねてくるから、ちゃんと体力回復しておけよ」
「はい……」
セイは、返事も終わらぬ内に、眠りこけてしまったようだ。
さて、カバンだけが取り残されていた交易商の荷馬車、話を聞いてこようじゃないか。
昨日は、眠すぎて何を食べたのかさえ、よく覚えていないけど、今朝のご飯は、とうきびご飯に目玉焼き、野菜たっぷりコンソメスープ、後は燻製にしてある川魚か、ボイルしたソーセージか選んで、と言われたのでお魚にした。
近くに、釣りができる川があるんだって。
姪っこさんに交易品販売の事を聞いてみると、月に2回、交易商の人がロレンツォから来てくれて、生活用品や調味料、加工食品などを販売するんだそうだ。
アウラからは、地元の野菜などをまとめて引き取ってもらうと。
うーん、そこで買い物するのは、地元の人の楽しみを奪っちゃいそうだから、遠慮しておいた方がいいかな。
一応、見には行くけど。
交易商が来るのは昼すぎだと言うので、午前中は、おじいちゃんの農地に行ってみる事にする。
町自体がそんなに大きくはないので、散歩ついでに行ける距離なのだ。
わんこ達と、のんびりお散歩しながら町の中を歩く。
田舎の農業地帯、という感じで本当にのどかだ。
そこここに山ツツジの木が、今を盛りとピンクや赤い花を咲かせている。
町外れの木の柵の向こうに出て、おじいちゃんの農地に入ると、何か鳥の巣箱のようなものを点検している最中のようだった。
「おはようございます」
「おお、あんたか、おはよう」
「それ、鳥の巣箱ですか?」
「いやいや、こりゃあな、害獣駆除の魔道具だ」
「害獣くじょ?」
「今の時期ぁサクラビットの繁殖時期で、作物まで食い荒らすからなぁ。 ここら一帯で農地荒らされんように、魔導士に仕掛け作ってもらっとるんだ」
「さくらびっと、ですか」
「おお、ちっこくて薄い桃色がかったウサギなんだが、繁殖時期の食欲が凄くてなぁ」
ウサネズミ、と勝手に言ってたアレは、サクラビットだったのね。
お腹空いてたのも、そういう事だったんだ。
わたし、害獣に餌付けしちゃった?
いやでも結果的には助けてもらったんだし、仕方ないよね?
「えーっと、今日も何かお手伝いしましょうか?」
そう尋ねると、
「いや、昨日ずいぶん頑張ってもらったからな、交易商に持って行ってもらう分には十分だし、今日はいいわ」
との事で、結局、農地の中で栽培している他の野菜や、ビニールハウス栽培しているハーブ類などを見学させてもらう。
そのハーブ類の中に、ミミア達に教えてもらった毒消し効果のある物や、胃をすっきりさせる薬草、後は、現世で言うところのバジルやコリアンダーなどの香草があったので、少し買い取りたい、と言うと、またタダでくれようとするので、
「ダメダメおじいちゃん、お願いだから、これはちゃんと支払いさせて」
と、やっとでお金を払わせてもらった。
後は生活魔法で、ザっと水遣りするのを見せてもらったのだが、生活魔法の応用でそんな事もできるのね。
昼前には、交易商に持って行かせる野菜を運ぶというので、ついでに荷台に乗せてもらってついて行く。
交易品販売は、初日に訪ねた農業寄合所の隣の空き地で行うそうで、販売品を見たかったわたしには丁度よかった。
空き地に着くと、もうかなりの人出だった。
交易商の人は2人組で、1人は交易品の販売の用意をしていて、もう1人は野菜を買い取る担当のようだ。
買い取りのほうに行って、おじいちゃんが交渉する中、荷台の野菜を交易商の馬車の荷台に移すお手伝いをする。
こういう時に力が強いと楽でいいな、と思いながら、ひょいひょい積み上げていると、交易商の人に
「お嬢ちゃん、ずいぶん手慣れてるなぁ、大したもんだ」
と、感心されてしまった。
おじいちゃんの野菜の積み込みが終わって、販売品の方を見に行ってみる。
ハンブルのマーケットや輸入食材店と比べると、やはりそんなに目新しい物は扱っていないようだ、が、生活用品の中に、欲しかったアイテムを発見する。
ハサミ、爪切り、ノミ取り用の目の細かい櫛。
これらは、犬達のお手入れに必要なのだ。
