『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第109話 “無所属の星”と呼ばれて

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翌朝、事務所のテレビから、自分の声が聞こえた。
 「若者たちが自主的に集めた支援集会――その中心にいたのは、無所属の坂本健人議員です」

 ニュースキャスターの言葉に、健人は手を止めた。
 画面には、あの夜の映像。高校生の美咲が涙ながらに語り、聴衆が拍手を送る場面が流れている。
 ナレーションが続く。
 「政党に属さず、市民の声を直接国会に届ける。そんな新しい形の政治家が、今、若者の心をつかんでいます」

 下に流れる字幕には――《無所属の星・坂本健人》

 「……星、だってよ」
 田島が苦笑しながらソファに倒れ込む。
 「お前が“無所属の星”か。ずいぶん眩しい名前つけられたな」
 「いや、笑えないよ。……なんだか、怖い」
 健人はテレビを見つめながら呟いた。
 真田は眼鏡を押し上げ、冷静に言う。
 「一晩でメディアの扱いが変わりましたね。これから問い合わせが増えます。心しておきましょう」


 その言葉どおり、午前中には電話が鳴り止まなくなった。
 「読売さん、共同通信さん、NHKさんも。……スケジュール、どう回せばいいですか?」
 秘書の声が半ば悲鳴に変わる。
 田島は電話応対を手伝いながら舌打ちした。
 「昨日まで見向きもしなかったくせに、掌返し早すぎだろ!」
 真田は冷静に答える。
 「メディアとはそういうものです。熱があるうちに、冷静な言葉を残すのが賢明です」

 その日の午後、全国放送の報道番組から出演依頼が届いた。
 「生放送です。テーマは“市民政治の新潮流”」
 スタッフの丁寧な声に、健人の背筋が伸びる。
 「生放送……ですか」
 「はい。司会の方も興味を持っておられます」
 真田が資料を整理しながら頷いた。
 「先生、これは試されますね。発言一つで、好感にも炎上にもなります」
 「わかってる。……でも、逃げる理由はない」


 スタジオの照明は、まぶしいほど強かった。
 カメラの赤いランプが点灯する。
 司会者がにこやかに紹介する。
 「今、若者から圧倒的な支持を集める政治家、坂本健人さんです!」
 拍手。
 しかし、隣の席にはベテランの元閣僚が座っており、その視線はどこか冷ややかだった。

 司会者が切り込む。
 「なぜ、政党に属さないのですか? 国政で動くには限界もあるのでは?」
 健人は一瞬、息を整えた。
 そしてはっきりと言葉を返す。
 「市民の声を直接国会に届けたいからです。
  間に組織が入れば、その声は薄まってしまう。だから、僕は無所属でいるんです。」

 その瞬間、スタジオの空気がわずかに変わった。
 沈黙が数秒。
 司会者が微笑み、うなずいた。
 「なるほど。強い信念ですね」

 放送が終わると、控室で真田が息を吐いた。
 「完璧でした。今の一言、切り取られて何度も流れますよ」
 田島がスマホを掲げる。
 「もうバズってる。“市民の声を薄めない政治”って、タグ化されてるぞ!」


 翌日。
 ニュースサイトには《無所属の星・坂本健人特集》の文字。
 記事にはこう書かれていた。
 “政党の支援なしで支持を拡大する異例の若手議員。
  その発信力と誠実さが、新しい政治参加の形を生んでいる。”

 しかし、同時に反発も起きていた。
 与党の重鎮議員がコメントを出す。
 「理想だけでは政治は動かない。国を運営するには組織力が必要だ」
 匿名掲示板では「持ち上げすぎ」「パフォーマンスだ」と批判も飛び交った。

 田島が憤る。
 「成功すると叩くみたいだな!」
 健人は首を振った。
 「褒められても叩かれても、どっちも一票の重みとは関係ないよ」
 その言葉に田島は笑う。
 「お前、ほんと強くなったな。前だったら顔真っ赤にしてたろ」


 数日後、地元に戻ると、街の反応がまるで違っていた。
 商店街のおばちゃんが手を振る。
 「テレビ見たよ、頑張ってるねえ!」
 中学生が駆け寄り、「握手してください!」と笑顔を向ける。
 かつて無関心だった人たちが、今は確かな眼差しで彼を見ていた。

 「……変わったな」
 田島がつぶやく。
 「人はすぐには変わらない。でも、心が動けば変わる。
  俺たちがやってるのは、政治じゃなくて、心を動かすことかもしれない」
 健人の言葉に、真田が静かに頷いた。


 翌週、事務所に数人の高校生が訪ねてきた。
 「授業で坂本さんの動画を見ました!」
 彼らの目は、眩しいほど真っすぐだった。
 「政治って、もっと怖いものだと思ってたけど……違うんですね」
 健人は笑って答えた。
 「怖くていい。責任を持つって、そういうことだから。
  でもね、君たちがこうして声を出すなら、政治は必ず変わる」

 握手を交わすその手の温かさに、健人は希望を感じた。
 “この国は、まだ捨てたもんじゃない”


 夜。
 事務所に戻ると、真田がコーヒーを差し出した。
 「先生、メディアの光は強いですが、影も濃くなります。
  今こそ、地に足をつける時です」
 健人は頷き、ノートを開いた。
 《無所属という孤独が、いつの間にか力になっていた。
  でも、輝きに酔えば、すぐに見失う。》

 ペンを置いたとき、田島が笑いながら肩を叩いた。
 「お前が“星”なら、俺らが軌道にしてやるよ。落ちんなよ、健人」
 「……頼もしいな、ほんと」
 笑いながらも、健人の胸には新しい決意が芽生えていた。
 この光に飲まれず、照らし続ける側でありたい――と。



“光を浴びても、影は消えない。
けれど、その影ごと背負って歩くのが、
俺の無所属という生き方だ”
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