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第十六話 泉の追憶(ついおく)③
しおりを挟む何度も一緒に遊んでいるうちに、ミヅハとモクは親友とよべる間柄になっていました。
「ミヅハ。さっきからボーと何を見てるんだ?」
「椿の花の蜜を吸ってる小鳥を見てた」
「あれはメジロだな。そんなに美味いのかな。椿の蜜は……。ところで、なんでお前、赤くなってんの?」
「べ、別に……」
「ははーん。さては好きな女がいるんだな。そして、そいつが椿の花を好きなんだろ?」
「……ちょっと違うな。ボクの一番好きな花が椿なんだ。それで彼女が椿の花の妖精かと思うくらい美しかったから」
「なるほど。ミヅハは面食いってことが分かったよ」
「それも否定できないけど、目があった瞬間、お互いの想いが繫がったような感覚があって、それで……」
「それって相思相愛ってことかもよ。でも参ったな。オレも椿の花が一番好きなんだよ。その椿の妖精に会ったら、オレも惚れたりして……」
「…………」
「そんな顔すんなって。冗談だよ」
「いや、違う。急に今、少しだけ先のことが頭に浮かんで……」
「先のこと? お前、そんな力もあるのか?」
「そうみたいだ。まあ、他にも色んな力をもってるけど、たいしたことはできないよ」
「例えば、どんなことが出来るんだ?」
「……花でも虫でも野菜でも、ボクみたいな存在にできる。まあ、たった一日で元に戻るし、同じものに二回つかうことができないけど」
「へえ、少し見てみたいな。えっと、コレとコレ、コレもできるのか?」
そう話したモクは、近くで咲いていたタンポポを摘み、目の前の木の上にいたヘビをつかまえます。そして懐からキュウリを取り出しました。
「タンポポとヘビ。……あと、これは胡瓜か。まだ小さく緑色だけど、黄色に熟す前に使っていいのか?」
「ああ。砂浜に落ちていたのを拾ったやつだし」
「よし、分かったよ」
ミヅハが力を使うと、タンポポが少女の姿に変わりヘビが巨大化しました。そしてタンポポの少女が唐突に言います。
「私はハナ。こっちがヘビ先輩。ずっとヘビイチゴの実を食べてみたかったの。ミヅハ、行ってくるわね」
「……行ってらっしゃい」
タンポポとヘビがどこかへ行ってしまうと、次にキュウリがカッパの姿になりました。
「カパッ! カパカパ」
「ごめん。……何て言ってるのか分からない」
「カパー!!」
カッパもどこかへ走っていきました。
呆気にとられて見ていたモクが静かに口を開きます。
「な、なんだったんだ?」
「……ボクにも分からない。でも害はないと思う。一日で元の姿に戻るし」
「でも違う自分になれるのか。……なあ、オレにも力を使ってくれないか?」
「え? でも……」
「一日でいいから、違う自分になってみたかったんだ」
なぜだか思い詰めた表情をしているモクに、いつもと違う雰囲気を感じたミヅハが再び力を使いました。
モクの髪が長く伸びて海のような藍色になり、瞳が太陽のような橙色に変わりました。
「なんだ? この姿? 本当に自分じゃなくなったみたいだ……」
「本当にモクじゃないみたいだ。それに、その姿だと、なおさらボクとそっくりだよ」
「なあ、ミヅハ。今のオレに名前をつけてくれないか」
「……分かったよ。じゃあ、磯良なんてどうだ?」
「イソラか。なんか海みたいでいいな。気に入った。それにしても本当に不思議な力が急に使えるようになるんだな」
「その力を使えば水の中でも息ができるし、ボクがいた泉にも一瞬で移動できるよ。行ってみる?」
「行ってみたい。まだ泉を見たことがないんだ」
意気揚々と泉に向かった二人でしたが、到着してすぐに暗く悲痛な表情に変わりました。そこには水神の生贄として沈められた遺体があったからです。
ミヅハが黙ったまま、生贄が縛られていた縄を切り、泉の隅に墓を作りました。
モクも黙ったまま、ミヅハを手伝うと墓に花を供えて手を合わせました。
「……イソラ。ボクは逃げ出してきたんだ。この泉から。中途半端な力で人を助けたせいで、もっと苦しい思いをさせてしまった人もいる」
「……ミヅハのせいじゃない。逃げていいんだ」
「……でも、どんなに逃げても生贄たちの断末魔が聞こえてくる」
悲しみに満ちた暗い瞳を光らせて話したミヅハは、しばらくの沈黙の後、歌を口ずさみ始めました。
その美しい歌声を聞いていたモクが篠笛を取り出すと、ミヅハの歌に合わせて音を奏でます。
二人の歌と演奏が終わる頃には、日が沈み暗くなっていました。
「……ありがとうイソラ」
つらそうにほほ笑んだミヅハを見て、モクが静かに言います。
「……この力、永遠に使えればよかったのに。そしたら、ずっと一緒に音色を奏でられる。お前にのしかかっているものを半分だけでも背負えたのに」
「そう思ってくれるだけで十分だよ。さあ、そろそろ海に戻ろう」
海に戻るとイソラが着物の懐から、何かを取り出して祈りを捧げている様子でした。
「イソラ、何してるんだ?」
「ん? ああ、そう言えば腕のケガのお礼をしてなかったと思ってさ。……ほら、片方やるよ」
「これは勾玉? 紫水晶で作られてるのか」
「海の中で見つけた時は、二つがくっついてる形だったけど、拾った時に割れて二つになったんだ。だから、ちょうどよかった」
「いいのか? 本当にもらっても」
「もちろん! なんとなくモクとしてじゃなくてイソラとして渡したかった。友達の証だ」
「……ありがとう。大切にするよ」
(友への祈り)
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