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第十五話 泉の追憶(ついおく)②
しおりを挟む「おい! もう明け方になってるぞ」
「本当だ。そんなに時間が過ぎてたのか。満月の夜は明るいから、夜中でも遊びやすかったな」
「やれやれ、ガキのお守りは大変だった」
「そのガキと一緒に全力で遊んでたのは誰だ? ボクも追いかけっこなんて久々にしたよ。お前がしつこいから、すごく疲れた」
「お前がオレより足が速いとか力が強いとか言うからだ。それにしても見た目によらず負けん気が強いヤツなんだな。結構やるじゃねえか」
「……見た目」
「どうした?」
「なんか、お前の顔ってボクに似てないか?」
「へっ?」
銀色の髪の少年が、自分の着物の懐から小さな丸い鏡を取り出しました。
「ほら、鏡を見てくれ」
「うわっ! 本当だ。赤の他人でも顔が似ることがあるんだな。……それにしても、ずいぶん立派な鏡をもってるな。お前、もしかして貴族か?」
「……今はちがう。家は、だいぶ昔に没落してる」
「……ふーん」
「お前こそ、鏡を見慣れてるように見えるけど」
「金持ちの家に仕事に行ったときに見たことがあるだけだ。オレは貧しい庶民だよ。死んだ母親の見た目が変わってたから、養父に高値で買われただけの……」
「……え?」
「あっ! いや、な、なんでもねえよ。……それより、お前の名前と年は?」
「……罔象。……年は十二」
「変わった名前だな。それと同い年か。年下だと思ってたのに」
「………………お前の名前は何ていうんだ?」
「樢」
「なんか小鳥の名前みたいな響きがする」
「実はオレもそう思ってた。もう少しだけ強そうな名前がよかったな。ただでさえ、男にしては華奢な方だし。もっと筋肉をつけたら強そうに見えるかな……」
そう言ってモクが自分の腕の筋肉を眺めた時でした。ミヅハが驚いてモクの手をつかみます。
「モク、腕に大きな青痣が……。しかも、あちこち傷だらけだ」
「……この腕のケガは一昨日のだよ。細かい傷は夢中で遊んでたからな。逆に何でお前は、あれだけ遊んでも体に傷一つないんだよ?」
「そ、それは……」
「……いいなあ」
「えっ?」
「今日の仕事のために体に傷をつけるなって養父に言われてたんだ。でも、こんなデカい青痣ができちまったから、もうどうにでもなれって気分なんだ」
明るく話す口調とは裏腹に、モクの体が震えていて瞳は怯えを隠せていませんでした。
そんなモクの様子を見て心配でたまらなくなったミヅハは思わず言いました。
「ボクなら治せる」
「はあ?」
「治すというより体の時間をケガをする前に巻き戻せるんだ。だけど戻した分だけ時間が過ぎたらケガも元に戻ってしまう。それでもいいなら……」
「ほ、本当か!?」
モクは疑りつつも、すがるような眼差しを向けながら腕の青痣をミヅハに向けます。
ミヅハは目を閉じてモクに触れると、一瞬で体中の傷がなくなりました。
「……こんなことって。……やっぱり、お前は人間じゃない……のか?」
その言葉を聞いてズキンと心が痛くなったミヅハは、モクから逃げるように離れてから言います。
「よ、よかったな。でも、さっきも言ったけど治ったわけじゃないから。そこだけは忘れるなよ。……さよなら」
ミヅハが姿を消そうとすると、モクが慌てて声をかけます。
「待ってくれ! 明日の昼、また、ここに来い!」
「えっ!? なんで?」
「だ、だってよ。まだ勝負がついてないだろ」
「腕相撲もかけっこもボクが勝っただろ……」
「うっ! それはオレが本気だしてなかったからだから。……そうだ。この笛の音を聞かせてなかったな」
「それは、少し聞いてみたかったけど……」
「じゃあ明日、聞かせてやるからさ」
「……モク。お前はボクが怖くないのか?」
「怖くはない。だって一緒に遊んでるとき楽しかったから」
「…………」
「……もう会えないのか?」
「……分かったよ。行く。お前がそこまで言うなら。モクこそ、ちゃんと来るんだぞ!」
「……ああ、もちろん行くって! また明日、遊ぼうな!」
笑顔で手をふりながら帰っていくモクを見送りながら、ミヅハは久しぶりに友達ができた喜びを表すように大きく、いつまでも手を振っていました。
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