怪獣特殊処理班ミナモト

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第1章 神獣協会

薄皮一枚

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「それで、セカンドまで使っておいて、ただ足止めを食らっただけだと?」

 レーガン大佐は、年代物の葉巻を吹かしながらアーノルドを睨みつけた。

「……申し訳ありません」

「それは初めに聞いた。俺が尋ねているのはなぜ我々米軍が、しかも特殊部隊が、下っ端の怪人数匹を始末しただけでその責務を放棄したのかについてだ」

「放棄などではありません。まさか怪人が転送技術にまで手を付けていたとは知らず……。それに我々が対峙したのはあのレストアです。奴はアーサーのセカンドスケールにさえ、単純なパワーで押し勝つ化け物だ」

「それをさらに圧倒するのがお前たちの生まれた目的だろうが」

「……返す言葉もありません」

「当たり前だ。いいかアーノルド、次は必ずお前たちが殺せ。日本よりも、EUの連中よりも、対怪獣機構よりも、中韓連合よりも早く、我々が怪人を浄化する。これは今後の勢力図に関わる問題だ。これ以上の失敗は許さん」

「了解しました…」

「ではアーサーを鍛えなおせ。戦闘データを見たが、基礎が疎かだ。あれでは十分な実力は発揮しきれん」

「は、」

 アーノルドはレーガン大佐に敬礼をすると、煙の立ち込める執務室から出た。今アーノルドは、東京の極東国連基地で、レーガン大佐からの呼び出しを受けていた。

(基礎が疎か……レストアと同じことを言うんだな。大佐も)

 アーノルドはそのまま基地内の食堂に向かうと、限定品のハンバーガーセットを頼んだ。どうやら本物の豚肉が半分、人工肉に混ざっているらしい。アーノルドがそれを席でほおばっていると、食事の入ったトレイを持ったアーサーが、向かいの席に座った。

「旦那、レーガンの野郎は何と?」

「次は無いとさ。それに、お前の訓練不足も指摘していたぞ」

「俺が訓練不足?」

「レストアに負けただろうが。それのことだよ」

「おいおい、勘弁してくれよ。あれはとても人間の敵う相手じゃ…」

「それに勝つのが俺たちだ。大佐が言うにはお前は特に基礎が疎かになっているらしい。トレーニングメニューを見直すぞ」

「はあ?マジかよ」

「大マジだ。宝の持ち腐れ野郎」

「……分かったよ、やりゃいいんだろ」

 アーサーは面白くなさそうに、食堂の壁に取り付けられているテレビを見た。早速昨日の富士山地下での話題で特集が組まれている。日本は情報の機密性にいささか問題があるようだ。

「なあ旦那、テレビじゃ今朝からこの話題で持ちきりだぜ?」

「無理もない、人死になんて今じゃ滅多に起こらないからな。それに死者数が100人を超えていて、その内訳が20代から30代の男とくれば、世界中で話題になる。まあ流石にその職業が自衛隊の対人部隊とは報道されなかったがな」