こちらに来てから櫛をかけていないので、耳毛の一部が毛玉になってしまっていて、ずっと気になっていたのだ。
早速、買ってバッグにしまう。
今度じっくり、お手入れしてやらなければ。
見にきてよかった、とホクホクしていると、買い取りさんの方で、何やらもめ始めたようだ。
どうしたのか、と近づくと、おばあちゃんの1人と押し問答をしているみたい。
「いや、欲しいのは山々なんだが、もう俺達の魔法バッグには空きがないんだよ。 新鮮な状態でないと、持って行っても売れないからさ」
「でも、今の時期だけの旬なんだよ。 せっかく摘んできたんだから、引き取っておくれよ」
「どうしたんですか?」
ちょっとおせっかいかな? とは思ったが、魔法バッグが関係するなら手助けできるかも。
「ああ、お嬢ちゃん、このばあちゃんがどうしても、この“ビワ”を引き取れってきかなくてな。 傷みやすいから、魔法バッグに入れなきゃ扱えないんだが、ウチのはもういっぱいなんだよ」
「もうすぐ、孫が遊びに来る予定なんだよ、小遣いくらいやりたいんだ。 何とか、引き取っておくれよ」
「わたし、魔法バッグに空きがありますから、よければお手伝いしましょうか?」
「え、いいのかい?」
「はい、この後はロレンツォに帰られるんですよね? 一緒に、荷台に乗せてもらえるんでしたら」
「そりゃいいけど、だったら、もう少し生鮮品を買い取ってもいいかな? 容量の空きはどんなもんなんだい?」
「結構ありますから、どんとこいです」
「よっしゃ。 だったら、ばあちゃん、そのビワ全部引き取るぜ。 嬢ちゃん、すぐバッグに入れてくれるか?」
「はい」
そう言っておばあちゃんから、大きな籠3つ分のビワを受け取ってバッグに入れる。
「ありがとうねぇ、助かるよ」
そうして他にも、サクランボや桃などを預かると、バッグに入れていった。
荷台がいっぱいになると、後は夕方まで販売をして、そのまま夜じゅうかけてロレンツォに戻るとの事なので、わたしも民宿に一度戻って、宿代を清算してくることにする。
「5時には出るから、よろしくな」
「はい、宿の清算をしたら戻ります」
そうして、寄合所の前で、町の人達と話をしていたおじいちゃんを見つけて、このまま交易商の馬車でロレンツォに行く事を告げると、
「おお、そうか、今回は本当に助かったよ、ありがとう、達者でな」
と、手を握られた。
「わたしの方こそ、お世話になりました、おじいちゃんもお元気で」
と握り返す。
そのまま民宿に戻って、姪っこさんに事情を話し、宿代の清算をすると、お土産として “トウキビパン” をたくさん持たせてもらった。
さぁ、いよいよロレンツォに向かうけど、追手の人達、もう別の所に移動してるといいなぁ。
「セイー、少し落ち着いて」
「落ち着いています」
「いやいや、もう何度、街の中周回してるんだよ」
「朝から、7度目、でしょうか」
「ほら、焦る気持ちは解るけど、宿で報せを待ってるだけの僕だって辛いんだよ」
「はい……すみません」
「もうさぁ、これだけ待っても報せがないって事は、もしかしたらこの街には来ていないのかもしれないね」
「 ! 」
「ちょっと、アウラまで戻ってみようか?」
「はい、しかし、こちらで報せがあったら?」
「うん、だからセイだけ行ってきて、僕は、ここで待機してるからさ」
「分かりました、では、すぐに発ちます」
「くれぐれも焦らずにね、アウラにいなくても、移動の途中だって事もありえるし」
「では、移動の道中も気を配るようにします」
「そうだね、じゃあ気をつけて行ってきて」
「はい」
慌ただしく出て行くセイを見送りながら、彼はまた呟く
「金色ちゃん、そろそろ出ておいで」
交易商の馬車の荷台で、移動の間はつまらないだろうと、犬達はバッグに入ってもらっている。
夜の間、移動し続けるというのだから、少し寝ておこうかな、とウトウトしていると、御車台の男達がぶつぶつ何やら言っている。
「なんだ、こっちに止まれってか?」
そう言いながら馬車が止まる、何だろう?
