怪獣特殊処理班ミナモト

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第2章 王族親衛隊

言葉の綾

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衛生環境庁の29階、処理科フロアの一角に怪獣特殊処理班の部屋はある。そこは周囲から遠ざけるように離れた場所にあり、部屋に通じる扉には、厳重なセキュリティシステムが搭載されている。それらは一重に、特殊処理班の名の通りの、特殊な業務内容によるものだった。

「赤本さん、いったいどんな人が来るんですかね」

 班員、源王城は、エレベーターの中で副班長の赤本明石に話しかけた。

「さあな、それにしても、源が来てからまだ1か月と少ししかたっていないのに、随分と急だな」

「それは怪人関係ですよ。人間と全く同じ外見で、その言葉を流暢に話し、それでいて人間離れした身体能力で人間を殺害しようとしてくるんですから」

「それはそうだが、俺たちはいつからそんな連中の相手をする仕事になったのやら…」

「赤本さんたちが強いからです。あのでかくて強い怪人の腕を切り落としてたじゃないですか」

「あれはほら、アドレナリンがだな……」

「それでも十分すごいですよ。多分その働きが上に認められたんです」

「そういうものだろうか…」

「きっとそうですよ。僕は多分、屈強な元自衛官が来ると思いますね。多分空挺団の」

「空挺団か…確かに身体能力は中々だった」

「一緒に訓練でも?」

「居酒屋でちょっと、な」

 そこでチーンという音と共に、エレベーターの扉が開いた。29階である。源たちはいつものように他の職員達からの冷たい視線を浴びながら、特殊処理班の二重扉の前まで来た。

「また一段と厳しい目線でしたね」

「まあな、アイツらは直近の出来事に薄々感づいている」

 二人はそんな会話をしながら、金属探知機を通り、室内に入った。

「………」

 室内の光景を見て、二人は絶句した。部屋には、片腕の余ったシャツの袖を結んだ東雲と班員たち、そして、新たに配属された新班員の姿があった。その新入りが問題だった。

「…レストア?」

 その新入りは、細いスレッドの入った鋼鉄の面を被り、身長2メートル半はあろうかという健隆な体躯を、見るからに不似合いなスーツで包んでいた。肩幅は常人の倍はあり、掌は人間の頭を握りこむのに最適なサイズであった。

「……ああ、赤本、源」

 東雲は難しい顔をして二人を見た。丁度真横に立つ東雲は、いささか貧弱に見えてしまった。

「驚いただろうが、彼はレストアではない。それは確かだ」

「でも、本当に同じ人間ですか?」

 源は信じられないという風に聞いた。それに赤本は相手に聞こえない程度に耳打ちした。

「源、良く見て見ろ。鎧の形状が少し違う」

「あ、ほんとだ。でも、似ている…」

「それは同感だ」

 どうしてもレストアに見えてしまう。

「すまない、お前から説明してくれないか?」

 東雲は新入りの顔?を見上げると、少し大きな声でそう言った。

「……千秋せんしゅう迅です。よろしくお願いします」

「しゃべった!」

「あんまり渋い声じゃあないな」

「……」

「千秋は機械エンジニアだ。そこで、先の戦闘で鹵獲した神獣協会の強化装甲の運用テストをしてもらっている」

「神獣協会製…だからレストアと似ていたのか」

「でもこうしてみると、結構かっこういいですよね。この鎧」

「俺はイヤな思い出しかないな」

 赤本と源は、千秋を囲んでどうこうと言い合っていた。それに千秋は一切答えなかった。

「おい、赤本」

 不意に後ろから声がした。二人がそれに振り向くと、その声の主は、緑屋だった。

「随分仲良しだな。お二人さん」

「挨拶の一つぐらいないんですか?特に源君」

 白石が続く。

「白石ちゃんの言う通りだ。折角の再登場なのに、また僕を空気にしないでくれないかい?」

 そういう諏訪部は、すっかり元気になっている。

「あ、すいません。ついうっかり…」

「…俺もだ」

「オイオイ、それでいいのかあ?副班長?」

 緑屋は若干喧嘩口調である。

「おい、お前ら。収集付かなくなるから一旦やめろ。ここにあつまったのは新入りを紹介するためだ」

 班員たちは東雲にすごすごと従った。そして、壁際にみなで整列した。そこには源も一緒だった。

「では改めて、千秋迅、お前は今日からここ怪獣特殊処理班の一員だ。良く働いてくれ」

「……了解しました」

「うむ、では何か質問はあるか?」

「……ありません」

 千秋は、必要最低限の言葉しか発さなかった。

「そうか…じゃあ赤本、部屋を案内してやれ」

「分かりました…」

 赤本は若干嫌そうだった。見た目が見た目なのでしょうがない。

「あ、そうだ。源、お前も少し…」

 赤本は横目で源を見たが、

「源さんはこちらで用事があります」

 と白石にばっさりカットされてしまった。赤本が仕方なく部屋の案内をしている間、源たちはロッカールームに向かった。部屋の真ん中にあるテーブルに各々が腰かけると、まず緑屋が話し出した。

