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第十三話 檻(おり)と餌(えさ)
しおりを挟むモクは、鏡に映ったイソラの姿から、思わず目を逸らすとルイの方を向きました。なぜかルイの姿が、いつもよりとても小さく見えています。
「……モクはメジロじゃなかったんだね」
ルイの言葉で、モクは自分の姿が小鳥ではなく髪の長い十代前半の少年の姿になっていることに気がつきます。
「やっぱり、イソラの姿だよな。でも何も思い出せないんだ。……ヨウ、これがオレの本当の姿なのか?」
ヨウはモクにリンゴのウサギを差し出しながら言います。
「ああ、そうだよ。その姿ならリンゴも食べやすいだろ? せっかくモナカが用意してくれたんだ。食べてくれ」
モクは、リンゴのウサギを受け取ると感慨深い表情を浮かべて呟きます。
「そうか、あの子が……」
そんなモクの様子を無表情で見つめていたヨウが、今度はルイの前に鏡を置いて言いました。
「ルイ、お疲れさま。もういいんだよ」
そのヨウの言葉に、ハッとしたルイが、鏡に映る自分の姿を見つめながら言いました。
「……この旅に終わりはあるのかな?」
そう言い残すと、ルイの姿が一枚の紙に変わります。紙には、満月の夜に泉に浮かぶ銀色の椿の絵が描かれていました。
「………………ルイ?」
モクが震える手で、ルイだったはずの絵を拾い上げます。
「……モク。ルイなら目の前にいるじゃないか。お前もミヅハも初めて彼女を見た時、椿の花の精みたいだと思ったんだろう。だからボクも、ツバキって愛称で呼んでたんだ」
ヨウは驚くモクの様子に構わず、眠っているツバキの額に手を当てます。すると眠っていたツバキが目覚めました。
「ルイ、おはよう。楽しい夢を見れたかい?」
ルイと名前を呼ばれたツバキは、何の反応も示さず虚ろな瞳のまま、再びヨウの髪で遊びはじめました。
「いてて。本当にルイはボクの髪が好きだね」
仲睦まじい二人の様子を羨望と嫉妬が入り混じった気持ちで見ていたモクでしたが、同時に何かとても奇妙で不気味な感覚を感じていました。
やがて、その感覚の正体に気付いた瞬間、全身に怖気が立っていました。
美しかったツバキの姿が、徐々に崩れていきます。皮膚が剥がれ落ちて血が体のあちこちから吹き出しています。
そんなツバキの姿を見て、モクの瞳から涙があふれます。
「……思い出した。ボクはイソラ。ミヅハ、どこにいるんだ。全部、思い出したよ。すまないルイ。オレのせいで、そんな姿にさせて。もう少しだけ待っててくれ。どうして。何で? 一体、どこから間違ったんだろう? ……全てが間違いだったんだ」
支離滅裂な言葉を発するモクの姿が、ヨウの視界から、ゆっくり消えていきます。
「本当に愚かだよ。ミヅハもイソラも……」
そう呟いて、ヨウが悲しそうな表情を浮かべた時でした。
ミヅキが赤子の亡骸を抱いて、ヨウの家に戻ってきました。
「ヨウさん。モナカ君が……」
「元の姿に戻ってしまったか。……ツバキも、この通りだよ」
「……お母さんまで。二人ともごめんなさい。私の力が完全に枯渇してしまったから」
「大丈夫。もうじき十九年目の満月だから。ボクらの力が復活すれば元通りだ。ツバキも正気に戻れる」
「……そして、また繰り返すの? 同じ十九年を」
「……ああ。ミヅハが水神になった夜、あの満月から始まった十九年を。ボクたちは、そのためだけに存在してる」
「……また私は記憶を消されて、お母さんの子どもとして、あの世界で暮らすのね。モナカ君の代わりに」
「そうだ。ミヅハ、イソラ、ツバキ、モナカが人間として生きていた世界で。……今の年号は、たしか令和だっけ?」
「うん。お母さんたちの時代から千年以上は経ってる。……だからなの? この場所の建物も道具も人の服装も、大昔の時代から今の時代が混じり合ってるのは。私には時代劇と現代のドラマがゴチャゴチャになってるような気持ち悪い世界に見える」
「ここはミヅハが作り出した空間で、ボクとミヅキが見てきたものが反映される世界。本来の世界で生きることができないモナカの子供部屋でもあるから。……オモチャ箱なんてゴチャゴチャしてるものだろ?」
「…………………」
「次の十九年は、和装じゃなくて、シャツとジーパンで過ごそうかな。本当は、この長い髪も短髪にしたいけどツバキがイヤがるか」
「……モナカ君も、長くてうっとおしい髪がイヤだって言ってたよ。でも、切っても切っても伸びてくるんだよね」
「モナカの本当の髪と瞳の色は黒だからな。それを隠すように、月を見つめる度に瞳が金色に染まり、あの銀色の髪が伸び続けるんだろう。モナカは分かっていても月を見上げてしまうらしい」
その言葉を聞いたミヅキは、しばらくツバキを見つめた後、涙を流します。
「この十九年の繰り返しから、お母さんとモナカ君を解放する方法はないの?」
「……今のところはないな。この世界はミヅハを閉じ込めておくための檻なんだ。そしてツバキとモナカは、ミヅハを鎮めるための大切な餌なんだ」
「……でも!」
「そうしないとミヅハは、また多くの人間を呪い殺していく。ミヅキも記憶が戻ったなら分かるだろう? ……仕方がないんだ」
(幻影のなかで)
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