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第3部:旋風 - 国民支持のうねり
第124話 高校訪問で涙を流した理由
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都内の私立高校から講演依頼が届いたのは、国会審議の合間に積み上がった書類の山を整理していた昼下がりだった。
「政治を身近に感じてほしいと、生徒会から依頼が来ています」
真田が封筒を開きながら言った。
「高校……?俺にできるかな」
「あなたの話が一番、若者に届くと思います」
そう背中を押されて、健人は迷わずうなずいた。
政治家になってからというもの、国会内では厳しい空気、無関心、そして冷笑に晒されることが多かった。
けれど、街に出れば別の声も聞こえる。「応援してる」「政治に興味を持った」──そんな小さな変化が、今の彼を支えていた。
だから、若者の前で話すことに怖さと同時に、どこか期待もあった。
当日、校門をくぐると、昼休みのチャイム直後だった。
制服姿の生徒たちが校庭を行き交い、ざわざわとした活気が肌を撫でた。政治の世界とはまるで違う“自由な熱”があった。
「講堂はあちらです」
案内してくれた教師に従いながら、健人は深呼吸をした。
講堂の扉を開けると、そこには五百人以上の生徒が座っていた。
ステージ上に立つと、制服の海が広がっているようだった。
ただ──その表情は決して明るくない。
「また政治家の説教かよ」
「眠くなるやつだな」
そんな空気が、ひしひしと伝わってきた。
マイクを握った健人は、笑顔をつくりながら問いかけた。
「政治に興味がある人、いますか?」
挙手したのは……ほんの数人。
予想していたとはいえ、胸に小さな痛みが走った。
だが逃げるわけにはいかない。健人は一歩、前に進んだ。
「まず、俺のことを話します。
俺は優秀でもなかったし、エリートでもありませんでした」
ざわ……と前列の生徒たちの表情が少しだけ変わった。
「大学卒業後、就職に失敗して、バイトを転々としていました。
政治家なんて、遠い世界の“別の生き物”だと思っていました」
講堂を見渡すと、腕を組んでいた男子生徒の顔が少し上がった。
その瞬間だった。
一人の男子生徒が手を挙げた。
「なんでそんな人が、国会議員なんですか?」
ストレートすぎる質問に講堂がどよめいた。
だが健人は笑って、その質問をまっすぐ受け止めた。
「……諦めなかったから、かな。
誰にでもできるとは言わない。でも、諦めない人の前には、必ず道が開く」
男子生徒は驚いたように目を丸くし、そのまま深くうなずいた。
その一言を皮切りに、空気が変わり始める。
講堂の後方から、静かに手が挙がった。
立ち上がったのは、細い腕を持つ女子生徒だった。
「……私、将来が不安です。努力しても報われない気がして」
声は震えていた。
健人は、政治家の顔ではなく、一人の人間として彼女を見つめた。
「努力が全部報われる世界じゃないよね。
俺もそう思う時、たくさんあった」
女子生徒は視線を落としたまま、微動だにしない。
「でもね、不安の中で立ち止まらず声を上げる人が、未来を変える。
君みたいに、勇気を出して質問した人が、世界を少し動かすんだ」
その言葉に、彼女の肩が震え、ゆっくりと顔を上げた。
講堂の空気が一変した。
まるで水面が波打つように、生徒たちの表情が変化していく。
「ブラックバイトって、どうすればなくなりますか?」
「奨学金、怖いです」
「政治って、私たちを助けてくれるんですか?」
次々と質問が飛び交った。
健人はすべてに誠実に答えた。
分からないことは「調べる」。
できることは「約束する」。
政治を偉そうに語らず、「一緒に考えよう」と話す健人の姿に、生徒たちは真剣に耳を傾けた。
そして──決定的な瞬間が訪れる。
質問を終えて席に戻る女子生徒の手。
その手が、震えていた。
勇気を振りしぼった証だった。
「……ありがとう」
言葉にした途端、健人の胸が熱くなり、視界が歪んだ。
講堂の前に立つ国会議員が、人目も憚らず涙を流した。
「君が声を上げてくれたことで、政治が一歩動いた。
本当に……ありがとう」
静まり返った講堂。
次の瞬間──
大きな拍手が、体育館全体に広がった。
生徒たちが立ち上がり、手が赤くなるほど拍手を続けた。
健人は涙を拭いながら、深々と頭を下げた。
講演後、十数人の生徒が健人のもとへ駆け寄った。
「今日初めて政治が ‘私たちの話’ に聞こえました」
「変わりたいと思いました」
「また来てください」
その言葉に、健人は一人ひとりと握手をした。
校門を出る頃には、夕日が差し込んでいた。
車に乗り込むと、反射的に窓に寄りかかり、空を見上げた。
「政治って……国会の中だけじゃないんだな」
「え?」と田島が振り返る。
「今日の質問のほうが、よっぽど国を動かす力がある。
あの一言一言が、未来そのものだった」
真田は静かに微笑んだ。
「だからこそ、あなたが必要なんです」
健人は胸元の議員バッジに触れながら、小さく呟いた。
「……そうだな。あの震えた手を、絶対に