耳を澄ましていると、馬の蹄の音が近付いてくる。
「すまない。 俺はこういう者だが、この辺りで、金の髪の女性を見なかっただろうか?」
「へ、金の髪の……。 いやぁ、見てねぇな」
「そうか、では少し改めさせてもらう」
「いや、そんな困りますよ、勝手に」
「見られて困る物でも、積んでいるのか?」
「いやいや、滅相もない……」
たぶん、あの追手の一人だ。
金の髪の、という所から、もう既に、そうっと魔法バッグを開いていた。
身体をすべり込ませ、バッグのくちを閉じたとほぼ同時に、荷台の幌が開かれる。
男は、アウラに向かう途中のセイである。
積み荷の中まで隈なく調べるが、人が隠れている様子はない、が、荷台の中に積み荷とは、明らかに異質に見えるカバンがポツンと置いてある。
手に取ってみると、取っ手に “Mana” と銘が入っている。
「おい、このカバンの持主は?」
「さ、さぁ?」
「まさかお前達、これを盗んだんじゃあるまいな?」
「いえいえ、とんでもない、預かっただけで。 勘弁してくださいよ」
「これは、俺の探し人の持ち物だ、預からせてもらう」
「はぁ、仕方ありません」
セイは、念の為に馬車の下なども覗き込んで探すが、やはり金の髪の乙女の姿はない。
「よし、もう行っていい」
「へい、では失礼しやす」
そう言って交易商達は、また馬車を走らせ出した。
「カバンだけとは……。 とにかく、アウラに行ってみるか」
そうしてセイは、マナの魔法バッグを首から肩に下げると、馬を走らせアウラの町へと向かった。
アウラの町に着いて、人々に話を聞いて歩くが、どうやら彼女は、この町に少しの間滞在していたようだ。
だが、今日の夕方には出立したのだと言う。
「くそっ、すれ違っているのか」
もう夜も更けてはいるが、居てもたってもいられず、そのまま町の周囲を探し回る。
明け方近くまで、そうしてあてもなく探し回った後、成すすべもなくまたロレンツォへと戻るのであった。
「フレッド、遅くなりました」
「やあ、セイ。 また寝ずに動き回っていたね? ひどい顔色だ」
「すみません。 アウラに行く途中で、交易商の馬車を改めたら、彼女のものと思われるカバンだけが見つかりました。 しかし本人の姿はなく。 どうやら彼女は、アウラに滞在していたようですが、またすれ違っているようで」
「うーん、やっぱりこちらの裏をかいていたか、彼女なかなかやるね。 お前は、とりあえずベッドに入ってひと眠りする事」
「はい、すみません」
「全く、焦るなと言っても無駄か。 僕は、その交易商を訪ねてくるから、ちゃんと体力回復しておけよ」
「はい……」
セイは、返事も終わらぬ内に、眠りこけてしまったようだ。
さて、カバンだけが取り残されていた交易商の荷馬車、話を聞いてこようじゃないか。
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