『総理になった男』

KAORUwithAI

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第4部:政権奪取 - 総理就任

第154話 幹部議員たちの非公式会談

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 党本部の夜は、昼とはまるで別の顔を見せる。
 昼間の喧噪が嘘のように消え、廊下には歩く音すら響かない。
 国民革新党の幹部だけが知る“特別な時間”だ。

 表向きの会議はすでに終わっていた。
 議員たちは帰り、職員たちもほとんど退勤している。
 だが――その奥で、一つだけ灯りが消えない部屋があった。

 幹事長・城戸が、部屋の前で静かに立っていた。
 秘書が鍵を開けると、古い木の匂いがわずかに漂う。
 “非公式会談室”と呼ばれるその小さな部屋は、
 党としての「本音」を語るためだけに使われる場所だ。

「……揃い次第、始めようか」

 城戸は小声で言った。

 そこへ一人、また一人と、重い足取りを響かせながら
 党幹部たちが入ってくる。

 最初に入ってきたのは黒崎副総理。
 大柄で、常に威圧感を帯びた表情をしている。
 続いて南條官房長官。鋭い目だが、政治家らしからぬ柔らかな声の持ち主だ。

 政策調査会長の大和は分厚い資料を抱え、
 選対委員長の神林は無言で深く礼をして席についた。

 城戸が扉を閉め、錠前を確かめた。

 カチリ――

 その音が、会談開始の合図だった。

     ◇

「さて……今日は他でもない。坂本健人についてだ」

 城戸の言葉に、部屋の空気が静かに緊張する。

 黒崎が真っ先に腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「一年生議員をここまで大きくしすぎたな。
 マスコミも国民も、やれ“改革の旗手”だの“次のリーダー”だの……。
 正直、私は面白くない」

 憎悪ではなく、政治家としての本気の警戒だった。

 南條がすぐに意見を挟む。

「しかし副総理、彼を無視することはもうできません。
 最新の支持率では、坂本個人への期待が 38% に達しています。
 党全体の数値より高いんです」

「人気取りの数値だろう」

 黒崎は吐き捨てるように言う。

 だが神林選対委員長は、淡々とデータを並べた。

「選挙情勢の試算では、坂本を前面に立てた選挙戦と
 従来型の選挙戦では、議席が二十以上違う。
 “勝てる駒”であることは事実だ」

 大和政策調査会長が重い口を開いた。

「私が気にしているのはそこではない。
 彼は理念型の人間だ。
 理念型は、政権運営で必ず摩擦を起こす」

 理念――
 それは政治家にとって武器であり、危険物でもある。

 黒崎がうなずいた。

「ああ。若い。経験が足りない。
 官僚機構の扱い方も知らん。
 それで総理など務まるか?」

「しかし――」

 南條が静かに言葉を重ねる。

「彼は“しがらみがない”。
 派閥も金主も後ろ盾もない。
 その潔さが、国民には魅力なんです」

「魅力? そんなもの政治には要らん」

 黒崎の反論に、城戸はゆっくりと指を振った。

「黒崎さん、その考えが今、国民から乖離しているんですよ」

 黒崎が睨むが、城戸は怯まなかった。

     ◇

 沈黙の中、城戸は一冊の資料を取り出した。

 “坂本健人 世論分析(最新版)”

「先日、こちらで独自に調査した。
 結果は――国民は彼を『政治家らしくない政治家』として期待している。
 私たちが思う以上に、彼を“本気で変えられる存在”と見ているようだ」

 大和が眉をひそめる。

「“期待されている”からといって、
 政権を任せてもいいという話にはならん」

「もちろんだ。だが――」

 城戸は資料を閉じ、机に置いた。

「“敵にすれば党が割れる”。それが現状だ」

 その一言が、五人の心臓をわずかに揺らした。

 神林が言う。

「つまり……党として、坂本を活かすべきだと?」

「そうだ。次の総裁選で、彼を“候補に成り得る存在”として扱う」

 黒崎の目が細まる。

「……総裁選? まさか、あの若造を?」

「総裁にするとは言っていません」
 城戸は淡々と答えた。

「ただし、“可能性のある男”として舞台に立たせる。
 そのことで党全体の支持率が上がる。
 そして、坂本自身も我々のコントロール下に置ける」

「コントロール……できると思っているのか?」

 南條が思わず呟く。

 城戸は小さく笑った。

「できなければ、政治家の価値はないでしょう」

     ◇

 会議はさらに続く。
 財務省の反応、経済界の警戒、官僚機構との摩擦――
 三十件以上のリスクが次々に議題に上がる。

 だが、最後に神林が結論を言った。

「数字だけ見れば明らかだ。
 ――坂本健人を中心に据えなければ、我々は時代に置いていかれる」

 黒崎がゆっくりと椅子にもたれた。

「……バケモノを育てるつもりか」

「いいえ」
 城戸が言った。

「国の未来を託せるかどうかを、見極めるんです」

 会議室の時計が深夜0時を告げた。

 城戸が立ち上がり、重々しく締めくくる。

「――坂本健人。
 あの男をどう扱うかで、この国の十年が決まる。
 我々は、その覚悟を持たねばならない」

 それが、幹部五人が出した結論だった。

     ◇

”若さは刃だ。
  振るえば未来を切り開き、
  誤れば国を傷つける。
  問題は――その刃の向く先を、
  誰が決めるかだ“
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