怪獣特殊処理班ミナモト

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第1章 神獣協会

似たような光景

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倉庫は暗く、傍にはすすり泣く少女がその小さい肩を私に寄せている。
「……お姉ちゃん、また頭の中が嫌な感じになったよう」
「大丈夫だ、きっと助けはくる。ほら、今その気配も消えた」
(この脳波は…レストアか。コアの一部を転移させたな)
 私はまだ泣き続ける少女を何とかなだめると、倉庫のドアを確認しに行った。壁から予備のガスマスクを取ると、隔壁を抜け、警備の怪人が倒れている正面口に到達した。
(もうかれこれ一時間、このガスがあたりに充満している……自衛隊だろうが、あまりに手際が遅くないか?)
 私はなんとかドアのロックを解除しようとしたが、上手くいかなかった。
(ここにはあの薬もないから本来の力はだせない。こじ開けるのは不可能だ)
 私は、その低い身長で背伸びをすると、タッチパネルを何とか触ろうとした。
「、、届かない!」
 私は精一杯全身を伸ばしてみたが、どうしてもうまく操作できない。体の成長は11歳の時に止まっている。
「どこかに台は…」
 私はその身長をカバーできるモノを探した。それは案外すぐそばにあった。
「この死体を使えば行けるか」
 私は見張り役の怪人の死体をドアの前に引きずってくると、その上に乗り、タッチパネルをやっと操作することに成功した。
「……割と簡単だったんだな、ここのパス」
(なんだ、いつでも逃げ出せたじゃないか)
 私はドアのロックを開けることに成功した。スライドして開いたドアの外に恐る恐る顔を出してみたが、人影は無い。
(……皆を今のうちに逃がすか)
 私は部屋の中に監禁されていた子供たちを逃がすために、また部屋に戻ろうとした。その時だった。
「あ。アーノルドさん、いました!こっちです!」
 そう声がしたかと思うと、奥の廊下から一人、旧ドイツ軍のような白い軍服を着た若い男が、こちらに駆け寄ってきた。私はすぐにその場から逃げようとしたが、その男からは驚くほど殺意も、それに類する感情も読み取れなかった。私はその場に固まってしまった。
「そこのキミ!大丈夫?」
 男は若干息切れしながらも、私の目の前に立ち、その場にしゃがむと、私の目を見て笑いかけた。ゴーグル越しにチラリと見えたその目は、確かに笑っていた。誰かを安心させるときのあの表情。遠い昔、似たような光景を見た気がするが思い出せない。
「ここにはキミ一人?」
「いや、奥にあと10人ぐらい…」
 そういう私の声は少し上ずっていた。緊張しているからだろうか。
「そっか。今まで生きていてくれて、本当に良かった。良ければ君の名前を聞かせてもらってもいい?」
「……周千尋」
「あまねちひろ……じゃあ千尋ちゃんだ。今からお兄さんともう二人が君たちを助けるから、その10人にもこのことを伝えてくれるかな」
「分かった」
 私は自分でも驚くほどそれに従順に従った。私が奥の部屋に戻ろうとしたとき、その男に呼び止められた。
「千尋ちゃん!」
 私はなぜ呼ばれたか分からずに、男の前に近づいた。その理由は至極単純なものだった。
「良く頑張ったね、千尋ちゃん」
 男は穏やかな声でそう言うと、私の頭に手を置いた。そして優しくなでた。私は年甲斐もなく、それに俯いて応えることしかできなかった。
「あ、あの。手をどけてください…」
「ああ、ごめん。こうすれば安心してくれるかなと思ったんだけど…」
「……」
「千尋ちゃん?」
 私はその場から逃げるように奥の部屋に向かった。その時私は、ガスマスクをしていてよかったと思った。
 助けが来たことを子供たちに伝えると、子供たちは途端に明るい顔を取り戻した。
「今から軍のお兄さんたちが来るから、おとなしくしているんだぞ?」
「うん!分かった!」
「ありがとう!周お姉ちゃん!」
 子供たちはそう言って無邪気に笑った。さきほどまでの様子が嘘のようだ。私の隣で泣いていた少女も笑顔を取り戻している。
(私も同じように向う見ずに喜べたらな)
 それは無理な話だ。いくら体が幼くても、その中身はすでに摩耗して擦り切れている。
「おーい、ボウズたち」
 不意に扉の方から声が聞こえた。すると部屋のドアが開き、先ほどの男と、もう2人、これまた若い男が入ってきた。その二人は武装した外国人だった。
(…海兵隊?自衛隊だけじゃないのか?)
「これから外に出るから、男の子は僕のところに、女の子は金髪のお兄さんの所に集まってね」
 源はなるべく子供達を警戒させないように気を遣っていた。私は金髪の男を見た。その男は目をガスから保護するためのゴーグルを付けていなかった。そして綺麗な青色の目をしていた。私はさきほどの男のほうに行きたいのを我慢して、その見るからに軽薄そうな白人の元に近寄った。
「ん?珍しいな、オマエ。目が灰色じゃねえか。しかも目え、見えてんだろ?」
