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長篠城再び
第38話
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鳥居強右衛門「……はぁ。そのように受け取られていたのでありまするか……。」
高坂昌信「その中の1人が……。」
奥平貞昌。
高坂昌信「であります。」
鳥居強右衛門「えっ!?殿が!いえ。すみません。私にとっての殿は勝頼様でありました。申し訳御座いません。」
高坂昌信「構いません。其方が思っているのと同じ。いやそれ以上かもしれません。奥平は鳥居殿の事を案じていました。」
鳥居強右衛門「殿。いえ奥平は今。」
高坂昌信「殿で構いません。奥平は武田勝頼が提示した条件を受け入れ、城の者共々我らの傘下に収まり無事であります。」
鳥居強右衛門「殿の処遇はどのようなものになるのでありますか?」
高坂昌信「奥平の本貫地である作手は跡取りが決まっている。長篠は菅沼正貞に戻す。加えて三河はうちの山県が引き続き管轄する事になるため現状。ここ三河に奥平貞昌の居場所は無い。」
鳥居強右衛門「『自らの手で切り開け。』
でありますか?」
高坂昌信「間違っていません。ただしその場所は三河ではありません。」
鳥居強右衛門「では何処になるのでありますか?」
高坂昌信「それは……。」
少し戻って……。
山県昌景「『川中島を提供する。』
と言うのか?」
高坂昌信「はい。本来であれば、奥平の持つ徳川との繋がりを三河の攻略に用いるのが上策である事は重々承知している。しかし現状、彼に与える土地はここ三河には存在しない。
『ならば自らの手で新たな土地を獲得せよ。』
となるのではあるが、その候補となるのは恐らく野田と牛久保。しかし両地を簡単に手に入れる事は出来ない。多大な犠牲を覚悟しなければならず、その最も危険な仕事が貞昌に課される事になります。」
山県昌景「……そうだな。」
高坂昌信「加えて我らにとって大事なのは、野田や牛久保では無い。徳川とのいくさであり、織田とのいくさである。野田、牛久保にかまけている余裕は無い。」
山県昌景「確かに。」
高坂昌信「それならば、新たな。それも腰を落ち着けて仕事を出来る場所を提供した方が、貞昌にとって良いのでは無いか?と考えている。」
山県昌景「ただ川中島は……。」
高坂昌信「えぇ。謙信とのいくさが終わった事により、開発に着手する事が出来るようになりました。」
山県昌景「お前が命懸けで守って来た大事な土地を何故?」
高坂昌信「貞昌は父貞能と共に奥三河の国衆と喧嘩別れをしています。殿の特命。野田、牛久保の攻略を指示されたとしても彼らの協力を得る事は出来ません。ならば貞昌を知らない地で、新たな活躍の場を設けた方が得策と考え、この提案に至った。」
戻って。
高坂昌信「『表向きは。』でありますよ。」
鳥居強右衛門「どう言う事でありますか?」
高坂昌信「本当の理由は単純に人手が欲しいからであります。」
鳥居強右衛門「しかし高坂様の所には多くの方々。それも対上杉最前線の精鋭が……。」
高坂昌信「そう。亡き御館様からお預かりした。領内各地から選りすぐられた。あらゆる事柄に対応出来る面々が駐留している。ただそのあらゆる事柄のあらゆるは……。」
いくさに関する事。
高坂昌信「その川中島でいくさになる事は、上杉謙信との和睦に伴い無くなってしまいました。彼らが収入を増やすためには、彼らが得意とするいくさが無ければなりません。その機会を与えなければなりません。幸い武田領内には、まだいくさが存在します。三河、遠江。そして美濃であります。馬場や山県には、彼らの受け入れ打診。内諾を得た後、殿に諮問する運びとなっています。
今後、川中島で必要とする人材は領内統治に長けた者であります。川中島には長年の戦乱のため、手を付ける事が出来ていない田畑となる候補地が多く存在します。加えて川中島横を流れる千曲川は越後に通じています。越後を領する上杉とは同盟関係にあります。そこから生み出される富は莫大なものとなり、織田徳川とのいくさを優位に進める上で大きな助けになる事間違いありません。問題はそれを担う人材であります。」
鳥居強右衛門「武田様には民政に長けた方々が多数いらっしゃると聞いていますが。」
高坂昌信「ただ彼らも忙しいんだよ。それに今、最優先で行わなければならないのは対織田対徳川。安全となった上杉との関わりではありません。」
鳥居強右衛門「そこで我が殿。奥平に……。」
高坂昌信「入植者に対しては、向こう3年の租税免除。並びに川中島以北の荷役運輸を奥平に委託する事により安定した収入の確保を約束している。ただ3年で自活出来る所まで持って行っていただきたいとも伝えている。」
鳥居強右衛門「何故でありますか?」
高坂昌信「馬場、山県に内藤。そして私の齢がそろそろの段階にある。次の代を育てなければならない時期に来ている。加えて奥平は外様も外様。それも親がやったとは言え、徳川に寝返った実績がある。故に貞昌は簡単に切られてしまう恐れがある。そうならないようにするためには、私の命が尽きる前に確固たる地盤を築いておかなければならない。」
鳥居強右衛門「3年で。でありますか?」
