『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第123話 政策研究チームの発足

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 政策本が売れ、講演依頼が増え、地方に行けば「坂本さんのところの候補に投票しました」と声をかけられるようになった。だが、支持が広がるほど、健人の机に積み上がる“宿題”も増えていく。

 ――全国から寄せられる要望、陳情、相談、そして政策のアイデア。

 それらは、もはや一人の無所属議員が処理できる量ではなくなっていた。

 ある朝、議員会館の控室に入ると、真田がパソコンの前で深刻な表情をしていた。画面には次々と受信されるメール。地方の議員、NPO、小さな町の保護者会、医療従事者、学生……多種多様な差出人からのメッセージが、永遠に止まらない滝のように流れ込んでくる。

「健人さん、これ全部“政策にしてほしい”とか“国会で取り上げてほしい”という相談です。昨日の討論会の影響だと思います」

「昨日のだけでこんなに……?」

 健人は画面を覗き、思わず息をのんだ。
 タイトルには、

「救急車が来ない町をどうにかしてほしい」
「保育士の給料はこのままでいいんですか」
「地元の鉄道が本当に廃線になりそうです」
「学校にエアコンがありません」
「若者の自殺率を下げられませんか」

 など、胸が痛む言葉が続いていた。

 田島が書類の山を抱えながら、苦笑まじりに言う。

「いやもう……これ、健人一人じゃ絶対無理だろ。地方議員も“うちの課題を共有したい”って言ってきてるし。お前、気付いてないかもしれないけど――」

「――もう、俺の手に負える規模じゃないってことか」

 健人が呟くと、真田は静かに頷いた。

「健人さん、そろそろ本格的な“政策立案チーム”が必要です。全国の声を受け止めるだけでは、机で溺れてしまいます」

「……わかってる。だけど、国会議員がそんな大それたチームを作っていいのか?」

「いいんです。むしろ、やらないと前に進めません」

 真田の目は真剣だった。田島も横から口を挟む。

「ってかさ、健人。今の状態って、もはや“小規模政党の政策室”みたいなもんだよ。だったらさ、ちゃんと形にしたほうがいい」

「形に……」

「そう。名前付けて、立ち上げて、仲間を集めて、仕組みを作る。お前、全国に支持者も議員も広がってんだし、もう“無所属の一議員”の枠を超えてるって」

 健人はゆっくり深呼吸した。
 自分一人で抱え込む癖が、まだ抜けていなかった。

 だが――ここはもう、個人で戦う段階ではない。

「……よし。作ろう。政策研究チームを」

「いいですね。名前はどうします?」

「うーん……“国民政策ラボ”とかどうだ? 市民の声を科学のように分析して、政策に落とし込む。そんな意味で」

 田島が笑う。

「お前らしいな。堅いけど、なんか熱がある名前だ」

 真田はすでにメモを取りながら、

「では、内部組織として“国民政策ラボ”を正式に立ち上げましょう。地方議員、大学教授、学生ボランティア、専門職――幅広い人材に声をかけます」

「大学の教授やシンクタンクのOBも巻き込めるかな?」

「私が連絡します。きっと応援してくれるはずです。あなたの活動は、専門家の間でも話題になっていますから」

 数日後、大学の政策研究科教授とオンラインで話す機会ができた。
 教授は白髪混じりの穏やかな人物で、健人を見るなり言った。

「あなたの街頭演説は見ました。政治を“市民のもの”に戻そうとする姿勢に感銘を受けましたよ。協力させてください」

「本当ですか……?」

「私の研究室の院生たちも興味津々です。実践の場に参加させたい」

 健人は胸の奥が熱くなった。

「ありがとうございます。本気で、日本を変えたいんです」

「本気は伝わっていますよ。だから協力するんです」

 翌週、議員会館の一室は“研究所”へと変貌した。

 ・ホワイトボード3枚
 ・政策資料の棚
・オンライン会議用の大画面モニター
 ・議題別ファイルが並ぶ机

 田島が段ボールを運び込みながら叫ぶ。

「おーい健人! ここ、完全に政治の研究室じゃん!」

「いいだろ? こういうの、前から憧れてたんだ」

 真田が少し笑いながら、

「議員室がここまで散らかっているのは、ある意味で健人さんくらいですよ」

「褒めてないよな?」

「いえ、最大級の褒め言葉です」

 そして、運命の初回会議の日。

 オンラインと対面を合わせて20名以上が参加した。

 ・地方議員
 ・大学教授
 ・大学院生
 ・NPO代表
 ・元官僚
 ・IT企業のエンジニア
 ・地域活動家

 全国から集まった多様な人々の顔がモニターに並ぶ光景に、健人は言葉を失った。

 これだけの人が、自分の理念に共鳴してくれるなんて――想像もしていなかった。

 健人はマイクの前に立つ。

「今日、ここに集まってくれた皆さんに、心から感謝します。僕は……政治は、議員だけがやるものじゃないと考えています」

 画面の向こうの顔が、一斉に健人を見た。

「政策は、市民の声から生まれるべきです。
 そして、その声を形にするのは議員の役目。
 さらに、専門家の知識があってこそ、政策は現実的な力を持つ」

「だから僕は、この“国民政策ラボ”を――市民・議員・専門家、その三者で国の未来を作り上げる場所にしたい」

 その言葉に、参加者たちは思わず拍手を送った。

 会議は白熱した。

 ・医療改革班
 ・教育格差対策班
・地方創生班
・デジタル行政班
 ・都市問題班
 ・子育て支援班

 次々と班が発足し、メンバーが決まっていく。
 気付けば、画面のチャットは絶えず盛り上がっていた。

 健人は胸が震えた。

「国は、こんな形で動かせるんだ……」


 会議が終わった後、田島が肩を叩いた。

「健人……もうこれ、小さな政党じゃねぇか。
 無所属って言ってるけど、もはや組織力では普通の政党越えてんぞ?」

「政党じゃなくていいんだ。市民の声を中心にした、新しい政治の形を作る」

 真田が微笑む。

「政党より、市民に近い組織ですね。……いいじゃないですか」


 夜、健人は議員室の椅子に深く腰掛け、ホワイトボードに残る書き込みを見つめた。

“全国の声”
“学ぶ政治”
“政策を作る市民”
“無所属の可能性”

 すべてが、新しい時代の政治を指し示しているように見えた。

「……ここから、本当に国が動くかもしれない」



”政策は上で作るものじゃない。
現場の痛み、専門家の知恵、そして未来への意思――
三つの力がそろったとき、国は初めて前へ進む“
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