花鳥見聞録

木野もくば

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第十二話 生贄(いけにえ)の少女

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「どうして悲劇的ひげきてきな結末になったのかって? ミヅハの愛した少女は見目麗みめうるわしかった。でも、そのことが大きなわざわいになったからだよ」

 そう話したヨウは、大きくため息をつくとウトウトと眠そうにしているツバキを見つめます。

「そもそも、少女が水神すいじんへの生贄いけにえにされた理由は、住んでいた場所の村長の娘に美しい容姿ようしねたまれたからだった。……そしてミヅハに助けられた後も悲惨ひさんな人生になった」

悲惨ひさんな人生? ……どうして?」

「少女が生贄いけにえとして連れて行かれそうになったときだった。少女の両親が娘を助けるために激しく抵抗ていこうしたせいで、村人たちから気を失うまでひど暴行ぼうこうを受けてしまう」

「幸運なことに、絶望していた両親のもとに少女が生きて帰ってきて、家族に同情的な立場だった村人たちの助けで何とか村から逃げ出せた。……だけど、家族の運命の歯車は暗闇くらやみの方へ転がっていく」

新天地しんてんちを目指す途中とちゅうで、母親は暴行が原因のケガで死んでしまう。少女と父親が悲しみをこらえながら放浪ほうろうして、なんとか海辺うみべの村に住めることになった。だけど父親も無理がたたったせいでやまいがちになった」

「そしてまた、少女の美しい容姿ようしわざわいとなってしまった。近所に住んでいた強欲ごうよくな男に見初みそめられて、父親のやまいの治療代と引きえに妻になることを強要きょうようされた」

「ミヅハを想い続けていた少女だったが、他に選択肢せんたくしもなく男の妻になるしかなかった。でもけっきょく、治療代の話は少女を手に入れるための男のうそだった。しばらくののち、父親は絶望のなかでやまいに負けて死んだ」

 モクとルイが少女の悲運ひうんだまむなか、ヨウは眠り始めたツバキの体を支えながら言いました。

「今ここに、モナカがいたら、これで話は終わりにするつもりだった。……あの子にとっての父親は、ボクだけでいい」

 そのヨウの言葉で、ツバキの正体をさっしたモクとルイは何も言えずにいました。
 そんな様子にかまわず、ヨウが淡々たんたん生贄いけにえの少女の話を続けます。

「強欲な男は、妻となった少女を本気で愛していた。そして自分を愛してくれない少女を激しくにくむようになった。毎日のように繰り返される夫の残酷ざんこくな仕打ちと暴力で少女の体も心もボロボロになっていった」

「数年後、そんな地獄じごくのような日々に転機てんきが訪れる。少女が身籠みごもったため、夫の暴力が止まった。やがて息子が産まれると心を入れ替えたように妻を大切にするようになった。ほんの少しだけ少女の人生に平穏へいおんな時間がやってきた」

「だけど、その幸せも長くは続かなかった。一歳になる前に息子はやまいで死んでしまった。その瞬間しゅんかん、少女の心が完全にこわれた」

くるってしまった少女は、息子の亡骸なきがらを抱いてミヅハがいた泉に向かって歩き出した。夫も息子を失った喪失感そうしつかんがらのようになっていた。こちらを一度もり返ることなくヨロヨロと歩く妻の後ろ姿を見送りながら、自分の過去のあやまちをいることしか出来なかった」

 そこで話をやめたヨウが、眠っているツバキのひたいに口づけをしました。それを見たモクとルイは、居心地いごこちわるそうな様子で目をらします。

「……その、やっぱり、ツバキが生贄いけにえの少女なのか?」

「そうだよ」

「………………」

「あははは。イヤな沈黙ちんもくだな。……ところで、モクとルイにはツバキがどんな姿に見えてる?」

「……とてもキレイで優しそうな人に見えてるよ」

「……オレもそう見える。それに黒い瞳と長い黒髪くろかみが美しいと思う」

「ふーん。やっぱり、そう見えてるんだ。ちなみにモナカは、どう見えてる?」

銀色ぎんいろかみ金色こんじきの瞳。あと、すごく長いかみだよね」

「……オレは、あの長い銀色を見ているとミヅハを思い出す」

「なるほど。……たしかに前に会ったとき、モナカの見た目が十五夜じゅうごや満月まんげつみたいとか言ってたもんな」

「さっきから何の質問なんだ? もしかしてヨウには二人が違う姿に見えてるのか?」

「……違う姿か。ボクには真実の姿しか見えない」

 その言葉をさみしそうにつぶやいたヨウは、ふところから小さな丸い鏡を取り出しました。

「それって、私たちが初めてヨウと会った時に持っていた鏡?」

「ああ。いつわりの世界のなか一人で月見つきみさみしくてね。あの月だけは本物だから鏡に映してみたくなったんだよ」

 そうニッコリ笑って話すヨウでしたが、瞳の奥は冷たく光っています。
 それに気付いたモクが、なぜか強い恐怖心を感じて逃げ出したい気分になりました。

「モク、そんなにおびえてどうしたんだ? 生贄いけにえの少女の話の続きは終わってないだろ。それとも自分の正体を思い出したから語る必要がなくなったのかな?」

 ヨウは冷たい口調で話した後、鏡をそっとモクの前に置きました。
 小さな鏡がモクの姿を映しだします。

「……そんな。……なんで? だって、この姿は……」

 思わずモクは、鏡に映る十代前半に見える少年に向かって手を伸ばします。その藍色あいいろかみ橙色とういろの瞳に見覚えがありました。

「……イソラ? あの泉でミヅハと一緒にいたヤツだよな? ……何で?」


 

 


(鏡)
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