『総理になった男』

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第122話 全国の議員とのネットワーク

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 相川結衣の当選から、まだ一か月も経っていなかった。
 しかし、その短い期間のあいだに、坂本健人の議員会館にはこれまで見たことのない“種類のメール”が届き始めていた。

 最初は一通。それは北海道の小さな町議会からだった。

 『坂本議員の活動、拝見しています。
  地方は国政と違い、もっと地べたの悩みと向き合っています。
  いつか意見交換ができれば嬉しいです』

 次の日には、九州の町議会議員からも届いた。

 『相川さん当選おめでとうございます。
  私は子育て支援をやっています。
  あなたの“小さな声を拾う政治”という言葉に心が動きました』

 さらに次の日には、関西、中部、東北──
 日本中から、地方議員たちの名刺画像付きのメールやDMが雪のように届いた。

 「健人さん、これ……全部、地方議員の方々からです」

 朝、真田がプリントアウトした紙の束を持って現れる。
 その厚みは、もはや小冊子のようだった。

 田島もページをめくりながら驚く。

 「すげえ量じゃん。なんだよこれ、全国から来てんのか?」

 健人はページを一枚一枚読みながら、じっくりと目を細めた。

 「……俺たちが、どっかの誰かの背中を押してたってことか」

 そう呟いた瞬間、胸が熱くなった。

 ネットのフォロワーや街頭での市民の反応とは違う。
 “政治の現場”で孤独に戦っている人たちからの声──。
 その重さは、想像以上のものだった。

 



 田島が言った。

 「健人。さあ、これはもうやるしかねぇよ」

 「何を?」

 「全国つなげる場!」

 言った瞬間、真田が慌ててパソコンに向かう。

 「オンラインミーティングならすぐ設定できます。
  政治団体の公式アカウントから募集をかければ……参加したい議員が集まります」

 健人は頷いた。

 「やろう。孤独で戦っているのは俺たちだけじゃない。
  みんなの声を一つにまとめられたら……大きな力になる」

 その日の夜。
 政治団体サイトに《地方議員ネットワーク会議》参加者募集の案内を公開すると──
 翌日にはもう、メールが50通近く届いていた。

 「全国からですよ……北海道から沖縄まで。これ、すごいことです」

 真田が驚くのも無理はなかった。
 地方議会はそれぞれ独立した小さな世界だ。
 その小さな点が、一つの線として繋がり始めたのだ。

 



 第一回オンライン会議の日。
 健人、真田、田島は議員会館の一室にパソコンを置き、緊張しながら待っていた。

 開始5分前──画面に続々と参加者が入室してくる。

 《北海道・根雪町議会》
 《宮城県・潮見市議会》
《埼玉県・ひだまり区議会》
 《奈良県・柳葉町議会》
 《沖縄県・北浜村議会》

 30名以上──
 これがすべて日本のどこかで選ばれた議員たちだと思うと、健人の胸は震えた。

 「こんなに……」

 呟く健人の肩を、田島が叩いた。

 「ほら行くぞ。主催者なんだろ、お前が」

 健人は深呼吸をし、カメラの前に姿勢を正した。

 「今日は、お忙しい中ありがとうございます。
  無所属の衆議院議員、坂本健人です」

 その瞬間、画面の向こうから拍手が起きた。
 オンライン越しでも、その温度ははっきりと伝わってきた。

 最初に話したのは、北海道の議員だった。

 「子どもの貧困が深刻です。役所の予算も人手も足りない。
  国の制度をもっと柔軟にしてほしいんです」

 次に話したのは、四国の女性議員。

 「高齢者が増え、買い物難民が増えています。
  “地方の声”は国にはなかなか届きません」

 続々と、全国から声が上がる。

 「議会が古い体質で困っている」
 「若手が孤立している」
 「改革派は目をつけられる」
 「デジタル化が全く進まない」

 その言葉一つひとつに、健人は深く頷いた。

 ──こんなにいる。
 自分と同じように、壁にぶつかっている仲間が。

 



 会議が終わると、参加議員たちが自発的にグループチャットを作った。
 以来、そこでは毎日のように情報交換が行われるようになった。

 『こんな条例案を作りました』
 『国政と連携できないか?』
 『坂本さん、この資料を国会で使えますか?』

 健人のスマホは、未読メッセージ数が常に三桁になった。

 だが苦労よりも嬉しさが勝った。

 ──一人ではない。
 国を変えたいと願う人は、こんなにもいる。

 



 参加議員が50名を超えたころ、ついにメディアが動いた。

 『無所属議員・坂本健人、地方議員ネットワークを形成』
 『霞が関だけではない“改革の芽”』
 『地方から国を変える潮流』

 ニュース番組やネット記事で取り上げられ、その勢いは国会内にも広まった。

 国民革新党の若手議員が廊下で声をかけてきた。

 「坂本くん、最近ずいぶんなネットワーク広げてるらしいじゃないか。
  ……ほどほどにしとけよ? 上が警戒してる」

 健人は微笑んで返した。

 「地方の声は、この国の根幹です。
  それを聞くのは政治家として当然のことだと思っています」

 廊下の空気が一瞬だけ止まり、若手議員は苦笑して去っていった。

 



 その夜。
 健人は議員会館の机で、ネットワーク参加者の名簿を眺めていた。

 北海道。
 東北。
 関東。
 中部。
 関西。
 中国・四国。
 九州。
 沖縄。

 画面に並んだ名前たちは、まるで日本列島そのものだった。

 「……ここからだ」

 健人は静かに呟いた。

 “国を変える”という大きな目標。
 そのためには、中央だけを見ていては何も動かない。
 地方の現場、地方で汗を流す議員たち

 その声こそが国を動かす力になる。

 胸の奥で、強い確信が灯った。

 

“国の形は、中央で作られるんじゃない。
全国の町で、日々、必死に戦う人たちが形作る。
だから――仲間は、中央ではなく全国に広がっていく”
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