3 / 14
低学年編
大会
しおりを挟む
それからしばらくして僕は小学生になった。同級生のほとんどが同じ幼稚園出身ということで、学校では特に大きな変化は感じられない。だけど、サッカーには大きな変化がある。小学生には大会があるのだ。本来、大会は二年生からなのだが、僕のチームには二年生が一人もいない。そこで、僕たち一年生だけで出場することになったのだ。練習の中でミニゲームはしたことがあったが、知らない人とチームとして試合をするのは初めてだ。勝てる自信があったわけではないが、とにかく楽しみで仕方なかった。
試合の一週間前、来週からの大会に向けて、練習後にキャプテンを決めることになった。キャプテンなんてかっこいいし、ちょっとやりたいなと思ったけど、キャプテンは自然と勇武に決まった。勇武は、特別サッカーが上手かったわけではないが、とにかく元気な悪ガキで、いつもみんなの中心にいる。みんなをまとめられるかと言われれば微妙だが、キャプテンは勇武だとなんとなく全員が思っていたのだ。キャプテンが勇武に決まり、次はユニフォームが配られる。サッカーをやるならやはり十番を背負いたいと思うのが子ども心だ。でも、名前順で番号が決まった結果、僕の背番号は十二番。微妙だ。でも、それ以上に気に食わないことがある。ユニフォームがデカすぎるのだ。母は、きっと背は伸びるからと、かなり大きなサイズを買っていたようで、ユニフォームを着た僕は、ズボンが見えなくなる丈のせいで、まるでワンピースを着ているようだ。それでも、やはり初めてのユニフォームは感慨深いものがある。長すぎる丈を無理矢理ズボンの中に押し込め、こないだテレビで観た試合で、ゴールを決めた選手の真似をしてポーズを決める。我ながら良い感じだ。気分が乗ってきた僕は、いてもたってもいられず、とりあえずボールを持ち、もう一度練習しようと走り出す。しかし、汚れるから脱げと血相変えた母に捕まった。
一週間後、ついに試合当日。僕は試合会場に着いても、黙って座り込んでいた。とにかく眠すぎる。昨日は、楽しみで楽しみでなかなか寝られなかったし、さらに朝は早起きだ。何ども落ちそうになるまぶたに力を込めて、ギリギリのところで意識を保つ。僕以外のチームメイトもそんな感じだ。僕らが睡魔と奮闘していると、僕たちの試合の、前の試合が始まる。その瞬間、会場の空気が変わった。白い線の四角いコートの中から、熱気があふれ出してくる。それを全身で感じ、一気に目が覚める。あの中だけ、まるで別世界だ。自分も、もうすぐあの世界に飛び込んでいくのだと思うと、体が熱くなる。体の中で血が沸騰しているみたいだ。みんなも同じようなことを感じたのか、僕らは一斉に上着を脱ぎ捨て、ウォーミングアップへと向かった。
そして遂に試合の時間が来た。僕のチームは十三人。ベンチは二人で、順番に交代して出ることになった。
「作戦は特になし!初めて試合だしとくかく全力で楽しんでこい!」
監督がそう声をかけて僕らをピッチに送り出してくれる。
「しゃー!」
と叫びながら、整列に向かう。向かい合った相手選手の大きさにびびりながらも、それを悟られないように、大きく挨拶をして、力強く握手する。そして、円陣を組んでからピッチに散らばり、ドキドキしながら試合開始を待つ。ポジションなんてよく分からないから、とにかくボールに触れるように、センターサークルのラインギリギリに陣取る。今か今かと構えていると、ピッーっと審判が笛を吹き、相手ボールから試合が始まる。開始と同時に相手選手がドリブルで攻めてくる。小柄な僕らを見て、舐めているようだ。いくら年上といったって、一人で十一人かわせるはずがない。そう思い、ボールめがけて右足を伸ばしながら飛び込むが、相手がすごい速さで僕の横を通り過ぎていく。目の前にいたはずなのに。一瞬、困惑したが、戻らないと思ってすぐに振り返ると、他のメンバーも、するりするりと次々に抜かれていくのが見える。僕たちはまるで、ドリブル練習のときに立っているコーンのようだった。そのまま、相手はあっという間にゴール前まで到達する。しかし、次の瞬間、相手選手の背中が視界から消える。何が起きたが分からなかった。