高坂昌信「その時、私は50を過ぎている。それに心配なのはそれだけでは無い。」
高坂昌信「その中の1人が……。」
奥平貞昌。
高坂昌信「であります。」
鳥居強右衛門「えっ!?殿が!いえ。すみません。私にとっての殿は勝頼様でありました。申し訳御座いません。」
高坂昌信「構いません。其方が思っているのと同じ。いやそれ以上かもしれません。奥平は鳥居殿の事を案じていました。」
鳥居強右衛門「殿。いえ奥平は今。」
高坂昌信「殿で構いません。奥平は武田勝頼が提示した条件を受け入れ、城の者共々我らの傘下に収まり無事であります。」
鳥居強右衛門「殿の処遇はどのようなものになるのでありますか?」
高坂昌信「奥平の本貫地である作手は跡取りが決まっている。長篠は菅沼正貞に戻す。加えて三河はうちの山県が引き続き管轄する事になるため現状。ここ三河に奥平貞昌の居場所は無い。」
鳥居強右衛門「『自らの手で切り開け。』
でありますか?」
高坂昌信「間違っていません。ただしその場所は三河ではありません。」
鳥居強右衛門「では何処になるのでありますか?」
高坂昌信「それは……。」
少し戻って……。
山県昌景「『川中島を提供する。』
と言うのか?」
高坂昌信「はい。本来であれば、奥平の持つ徳川との繋がりを三河の攻略に用いるのが上策である事は重々承知している。しかし現状、彼に与える土地はここ三河には存在しない。
『ならば自らの手で新たな土地を獲得せよ。』
となるのではあるが、その候補となるのは恐らく野田と牛久保。しかし両地を簡単に手に入れる事は出来ない。多大な犠牲を覚悟しなければならず、その最も危険な仕事が貞昌に課される事になります。」
山県昌景「……そうだな。」
高坂昌信「加えて我らにとって大事なのは、野田や牛久保では無い。徳川とのいくさであり、織田とのいくさである。野田、牛久保にかまけている余裕は無い。」
山県昌景「確かに。」
高坂昌信「それならば、新たな。それも腰を落ち着けて仕事を出来る場所を提供した方が、貞昌にとって良いのでは無いか?と考えている。」
山県昌景「ただ川中島は……。」
高坂昌信「えぇ。謙信とのいくさが終わった事により、開発に着手する事が出来るようになりました。」
山県昌景「お前が命懸けで守って来た大事な土地を何故?」
高坂昌信「貞昌は父貞能と共に奥三河の国衆と喧嘩別れをしています。殿の特命。野田、牛久保の攻略を指示されたとしても彼らの協力を得る事は出来ません。ならば貞昌を知らない地で、新たな活躍の場を設けた方が得策と考え、この提案に至った。」
戻って。
高坂昌信「『表向きは。』でありますよ。」
鳥居強右衛門「どう言う事でありますか?」
高坂昌信「本当の理由は単純に人手が欲しいからであります。」
鳥居強右衛門「しかし高坂様の所には多くの方々。それも対上杉最前線の精鋭が……。」
高坂昌信「そう。亡き御館様からお預かりした。領内各地から選りすぐられた。あらゆる事柄に対応出来る面々が駐留している。ただそのあらゆる事柄のあらゆるは……。」
いくさに関する事。
高坂昌信「その川中島でいくさになる事は、上杉謙信との和睦に伴い無くなってしまいました。彼らが収入を増やすためには、彼らが得意とするいくさが無ければなりません。その機会を与えなければなりません。幸い武田領内には、まだいくさが存在します。三河、遠江。そして美濃であります。馬場や山県には、彼らの受け入れ打診。内諾を得た後、殿に諮問する運びとなっています。
今後、川中島で必要とする人材は領内統治に長けた者であります。川中島には長年の戦乱のため、手を付ける事が出来ていない田畑となる候補地が多く存在します。加えて川中島横を流れる千曲川は越後に通じています。越後を領する上杉とは同盟関係にあります。そこから生み出される富は莫大なものとなり、織田徳川とのいくさを優位に進める上で大きな助けになる事間違いありません。問題はそれを担う人材であります。」
鳥居強右衛門「武田様には民政に長けた方々が多数いらっしゃると聞いていますが。」
高坂昌信「ただ彼らも忙しいんだよ。それに今、最優先で行わなければならないのは対織田対徳川。安全となった上杉との関わりではありません。」
鳥居強右衛門「そこで我が殿。奥平に……。」
高坂昌信「入植者に対しては、向こう3年の租税免除。並びに川中島以北の荷役運輸を奥平に委託する事により安定した収入の確保を約束している。ただ3年で自活出来る所まで持って行っていただきたいとも伝えている。」
鳥居強右衛門「何故でありますか?」
高坂昌信「馬場、山県に内藤。そして私の齢がそろそろの段階にある。次の代を育てなければならない時期に来ている。加えて奥平は外様も外様。それも親がやったとは言え、徳川に寝返った実績がある。故に貞昌は簡単に切られてしまう恐れがある。そうならないようにするためには、私の命が尽きる前に確固たる地盤を築いておかなければならない。」
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高坂昌信「その時、私は50を過ぎている。それに心配なのはそれだけでは無い。」
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