『総理になった男』

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第4部:政権奪取 - 総理就任

第155話 若手議員からの圧倒的支持

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 与党入りを発表してから数日。
 坂本健人の周囲は、まるで悪天候の中心に立ったようなざわめきに満ちていた。

 議員会館の廊下を歩けば、背中でひそひそ声が聞こえる。

「ほんとに与党入りしたのか……」
「一年生議員なのに、ずいぶん思い切ったな」
「いや、あれは党の人気取りだろ。利用されて終わりだ」

 冷たい視線、疑う目、値踏みするような表情。
 どれもこれも健人には見慣れたものだが、今は少しだけ色合いが違う。
 “恐れ”と“興味”が入り混じっていた。

 そしてその裏で、健人に近づこうとしている者たちもいた。
 それが、若手議員だった。

 その日の午後。
 資料を広げて真田と打ち合わせをしていると、突然ドアがコンコンとノックされた。

「坂本議員、今お時間……いいでしょうか」

 ドアを開けると、見覚えのある顔が三つ。
 与党の二期生・三期生の議員たちだ。健人とほぼ同世代。

「どうしたんですか?」
 健人が立ち上がると、彼らは妙に緊張した顔で頭を下げた。

「少し……お話を聞かせていただきたくて」

 声の硬さに、どこか覚悟めいた色があった。
 健人は真田と視線を交わし、頷いて応接スペースへ招き入れた。



 コーヒーを配る真田の横で、議員の一人・浅野が口火を切った。

「……生配信、全部見ました」

 健人は一瞬だけ目を瞬かせる。
 その配信は四十八時間続き、累計視聴者は七十万人を超えた。
 しかし同業者から感想を言われるのは、はじめてだった。

「あなたの話……正直、胸に刺さりました」

 浅野は拳を膝の上でぎゅっと握る。

「僕ら若手は、派閥に入らなきゃ質問もできない。
 意見を言えば先輩に潰される。
 だから何も変えられないまま、毎日が過ぎていくんです」

 別の議員が悔しそうに続く。

「本当は、変えたいんです。でも……動けなかった」

「派閥の長に逆らったら、次の選挙は落とされますし……
 地元にも“敵を作るな”と怒られて……」

 健人は黙ってうなずいた。
 その苦しみは、無所属の時から嫌というほど味わってきたものだ。

「俺も……最初は何もできなかった」
 健人は静かに言う。

「議場であくびされたり、質問を無視されたり、名刺を捨てられたり……
 でも、誰かがやらなきゃ変わらないと思って、ただ必死に叫び続けた」

 その言葉に、三人の表情が揺れた。

 浅野は椅子から少し前に身を乗り出す。

「坂本議員、僕たちは……あなたと一緒にやりたいんです。
 あの配信を見て、初めて“政治家になった意味”を思い出しました」

「“国民の声を拾う政治”を、本当にやっている人を初めて見ました」

「あなたなら……変えられるかもしれないと思ったんです」

 その告白は、熱に満ちていた。
 だが同時に、恐れや葛藤もにじんでいた。

「言ってしまえば……僕らはずっと、この党に失望してきたんです」
「派閥のために政治やってるのか。国民の方が後なのかって……」
「でも、あなたを見て、久しぶりに希望を感じたんです」

 健人は胸が熱くなった。
 自分の言葉が、確かに誰かの心を動かしていた。



 話し合いは一時間を超え、途中から若手議員が次々に部屋へ入ってきた。
 いつの間にか、会館の狭い部屋は人でいっぱいになった。

 気づけば十人以上。

「うわ……ちょっとした勉強会ですね」
 田島が苦笑しながらコーヒーを追加で配る。

 廊下を通った中堅議員が怪訝そうに中を覗く。

「なんだこれは? 若手の派閥でも作る気か?」

 その一言が、皮肉にも若手の本音を引き出した。

「派閥じゃありません」
 浅野がまっすぐ答える。

「ただ、坂本議員を中心に……改革を進めたいんです」

「ここで言わなかったら、一生後悔すると思いました」

 健人は、胸の奥から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。

「……ありがとう」

 そして、ゆっくりと言葉を置いた。

「僕一人じゃ、国会は動かせない。
 でも、みんなと一緒にやれるなら……きっと壁は壊せる」

 その言葉に、若手たちは一斉にうなずいた。
 空気が震えるような一体感だった。



 夕方になり、若手議員たちは決意を胸に部屋を後にした。
 去っていく背中を見送った後、健人は深く息をついた。

「……すごいな。こんなに集まるとは思わなかった」

 田島が笑った。

「健人、お前……もう完全に中心だぞ」

 真田は腕を組んで、静かに言った。

「これが……本当の“流れ”というものです。
 あなたが動いたから、若手がついてきた。
 改革は、いよいよ“内部”から動き始めます」

 健人は窓の外に視線を向けた。
 夕暮れの議事堂が、ほんのり赤く染まっている。

 ――ここから、本当に変わるのかもしれない。



”仲間は求めるものじゃない。
同じ痛みを知る者たちが、
気づけば隣に立っていた。
その瞬間こそ改革の始まりだ“
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