砂ぼこりが舞っていたあたりをよく見ると、真守と相手選手が倒れている。真守が吹き飛ばされてしまったのかと思ったが、真守の腕には、ガッチリとボールが抱えられていた。つまり、キーパーの真守が、ドリブルしてきた相手選手に、フロントダイブで突っ込み、ボールを奪ったのだ。僕が、すごいなぁと感心して突っ立っていると、真守はすぐに立ち上がり、ボールを相手陣地めがけて思いっきり蹴っ飛ばした。その姿が、僕にはスローモーションのように見えた。かっこよかった。同い年でもあれだけ戦えるのだと勇気をもらった。その後、僕はひたすら走った。ほとんどボールになんて触れていない。それでも、全力で追いかけて、全力でスライディングし続けた。
試合終了の笛が鳴り、0―3で負けてしまった。負けたことは悔しい。でも、全力でやりきったことで、僕の中で何かかが変わったという、すがすがしさもある。整列して、挨拶が終えてベンチに戻ると、みんなが僕を避けた。不思議に思っていると、お母さん達が走ってきて
「大丈夫!?すぐ足洗いな!」
と深刻そうに言う。不思議に思って自分の膝を見ると、スライディングのせいで傷だらけの血まみれだった。こんなに痛そうなのに、試合中には気がつかなかった。それだけ夢中になっていたのだろう。だが、気づいてしまえば、痛いものだ。じわじわと痛みが上ってくる感じがする。でも、痛み以上に、これは頑張った証のような気がして、嬉しさがこみ上げてきた。
その後も、僕らは、下手くそなりに走って走って頑張ったが、負け続けて全敗という結果で大会は幕を閉じた。初日は、負けても頑張ったと満足していたのに、負けが続くと悔しさがどんどん募ってきた。最後の試合なんて、負けたのが悔しくて大泣きしてしまった。最後の試合の後、そんな僕らを見た監督は、ミーティングで言った。
「この大会中、相手は二年生だけど一年生だけでよく頑張った。でも、負けると悔しいよな。だから、来年は勝とう。そのために、たくさん練習しよう。この気持ちを忘れちゃダメだ。君たちは、本当にいい経験をしたんだから。」
僕には、負けた経験の何がいいのかは分からなかった。頑張ったうれしさなんて、最初の試合だけで十分だ。もう負けたくない。だから、来年は絶対勝つと心に誓った。そのために誰よりも上手くなろうとも。
試合の一週間前、来週からの大会に向けて、練習後にキャプテンを決めることになった。キャプテンなんてかっこいいし、ちょっとやりたいなと思ったけど、キャプテンは自然と勇武に決まった。勇武は、特別サッカーが上手かったわけではないが、とにかく元気な悪ガキで、いつもみんなの中心にいる。みんなをまとめられるかと言われれば微妙だが、キャプテンは勇武だとなんとなく全員が思っていたのだ。キャプテンが勇武に決まり、次はユニフォームが配られる。サッカーをやるならやはり十番を背負いたいと思うのが子ども心だ。でも、名前順で番号が決まった結果、僕の背番号は十二番。微妙だ。でも、それ以上に気に食わないことがある。ユニフォームがデカすぎるのだ。母は、きっと背は伸びるからと、かなり大きなサイズを買っていたようで、ユニフォームを着た僕は、ズボンが見えなくなる丈のせいで、まるでワンピースを着ているようだ。それでも、やはり初めてのユニフォームは感慨深いものがある。長すぎる丈を無理矢理ズボンの中に押し込め、こないだテレビで観た試合で、ゴールを決めた選手の真似をしてポーズを決める。我ながら良い感じだ。気分が乗ってきた僕は、いてもたってもいられず、とりあえずボールを持ち、もう一度練習しようと走り出す。しかし、汚れるから脱げと血相変えた母に捕まった。
一週間後、ついに試合当日。僕は試合会場に着いても、黙って座り込んでいた。とにかく眠すぎる。昨日は、楽しみで楽しみでなかなか寝られなかったし、さらに朝は早起きだ。何ども落ちそうになるまぶたに力を込めて、ギリギリのところで意識を保つ。僕以外のチームメイトもそんな感じだ。僕らが睡魔と奮闘していると、僕たちの試合の、前の試合が始まる。その瞬間、会場の空気が変わった。白い線の四角いコートの中から、熱気があふれ出してくる。それを全身で感じ、一気に目が覚める。あの中だけ、まるで別世界だ。自分も、もうすぐあの世界に飛び込んでいくのだと思うと、体が熱くなる。体の中で血が沸騰しているみたいだ。みんなも同じようなことを感じたのか、僕らは一斉に上着を脱ぎ捨て、ウォーミングアップへと向かった。