「こうして班員全員が集まるのは久しぶりだな」

「そうですね、事故と作戦が交互にあったからあまり顔を合わせられなかった」

 源がそれに応える。

「でも源君、確か白石ちゃんが入院している時、良く見舞いに来てなかった?」

 諏訪部は突然、そうぶっこんだ。そういえば病室が隣であった。

「それは……」

 源が弁明しようとしたとき、それに白石が勢いよくかぶせてきた。

「決して!そのような理由ではなく…!」

 見るからに焦ったような口調で白石は言った。少し耳が赤い。

「僕まだ何も言ってないんだけど……まあいいか」

 諏訪部は意味ありげに源を見た。

「何だよ諏訪部、お前には私が見舞いにいったじゃねえか」

 緑屋はにやにやしている諏訪部を小突いた。

「それはそれ。第一、君が来てしたことと言えば、あの頭のおかしいTシャツについて長々と説明しただけだろう?」

「何だと?おめえ、あの時私のデーモンコア君Tシャツ褒めてたじゃねえか」

「あれは……言葉の綾だよ」

「言い訳にすらなってねえな」

「あの、デーモンコア君とは…?」

 源はその聞いたこともない単語に、思わず尋ねられずにはいられなかった。

「そりゃあお前、デーモンのコアだよ。コアは怪獣のコアで、デーモンは……語呂がいいから付けた」

「さいですか…」

 思ったよりもずっと浅い答えに源はうっかり尋ねたことを後悔した。その時、ロッカールームのドアが開き、ばつの悪そうな顔をする赤本と、その身長のせいで、頭が完全に梁に隠れている千秋がいた。もっとも、千秋はドアをくぐれていなかった。

「あ。赤本さん」

「赤本、随分早かったね」

「あのなあ……」

 赤本はなにか言いたげに、団らんしている源たちを睨んだが、結局諦めて千秋がドアをくぐるのを手伝った。

「ドアを改修しないといけないですね。これは」

 呑気にそんなことを言う源に、赤本はガっとその肩を掴んだ。

「…あんま調子乗んなよ?」

 ガチトーンだった。一同はその微かな殺気に思わず口を閉じた。その間に赤本は部屋の説明をサッと済ました。

「……これで一通りの部屋は紹介したな。何か質問は…ないか」

「…一ついいですか?」

 その時初めて、千秋が自ら口を開いた。

「え?ああいや、なんだ?」

「これは…」

 そう言って千秋が指さしたのは、源のロッカーの棚に置いてある、制御装置だった。

「それは脳波をコントロールして、怪獣の居場所や怪人の居場所を発見する装置だ」

「…それだけですか?」

「なんだと?」

「いえ、これはそういった目的で作られたものでは…」

「これを知っているのか?」

「ええ……あ、知っているというのは、私がエンジニアとして似たようなものを見たことがあるので」

 千秋は慌てて自分の発言をフォローした。その様子は何処か違和感があった。

「…そうか。そういうこともあるのか」

「そういうこともあります」

「じゃあ部屋の紹介は終わりだ。ちょうど面子も集まっているし、各自自己紹介をしておこう。俺は赤本明石、班全体の安全確保を行っている」

「あと戦闘ね」

 諏訪部がそれに付け足す。赤本は何か言いたげだったが、我慢した。

「そんで、僕は諏訪部蒼志。生物学者兼獣医だよ。まあ普段はそれに類する仕事をしてるかな」

「私は緑屋広葉。解剖学者で大体コイツと同じことをしている。怪獣の体組織の切除とか」

「同じことって、君のは僕よりマッドだよ」

 そういう諏訪部に緑屋はひじ打ちを食らわせる。

「私は白石燈です。こちらの源さんと同じで、コアの浄化を担当しています」

「……」

 一瞬、白石の説明に千秋が反応したように見えた。

「じゃあ最後は僕ですか。僕は源王城と言います。白石さんが言ってくれましたが、浄化を担当しています。よろしくお願いします」

「じゃあ、千秋も簡単でいいから自己紹介をしてくれ」

「……千秋迅です。機械エンジニアで、回路系が得意です。これからは…」

 そこで千秋は言葉に詰まった。どこかその続きを言うのをためらっているようだ。それを班員たちは黙って聞いていた。何を担当とするのかは知っておかなくてはいけない。

「……浄化を、担当します」

「千秋さんも浄化を?」

「人数が増えるのは良いですね」

 源と白石はそれを聞いて喜んだ。負担の大きい浄化作業をより分担して行えるのは有難い。

「じゃあ全員自己紹介も済んだことだし、今日は全員で外食でもするか」

「おお、いいじゃん。たまには気が利くねえ」

「久しぶりに酒が飲めるな」

「緑屋はアルコール禁止だ」

「このメンバーで外食なんて、初めてですよ」

 赤本の宣言に、班員たちは湧いた。ただ一人を除いて。

「あの、私は遠慮させていただきます…」

 千秋はどこかバツの悪そうにそう言った。

「用事でもあるか?」

 赤本が聞く。

「いえ、特には無いのですが…」

「じゃあ大丈夫だろう。別にアルコールも食事も強制しない。ただ班全体の親睦を深めるのが目的なんだ。それにお前の歓迎会も含まれてる。まあ無理をする必要はないが、出来れば来てほしい」

「……分かりました」

「ああ、よろしく頼む」

 怪獣特殊処理班の飲み会は、あの出羽長官行きつけという、焼き肉店に決まった。
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