怪獣特殊処理班ミナモト

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第2章 王族親衛隊

拘りと美学

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渋谷国際ターミナルに併設された、渋谷スクエアセンタービルの170階には、各国の要人も利用するとされている高級料理店が立ち並んでいる。その中でも最奥の角に構える、高級焼き肉店『一画』の上品な入り口で一同は立ち尽くしていた。

「…赤本さん、本当にここなんですか?」

「ああ、出羽長官の話では確かにここだ」

「というか、僕たち普通のスーツ姿で来ちゃったけど、大丈夫?場違いが過ぎない?」

 諏訪部は周りの業界人たちを横目で見ながら不安げにそう言った。確かにこのフロアの中では、この公務員たちは明らかに浮いていた。

「そう周りの目を気にすんなよ、諏訪部。別に捕まるわけじゃないんだし」

「あのねえ、君ここがどういう場か分かってないでしょ。あ、ほら!今ここを通った人、三友工業の重役だよ?さっきから画面の向こうでしか見ない特権階級がわんさかとか、流石に尻込みするね…」

「諏訪部さん、緑屋さんはそう言った方々には疎いですから、こういった反応も仕方がありません…」

「確かにそうだけどさあ」

 もう少し周りの目も気にしてほしいよねえ、と諏訪部はため息をつく。

「千秋さんはこう言った場所は初めてですか?」

「え?ああ、はい。飲食店というのは…」

「そうですよね、私もこんな高いお店は初めてです」

 白石はさきほどから積極的に千秋に話しかけていた。班内で同じ役割だからというのもあるが、それ以上に千秋とはどこかシンパシーを感じていた。要するに話しやすい。白石は源にも声を掛けようとしたが、赤本と一緒に店に入っていった。

「いらっしゃいませ、ご予約のお客様ですね?」

 まるでホテルの受付のようなカウンターから、女性の店員からにこやかにそう尋ねられる。白石と遜色ないレベルで美人だ。いや、そもそも比較対象にされる白石がおかしいのだが。

「はい、19時から6人で予約していた赤本です」

 赤本はそんな美人を前にしても、微塵も普段の態度を崩さなかった。そういった訓練でも受けていたのだろうか。美人店員はさっと宙に浮いたウインドウを確かめると、カウンターから降りた。

「…確かにご予約いただいております。こちらのお席へどうぞ」

 どうやら案内してくれるらしい。源は他の班員たちを呼んだ。

「皆さん、席に移動しますよ」

「やっと肉が食えるな」

「酒はダメだよ、緑屋」

「あの、千秋さん。本当にその装甲を付けたままで?」

 白石は千秋の人並み外れた図体を気にした。せめて食事の場では外した方がいいのではないだろうか。

「それが、この装甲は一旦装着してしまうと中々取り外すのが難しく……」

 それはまた難儀な代物だ。白石は何か言おうとしたが、千秋の申し訳なさそうな声に断念した。

「じゃあ、千秋さんはなるべくかがんで移動してください…」

「はい、申し訳ありません」

 千秋が食事の誘いを断りかけたのは、こういった理由もあるのだろうか。

 一同は座敷の個室に案内された。旅館の一室のような広々とした部屋で、きれいに磨き上げられた檜の机が中心に配されている。

「これは…」

「すごいですね…」

 赤本と緑屋を除き、皆がその高級さに唖然とした。

「はは…やっぱり場違いじゃない?僕たち」

 諏訪部は飾り棚に置かれたいかにも高価そうな置物を見ながら言った。

「いいから、早く座れ。緑屋はもうメニューを見ているぞ」

 赤本と緑屋は、そう言ったものには興味を示さないので、さっさと座布団に座りくつろいでいる。まるで実家のようなくつろぎようである。

「赤本さんも緑屋さんも、なんかもうちょっと無いんですか?リアクション」

「別に、窓からの景色は綺麗だが……」

「私はお腹が空いている」

 まるで関心がない。

「だが、肝心の東雲班長がいないのはどこか違和感があるな」

 東雲は赤本たちの誘いを辞退していた。まだ義手が出来上がっていないから、らしい。

「確かに。それに、ここを取ってくれたのは東雲さんですしね」

「まあそうは言っても班長は来ないんだから、僕たちがその分も楽しめばいいんだよ」

 諏訪部は一通り個室の内見が終わったからか、緑屋の隣に腰を下ろした。

「そうですね」

 源も赤本の向かいに座る。白石と千秋もなにごとか二人で話していたが、じきに源の隣に座った。

「あ、千秋さん。あぐらは…」

 白石は腰を下ろそうとする千秋に慌てて声を掛けた。

「それは問題ありません」

 千秋はそのまま白石の隣にゆっくりと座りこんだ。もっとも、あぐらではなく正座である。それも実にきれいな正座だ。そういえば、レストアもあの白い部屋であぐらをかいていた。

(案外可動域が広いんだな。この鎧は)

「それじゃあ、早速肉を食おう!」

 緑屋はそう言って机の真ん中にメニュー表を立ち上げた。

「…値段が書いていないですね」

「こういった店ではそれが普通だ。一々値段を確認する客はここには来ない」

 赤本はさっさと生ビールを頼んだ。それに枝豆だ。

「お、生か。じゃあ僕もそうしようかな」

「僕も生ビールで」

「私も…」

「緑屋はダメだ」

 すかさず赤本の制止が入る。緑屋はチッと舌打ちをすると、仕方なくノンアルビールを頼んだ。白石はアルコールが苦手なので、ジンジャーエールだ。千秋も同じ理由で、こちらはオレンジジュースを頼んだ。

