【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

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Ⅱ.体に優しいお野菜編

47.僕、またちょっと成長します③

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「そっか。テティって悪戯っ子だったのか」
「あれが、んな可愛いたまかよ」

 ヴァルは「絶対、性格わりーと思ってた」とぼやいている。

「えっと……グノは、嘘ついてないよね?」

 予言のこととか、『物語』のこととか。

「ボクは安定、安寧、平穏が根本的な性質。あえて揺さぶるようなことは、しない」
「そっかぁ、良かった」

 僕はほっと胸をなでおろす。

 良かった。僕、危うく竜不信になるところだったよ。

「あんたとは、上手くやっていけそうだな」

 それはつまり、テティとは上手くやれないってことだね?
 ヴァル自身は、びっくりするくらいの安定志向だからなぁ。
 長いこと人生を歩んできたおじいちゃんみたいだもんね。もはや。

 ………あっ!でも、ヴァルはちゃんとすごく元気だよ!とっても若いし、むしろ元気すぎるっていうか、美味しすぎるっていうか、僕お腹いっぱいっていうか……ね?

 そこは、ヴァルのこか……じゃなくて、沽券?に関わるから、ちゃんとお伝えしとかなきゃね!うん。

「で、用はもう済んだか?俺らも急いでんだよ。
 どうせ、赤銅竜の長の居場所は、あんたも知らねぇんだよな?」

 そうだった。僕たち、院長を探してたんだった。

 グノはこくり、と無言で頷いて、「時が来れば、現れる」と言った。

「はっ……ただ、待っとけってか。なんだそれ。面倒くせぇ」

 ああ。ヴァルって、のんびりしたいとか言いながら、けっこうせっかちさんだからね。

「人の子よ。君は人の中でも特別」

 わかる。わかるよ。グノ、わかってんね!違いのわかる竜だね!
 ヴァルって、唯一無二の最高に美味しそうなイイ匂いしてるもんね。
 でもって、実際極上の美味しさだから!でも、ダメだよ。ヴァルは黒い竜気ぼくのだから!
 あ。ヤバい。なんかヨダレが……。

「引かれ合う宿命。魂の相性。どうあっても、何度でも引かれ合う。
 良いものばかりじゃない。執着、依存、未練、嫉妬生む、悪しき相性もある。
 数多ある時、場所で同じように出会い、同じ道を歩む」

 引かれ合う宿命。悪しき相性。

 グノの言葉が、じんじんと僕の奥深くに共鳴して、内側から何かが引きずり出されるような心地がする。

 さっきの美味しかった気持ちが、すっと冷える。

 なんだろう。なんだか、すごく、イヤな気分だ。
 グノはヴァルに話してるみたいだけど、僕もすごくもやもやしてきた。

 僕の中の“迷い星”と竜の神子が同じ世界の魂だって、聞いたときに感じた、あのいやな気分と同じ、あの時の不穏な情動を、100倍くらいに増幅させたみたいな。

 喉がヒリヒリして、とっても渇いて、キーンと高い音が耳の奥で響く。それなのに自分の鼓動がドクドクと全身に響いてて、とっても寒くなるような。

 真っ暗なところに、引きずり込まれるみたい。足元からずぶずぶと嵌まり込んで、周りも全部真っ暗になって、抜け出せなくなるような。

 ああ、嫌だ。これは、嫌なやつだ。思い出しちゃ、ダメなやつで……――。

 ぽすっ

 頭にのった重みに、我に返る。

 大きな手に、ぐしゃぐしゃと強めに撫でられて、ぼさぼさになる僕の白い髪の毛が視界をかすめる。

「ううっ……ヴァル、力強すぎだよ」
「また、変な顔してんぞ。馬鹿」

 切れ長の瞳を、さらに半分に細めて、少し意地悪く皮肉っぽく笑った顔がそこにあって。
 強めの力で髪を乱す手は乱暴で雑なようでいて、いつも優しくて、今もいつも通りに優しい。
 そして、ふわり、と甘い美味しい匂いが漂った。

 うわぁ。ヴァルだなぁ。

 僕の視界も、頭の中も、全身が全部ヴァルだけになったような気がした。
 ゆっくりと離れる手が名残惜しくて、思わず目で追ってしまう。

 ヴァルの手は、指が長くて、大きくて、温かい。
 色々なものを作ったり、戦ったりするからか、ちょっと皮膚が硬くて、だけど繊細な動きをする器用な指先が、いつも僕を心地よくしてくれる。

 この温かい手が、僕は好きなんだよねぇ。

 あ。なんか、あの嫌な感じが、なくなってる。何だったんだろう。

「歪の影響、今ある変化。この世に受け入れられている」

 グノはヴァルに近づくと、握手を求めて手を差し伸べた。ヴァルは一瞬戸惑い、けれどグノの手を握る。

 じっと二人は見つめ合って、しばしの静寂が続いた。

 ………え。なんか、見つめ合い過ぎじゃない?あんなに、長いこと手つなぐ必要ある?
 ちょっと待ってよ。僕だって、ヴァルと手繋いだことないんですけど!

 二人の手がやっと離れた。

 なんでヴァルは、そんな名残惜しそうな顔してんの?まだ手繋いでいたかったの?ヤだよ。そんな顔、他の人にしないでよ。
 うー……なんか、胸がツキツキする。

 なんか、さっきから変な感じ。僕、どうしたんだろう。

「ルルド」

 グノに呼ばれて、いつの間にか俯いていた顔をあげる。

「なに?」
「出会い、絡まり、流れは変わる。これからの行く末、わからない。誰も知らない。
 君たちが共にあること、この世にきっと救済をもたらす。それがボクの、願い。
 今日、このことをどうしても君たちに伝えたかった」
「うーんっと………どういう意味?」

 グノ、ごめんね。何言ってるか、僕、わからないよ。

「ルルドは、ルルドでいればいい。それだけ」

 なるほど。

「うん。それだけなら大丈夫だよ!」

 だったら初めから簡潔にそう言ってよね!
 うんうん。わかったよ。僕は僕でいればいいんだね。

 ………あれ?なんでヴァルは盛大にため息ついてるんだろうね? 

「ルルドを、くれぐれもよろしくね」

 そうヴァルに言って、グノは現れたときと同じ美しい笑顔で地面へと溶けるように消えていった。

 夜の冷たい風が吹き抜けて、街の中に戻ったのだと騒音が教えてくれる。

「はぁ……急ぐか」
「うん!」

 僕とヴァルは再び走り出した。

 院長、すぐに見つけてあげるから!死なないで待っててね!


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