高天神攻略の祝宴でしこたま飲まされた武田勝頼。翌朝、事の顛末を聞いた勝頼が採った行動とは?

俣彦

文字の大きさ
37 / 42
長篠城再び

第37話

しおりを挟む
鳥居強右衛門「何故、甲斐から遠く離れた斯様な地に固執するのでありますか?」
高坂昌信「『とっとと居なくなってしまえ。』
と言う事でありますね。」
鳥居強右衛門「いえ、そのようには申していません。」
高坂昌信「一言で言えば、先代の信玄公が行った外交の失敗が原因であります。元々我らと信長の関係は悪いものではありませんでした。勝頼の子供の母は信長の姪であります。家康についても共同でいくさを行った事がありました。本音の所は定かでありませんが、少なくとも表向きは良好な関係を築いていました。」
鳥居強右衛門「それが何故このような事に?」
高坂昌信「遠江の権益で争う事になった家康と、家康と同盟している信長の関係が最も大きかった。ただそれでも信長との関係が破綻する事はありませんでした。それが崩壊した要因となりますと……。」

 織田信長と将軍足利義昭との関係悪化。それに伴う比叡山の焼討に一向宗徒の対立。

高坂昌信「ここに信長の遠山領併合が切っ掛けとなり、奥三河の国衆が我らに従う事になりました。目的は勿論、生き残るため。その一択であります。其方も同様では無いかと?」
鳥居強右衛門「確かに。」
高坂昌信「我らも同じであります。我らと織田の関係が元に戻る事はありません。徳川も同様であります。どちらかが滅亡するまでこの争いが終わる事はあり得ません。私共が奥三河を意地でも死守しようとしているのはそのためであります。
 東三河の方々にとって我らは邪魔な存在でありましょう。我らが居なくなってしまえば、徳川家康の下。平和を謳歌する事が出来るようになります。外からの侵入者に気にする事無く田畑を耕す事が出来るようになりますし、物資の行き来も安全なものになります。そこから得られたものを蓄積する事により、いくさに頼らずとも豊かな暮らしを手に入れる事が出来るようになります。その事は我らも重々承知しています。
 しかし今は出来ません。我らも生きるのに必死でありますので。このいくさ。負けるわけにはいきません。何故なら敗れた瞬間。私の一族並びに家臣とその家族がどのような憂き目に遭ってしまうのか。御存知でありましょう。」
鳥居強右衛門「……そうですね。」
高坂昌信「だからと言いまして、東三河がどうなっても良い。と考えているのではありません。そこも間違わないで下さい。我らは今後も三河北部を死守します。そして……。」

 今、徳川との係争地となっている東三河南部を武田の手で安泰へと導いて見せます。

高坂昌信「しばしの猶予を願います。」
鳥居強右衛門「まだいくさは続くのでありますか……。」
高坂昌信「申し訳ない。」
鳥居強右衛門「高坂様は何故ここに……。私を斬るためでありますか?」
高坂昌信「何故そのように思うのでありますか?」
鳥居強右衛門「最初。武田が勝利を収めた。と。」
高坂昌信「お伝えしました。」
鳥居強右衛門「私に課せられた役目も?」
高坂昌信「もはや必要ありません。」
鳥居強右衛門「その役目を反故にしようとしていた事を……。」
高坂昌信「予想した上で、実施には移しませんでした。」
鳥居強右衛門「謂わば私は用済みであり、武田を裏切ろうと考えた人物と判断された……。」
高坂昌信「そうなります。」
鳥居強右衛門「このまま解き放たれる事は……。」
高坂昌信「あり得ません。」
鳥居強右衛門「ならば私の命はここまで……。」
高坂昌信「それはありません。最初に殿の言葉を伝えたはずであります。
『自分の命を粗末にしてはならぬ。』
と。」
鳥居強右衛門「……。」
高坂昌信「改めてお尋ねします。」
鳥居強右衛門「何でありましょうか?」
高坂昌信「鳥居殿がもし長篠城の前に引き出された時、城に向かって何と言おうとしていたか?教えて下さい。」
鳥居強右衛門「……正直に申します。高坂様が考えられた事を伝える決意でありました。」
高坂昌信「『織田徳川の援軍は必ず来る!あと2日の辛抱である!!そうすれば御味方の勝利間違い無し!!』
と。」
鳥居強右衛門「……はい。」
高坂昌信「そうでありましたか……。」
鳥居強右衛門「……無念であります。」
高坂昌信「鳥居殿?」
鳥居強右衛門「覚悟は出来ています。」
高坂昌信「それを聞いて安心しました。」
鳥居強右衛門「えっ!?」
高坂昌信「軍議の席で私が鳥居殿が隠しているであろう決意を話した所、そこに居た全ての者から共感を得る事が出来ました。そして真意であった事も今、わかりました。この事はすぐ殿以下全ての将に伝達される運びとなっています。」
鳥居強右衛門「えっ!?」
高坂昌信「鳥居殿。」
鳥居強右衛門「はい。」
高坂昌信「武田家中の者全てが其方を欲しています。尤も其方の能力を求めているのではありません。其方の持つ忠義の心を欲しているのであります。この御時世。明日どうなるかわかりません。それは武田家も同じ事であります。屋台骨が揺らいだ瞬間。家中の者共は生き残るため、武田を見限り。新たな仕官先を求める事になります。
 そんな時代の。それも最も大変な状況に追い込まれた其方が示した揺らぐことの無い胆力を皆が求めています。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

自衛戦艦、出動す━The Beginning Story━

紫 和春
現代文学
それは一国の総理の発言から始まり、予想だにしない方向へ転がった世界の物語

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...