『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第140話 初めて家族が取材に応じた日

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 朝の議員会館は、いつものように忙しくざわめいていた。コピー機の音、電話のコール、職員の足早な往来。
 その中心に、坂本健人は机に積まれた資料に向き合っていた。予算委員会での質問準備、地方遊説のスケジュール確認、地元支援者からのメール返信――どれも手を抜くわけにはいかない。

 そんな中、スマホが震えた。画面に映ったのは「母」。

 珍しい時間の電話に少し胸騒ぎがしながら通話ボタンを押した。

「もしもし、健人? 今、話して大丈夫?」

「大丈夫だよ。どうしたの?」

 受話器の向こうの声は、どこか緊張していた。

「実はね……地元新聞の記者さんから取材の依頼が来たのよ。健人のことを、家族として話を聞きたいって」

 一瞬、言葉が出なかった。

 母はこれまで、取材はすべて断ってきた。父の死後、母の生活は静かだったが、健人が当選して注目されるにつれ、家にも記者が訪れるようになった。だが母は一度も応じたことはなく、健人もそれを尊重していた。

「無理に出なくていいよ。母さんが嫌なら、断って大丈夫だから」

 そう伝えると、電話の向こうで母が小さく息をついた。

「迷ったわよ。でも……あなたのお父さん、覚えてるでしょう? 亡くなる朝、あなたに電話したでしょう?」

 胸がじわりと熱くなった。忘れるわけがない。
 国会議員になってすぐ、父から届いた励ましの電話。それが父からの最後の言葉となった。

「……覚えてるよ」

「あなたの父さんね、あの日……まるで覚悟した人みたいに話してたの。『健人には頑張ってほしい』って。
 きっと、あなたが今いる場所を誇りに思ってると思うの」

 母の声が少し震えた。

「だからね、私が話さなきゃいけない気がしたの。父さんの分まで、ね」

 健人は目を閉じ、言葉が喉に詰まった。

「……ありがとう。気をつけてね。無理はするなよ」

「ふふ、あなたに言われたくないわよ」

 小さく笑う母の声に、少し肩の力が抜けた。



 取材当日。
 母はいつもより早く部屋を掃除し、テーブルにお茶と菓子を並べ、落ち着かない様子で時計を見ていた。

 やがてインターホンが鳴り、母は軽く震える手で応対した。

「本日はお時間をいただきありがとうございます」

 地元紙の若い記者が穏やかな笑顔で頭を下げる。
 母は「どうぞ」と招き、温かいお茶を差し出した。

「息子さんが国会議員になられたとき、どんなお気持ちでしたか?」

 最初の質問に、母はしばし黙り込んだ。記者は急かさず、静かに待つ。

「……嬉しかったです。でも……その……心配のほうが大きかったです」

 母の声は震えていた。

「健人は、子どもの頃から不器用でね。勉強も運動も普通の子。大学を出てから就職にも失敗して……バイトを転々として。
 だから、国会議員なんて、とても……とても大きすぎる舞台だと思っていました」

 記者は深く頷きながらメモを取る。

「でも、私も主人も……信じていたんですよ」

「ご主人、ですか?」

「亡くなる朝、健人に電話したんです
あれ、本当に嬉しそうだったんです。
 『健人は人のために動く子だから、政治家には向いてる』って……。
 あれが……最後の言葉になりましたけど」

 母の声が詰まり、目頭を押さえる。

 記者はその言葉を丁寧にメモし、「大切なお話をありがとうございます」と深く頭を下げた。



 一方その頃、健人は議員会館の控室にいた。
 地方の市議会議員からの相談対応を終えたところで、記者から「取材が無事終わりました」という連絡が入った。

「そうですか……失礼はありませんでしたか?」

「とても真摯に話してくださって、お母さまも最後は笑顔でしたよ」

 胸がいっぱいになった。
 父が亡くなった日のこと。
 そこから母がひとりで背負ってきた日々。
 その重さを思うと、息が詰まりそうになる。



 翌日。
 新聞が届けられた。

《坂本健人議員――“家族の支えが原点”》

 見出しの下に、母の写真とインタビュー内容が掲載されていた。

『不器用でも、誰かのために動ける子だった』
『政治家だからじゃなく、人として胸を張ってほしい』

 文字を追うだけで胸が熱くなる。
 読んでいる途中で、視界がにじんだ。

 そのまま母に電話をかける。

「……母さん。読んだよ。ありがとう。俺のために……話してくれて」

「こちらこそ。あなたのお父さんが聞いたら、絶対に喜ぶわ」

 母の声は誇らしげだった。



 その夜。
 健人は議員会館の机に向かい、引き出しを開けた。

 そこには、父の形見の万年筆が入っていた。

「お父さん……俺、ここまで来たよ」

 健人はそっと万年筆を握り、胸にあてた。

 この国会で、自分は何をするべきか。
 何を守るべきか。
 何を目指すべきか。

 答えは一つだった。

 父も、母も、そして故郷の人たちも支えてくれた。

 ――だから俺は、市民の声を政治に届け続ける。



 その夜、健人はノートを開き、一行を書き記した。

「家族の誇りに恥じない政治をする」

 静かな決意が、文字になって刻まれていった。



”家族の支えがある限り、
俺は倒れない。
この道は、ひとりで歩くものじゃない“
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