裏切らない」
”未来を変えるのは、派閥でも権力でもない。
震える手で上げられた“たった一つの声”だ。
あの勇気が、政治を一歩動かす“
「政治を身近に感じてほしいと、生徒会から依頼が来ています」
真田が封筒を開きながら言った。
「高校……?俺にできるかな」
「あなたの話が一番、若者に届くと思います」
そう背中を押されて、健人は迷わずうなずいた。
政治家になってからというもの、国会内では厳しい空気、無関心、そして冷笑に晒されることが多かった。
けれど、街に出れば別の声も聞こえる。「応援してる」「政治に興味を持った」──そんな小さな変化が、今の彼を支えていた。
だから、若者の前で話すことに怖さと同時に、どこか期待もあった。
当日、校門をくぐると、昼休みのチャイム直後だった。
制服姿の生徒たちが校庭を行き交い、ざわざわとした活気が肌を撫でた。政治の世界とはまるで違う“自由な熱”があった。
「講堂はあちらです」
案内してくれた教師に従いながら、健人は深呼吸をした。
講堂の扉を開けると、そこには五百人以上の生徒が座っていた。
ステージ上に立つと、制服の海が広がっているようだった。
ただ──その表情は決して明るくない。
「また政治家の説教かよ」
「眠くなるやつだな」
そんな空気が、ひしひしと伝わってきた。
マイクを握った健人は、笑顔をつくりながら問いかけた。
「政治に興味がある人、いますか?」
挙手したのは……ほんの数人。
予想していたとはいえ、胸に小さな痛みが走った。
だが逃げるわけにはいかない。健人は一歩、前に進んだ。
「まず、俺のことを話します。
俺は優秀でもなかったし、エリートでもありませんでした」
ざわ……と前列の生徒たちの表情が少しだけ変わった。
「大学卒業後、就職に失敗して、バイトを転々としていました。
政治家なんて、遠い世界の“別の生き物”だと思っていました」
講堂を見渡すと、腕を組んでいた男子生徒の顔が少し上がった。
その瞬間だった。
一人の男子生徒が手を挙げた。
「なんでそんな人が、国会議員なんですか?」
ストレートすぎる質問に講堂がどよめいた。
だが健人は笑って、その質問をまっすぐ受け止めた。
「……諦めなかったから、かな。
誰にでもできるとは言わない。でも、諦めない人の前には、必ず道が開く」
男子生徒は驚いたように目を丸くし、そのまま深くうなずいた。
その一言を皮切りに、空気が変わり始める。
講堂の後方から、静かに手が挙がった。
立ち上がったのは、細い腕を持つ女子生徒だった。
「……私、将来が不安です。努力しても報われない気がして」
声は震えていた。
健人は、政治家の顔ではなく、一人の人間として彼女を見つめた。
「努力が全部報われる世界じゃないよね。
俺もそう思う時、たくさんあった」
女子生徒は視線を落としたまま、微動だにしない。
「でもね、不安の中で立ち止まらず声を上げる人が、未来を変える。
君みたいに、勇気を出して質問した人が、世界を少し動かすんだ」
その言葉に、彼女の肩が震え、ゆっくりと顔を上げた。
講堂の空気が一変した。
まるで水面が波打つように、生徒たちの表情が変化していく。
「ブラックバイトって、どうすればなくなりますか?」
「奨学金、怖いです」
「政治って、私たちを助けてくれるんですか?」
次々と質問が飛び交った。
健人はすべてに誠実に答えた。
分からないことは「調べる」。
できることは「約束する」。
政治を偉そうに語らず、「一緒に考えよう」と話す健人の姿に、生徒たちは真剣に耳を傾けた。
そして──決定的な瞬間が訪れる。
質問を終えて席に戻る女子生徒の手。
その手が、震えていた。
勇気を振りしぼった証だった。
「……ありがとう」
言葉にした途端、健人の胸が熱くなり、視界が歪んだ。
講堂の前に立つ国会議員が、人目も憚らず涙を流した。
「君が声を上げてくれたことで、政治が一歩動いた。
本当に……ありがとう」
静まり返った講堂。
次の瞬間──
大きな拍手が、体育館全体に広がった。
生徒たちが立ち上がり、手が赤くなるほど拍手を続けた。
健人は涙を拭いながら、深々と頭を下げた。
講演後、十数人の生徒が健人のもとへ駆け寄った。
「今日初めて政治が ‘私たちの話’ に聞こえました」
「変わりたいと思いました」
「また来てください」
その言葉に、健人は一人ひとりと握手をした。
校門を出る頃には、夕日が差し込んでいた。
車に乗り込むと、反射的に窓に寄りかかり、空を見上げた。
「政治って……国会の中だけじゃないんだな」
「え?」と田島が振り返る。
「今日の質問のほうが、よっぽど国を動かす力がある。
あの一言一言が、未来そのものだった」
真田は静かに微笑んだ。
「だからこそ、あなたが必要なんです」
健人は胸元の議員バッジに触れながら、小さく呟いた。
「……そうだな。あの震えた手を、絶対に
裏切らない」
”未来を変えるのは、派閥でも権力でもない。
震える手で上げられた“たった一つの声”だ。
あの勇気が、政治を一歩動かす“
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