「千秋、アルコールが苦手なのか」

 赤本は意外そうに言った。千秋の見た目とのギャップがすごい。

 ほどなくして、各自の飲み物と各種おつまみが給仕ロボットによって運ばれてきた。

「それじゃあ、乾杯!」

 赤本の掛け声で、カチャリとジョッキのぶつかり合う小気味のいい音が鳴る。

「ふー、効くねえ。これ」

「今までで一番おいしいです!」

「…うん、確かに美味いな」

「いいなあ、私なんてノンアルだぜ?美味いけど」

「君は爆弾だから、それくらいがお似合いだよ」

 諏訪部はすっかり勝ち誇った顔で緑屋にジョッキを見せびらかす。

「良く言うぜ、お前も酒は強くねえだろが」

「お二人とも、仲良いですね」

「ふん、こんな奴敵だ敵」

「だそうだ、僕は一同僚としてフレンドリーに接しているんだけど、いや悲しいね」

 相変わらず諏訪部の言葉は薄っぺらい。酒の席では尚更だ。源は言い争う2人を諦め、白石の方を見た。

「だから言ったんですよ、この人でなし!って」

「それは、大変ですね…」

 こちらはこちらで千秋との会話が弾んでいる。この2人、一体いつの間に仲良くなったのだろうか。そして何の話をしているのだろうか。とても源が入っていける内容ではない気がする。それに、雰囲気がどことなく女子会のようである。源はこちらも諦め、向かいに座る赤本に視線を移した。どうやら赤本も話す相手は無く、酒とつまみを黙々と往復していた。これはこれで楽しそうではある。

「赤本さん、その枝豆少しもらっていいですか?」

「ん?ああ、別に好きなだけ取ればいい」

 どうやら赤本は機嫌が良いらしい。ここのところ、生死の境を跨ぐような修羅場が幾度となく起こっていたから、やっとここで一息つけた、と言った感じだろうか。

「赤本さん、なんだか上機嫌ですね」

「まあな、ここならまず死なない」

「はは、確かに」

 その時、障子が自動でスライドしたかと思うと、ロボット達が入ってきた。頭のトレイには様々な肉が、皿の上に華やかに活かられている。

「お、随分早いね」

 諏訪部がロボットの頭から皿を取っている。

「諏訪部が頼んだのか?」

「うん、飲み物頼む時にしれっとね。もっとも、種類が複雑すぎたから、お勧め盛り合わせを3人分だ」

 こういう時、諏訪部は行動が早い。

「御託はいいから、肉を拝ませろよ」

 緑屋はすでにトングを両手に持って身を乗り出している。ロボット達はテキパキと空いた皿を片付けると、机の真ん中周辺を空けた。すると、机の中央が二箇所、20センチ四方の正方形にせりあがった。

「おー、ハイテク」

「こういった埋め込み式は初めて見ました」

「じゃあ早速焼いていくか。まずはタンから…」

 赤本はそう言って薄切り塩タンをトングで取り上げるとその瞬間、

「ステイ!赤本!」

 という声と共に、緑屋が凄まじい速さで塩タンを奪った。

「塩タンは端に置くな。論外だぞ」

 そう言いながら緑屋は非常識だと言わんばかりの非難の視線を赤本に向けると、見るも鮮やかなトング捌きでタンをせりあがった台の上に置いた。するとジュウジュウという美味しそうな音と匂いがあたりに漂い始めた。

「ほう、これは中々…」

 緑屋は何故かしたり顔でそう呟いている。

「白石、緑屋さんどうしちゃったんだ?」

「私もあんなの初めて見ました…」

 新種の形態らしい。

「緑屋さん、どうしてそこまでこだわるんですか…?」

 源は恐る恐るそう聞いてみた。

「あ?私からしてみれば、拘らない方がおかしいね。見ろ、この霜降りを。このきめ細かさは人工肉じゃ絶対にだせない。そんな超一級品を雑に焼いて食すなんざ、筋組織に対する冒涜だろうが」

 緑屋には緑屋なりの拘りと美学があるのだろう。一同はそこまで言うなら、と緑屋に肉を焼く権利を譲渡した。そしてついに、肉にありつくことができた。

「美味しい!今まで食べた中で1番だ!」

「これはすごいな。肉本来の旨みと、火を通したことによる食感と味の変化を焼き加減一つで両立させている……」

「…おいしいです」

 思わず笑みがこぼれてしまうような、そんな美味しさだった。緑屋はその反応を見て得意げに鼻を鳴らした。

「そらみろ、私が焼いた方が絶対ウマいんだよ」

 和気あいあいとした雰囲気の中で、焼肉に舌鼓を打っていると、突然障子が勢いよく開いた。それも手動で。

「おーい、俺が来たぞー」

 そこには、金髪碧眼のイケメンが立っていた。したたか酔っているようで、足元がおぼつかない。そこに背後からもう1人、アメリカ人がそのイケメンの肩を掴んだ。

「おい、アレク!」

 この男がいれば、彼もまたいるのは必然なのだろう。

「アーサーさんに、アーノルドさん…?」

 これはまた、面倒臭くなりそうな遭遇である。
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