『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第139話 旧友がテレビでエール

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 朝の議員会館は静かだった。
 健人がコーヒーを淹れ、スーツの上着に袖を通していたとき、控室のドアが勢いよく開いた。

「おい、健人! これ見ろよ!」

 田島が片手にリモコン、片手にスマホを持って飛び込んでくる。
 いつも通りの雑な声だが、どこか高揚した響きが混じっていた。

「朝からうるさいな……どうしたんだよ」

「テレビつけろって! お前が出てるぞ!」

 健人が眉をひそめながらテレビをつけると、朝の情報番組で“無所属議員・坂本健人 特集”のテロップがドンと画面に浮かんでいた。

 真田も急ぎ足で入ってくる。

「健人さん、今ちょうど特集の後半ですよ。どうやら今日は“人物像”がテーマみたいです」

「人物像って……俺に語るほどのもんなんてないだろ」

 健人が苦笑したその瞬間、画面が切り替わった。

《高校時代の友人にインタビュー》

 その文字を見た健人の手が止まる。

「高校時代……? 誰を取材したんだ?」

「さてな。お前、親友ってほど仲のいい奴いなかっただろ。誰だろうな?」

 田島がニヤニヤと横から突く。
 健人は「うるせぇよ」と小声で返すが、心の奥に小さなざわつきが走った。

 画面に映し出されたのは、住宅街の公園と思われる背景。そこに立っていたのは、懐かしい顔だった。

「……上原、翔太……?」

 健人が驚きに目を見開く。
 田島も「あー! 上原か!」と指を突き出した。

 高校時代、3年間同じクラスになったこともある“良い友人”。
 放課後に一緒に帰るような仲ではない。部活も違う。
 でも、話せば気が合い、ふとした時に気軽に協力してくれる。
 そういう距離感だった。

「上原、なんで出たんだよ……」

 健人が小声で呟く間もなく、上原が画面の向こうで語り始めた。

「坂本? あいつはさ、高校の時は本当に地味だったよ。
 でもまあ、真面目なやつでさ。頼まれたことは絶対断らないんだよな」

 田島が吹き出す。

「ほらな。昔から変わってねぇんだよ、お前は」

 健人は肩をすくめながらも、懐かしい声に胸が少しだけ熱くなる。

 上原は続けた。

「田島? あいつは……まぁちょっと元気すぎたな(笑)。
 坂本とは親友ってほどじゃなかったけど、いい友達だったよ。
 困ってるやつがいれば、二人とも普通に声かけるタイプだった」

 スタジオが「へぇ」と感心したように相槌を打つ。

「坂本さんは当時から“政治家らしい”雰囲気があったんですか?」
 司会者が尋ねた。

 上原は苦笑しながら首を振る。

「いや、らしくなんて全然ないですよ。
 むしろ政治家って言われて一番遠いタイプだと思ってた」

 健人は「ほっとけ」とテレビに突っ込み、田島はケラケラ笑っていた。

 しかしその直後、上原の表情がふっと真剣になる。

「でもね。坂本ってさ……“誰かの弱さ”にすぐ気づくんですよ。
 クラスで落ち込んでるやつがいれば、声をかけたり、黙ってノート貸したり。
 そういうの、自然にやるやつだった」

 健人の手が止まる。
 こんな風に言われるとは思っていなかった。

「田島もそうだよ。二人とも“偉そうな強さ”じゃなくてさ。
 “隣に立ってくれる強さ”なんだよな。
 だから……今、政治の世界に行っても、あいつらなら大丈夫だって思ってる」

 スタジオが静まり返った。
 司会者が「とても素敵な言葉ですね」と口にする。

 健人はテレビから視線をそらし、窓の外を見た。
 胸の奥がじんわりと熱くなる。

「上原……そんなふうに思ってたのかよ」

 田島がぼそっと言う。

「アイツ、昔から変わんねぇな。こういう時だけ妙にカッコつけるんだよ」

「いや、カッコつけてるわけじゃないと思うけど……」

 真田は穏やかに笑った。

「良いご友人ですね。
 こういう言葉は、どんな政治家の言葉よりも強く響くものです」

 番組では《旧友が語る素顔》というテロップが流れ、上原のコメントがまとめられ始めていた。

 ――昔から変わらない、人に寄り添う姿勢。
 ――その“らしくなさ”こそが魅力。

 そんな言葉が画面に並ぶ。

 番組が終わると、田島が大きく息をつく。

「……上原が、こんな風に言うとはな。
 高校んとき、別に親友でもなんでもなかったのにな」

「そうだな。
 でも……あいつの言葉、なんか刺さるな」

 健人は苦笑し、スマホを取り出した。

『久しぶり。テレビ見た。
 ありがとうな。
 そんなに持ち上げるなよ、照れるだろ(笑)』

 メッセージを送り終えると、すぐに返信が来た。

『坂本。
 お前は昔からそういうやつだよ。
 田島にもよろしく言っとけ』

「くっそ……上原め、昔から変にストレートなんだよ」

 健人が照れ隠しのように呟くと、田島が肩を叩いた。

「こういうのは素直に受け取っとけ。
 お前、一人で戦ってるみたいな顔するけどよ……
 見てる奴はちゃんと見てるんだよ」

 その言葉に、健人の胸がじんわりと温かくなった。

 議事堂へ向かうために立ち上がったとき、
 上原の言葉が脳裏にもう一度響いた。

 ――“隣に立ってくれる強さ”。

 健人は深く息を吸い込み、胸元のバッジに触れた。

 自分が選んだこの道は、確かに孤独だ。
 だが、過去に繋がった小さな縁が、今の自分を押してくれている。

「……行くか。今日も、国会だ」

 健人は扉を開け、まっすぐ前を向いた。


”強い絆じゃなくていい。
ゆるやかな縁でも、人は支え合える。
あの日の小さな友情が、今の俺を押してくれる“
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