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第3部:旋風 - 国民支持のうねり
第141話 子どもたちの未来のために
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朝の議員会館は、いつもと変わらず静かだった。早朝の光が窓を通ってデスクに差し込み、白い紙束の上に細い影を落としている。坂本健人は湯気の立つコーヒーに手を伸ばしながら、机の端に置かれていた今日の全国紙を手に取った。
「……また、増えているのか」
社会面のトップに大きく載っていた文字が、目に飛び込んできた。
子ども食堂 全国で2,000カ所突破。
記事には、「地域の温かさの象徴」「ボランティアの力が社会を支える」と、どこか明るい雰囲気でまとめられた言葉が並んでいる。だが、それを読んだ健人の表情は、新聞の空気とはまるで逆だった。
深く息を吸い、新聞を畳む。
「……美談で終わらせる問題じゃないんだよ」
独り言のように呟いたその声は、静かに沈み込むように部屋に落ちた。
数分後、控えめなノック音が響いた。
「失礼します、朝の資料です」
真田が書類の束を抱えて入室する。疲れの色が若干にじむが、目は鋭い。
「子ども食堂、また増えていますね」
そう言って資料を机に置いたが、健人の表情を見て言葉を止めた。
健人は新聞の記事を指でとんとんと叩き、静かに言った。
「真田……これを“良い傾向”みたいに報じる空気、違うと思わないか?」
真田は数秒の沈黙の後、深くうなずいた。
「……本来、必要ないほうがいいんですよね。子ども食堂という場所が増えるということは、支援を必要とする家庭が増えているという証拠です」
そこへ、急須を片手に田島が入ってきた。
「おー、朝から難しい顔してるな。子ども食堂の記事か?」
健人はうなずき、新聞を手渡した。
田島は斜めに持ちながら記事を読み、眉をひそめた。
「“支援が広がって嬉しい”って……嬉しいのは、そこに通う子どもたちじゃなくて社会のほうってことか? 本来は、こんな場所が必要ない世の中が理想なのにな」
「だよな」
健人は同意しながら、机の引き出しを開けた。中には束になった手紙やメールの印刷が溢れている。
「これ、全部読んだのか?」と田島。
「全部じゃない。でも……毎日増えてる」
封筒を一つ取り出し、開封したままの便箋を広げた。
――“お母さん、お仕事で夜遅いから、ぼくは週に4回、子ども食堂に行っています。お兄ちゃんも行ってます。楽しいけれど、本当はお母さんとごはんを食べたいです”
子どもの丸い字が、紙の上で震えていた。
健人は喉の奥が詰まるように感じ、便箋をそっと置いた。
「……こういう声を“増加数”でまとめられるのが、一番つらい」
真田がそっと言った。
「制度が追いついていないのは事実です。共働き世帯、非正規雇用、ワンオペ……。子ども食堂は支援ですが、根本解決にはなっていません」
「応急処置なんだよな」
健人の小さな呟きが、室内に重く沈んだ。
「応急処置を……永続させちゃいけないんだよ。政治が根を治さないと」
田島が湯呑みを置きながら応えた。
「だな。穴の空いた水槽にバケツで水を注ぎ続けるみたいなもんだ。問題は穴そのものだろって話だ」
その時、ノックもなく扉が開いた。
厚労省の官僚・山城が、資料の入った
ファイルを抱えて入室してきた。
表情はいつも通り冷静だが、どこか疲労も見える。
「子ども関連の最新データを持ってきました。現状、子ども食堂の利用者数は前年比で14%増。生活困窮家庭の増加が要因です」
「14%……か」
健人は苦く笑った。
「“増えた場所”じゃなくて、“増えざるを得なくなった家庭”を見ないといけないんだよな」
山城は小さく頷き、真剣な目を向けた。
「坂本議員……これを本気で是正しようとするなら、相当な抵抗がありますよ。財源、制度、既得権……」
「分かってる。でも――」
健人は資料の上に置いた拳をぎゅっと握った。
「子どもが空腹で眠る社会を、普通だと思わせちゃいけないんだ」
その言葉に、室内が静まり返った。
やがて真田が深く息をつき、資料に線を引きながら言った。
「やりましょう。子どもを救う制度は、政治の根幹ですから」
田島も笑って肩を叩く。
「坂本、燃えてるな。そういうところが好きだぞ」
「茶化すなよ」
苦笑したが、心の奥で火が灯るのを感じていた。
───────────────
午後、健人はSNSで短い動画メッセージを撮影した。
背景は議員会館の一室。照明も特別なものではない。飾り気がない分、言葉の重さが際立つ。
「子ども食堂が増えているのは、嬉しいことではありません。
それが必要になってしまっている現実を、私たちはもっと直視すべきです。
子どもを飢えさせない社会を作るのは、政治の責任です」
動画は数時間で大きな反響を呼んだ。
コメント欄には、母親、父親、教員、若者、支援者――多くの声が寄せられた。
“初めて政治家の言葉で泣きました”
“本当に子どもたちのことを考えてる人だ”
“私も昔、子ども食堂に通っていました。必要ない社会になってほしい”
画面をスクロールしながら、健人は深く息を吸った。
「……やるしかないな」
───────────────
夜、議員会館の片隅にひとり残った健人は、手紙の束を再び広げた。
ページの隅に涙の跡がある手紙もあった。
「子どもたちは、こんな文字を書くために生まれてきたんじゃない」
天井を仰ぎ、健人は拳を強く握りしめる。
机を照らすライトの下、ノートを開き、一行をゆっくりと書いた。
“子どもを貧困から救うことは、未来を救うことだ。”
“応急処置で終わらせない。”
“必ず制度を作る。”
窓の外には、夜の国会議事堂のシルエットが浮かんでいた。
その灯を見つめながら、健人は静かに呟いた。
「子どもの未来を守るために……俺は政治家になったんだ」
”支援が増えるのは、優しさの証。
だが支援が必要な社会は、どこかが壊れている。
子どもを飢えさせない国をつくる――
それは、政治が負うべき最初の使命だ“
「……また、増えているのか」
社会面のトップに大きく載っていた文字が、目に飛び込んできた。
子ども食堂 全国で2,000カ所突破。
記事には、「地域の温かさの象徴」「ボランティアの力が社会を支える」と、どこか明るい雰囲気でまとめられた言葉が並んでいる。だが、それを読んだ健人の表情は、新聞の空気とはまるで逆だった。
深く息を吸い、新聞を畳む。
「……美談で終わらせる問題じゃないんだよ」
独り言のように呟いたその声は、静かに沈み込むように部屋に落ちた。
数分後、控えめなノック音が響いた。
「失礼します、朝の資料です」
真田が書類の束を抱えて入室する。疲れの色が若干にじむが、目は鋭い。
「子ども食堂、また増えていますね」
そう言って資料を机に置いたが、健人の表情を見て言葉を止めた。
健人は新聞の記事を指でとんとんと叩き、静かに言った。
「真田……これを“良い傾向”みたいに報じる空気、違うと思わないか?」
真田は数秒の沈黙の後、深くうなずいた。
「……本来、必要ないほうがいいんですよね。子ども食堂という場所が増えるということは、支援を必要とする家庭が増えているという証拠です」
そこへ、急須を片手に田島が入ってきた。
「おー、朝から難しい顔してるな。子ども食堂の記事か?」
健人はうなずき、新聞を手渡した。
田島は斜めに持ちながら記事を読み、眉をひそめた。
「“支援が広がって嬉しい”って……嬉しいのは、そこに通う子どもたちじゃなくて社会のほうってことか? 本来は、こんな場所が必要ない世の中が理想なのにな」
「だよな」
健人は同意しながら、机の引き出しを開けた。中には束になった手紙やメールの印刷が溢れている。
「これ、全部読んだのか?」と田島。
