『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第110話 国会外に広がる熱気

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その朝、議員会館の一室には、電話のベルとキーボードの音が絶え間なく響いていた。
 「坂本先生、メールがもう千件を超えました!」
 真田が画面をスクロールしながら報告する。
 「DMも止まらない! “応援してます”“泣きました”“うちの町にも来てください”……って、これ全国からだぞ!」
 田島が目を丸くする。

 健人はコーヒーを片手に、それを信じられない気持ちで見つめていた。
 たった一つの演説動画が、SNS上で数百万回再生されていた。
 映像の中で、彼は「無所属でも声は届く」と語っていた。
 その言葉が、誰かの心に届き、さらに誰かを動かした――まるで静かな連鎖反応のように。

 「まるで小さな政党の広報室ですね」
 真田が淡々と言う。
 「政党どころか、ボランティアだらけのアマチュア事務所だよ」
 田島が笑いながら答えたが、その表情には喜びと戸惑いが入り混じっていた。


 数日後、ニュースが流れた。
 《若者主導の“坂本スピーチ”広がる》
 映像には、地方の駅前で学生たちがマイクを握り、「坂本さんの言葉が自分を変えた」と話す姿が映っていた。
 手書きの看板には「#坂本式スピーチ」と書かれている。

 「俺、知らないうちに教祖になってないか?」
 健人が苦笑すると、真田が即座に否定した。
 「違います。これは共感の拡散です。人々が自分の言葉で政治を語り始めた。それこそ、先生が目指していた姿ですよ」
 その言葉に、健人は静かに頷いた。
 “政治を国会から取り戻す”。
 そう口にしてきた理想が、少しずつ現実になっている気がした。


 やがて、地方からの連絡も増え始めた。
 「子ども食堂を立ち上げたい」「過疎地の交通問題を一緒に考えてほしい」
 その一つひとつに、真田はスケジュール帳を広げ、田島は電話で調整に追われる。

 「健人、これもう“個人議員”じゃないぞ」
 田島が言うと、健人は笑って答えた。
 「じゃあ、“市民チーム坂本”だな」
 「ネーミングセンス微妙だな」
 軽口を叩きながらも、三人の表情には確かな誇りがあった。


 「行こう」
 その一言で、地方視察が決まった。

 最初の訪問先は、SNSで要望が多かった東北の小都市。
 駅を降りると、ホームに手作りの横断幕が掲げられていた。
 《ようこそ坂本健人議員!》
 小学生たちが拍手で出迎え、商店街の人々が「テレビ見たよ!」と声をかけてくる。

 かつて、選挙のときでさえ見られなかった光景だった。
 「……これ、本当に政治家の活動か?」
 田島がつぶやく。
 「政治家の活動というより、人の輪だな」
 健人は答えた。
 そして心の中で思った。――これが“国会の外”の政治だ。


 市民センターで開かれた小さな集会。
 そこには、農家、看護師、学生、主婦、定年退職した教師など、さまざまな人が集まっていた。
 健人は演説ではなく、ただ耳を傾けた。
 「子どもの病院が遠くて困ってるんです」「バスが一日一本しかないんですよ」
 その一つひとつに、健人はメモを取りながら深く頷く。

 「こうして話を聞いてくれる議員さん、初めてです」
 老婆の言葉に、健人は少し目を潤ませながら微笑んだ。
 「僕の仕事は、皆さんの言葉を“届ける”ことです。
  法律を作るのは、その次なんです」

 拍手が自然に起こった。
 それは演説ではなく、ただの対話の延長線だった。


 夜、ホテルの小さな部屋。
 SNSを開くと、「#坂本健人来てくれた」「直接話せた」「涙が出た」という投稿が並んでいた。
 フォロワー数はさらに増え、コメント欄は感謝と希望の言葉で埋まっていた。

 その光景を見ながら、健人はぽつりとつぶやく。
 「国会の外にも、こんなに声があるんだな……」
 窓の外では、地方都市の夜空に無数の星が瞬いていた。
 真田が静かに答える。
 「これが、本当の民主主義ですよ。議場の中より、ずっと息づいている」


 翌日、地元新聞が一面で報じた。
 《“無所属ムーブメント”拡大 政治の主役、市民へ》
 その記事は全国に転載され、与党本部でも話題になったという。
 国民革新党の幹部が会議で言った。
 「坂本という若手議員、次の選挙では侮れない存在になる。対応を考えねば」
 権力の中枢にも、ついにその名が届き始めていた。


 視察の帰り道、健人は車の窓から夕暮れの田園を眺めていた。
 オレンジ色の光が地平線を染める。
 彼は胸の中で静かに言葉をつぶやいた。
 「政治は国会の中だけじゃない。
  街の声が、ちゃんと国を動かす――そう信じてよかった」

 そのとき、田島が笑って言った。
 「なあ健人。俺たちのチーム、もうただの事務所じゃねえな」
 「何だよ急に」
 「運動だよ、運動! もう一種のムーブメントだって!」
 「はは、それも悪くないな。じゃあ俺たちは、“市民運動議員”ってとこか」
 車内に笑い声が広がる。
 しかしその笑いの奥に、確かな決意があった。


 夜。
 健人はホテルの机に向かい、ノートを開いた。
 そこに書かれたのは短い言葉。

 《国会の外にも、国を変える力はある。
  政治を取り戻すのは、いつだって市民だ。》

 ペンを置くと、窓の外に流れる星を見上げた。
 あの光は遠い。だが、確かに届いている。
 国会の中で響かなかった言葉が、外で息づいている。
 それだけで十分だと、健人は思った。



“政治は議事堂の中だけにあるんじゃない。
街の声、涙、笑顔――
それら全部が、国を動かす原動力なんだ”
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