そして遂に試合の時間が来た。僕のチームは十三人。ベンチは二人で、順番に交代して出ることになった。
「作戦は特になし!初めて試合だしとくかく全力で楽しんでこい!」
監督がそう声をかけて僕らをピッチに送り出してくれる。
「しゃー!」
と叫びながら、整列に向かう。向かい合った相手選手の大きさにびびりながらも、それを悟られないように、大きく挨拶をして、力強く握手する。そして、円陣を組んでからピッチに散らばり、ドキドキしながら試合開始を待つ。ポジションなんてよく分からないから、とにかくボールに触れるように、センターサークルのラインギリギリに陣取る。今か今かと構えていると、ピッーっと審判が笛を吹き、相手ボールから試合が始まる。開始と同時に相手選手がドリブルで攻めてくる。小柄な僕らを見て、舐めているようだ。いくら年上といったって、一人で十一人かわせるはずがない。そう思い、ボールめがけて右足を伸ばしながら飛び込むが、相手がすごい速さで僕の横を通り過ぎていく。目の前にいたはずなのに。一瞬、困惑したが、戻らないと思ってすぐに振り返ると、他のメンバーも、するりするりと次々に抜かれていくのが見える。僕たちはまるで、ドリブル練習のときに立っているコーンのようだった。そのまま、相手はあっという間にゴール前まで到達する。しかし、次の瞬間、相手選手の背中が視界から消える。何が起きたが分からなかった。砂ぼこりが舞っていたあたりをよく見ると、真守と相手選手が倒れている。真守が吹き飛ばされてしまったのかと思ったが、真守の腕には、ガッチリとボールが抱えられていた。つまり、キーパーの真守が、ドリブルしてきた相手選手に、フロントダイブで突っ込み、ボールを奪ったのだ。僕が、すごいなぁと感心して突っ立っていると、真守はすぐに立ち上がり、ボールを相手陣地めがけて思いっきり蹴っ飛ばした。その姿が、僕にはスローモーションのように見えた。かっこよかった。同い年でもあれだけ戦えるのだと勇気をもらった。その後、僕はひたすら走った。ほとんどボールになんて触れていない。それでも、全力で追いかけて、全力でスライディングし続けた。
試合終了の笛が鳴り、0―3で負けてしまった。負けたことは悔しい。でも、全力でやりきったことで、僕の中で何かかが変わったという、すがすがしさもある。整列して、挨拶が終えてベンチに戻ると、みんなが僕を避けた。不思議に思っていると、お母さん達が走ってきて
「大丈夫!?すぐ足洗いな!」
と深刻そうに言う。不思議に思って自分の膝を見ると、スライディングのせいで傷だらけの血まみれだった。こんなに痛そうなのに、試合中には気がつかなかった。それだけ夢中になっていたのだろう。だが、気づいてしまえば、痛いものだ。じわじわと痛みが上ってくる感じがする。でも、痛み以上に、これは頑張った証のような気がして、嬉しさがこみ上げてきた。
その後も、僕らは、下手くそなりに走って走って頑張ったが、負け続けて全敗という結果で大会は幕を閉じた。初日は、負けても頑張ったと満足していたのに、負けが続くと悔しさがどんどん募ってきた。最後の試合なんて、負けたのが悔しくて大泣きしてしまった。最後の試合の後、そんな僕らを見た監督は、ミーティングで言った。
「この大会中、相手は二年生だけど一年生だけでよく頑張った。でも、負けると悔しいよな。だから、来年は勝とう。そのために、たくさん練習しよう。この気持ちを忘れちゃダメだ。君たちは、本当にいい経験をしたんだから。」
僕には、負けた経験の何がいいのかは分からなかった。頑張ったうれしさなんて、最初の試合だけで十分だ。もう負けたくない。だから、来年は絶対勝つと心に誓った。そのために誰よりも上手くなろうとも。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる