『総理になった男』

KAORUwithAI

文字の大きさ
160 / 179
第4部:政権奪取 - 総理就任

第160話 支持率がすべてを変えた

しおりを挟む
 国民参加型マニフェストを発表した翌朝、議員会館の廊下を歩く健人の耳に、いつもとは違うざわめきが届いた。
 携帯で画面を確認する若手議員、テレビを見つめる秘書たち。
 まるで、何かが“起きた直後”のような空気だ。

 事務所の扉を開けると、真田がすでに机に向かい、複数の新聞を広げていた。
 健人を見上げると、淡々と告げた。

「……出ました。支持率です」

 その声は、平静を装ってはいたが、わずかに熱がこもっている。
 健人は息を呑み、新聞の一面に踊る表題を見た。

『坂本健人、総理にふさわしい人物 32%
 若者世代から圧倒的支持』

「……え?」

 数字が、一瞬で理解できなかった。
 つい数か月前まで、彼の名前は世論調査の末尾にひっそりと載っているだけだった。
 そこから、いきなり全国のトップへ肉薄している。

「32%……? 何かの間違いだろ」

 震える声でつぶやくと、田島がノートパソコンをこちらへ回した。

「三社が同じ傾向だ。平均しても30%超え。
 坂本……マジで“時代”が動いてる」

 画面には、政党支持率の分布と同時に、
“10代~30代での支持率 50%超”
という衝撃的な数字が並んでいた。

「若い世代が政治に冷めてるなんて、もう過去の話なんだな……」

 健人は画面を見ながら呟いた。
 胸の奥が熱く、痛みを伴うほど締めつけられる。
 “国民が政治に参加している”。
 その実感が、初めて数字として目の前に現れていた。

 ――だが、動いていたのは世論だけではなかった。

 午前十時、国民革新党本部で緊急幹部会議が開かれた。
 議員会館にいながらも、その内容はあっという間に漏れ聞こえてくる。

「坂本の数字は異常だ」
「風が吹き始めている」
「次の総裁候補に押し上げるべきでは」
「いや、早すぎる。党を壊す気か」

 肯定も否定も、すべてが熱を帯びていた。
 坂本健人――無所属上がりの一年生議員が、ついに党内の“最重要人物”のひとりになってしまったのだ。

 その頃、黒崎副総理は記者団の前で苦い表情を浮かべていた。

「人気に浮かれて政治を語るべきではない。
 数字は一時的なものだ」

 しかし、その言葉とは裏腹に、彼の周囲はざわついていた。
 若手議員の視線は、明らかに変わっている。
 黒崎の派閥の中ですら、

「このまま坂本に逆らっていたら若者票を全部失うだろう」
「次の衆院選……危険だぞ」

 そんな囁きが飛び交い始めた。

 ――与党が揺れた。
 それは、坂本健人という“点”が、国民の声という“面”へと広がり始めた瞬間だった。



 昼頃、議員会館前には取材陣が押し寄せていた。
 のぼり旗のようにマイクが並び、健人が姿を現すと、
一斉に叫び声が上がる。

「総裁選への意欲は!?」
「与党入りの日程は!?」
「若者支持をどう受け止めていますか!」

「す、すみません、今は……」

 まともに歩くことすら難しい。
 真田と田島が必死に道を作ってくれ、ようやくエレベーターに滑り込んだ。

 扉が閉まると、健人はようやく息を吐いた。

「これ……いつまで続くんだ?」

「人気が勢いづくほど、続きますね」
と真田。

「お前、もう“普通の議員”じゃねぇよ」
と田島が笑う。

 健人は頭を抱えたが、同時に胸の奥で静かに何かが芽生えているのを感じていた。

 ――責任だ。
 支持率とは、決して軽い数字ではない。
 それは期待であり、願いであり、未来を託された証だ。



 午後になると、党内の中堅議員から次々面会の申し出が入り始めた。
 これまで顔を合わせても会釈程度だった議員たちが、
「お話を伺いたい」
「坂本さんの政策に興味がある」
「総裁選…本気でお考えですか?」
と次々に声をかけてくる。

 その変わり身の早さに驚きつつも、健人はすべての申し出に丁寧に応じた。
 彼は政治の世界で“謙虚さ”がどう見られるかをよく知っている。

 一度、世論が動くと、党内も媒体も、潮の流れが一気に変わる。
 今日、それを痛いほど感じていた。



 夕方、議員会館の事務所に戻ると、全国から届いたメールと意見フォームが山のように積まれていた。

「ひゃ、百通どころじゃねぇ……五千通……?」
と田島が目を見開く。

「今日一日で増え続けています。
 “政治に参加したい”という声がほとんどです」
と真田が言った。

 健人は、ひとつひとつの声に目を通そうとした。
 だが、読み進めるほど胸が締めつけられていく。

「これだけの……これだけの人たちが、僕に期待してるのか……」

 嬉しさよりも、重さが勝った。
 支持率は祝福ではない。
 使命だ。



 夜、城戸幹事長から連絡が入った。

「坂本君。党内の空気が変わった。
 黒崎副総理の派閥ですら、君を無視できなくなっている」

 電話越しの声は低く、重く、そしてはっきりしていた。

「君の支持率が、党の力学そのものを変えた。
 良くも悪くも……君はもう、党の“鍵”だよ」

 健人は言葉を失った。

 支持率――
 数字が、政治を動かし始めた。
 その現実が、息苦しいほどに重たく心にのしかかってくる。

「……でも、僕は特別なことはしていません。ただ、国民と話しただけです」

「だからこそだ。
 それが今、最も欠けているものなのだから」

 城戸の静かな言葉は、健人の胸に深く刺さった。



 深夜。
 事務所の灯りが落ち、窓の外には国会議事堂が月明かりに浮かんでいる。

 健人は独り、ガラスに映る自分を見つめた。
 その表情は不安と覚悟が入り混じり、以前よりずっと大人びて見えた。

「……支持率がすべてを変えてしまった」

 だが、次の瞬間、自分の心に問いかける。

「変わったのは、政治の空気か?
 それとも……僕自身か?」

 ゆっくりと首を振り、答えを出す。

 ――違う。
 変わったのは、国民だ。
 政治に興味を持ち、意見を持ち、未来を取り戻そうとしている。

 だからこそ、僕は振り回されてはいけない。
 数字に乗るのではなく、数字の向こうにいる“人”を見る政治をしなければならない。

 健人は拳を握り締め、静かに誓った。



”支持率は風だ。
 追い風にもなれば、嵐にもなる。
 ――大切なのは、風に運ばれることではなく、
 その先に立つ覚悟を持てるかどうかだ“
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...