『総理になった男』

KAORUwithAI

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第4部:政権奪取 - 総理就任

第153話 初の議員総会での発言

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 与党入りのニュースが全国を駆け巡って数日。
 坂本健人は、議員会館の控室で一人、
ネクタイを締め直していた。

 ――今日が、その日だ。

 国民革新党の「議員総会」。
 総理を含む与党議員全員が集まり、政策方針、人事、選挙戦略、党運営について意思統一を図る場。
 そこで新加入議員として“初発言”をするのが今日の予定だった。

 ネクタイを整える指先がわずかに震える。
 無所属のまま戦い続け、支持基盤をつくり、世論を動かし、法案を審議に乗せ、そしてついに――与党入り。
 ここまで歩んできた道のりの重さが、今になって肩へずしりと乗ってくる。

「おい、緊張してんのか?」
 控室のドアが開き、田島が顔を覗かせた。

「……見て分かる?」
「分かるに決まってんだろ。お前の顔、いつもより白いぞ」

 田島は笑って近づき、健人の背中を軽く叩く。
 その手の重みが、緊張で浮き上がりそうな心を地面へ戻した。

「健人、お前がここまで来たのは偶然じゃねぇよ。どう考えても、お前の努力と覚悟の結果だ。堂々としてろ」
「……ありがとう」

 言葉にすれば簡単だが、田島は健人の戦いを間近で見てきた。
 街頭で無視され続けた日々。
 批判され、叩かれ、仲間が離れた時期もあった。
 それでも、坂本健人は「市民の声を国会に届ける」と言い続けた。

 田島の励ましは、そんな軌跡を知っているからこそ出てくる言葉だった。

「坂本さん」
 今度は真田が入ってきた。資料の束を抱えたまま、表情はいつも通りの冷静さだ。

「これが本日の議題と席次表です。……気をつけてください。今日の総会は、あなたの“評価の初日”でもあります」

「評価の……初日?」

「はい。あなたを歓迎する議員もいれば、“人気に乗ってきただけだろう”と冷めた目で見る議員もいる。
 今日の発言は、あなたが党内でどう扱われるかを左右します」

 健人は息をのむ。

 与党入りを決めた時から覚悟はしていた。
 しかし、こうして事務的に淡々と告げられると、改めて現実としての重さが胸にのしかかった。

「……分かった。やるよ」

 真田は小さく頷き、眼鏡の位置を整えた。

「あなたが市民のために政治をするという信念は、党に入ったからといって損なわれるものではありません。
 むしろ、ここからが本番です」

 その言葉は、励ましであり、警告でもあった。

 ――覚悟を持って臨め。

 そういう真田の思いが伝わってくる。



 党本部の前に立つと、健人は一瞬息を呑んだ。

 巨大な建物。
 旧来型の政治文化を象徴するような重厚な外壁。
 正面玄関には記者たちが待ち構え、カメラのシャッター音が雨のように降り注いだ。

「坂本議員! 与党入りして心境は?」
「保守層へのアピールですか?」
「政策は軌道修正しますか?」

 質問が飛び交うが、健人は短く答えた。

「国民のために働くという姿勢は、変わりません」

 それだけを告げ、建物の中へと足を進めた。



 議員総会ホール前の廊下には、既に多くの与党議員が集まっていた。
 ざわざわとした空気。
 そこで飛び交う声が、健人の耳にも届く。

「彼が坂本くん?」「人気だけはすごいらしいな」
「無所属の割に世論が味方してる」「扱いにくそうだな」

 視線が刺さる。
 好奇心、警戒、嫉妬、期待――そのすべてが混ざり合ったような目。

 だが健人は立ち止まらず、正面を見据えて歩いた。

 真田が横で小声で言う。

「気にする必要はありません。むしろ、注目されている証拠です」

 健人は静かに頷く。



 扉が開くと――広大なホールが目に飛び込んだ。

 縦に長く広がる空間。
 議員席が何十列にも並び、まるで劇場の客席のように段差がついている。
 壇上には党三役の席。
 百人を超える与党議員が、一斉に坂本を見る。

 空気が、重い。
 だが、不思議なほど静かだった。

 総会は南條官房長官の進行で始まった。

「本日より、坂本健人議員が国民革新党に正式に合流しました」

 軽く拍手が起きるが、大半は儀礼的。
 本気で歓迎している者は、まだ少ないのが分かった。

 南條官房長官が言う。

「坂本議員、一言お願いします」

 ついにその瞬間が来た。

 壇上に上がると、視界が広がった。
 何百もの目が、こちらに向いている。
 ざわめきが徐々に静まり、空気が一枚、張り詰める。

 ――原稿は持たない。

 健人は深呼吸し、声を出した。

「坂本健人です。
 本日から、国民革新党の一員として活動します」

 静かな挨拶。
 まだ誰も表情を動かさない。

「無所属として一年半、私は多くの市民と向き合ってきました。
 その声を国会に届けるために、ここへ来ました」

 ここで周囲の目が少し鋭くなる。
 “それは聞き飽きた”というベテランの視線もある。

 だが健人は続けた。

「私はこの党の色に染まるために来たのではありません。
 また、批判するために来たのでもありません」

 ホールの空気が一瞬止まった。

「ここに来た理由はただ一つ。
 “国民の声を政策に反映させるため”です」

 若手たちの表情が変わった。
 数人が静かに頷き、空気がわずかに動いた。

「私には派閥も、しがらみも、後ろ盾もありません。
 だからこそ、できることがあると信じています」

 健人は壇上から議員席をまっすぐ見渡す。

「この党から、日本を変える。
 そのために、皆さんと共に働きたい。
 どうか、力を貸してください」

 最後の一文を言い切ると――
 ホールは再び静まり返った。

 一秒。
 二秒。
 三秒。

 その後、若手議員の一人が立ち上がり、拍手した。
 それが引き金となり、周囲の新人議員、次に中堅議員へと拍手が波のように広がっていった。

 一部のベテラン議員は腕を組んだままだったが、
 しかし、ホールの空気は確実に変わっていた。

 ――歓迎ではなく、認められた。

 そう感じた。



 総会が終わり、控室に戻る途中。
 田島が大きく伸びをして叫んだ。

「お前、めちゃくちゃ良かったぞ坂本! なんかこう……胸に響いたわ!」

 健人は照れくさく笑う。

「言いたいことを言えたよ。
 あくまで“敵じゃない”ってことも伝えたかったし」

「いや、伝わってた。拍手の速さが全て証明してる」

 真田は微笑みながら言った。

「あなたの言葉の価値は、世論だけでなく、党内でも届き始めました。
 今日の発言で、党内の力学が少し動きます」

「動く……?」

「ええ。あなたを“脅威”ではなく“可能性”として見る議員が増えました」

 健人は一瞬だけ立ち止まり、ホールの方を振り返った。

 ――この場所で戦う。

 その現実が、怖さよりも力をくれる。


”迎合しに来たんじゃない。
 噛みつきに来たわけでもない。
 ただ――
 国民の声を、この場の中心に戻すために。
 俺は、この壇上に立った“
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