 その白人は、私を見るや否や、そう言ってきた。私がそれに不快な表情を作ると、それを察したもう一人の隊員が、その白人に注意した。
「おいアレク!今そういう話はいいだろうが。それも女児に向かって」
「…仕方ねえだろ?そういうのはストリートで習わなかったんだよ」
「次やったら元いた路地裏に戻すからな」
「分かったよ。そこの嬢ちゃん、済まなかったな。俺、デリカシーの欠片もねえんだよ。あ、英語分からねえか」
「分かります」
「それは……申し訳ねえ」
「アーノルドさん、アーサーさん、こっちまとめ終わりました。すぐに地上に上げましょう」
「お、ミナモトもう終わったのか。どんな魔法の言葉を使ったんだ?」
「刀を見せる、ですかね」
 ミナモトと呼ばれた男はそう言ってまた笑った。今度は友達と会話するようなきさくな笑顔だった。どうやらこのアーサーと呼ばれた失礼な白人とは、ある程度の関係であるようだ。その時、源と目が合った。源は私にも笑いかけた。私はそれに急いで目を逸らすと、顔を伏せた。なんとなく、目を合わせたくは無かった。
「じゃあ出発だ。旦那、先頭頼んだ」
「ああ、慎重に行く」
 そうして私と子供たちは、米軍の簡易的なガスマスクが配られた。折り畳み式でありながら、そのサイズが可変できる。流石アメリカといったところである。聞くところによると、第一次進攻と対戦による中露の大幅な弱体化で、米国は完全な一強となり、世界中の先端技術は米国内に集結していた。
(そういえば、地上に出るのは20年ぶりだな)
 私はふとそう思った。いつかは解放されると信じて数十年、こんなに呆気なくその願いが叶うとは、正直実感が湧かない。
 しばらく歩くと、裏口を抜けて、基幹エレベーターまで続く道に出た。
「あそこは見たらダメだよ」
 源はそう言って正面入り口の方に注意を向けないようにしていた。私がこっそり後ろを振り返ると、微かにべったりと赤と黒の血がこびりついた壁が見える。それをグロテスクだとは思わなかった。基幹エレベーターにつくと、救助隊らしき自衛隊の隊員たちが待っていた。彼らに源たちは、警戒する子供たちを何とか預けた。
「刀見せてくれるっていったじゃん!嘘つき!」
「それはまた今度見せるから、ほら、今はそこのお姉さんたちの指示に従って?」
「でも…」
「きっと刀は見せるから」
「約束だよ?」
「うん、約束だ」
 源は一人ひとり優しく声を掛けて回った。そして最後に、私に近づいてきた。
「やあ、千尋ちゃん」
「……」
「君は他の子よりすごく落ち着いているね。その年齢で偉いよ」
 私はなおさら返事がしずらくなった。とっくに成人はしている。
「ああそれと、あそこのお兄さんが君の目の色について何か言っていたけど、もしかしてそれで嫌な気持ちになったりした?」
「うん…」
 今度は自信をもって答えられる。
「そっか、僕からもごめんね。でもあのお兄さんもきっと千尋ちゃんを傷つけるつもりで言ったわけじゃないと思うから、どうか許してあげてほしい。それに…」
 それに?
「それに、その目は綺麗だよ。灰色といっても、どこか透き通るようないい色だ。少なくとも僕はそう思うな」
「……そうですか」
 私はなんとか言葉をひねり出した。これ以上話したら、もう我慢できなさそうだった。
「うん、君に良く似合ってる。それじゃあ千尋ちゃんもエレベーターに乗って自分の家に帰るんだ。きっと心配しているから」
 その途端、我慢していた気持ちが一気に涙となってあふれ出た。
「え、え?千尋ちゃん?僕、何か気に障るようなこと、言っちゃったかな…」
「あーあ、ミナモト、例え子供でも女を泣かすのは良くねえなあ。なあ旦那」
「アーサーに同感だな」
 慌てる源に、私は思わず抱き着いた。そうしたいと思った。次第に、強張っていた全身の筋肉が緩んでいく。
「ち、千尋ちゃん。汚れた服だから、顔をうずめるのは…」
「……ごめんなさい」
 私は源に聞こえないぐらいに小さくそう呟くと、涙はようやく止まった。
「ごめん、千尋ちゃん。僕が…」
「ううん、そんなことない。ただ、思い切り泣きたくなっちゃったの」
 久しぶりにこういう言葉遣いをした気がする。いつもはそんな余裕は無かったから。
「…そうなんだ。じゃあ千尋ちゃん、今度こそお別れだ」
私は思わず源の服の袖を引っ張った。
「あの、源…さん」
「どうかした?」
「し、下の名前を教えてください…」
「ああ、そんなことか。王様の王に城で、王城だよ」
「オウジ…」
 私はその名前を何度も反芻した。源王城、とても彼にぴったりな名前だと思った。
(私の、王子……)
 私はふと浮かんできた恥ずかしい妄想をかき消すと、足早にエレベーターに乗り込んだ。
「またね、千尋ちゃん」
「うん、またね」
 私はその時、少しだけ自然に笑うことが出来た。
「ミナモト、お前懐かれたな」
「そうですか?」
「そうだよ。これは責任案件だぜ?」
「責任って…」
 源はエレベーターを見送る間、周千尋という少女の笑顔が、頭に残って離れなかった。
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