「全部じゃない。でも……毎日増えてる」
封筒を一つ取り出し、開封したままの便箋を広げた。
――“お母さん、お仕事で夜遅いから、ぼくは週に4回、子ども食堂に行っています。お兄ちゃんも行ってます。楽しいけれど、本当はお母さんとごはんを食べたいです”
子どもの丸い字が、紙の上で震えていた。
健人は喉の奥が詰まるように感じ、便箋をそっと置いた。
「……こういう声を“増加数”でまとめられるのが、一番つらい」
真田がそっと言った。
「制度が追いついていないのは事実です。共働き世帯、非正規雇用、ワンオペ……。子ども食堂は支援ですが、根本解決にはなっていません」
「応急処置なんだよな」
健人の小さな呟きが、室内に重く沈んだ。
「応急処置を……永続させちゃいけないんだよ。政治が根を治さないと」
田島が湯呑みを置きながら応えた。
「だな。穴の空いた水槽にバケツで水を注ぎ続けるみたいなもんだ。問題は穴そのものだろって話だ」
その時、ノックもなく扉が開いた。
厚労省の官僚・山城が、資料の入った
ファイルを抱えて入室してきた。
表情はいつも通り冷静だが、どこか疲労も見える。
「子ども関連の最新データを持ってきました。現状、子ども食堂の利用者数は前年比で14%増。生活困窮家庭の増加が要因です」
「14%……か」
健人は苦く笑った。
「“増えた場所”じゃなくて、“増えざるを得なくなった家庭”を見ないといけないんだよな」
山城は小さく頷き、真剣な目を向けた。
「坂本議員……これを本気で是正しようとするなら、相当な抵抗がありますよ。財源、制度、既得権……」
「分かってる。でも――」
健人は資料の上に置いた拳をぎゅっと握った。
「子どもが空腹で眠る社会を、普通だと思わせちゃいけないんだ」
その言葉に、室内が静まり返った。
やがて真田が深く息をつき、資料に線を引きながら言った。
「やりましょう。子どもを救う制度は、政治の根幹ですから」
田島も笑って肩を叩く。
「坂本、燃えてるな。そういうところが好きだぞ」
「茶化すなよ」
苦笑したが、心の奥で火が灯るのを感じていた。
───────────────
午後、健人はSNSで短い動画メッセージを撮影した。
背景は議員会館の一室。照明も特別なものではない。飾り気がない分、言葉の重さが際立つ。
「子ども食堂が増えているのは、嬉しいことではありません。
それが必要になってしまっている現実を、私たちはもっと直視すべきです。
子どもを飢えさせない社会を作るのは、政治の責任です」
動画は数時間で大きな反響を呼んだ。
コメント欄には、母親、父親、教員、若者、支援者――多くの声が寄せられた。
“初めて政治家の言葉で泣きました”
“本当に子どもたちのことを考えてる人だ”
“私も昔、子ども食堂に通っていました。必要ない社会になってほしい”
画面をスクロールしながら、健人は深く息を吸った。
「……やるしかないな」
───────────────
夜、議員会館の片隅にひとり残った健人は、手紙の束を再び広げた。
ページの隅に涙の跡がある手紙もあった。
「子どもたちは、こんな文字を書くために生まれてきたんじゃない」
天井を仰ぎ、健人は拳を強く握りしめる。
机を照らすライトの下、ノートを開き、一行をゆっくりと書いた。
“子どもを貧困から救うことは、未来を救うことだ。”
“応急処置で終わらせない。”
“必ず制度を作る。”
窓の外には、夜の国会議事堂のシルエットが浮かんでいた。
その灯を見つめながら、健人は静かに呟いた。
「子どもの未来を守るために……俺は政治家になったんだ」
”支援が増えるのは、優しさの証。
だが支援が必要な社会は、どこかが壊れている。
子どもを飢えさせない国をつくる――
それは、政治が負うべき最初の使命だ“
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