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第六話 かぐや姫
しおりを挟む「……また、人には見えないものが見えちゃった。聞こえないはずの声が聞こえちゃった」
薄茶色の髪と紫色の瞳の少女が、公園の桜の木の上で休んでいたルイとモクを見つめながら言いました。
「やぶから棒に何だよ? ……ってオレの声が分かるのか!?」
「私のことが見えるの!? えへへ、何だかうれしい。私はルイで、こっちがモクだよ」
「か、かわいい。私は満月。えっと、高校二年生で……」
話し途中でハッとした様子のミヅキは、キョロキョロと周りを気にする素振りをしながら声をひそめて話します。
「……ここ公園だし、人目につきやすいから私の家に行こう。一人で話している変な人と思われたくないし」
ミヅキは、ルイとモクを自分の肩に乗せるとゆっくり歩き出しました。
苦しそうな息づかいで歩くミヅキに、モクが心配そうにしながら聞きました。
「お前、大丈夫か? すごい苦しそうだけど」
「いつものことだから大丈夫。私ね、たぶん、この世界の住人じゃないから、体が適応できなくて疲れやすいのかも。……なーんてね」
「やっぱり、そうなんだね。ミヅキが人間じゃないことは気付いてたよ」
「まあ、オレたちの存在に気付いた時点でおかしいしな」
「えー、冗談のつもりで言ったのに。やっぱり私は人間じゃないのかな……」
「何だそれ? お前、自分のことなのに自分が分からないのか?」
「そうだよ、分からないの。でも、しょうがないでしょ。赤ちゃんの頃から、この世界で育てられてきたんだから」
「ふーん、それより一つ気になることがあるんだが、ミヅキを見てるとだれかを彷彿するような。オレたちに驚くことなく躊躇なく家に連れて行ってくれるところが何となくアイツに……」
そんな話をしていると、さくら色の小さなアパートに到着しました。
玄関のドアを開けると、長い黒髪の女性が駆け寄りミヅキを抱きしめました。
「よかった! 帰りが少し遅いから心配してたのよ。……あら肩に鳥?」
「……あー、このメジロがなついてきて離れないから、つい遊んであげてたの。心配かけてごめんね」
「おいっ! 適当なこと言ってんじゃねえ!」
「モク、静かに。ミヅキは、たぶん体の調子が悪いことをお母さんに知られたくないんだと思う」
黒髪の女性は、しばらくミヅキと話した後、どこかへと出かけていきました。
「母ちゃん、どうしたんだ?」
「今夜は満月だから、おだんごを作ってくれるって。よかったら、モクとルイも一緒に月見をしない?」
それを聞いたモクとルイが顔を見合わせます。
「どこかで似たようなこと言われた覚えがあるな。しかも、オレの声が聞こえてルイの姿が見えるし……」
「うん。それに髪の色、瞳の色まで同じ……」
「なに急に、だれの話?」
モクとルイの会話を複雑そうな顔で聞いていたミヅキが、手鏡を取り出して自分の姿を見つめた。
「ちなみに私の髪はね、月の光を浴びると銀色に染まるよ」
「だからあの時、銀色だったんだ……」
「うーん、なるほどな」
「それに、不思議な力まであるの。先の未来が少しだけ分かる。未来予知の力があるみたい」
「だから大量のだんごを用意してたのか。その力でオレたちが来ることが分かってたから……」
「私が記憶喪失だってことも未来予知の力で分かったんだね」
「さっきからルイとモクは、だれの話をしてるの? もしかして私に似ている人を知ってるってこと?」
「うん。ミヅキにすごく雰囲気が似ている友だちがいるの。男の人だし別の世界にいる人だけど……」
「……やっぱり、別の世界か。私、自分が何者だか分からないの。知っていることは、自分が人間じゃないこと、お母さんの本当の子どもじゃないことだけ」
「よかったら、ミヅキのことを友だちに伝えてきてやるよ。オレたちは、なぜか色んな世界に行ったり来たり出来るんだ。理由は分からないが……」
それを聞いたミヅキが、うっすら微笑むと静かに言いました。
「ありがとう。じゃあ、迎えに来ないでって伝えておいてくれるかな」
「はあ? 何で!?」
「ミヅキは自分の正体が知りたくないの? それに、この世界にいると体が弱っていくんでしょ。なのにどうして?」
「私は自分が何者でも、お母さんと一緒にいたいだけだよ。いつも二人で月見をしてると寂しそうに言うんだ。かぐや姫みたいにいなくならないでねって……」
「かぐや姫? 竹取物語の?」
「うん。竹の中にいた女の子が、人間に大切に育てられるけど最後には月に帰ってしまう話」
「たしかに、ミヅキと状況が似てるね。人間に育てられた別の世界の住人か……」
「それだけじゃない。もしかしたら月の住人たちは不思議で神秘的な力を持っていたんじゃないかな」
「まあ、竹の中にかぐや姫を送り届けられるわけだしな」
「もしかして、ミヅキにも不思議な力があるのかな?」
「……ルイとモクが私とまた次に会えた時に見せてあげるよ」
そう話したミヅキは、まだ月が見えない空を見上げました。
(大切な人)
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