「でもよお、ガス管爆発が原因とか、いつの時代の言い訳だよ」

「彼らは少し派手にやりすぎた。これが妥当だろう」

「にしても、俺たちからの供与でドーピングしてもぎりぎり相打ちなんて、よっぽど運が悪かったんじゃねえの。パワードスーツも着込んでたんだしよ」

「それぐらいにしておけ。アレは最重要機密だ、こんな場所でペラペラ喋るな」

「にしてもおかしいぜ。やっぱり最初から俺たちだけでやりゃ良かったんだ」

「お前は勘違いしてるぞ。供与はアルファ隊だけが受けたものだ。他は素で戦っている」

「素って……ラケドニアについては日本も知ってるはずだろ?なのにほんの一部隊以外は怪人化もさせずに軍の最高戦力を送り込んだのか?どうかしてるぜ」

「どうかしているのはお前だ。ついさっき最重要機密について俺が注意したばかりだろうが。いくら周りの雑音があっても、聞こえる奴には聞こえる」

「うっかりだようっかり、元一般人なんだから、それぐらい勘弁してくれよ」

「はあ、ツラが良くなけりゃもう2回は鼻ツラを殴ってるとこだぞ」

「そりゃ困る。それに旦那、女性隊員に嫌われちまうぜ」

「余計なお世話だ」

 アーノルドはハンバーガーを食べ終わると、きれいに手を拭いた。

「おいアレク、野菜を残すな」



 そのころ源と赤本は、出羽長官に呼び出されていた。東雲はリハビリ中である。

「それで、源の護衛をほっぽり出して、自分は大怪獣クラスの怪人と戦闘だと?」

「……申し訳ありません」

「それはもう聞いた。私が問うているのは、源の重要性についての認識のズレだ。赤本、お前源がどれだけ重要か本当に分かっているのか?」

「それは理解しているつもりではありますが……」

「では考えを改めろ。そもそも源を処理現場に送ることさえ本来はあり得ないことなのだ。それもあの事故で人手が足りなくなったからだが」

「長官、それは!」

「分かっている、あれは私たち上層部の責任だ。今更現場の対応をとやかく言うつもりはない」

 長官は椅子に深く腰掛けた。

「話を戻すぞ。特殊作戦群がほぼ壊滅した今、日本は微妙な立場に置かれている。それも首の皮一枚で繋がっている程度の危険なものだ。そしてその薄皮一枚が、源という存在だ」

「あの、一体僕にはどんな価値があるのでしょうか。適合率と他の何かが」

「いや、君の価値はその適合率に他ならない。別に特殊体質があるだとか、超能力が使えるだとかは全くない。ただ、適合率というものは君の想像するよりも重要な要素だ。特に怪獣関連では」

「重要な要素……」

「そうだ、その希少性と将来性が君はずば抜けている。国の価値を高めるほどにな」

「具体的にはどのような性質なのですか?」

「怪獣を一匹残らず殲滅することが出来る」

 それに二人は驚いた。あまりにも話の規模がでかくなっている。

「そう驚くな。確かに君にはそういう力があるのだ。偉大な力が。私たち人類の最終目標は地球上から怪獣を一掃すること。それを我々の代で成し遂げられる唯一の方法が君の力だ」

「僕の力…つまり適合率ですか」

「そうだ。だから、次からはくれぐれも源から目を離すな。もし源が殺されれば、腹を何度切っても足らんぞ?」

 出羽長官はどすの利いた声でそう言うと、赤本をにらんだ。

「はい。了解しました……」

 赤本はそれに応えるしかなかった。

「ではもう戻っていい。ああ、一つ言い忘れていた。一人、新たに班員を追加する。顔合わせを済ませてくれ」

「班員?」

 二人は目を合わせた。このタイミングでの新人など、どのような目的だろうか。二人は訝しがりながら衛生環境庁庁舎に戻った。

 二人が去ったあと、出羽長官は出雲に連絡した。

「はい、出雲です」

「出羽だ」

「出羽長官…!一体どのようなご用件で?」

「君たちの今後についてだ」

「今後……やはり特殊作戦群は解体を?」

 出雲は恐る恐るといった感じで聞いた。

「いや、それはしない。まだ補欠部隊もある。それに、空挺団から何人かスカウトする」

「空挺団ですか……彼らに汚れ仕事は…」

「それを言える立場かね。怪人とのファーストコンタクトを悉く失敗した君たちの信用は、すでに地に堕ちている」

 なぜ悉く失敗したのか。それは、特殊作戦群という自衛隊最高戦力の壊滅も大きな要因であるが、それに加え、何者かの仕業で、金城と伊地知との会話記録が消されていたことも大きい。

「…申し訳ありません」

 出雲は何も言い返すことが出来なかった。

「とにかく、形だけは特殊作戦群は存続させる。君はその群長になれ」

「小官が群長に?」

「ああ、任務の内容も少し難易度を下げるから、それで十分対応可能だろう。君も殉職した隊員たちも二階級特進だ」

「…了解しました」

 出雲は自分の非力さを恨んだ。

(なぜ俺が生きているんだ!伊地知さんさえ生きていれば……)

「…大戦後の大規模編成でより少数精鋭が磨かれたはずが、その大半をこんなにもあっという間に失くしてしまうなんてな。出雲、私も本当はお前と同じ思いだ。俺が特戦群の中隊長だった時、伊地知は第一中隊のエースだった。あのころからあいつは合理的で、頼りになる奴だった」

「出羽長官…」

「お前が伊地知を慕っていたのは知っている。だからこそ言うが、あいつは多分お前が生きていても死んでいても気にしない。だがな、お前が唯一の副官だということは忘れない。絶対にだ。血も涙もない男だったが、それでも部下には欠片ほどの情は持っていた」

「……」

「だから気を落とすな。負い目を感じるな。確かにお前はそれ相応の働きをした。これからもその働きを、私は期待している」

「はい…!」

 そういう出雲の声は震えていた。出羽は電話を切ると、深いため息をついて椅子にもたれて天井を見上げた。

(しばらく死とは無縁だったが、いざとなるとやはり応えるな。年のせいだろうか)

 人類はその多くの時間を殺し合いに費やしてきた。それがついにピークを迎え、その代償を払って人と人の争いを無くした。だが、それはただ単に、殺すべき相手が人間ではなくなっただけの話だった。
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